本会議会議録
委員会補足文書
令和6年11月人口減少社会課題対応特別委員会
流通経済大学流通情報学部 教授 矢野裕児氏 【 意見陳述 】 発言日: 11/25/2024 会派名: |
○矢野裕児氏
流通経済大学の矢野でございます。今日はよろしくお願いいたします。
今日は物流環境変化と物流改革に向けての今後の対応ということでお話しさせていただきます。
大きく6つほどお話しさせていただきます。物流を取り巻く現状と課題、それからまさしく今言われている物流2024年問題とその影響、そしてこれに対応して物流を何とか適正化したいと政府あるいは都道府県がいろいろな形で動いていますのでその動向についてお話をします。そして、物流革新と言われる中でどういうことを考えなくてはいけないか、もう1つ、生活者自体がいろいろ意識を変えていく、行動変容していかなくてはいけないというところが重要となっています。その辺のアンケート調査結果も含めて少しお話しさせていただき、最終的にまとめという形でお話しさせていただきます。
物流を取り巻く現状と課題ということで、物流危機が言われます。2017年ぐらいに宅配危機と言われました。いわゆる宅配便がパンクしてしまうと。特にネット通販が需要拡大に対してなかなか運び切れないということで、そのときに宅配危機がまず起きたんですが、その後物流全体が危機的状態だと言われ始めました。これは、物流需要が増えていくのに対してドライバー不足が発生しているためになかなか供給側が間に合わないという事態ですが、結局は荷物を運ぼうとしても運べないあるいは遅延するという事態が発生する、これが物流危機の状態です。
現状としては、基本的には皆様方がこの荷物を運びたいと言ったときに、いや、今は無理ですと断られることはあまりないのではないかと思います。そういうことは今ほとんど発生していないんですが、少し遅延する、明日配送は無理ですなどという話はちょっと出てきていますけど、いずれにせよ今まではすぐに運んでもらえる、あるいはすぐに明日というような形でもできた。これがなかなか難しくなってきている。これが物流危機の状況ということになります。
こういうことは今までも実は何回かあったんですね。需要がどんどん急拡大したときに供給が間に合わないことは高度経済成長期あるいはバブル経済のときも起きました。さらには、割かし最近の例で、2013年度後半に相当深刻なドライバー不足が発生しました。
これは、2014年度4月から消費税を値上げすることで駆け込み需要が大きく発生して、需要が急拡大したために間に合わなくなり、あちこちで全くトラックがない事態が発生しました。
いずれもこれらのケースは、急激に需要が増える、貨物量が増えるという中で供給が間に合わないということになります。逆に言いますと、需要が収まるとドライバー不足問題は解決するという状態だったんですね。ですから高度経済成長期もオイルショックが起きて、その後問題があまり発生しない、バブル経済のときもバブルが崩壊して、さらには消費税のときも4月になったら基本的に何の問題も起きなくなった。言ってみれば一時的に需要と供給のバランスが崩れて供給が間に合わないという事態がそのとき発生しました。
しかしながら、今回言っている物流危機はそれとは全く違うんですね。つまり需要が急拡大したわけでは決してなくて、ドライバーがとにかくいないことが最大の問題になります。
いろいろな形で物流の問題が言われていて、物流自体がある意味で非常に昔の仕組みと言いますか、商慣行などいろいろあって問題だよねと今さんざん言われているんですが、この話は実は今回始まったというより1990年代前半にやはり大きな問題が発生しました。1992年ぐらいはまさしくバブルの最後のときですが、そのときにジャストインタイム物流あるいは多頻度小口物流が相当浸透してきて、配送が多頻度化する、小口化する、定時化すると、どうしてもドライバーとトラックがいっぱい要るわけです。それが行われることによってドライバー不足が発生していることはさんざん言われたんです。そのときにジャストインタイム物流はある意味けしからんとか、多頻度小口物流はちょっと問題ではないかと、実はそのときも言われました。
ただ、ジャストインタイム物流あるいはジャストインタイムと言ったときに、皆様方が何を思い出したかというと、大抵の方はいわゆる自動車産業におけるかんばん方式を代表するジャストインタイム、あるいはコンビニエンスストアなどが代表的だと思うんです。そういうところでのジャストインタイムは、発注、配送は計画的に行われて、それなりに積載率が保たれている場合が多いんです。ところがそうではなく、ジャストインタイムや多頻度小口があらゆる業種、業界で行われ、多くは場当たり的に発注する、すぐに持ってこいとか、こういうことが行われて、非常に積載率が低い状態で行われるケースも結構多かったんですね。
つまりジャストインタイム物流といっても、ジャストインタイムという時間どおりというところが重要ではなくて、実は計画的に行われることが非常に重要である。ジャストインタイム物流は何かと言うと、計画化、平準化、同期化が本来の姿です。平準化は、毎日の量がある程度安定している状態で持っていく、そして同期化は需要に合わせて商品を持っていく、納品することです。多頻度小口も同じです。ところが同期化だけ、つまり需要に合わせてお客さんが言ったらとにかく持っていく、それだけを追求する物流がずっと行われている場合が多くて、計画化、平準化されない、置き忘れた状態が今の物流の大きな問題点であります。
このために言ってみれば無駄な、積載率が低いなどのいろいろな問題が起き、ドライバーにも負荷がかかって、夜間に運ばなければいけない、早朝に運ばなければいけないなどが結局は起きてしまうというのが非常に問題点であります。このときもこの話はさんざん問題になったんですが、バブルが崩壊して、需要と供給のバランスで需要が減ってしまったためにお客さんのほうが立場が強くなって、それに合わせた形で物流事業者が対応する、計画化、平準化をすっかり忘れてしまったような形の物流がその後ずっと続いてしまいました。
これまでの物流はトラック輸送比率が圧倒的に多いと。そして厳しい時間指定でリードタイム――注文してから届くまでの時間が短いと。それから、お客さんから非効率な要求があっても対応せざるを得ないと。本来ドライバーは運転して運ぶというところまでが運賃です。実際には積卸し、さらには、よく行われるのが棚に入れておいてとか、棚に入れるときも、先入れ先出しといって順番をきちんと変えて入れる作業をさせられる場合が多いんですが、ただ、これはお金も払わずにさせられている場合が非常に多いんですね。そして、安い運賃で提供する、これが当たり前の状態だったんですが、この当たり前が大きく崩れた状態が今の状態です。
そして、これは中長期的な問題として、物流2024年問題とあちこちで取り上げられているんですが、確かに2024年問題は労働時間の短縮で、それに合わせた形でドライバー不足が発生することになっているんです。本格的なドライバー不足は、今ははっきり言ってまだそんなに顕在化していないです。今からのほうがまさしく問題になるということで、2024年はあくまできっかけということになります。
実際のドライバーの数はどうなっているんだろうということで、幾つかの統計があるんですが、きっと一番正確なのは国勢調査です。国勢調査のトラック運送業のドライバー数がどう推移してきたかですが、このグラフを見ていただいても分かるとおり、1995年まで急増します。これははるかにほかの産業に比べても急激に増加することになるんですが、2000年から5年、10年と大きく減ります。ただ、2015年、2020年は実は減っていないんですね。2015年から2020年は若干増えているぐらいです。ドライバー不足、そしてドライバーが減少すると言っているんですが、実を言うとまだそこまで大きな減少が、確かに2000年から2010年に起きたんですが、その後は起きていないというのが現状です。
ただ、今からがまずいのがまさしく高齢化が非常に進んでいることです。これは道路貨物運送業の年齢別構成です。人数ですが、2000年に全体で174万人ぐらい、今2020年で169万人ぐらい、そして、平均年齢が2000年のときは41歳だったのが48歳になっています。そして、黄色のところを見ていただきたいんですが、この部分が一番人数的に多いゾーンです。これが2000年のときは25歳から34歳、それが2005年になると30歳から39歳、5年たてば5歳年を取っていくという形で、2020年が45歳から54歳が一番多い層に、2025年は当然50歳から59歳になっている。そうすると、当たり前ですが2030年には55歳から64歳のところが多いゾーンにかかる。60歳以上になるとなかなかドライバーの仕事が体力的にきついということもありますので一挙に退職してしまう可能性が高いんですね。特に長距離ドライバーが退職してしまうことによって一挙にここで不足が深刻化することが予想されます。
この層は、実は第2次ベビーブームの層です。ということで、2000年の頃は25歳から34歳とか、結構第2次ベビーブームで人数が多かったんですね。そして割かし就職的にも厳しかった、かつドライバーが2000年の頃は結構給料が良かったんですね。その頃は20代ですと、いわゆるオフィスワークよりはドライバーのほうが給料がよかった時代でした。この第2次ベビーブームの層がずっと引っ張ってきた。これが今から一挙に退職していく可能性が高いとなると、今までは確かに減っていないけれども、これから一挙に減る可能性があると予想される。この予測はまず外れることはあり得ないんですね。というのは当たり前ですが、みんな同じように年を取りますので。そして、急にデスクワークの人がドライバーになることもあまりないので、そういう意味では、今後これが加速することが当たり前になります。
さらに、この表で、若い人があまり入っていないのが問題です。2000年の頃は24歳未満が13万人ぐらい、今は2020年で7万3000人ぐらいしかいない。とにかく若い層がなかなかこの道路貨物運送業に入ってこないところが非常に問題になっています。
何でなかなか若い人が入ってこないのかですが、ドライバーの年間所得額が全産業と比べて、大型で1割、中小型で2割安いと言われています。そして、労働時間も全産業平均と比較して2割長いと言われていますので、早い話が2割ぐらい安くて2割長いということになると、時間当たり単価が非常に安いということになります。
さらには、ドライバーの仕事は結構きついと。特に手積み手卸しといいますか、荷物を積むあるいは卸すという作業を手でやるとなると結構きつい。10トントラックですと大体積むのに2時間、卸すのにも2時間かかると言われています。このようにこの作業が非常にきついんですね。
そして、やはり女性ドライバーがなかなか少ないと。女性にとって、1つの問題は運転はいいんだけれども積卸しの作業がきついという問題がまずあります。それから、夜間、深夜の問題があります。それから、もう1つは、どうしても物流事業者の仕事場の環境がどちらかというと男中心だったので、例えば専用のトイレが少ないなどにより、なかなか女性ドライバーには働きづらいという問題があることになります。
さらに言われているのは、昔は車の運転が好きだったということでドライバーが入ってきたんですが、この頃若者の車離れが激しくて、ドライバーの成り手がいないという状況です。
ドライバーの求人数と求職者数がどう推移しているか表してみたんですが、黒い太線がドライバーの求職者数、つまりドライバーとして働きたい人たちの人数の推移を表しています。1995年を100として表しているんですが、残念ながら1995年に比べて半分ぐらいまでドライバーとして働きたい人がいなくなってしまっているという状況です。先ほどの労働時間が長い、そして給料が安い中でドライバーとして働きたいというのは非常に少ないということになるんです。
さらに、ドライバーとして働きたい人が非常に高齢化しているのが非常に問題です。全職業系でもどんどん高齢化しているんですが、自動車運転の場合、50代以上が67%と3分の2が50代以上になっているということになります。つまり、事業者側からいうと、ドライバーがとにかく欲しいということで求人を出しても、来る人の3分の2が50代以上で若い人が全然いないということになるんですね。ですから当然、幾ら採用したとしても年齢的には全然若返りをしないという状況です。言ってみれば、今のドライバー職の場合は、基本的にはある程度年齢がいった人がいろいろな自動車運転業務の中でほかの会社に就職し直すとか、そういう動きはそれなりにあるんですが、しかしながら若い人が入ってくる形での若返りはもうほとんどないので、非常に厳しい状況になります。
今、労働時間は非常に問題になっています。
実際に、労働時間が長いと申し上げました。今回2024年問題ということで、4月から労働時間、特に時間外労働、残業時間の上限規制が適用されたわけですが、じゃあどれぐらいのところで、実際のところオーバーしているのはどこだということになるんですが、これはあくまでも2021年時点のドライバーの働き方がどうだったのかをまとめたものです。
前から改善基準告示で年間3,516時間を上回るのは基本的に駄目だという基準が一応ありました。ところが、2021年でも4.3%はオーバーしているという状況でした。
さらに、もし2021年と同じ働き方をするとなると、2024年からの基準でいうと21.7%のドライバーがそれをオーバーした形で働くことになってしまう、これがこの図となります。そして、長距離は特に問題で、もともと7.0%上回っていたのが31.8%上回ってしまう状況になるので、特に長距離は3割ぐらいが何らかの罰則に引っかかってしまうという状況になります。ということで、従来の運び方ができないことになります。
そして、これは長距離の場合の荷主企業というか、荷物内容によって、長時間働く傾向が強いところと、割かし短いところがあります。その全体の流れとしては、飲料・食料品が長い。さらには一番上の農産・水産品が長いという傾向があります。特に問題になりそうなのが、農産・水産品が2024年問題の影響を非常に受けるのではないかと言われています。
それに対して、宅配便はここではちょっと分かりづらいんですが、上から4つ目の特積みというものに分類されます。これはもともとあまり長時間働いていなくても何とかネットワークがあるのでできているというところがあります。そんなに問題にならない。それに対して農産品、食料品・飲料が非常に問題になります。
これは東京都の野菜の例ですが、東京都中央卸売市場の野菜がどこから入っているのか距離帯別に見たものです。距離帯別に見たときに、大体500キロメートル以上が長距離と言われるんですが、それが大体三十五、六%を占めているのが東京都の中央卸売市場です。そうするとそこはなかなか入ってきづらくなる状況が発生することが予想されます。東京都が長いのは何となく分かるのですが、実は全国で見ると、この赤いのが伸びたところ、左側に長いところは実は関西です。関西は非常に状況が悪くて、500キロメートル以上を運んでいる野菜がもう6割近くあるという現状です。ですから東京都は千葉県、茨城県という大生産地が近くにあるのでそんなに問題がないですが、残念ながら、関西は近くにそういう大生産地がないので非常に大変なことになるということです。
その中で、静岡県は自分のところもそうですし、周りにも結構大きな生産県があるので、全国の中でも長距離を運ばなくても済んでいる県になります。その状況はこれを見ていただくと分かるんですが、この赤いところから右が500キロメートル以上を運んでいる割合になっていますが、静岡市、浜松市は低いほうです。東京も割かし低い。それに対して、大阪市は非常に左側に伸びているということになります。この中で結構きついと言われているのが金沢市です。こういうところは60%を超えていてかつ量が少ないのでもう生産地側は出荷しないということが現実に起きています。これは全国どこでも起きるんですが、特に量が少ないところは、長距離はもう運んでもらえないという事態が結構発生してきています。
例えばこの間も、広島でも鹿児島から運んでもらえないという話、仙台も九州のほうから運んでくれないという話、それから、金沢も大阪の辺まで取りに来てと、実は関西でも京都でさえ大阪まで取りに来いなどという事態が発生していて、そういう意味では、量が少ないとか、今から野菜などが入ってこない事態が発生することが非常に考えられます。
こういう中でドライバー需給の予測ですが、これはNX総研――日通総研がつくったものですが、基本的に政府もこの数値を使っているということで、2030年には34%不足するという予測を出しています。
ただ、これは私自身もちょっと過剰だと、ここまで足りなくなることはまずないと思います。需要がある程度高い状態で想定していたんですが、そこまで需要が伸びていないので、ここまで不足することはないだろうと思います。しかしながら、この数字はどうかとしても、特積み、農産のところは高くなります。
今の状況から、実際に労働時間の2024年問題はどういう形で動いているかということですが、働き方改革の中で2024年問題は起きています。労働基準法が2019年から改正されていますが、自動車運転、建設業、それから医師といった業務は、ちょっと特殊なので5年間適用が遅れていたと。それがとうとう今年の4月から適用されたことで、特に年間の拘束時間――ほかの業種と違い特殊なので拘束時間という使い方をします――が今まで3,516時間が3,300時間という形で改正、それから休息期間――連続してどれだけ休息を取れるか、時間ではなくて期間――が、継続11時間を基本として継続9時間という形に変わったということになります。
これで何が発生するかということですが、一番考えられるのは1つは運賃の上昇です。現実に宅配便も上げてきていますし、それから、基本的に普通のBtoBの世界でも上がってきているということになります。
これはもういろいろな理由がありますが、人件費が上がっている、それからもう1つは燃料費が相当上がっています。人件費が大体トラック運送業になったら4割ぐらい、それから燃料費もここで12%と書きましたが、今14%ぐらいに上がっているだろうと思います。こういうところが上がっているので当然運賃が上がるという状況です。
実際にどれぐらい運賃が上昇しているか、なかなか運賃は実勢運賃なので分からないんですが、一応2010年を100とすると今140ぐらい――1.4倍ぐらいに上がってきているんではないかと、この赤い太線が今年の動向ですが、急激に7月から8、9月は上がってきています。そういう意味では、運賃が上昇するのは、当然、特に長距離で上昇することは想定されるんですね。そういう意味で長距離輸送に相当ダメージがあるかと思います。
さらに、政府は運賃をある程度上げていこう、適正化していこうとやっていますので、2020年4月に標準的運賃を告示しています。これは基本的にはドライバーの賃金を全産業の標準とかに大体合わせていきたいと考えて計算されたものが一応出て、さらには今年、建築に合わせて8%に上げたと。それから燃料費も基準を上げたと。
さらに、実際に運賃はもちろん運転しているときですが、それだけではなくて実際には物流センターに入ってもなかなか積卸しができない荷待ち時間、それから積卸しの荷役時間があるんです。それに対して今までほとんどお金が支払われていないという現状があって、これも一応標準的運賃の中に入れてあるということで、全体としてこれらの標準的運賃の方向に流れていく可能性が高いので、そうすると当然運賃が上がっていく。標準的運賃にしなくてはいけないという規定は全くありませんが、現実にこういうのがあるからそれに合わせた形でだんだん上がっていく可能性は高いということです。
現状は、標準的運賃に関わって運賃交渉はきちんとやっているかと、物流事業者から運賃交渉されたときにそれに対してきちんと交渉することが義務づけられていますので、いわゆる物流GメンやトラックGメンなどでいろいろチェックされていますし、さらには公正取引の関係もチェックされています。
一応希望額を収受できたかは、交渉できた場合には75%ができているということになりますし、標準的運賃で8割ぐらいまでに収まったのが大体50%ぐらいという現状になっています。ただ、逆に言いますと、標準運賃に比べて8割から5割がまだ40%ぐらいある。それからそれ以下はまだ10%ぐらいあるということでまだまだ乖離しているという現状です。
それから、繁忙期を中心として運べない事態が発生するんじゃないかと言われていて、物流は繁閑差が大きいので、特に荷物が多くなるとそうなるんですが、今問題となりそうなのは年度末だと言われています。
なぜかというと、いわゆる労働基準法は年間単位で残業時間にチェックがかかりますので、今のうちに残業時間をどんどん使ってしまうと年度末に足りなくなることが発生しかねないということで、年度末にバランスが崩れるのではないかと言われています。
それから、輸送日数が長くなる。宅急便はもう一部地域で延ばしていますが、さらに日本郵便も翌日配達郵便を廃止すると。このように輸送日数が長くなると。
それから、この影響は地方部に特に大きいと思われます。先ほどの野菜の例で言うと、生産地の問題もありますが、消費地としても当然入ってこない。両面からの問題で、地方部はどうしても貨物量が少ないので、貨物量が少ない中で運ぶ場合には当然コストが上がることになります。あるいは貨物車が用意できないと、地方部にとっては非常に問題が起きやすいことになります。
現状として2024年問題がどうなのかとよく言われるんですが、現段階では荷動きは結構停滞しているんです。トラックが確保できないという状態は、現段階であまり聞かれません。1つは、物価高が起きており、景気という意味ではあまり上がっていないので、荷動きが停滞している。ただ、長距離輸送では一部影響が出ています。
それから、対応しようとする場合に、従来のやり方よりどうしてもお金がかかる、人手がかかることになりますので、中小事業者は相当見切り発車している。あるいは逆に中小事業者はもう長距離から撤退するのも相当増えています。撤退すれば当然キャパシティーが減りますし、今はとにかく止まらなければいいという形でやっているところも結構多いので、そういう意味では現実に1年、2年たってチェックがかかってくると、なかなかもう難しいことが起きかねない。大手事業者はいろいろ対応していますがなかなか中小事業者は苦しいという状況で、今はやっていることになります。
政府は物流の適正化ということで、2023年の3月に総理も出た、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議――恐らく物流関連で首相が出るような会議は初めてだと思います――の中で政策パッケージを何回か出しているんです。商慣行の見直し、物流の効率化、それから荷主・消費者の行動変容を打ち出していて、効率化の議論は今までされているんですが、特に商慣行を見直さなければいけないということが今回の非常に大きな議論になっています。
これが何かというと、先ほどの物流センターに行っても待たされる、積卸しを手でやっているなどは典型的ですが、リードタイムが短いなどの問題がある。これが非常に物流に負荷をかけているんですが、ただ商慣行の見直しは物流事業者はじゃあ見直しましょう、商慣行を変えますよと言ってもできないんですね。そこは結局荷主企業がやらないと駄目だということが非常に難しいところです。
今回の政府の施策で一番重要な点は、物流事業者による効率化という議論だけではなく、ある意味では逆に荷主企業の、それも発荷主、着荷主がこうしなさいよ、今までの慣行を見直しなさいよ、やり方を変えなさいよと踏み込んだ、つまり国土交通省マターだけではなく経済産業省、農林水産省が非常に主導的に動いている。これが非常に大きな特色になっています。
同じように緊急パッケージをさらに出して、より具体的なモーダルシフトの推進も含めていろいろな補助金政策も回しています。
そして、法律などを変えることもやっていきますけれども、流通業務総合効率化法が今まさしく最終案に来ているということで、荷主企業に対してきちんとした形で商慣行の見直しなどをやらないと駄目ですよという規制的措置を今回から入れたところは非常に重要なポイントです。今までは頑張りましょうぐらいだったのが、しっかりとやらないと駄目ですときちんとうたって、やらない場合には一応罰金も含めてという法律ができようとしている。
まだ完全には決まっていませんが、今後、公正取引委員会も連動する形でほぼ決まっていますので、監視体制が非常に厳しくなっているという状況です。
基本的には物流に関しては国の動きが中心ですが、都道府県単位では山梨県が物流について効率化していくということで条例を定めています。具体的にはまだ細かいところまで決まっていないはずですが、再配達を削減するものに対していろいろ支援策を打ちます、在宅する時間を強化するための施策を講じていきますという条例が出来上がっているということです。
各地方自治体では、貨客混載等を含めて、過疎地向けの対応があちこちで行われています。バスに乗せるとか、荷物を乗せることをやっています。
それから、宅配ボックスの設置の義務化補助ということで、江東区は義務化しています。マンション等において住戸数の1割以上は設置しなさいと。それから、今朝テレビを見ていたら、タワーマンションにおいてトラックの荷さばきスペースを義務化するという条例を検討し始めていると出ていましたけれども、いろいろそういう動きが出てきている。
さらには、物流を効率化していこうという中で、秋田県の農産物の例ですが、今までは何か所かの農協をずっと巡回して、そのまま幹線、相手に持っていくことをやっていたんですが、時間が非常に長くかかるということで、いわゆる集荷部分と幹線部分のトラックを変える、あるいは逆に幹線部分と配達部分を分離するという形で分けることによって時間を守ろうと、結構県が動いて実験をやっています。
それから、静岡県絡みでいろいろなものがあるんですが、静岡県の場合は交通の要所で、中継輸送のスイッチする場所として非常にいいということで幾つか行われています。群馬県から岡山県間に埼玉県、静岡県、大阪府の3か所でスイッチして、そこで短い輸送をつないでいくということで静岡県を使っている。この場合にはダブル連結トラックといって10トン車2台分を連結したものを使っているという例があります。
下はネスレ日本ですが、これはJRと組んでいるんです。特色は静岡から大阪について鉄道を使っているんですが、普通は500キロメートル以上で使うところをこれは380キロメートルということで、中距離でモーダルシフトをやった点で非常に珍しい例になります。
一方、物流革新でいろいろ進んでいますが、物流現場で起きている問題はサプライチェーン全体が抱えている効率の悪さの問題があります。今まではサプライチェーンの中で物流に負荷を押しつけたということで、各企業が自分のところだけはいろいろ最適化しているわけですが、このつなぎの部分で情報が共有化されていない、標準化されていない問題が発生して、結果的に物流現場にしわ寄せが行っているところかと思います。
なかなか物流のところで情報化が遅れているという問題があって、ここを何とかしていかなければいけないと。継続的な現状把握が遅れている、見える化が遅れているという問題があります。
まずは情報化、そしてもう一度標準化があって、パレットやバーコードの表示方法、伝票やデータの標準化がまたすごい遅れているんです。実際にこれは国交省が物流DXと言っているんです。
確かに機械化やデジタル化などを言っているんですが、この左側における標準化が非常に遅れていると。ハード・ソフトの標準化も問題ですが、それぞれの仕事も非常に標準化が遅れているという問題を抱えています。つまりこのお客さんに行ったときはこういう仕事、このお客さんに行ったらここにこうやってつくる、こうやって下ろすとか、非常に複雑でもうドライバーに属人化しているんですよね。それが非常に問題になります。
物流の標準化は、業務プロセスを標準化していくことも非常に重要で、ここをいかに物流全体で、サプライチェーン全体で行っていくかかなと思います。
私自身は、今後のロジスティクスの方向として、先を読んだロジスティクスを展開していかなければいけないとよく言ってます。需要に合わせて商品を供給するのは当然ですが、デジタル化されていない、それから先が読めないためにその場対応をしている。それから、需要変動が非常に大きくて非効率で各企業は個別に対応している。これを何とか次を読んだ形のロジスティクスを展開していくことが一番重要で、リードタイムの延長、それから情報を共有化していく、センサーなどを使うこと、平準化していくことも重要です。こういうことをすることによって先を読んだものにしていく。
今、各企業でいろいろな形で物流改革をやっています。例えば小売業などでも翌日配送だったのを翌々日配送でもいいとかの動きは相当出てきています。あるいは、情報をある程度共有化しましょう、前日に出荷情報が来るところも少しずつ出てきています。あるいはセブン−イレブンでも今までは弁当が4回配送だったのを3回にするとか、少しずつみんなでこの辺を改革していこうという動きが出ていることになります。
最後に生活者ですが、これは3月にやったアンケートですが、物流2024年問題がこれだけ言われても、名前だけ聞いたことがあるを入れてやっと4分の3ということで意外に認知度は低いんですが、宅配サービスに影響を及ぼすだろうと皆さんは思っていることになります。
どう影響を与えるかについては、配送料が高くなる、配送日数が長くなる、さらには再配達が有料になると思っている人も結構多い。こういう影響があるんじゃないかと思っている。やはり意識を変えなくてはいけないと相当の人が思っていて、そういう中で、再配達を避ける配慮をするとか、置き配、宅配ボックスを有効に利用するとか、配送時間がもう少し長くてもいいんじゃないかと、こういう意識が相当出てきている状況です。
再配達が今11%ぐらいです。コロナのときに8%ぐらいに落ちたんですが、また上がって11%で推移している。
それからもう1つ、2024年問題が小売店での買物に影響を及ぼすかというアンケートでも、消費者の多くはある程度影響を及ぼすと予想している。
1つは価格上昇、それから欠品が多くなる、いつでも店頭に並ぶということがちょっとできなくなる、あるいは鮮度が良い商品が手に入りにくくなるといったことが影響してくるのではないかと言われています。
先ほどリードタイムを延ばすとか、それから回数を減らすというのは、欠品が多くなる可能性が非常に高いです。もちろんいろいろな形でAIを使って重要食品の鮮度は守っていますが、欠品する可能性は今までに比べると非常に高くなります。しかし、ある程度寛容に我慢してもらうことは、しようがないかなと思います。
1つには、消費者のほうも小売店の品ぞろえについて、ある程度考え方を変えるという状況も出てきている。いつでも多くの品ぞろえを望まないとか、欠品があってもこだわらないとか、こういう意見も相当出てきていることになります。少しずつ意識が変わっている。
実際に百貨店協会などでも、今までは開店時刻前に納入するのが原則でした。つまり開店のときに全部商品がそろっていなくてはいけない。これが原則でしたが、それを一部緩和すると。ですから少し欠品する。
首都圏のスーパーでも定番商品の発注時間の見直しやリードタイムの確保などを少しずつやっています。
それから、マクドナルドも配送回数を従来週7日だったら6回にして、今は5回まで減らしていますし、コンビニも配送回数を減らす動きは出ているということで、だんだん物流の見直しをしなくてはいけないという形で動いています。
最後にまとめですが、ドライバー不足、物流危機が発生した背景としては、やはり物流の効率化が遅れていて生産性が低いという問題があります。トラック運送業だけでは解決できないということで、商慣行などを含めた現状の物流条件が効率化、生産性を無視したものになっている。これを何とかしなければいけない。短いリードタイム、多頻度小口、厳しい時間指定といった物流条件が要求されている中で、納品時の積卸し、手積み手卸し、検品、さらにはいろいろな附帯作業が要求されて、これが物流現場に集中して労働時間を長時間化させていて、若い人にとっては厳しいよねということでなかなか職場に入ってこない。かつ給料が安いことでなかなか難しくなっています。
この労働時間短縮は物流事業者だけではなくて発荷主、着荷主企業と連携した物流条件の見直しが欠かせないと言えます。そしてさらに、社会全体、あるいは生活者も含めて意識を変えていくことも重要だと思います。
今のサプライチェーン自体が、基本的に消費者起点で消費者をベースに消費者がとにかくいいようにと、消費者ニーズに応えるのが絶対視されているんですが、ただ生活者が相当過度な利便性、品ぞろえ、鮮度などを要求する中で、結果的に物流に大きな負荷がかかってきたということになります。
そういう意味で、生活者の物流に対する意識、理解が進んで、過度の利便性、品ぞろえ、鮮度をもう少し要求しない、こういった行動変容を起こすことによって物流改革が進んでいくんだと思います。
私からの説明は以上でございます。どうもありがとうございました。
○和田委員長
矢野様、本当に限られた時間で御説明いただきましてありがとうございました。
以上で、参考人の矢野様からの説明は終わりました。
これより質疑に入ります。
委員の方にお願いいたします。質問をまとめてするのではなく、一問一答方式でお願いいたします。
それでは、御質問、御意見等がありましたら御発言願います。
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