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委員会会議録

委員会補足文書

開催別議員別委員会別検索用


平成29年11月社会資本・まちづくり特別委員会
静岡県立大学 学長 鬼頭宏氏 【 意見陳述 】 発言日: 11/22/2017 会派名:


○鬼頭宏氏
 皆さん、おはようございます。
 きょうはお招きいただきまして、まことに光栄でございます。
 この特別委員会の名称が、社会資本・まちづくり特別委員会ということでございますので、この午後にお話されます大石先生のほうが専門家でいらっしゃる。私はずっと人口のことしかやっておりません。しかも、主たる研究は、ベースは経済史で、歴史的な観点ということでございます。そういう点から、何かお役に立てればということで、きょう、お話を用意してまいりましたので、もし参考になるようであれば大変光栄であると、うれしく思います。
 大きなビジョンをまず描いていただいて、その中からだんだん静岡の現状にあわせて、絞り込んでいくということをしていただければありがたいなという趣旨で、資料を用意いたしました。
 ただ、資料は、紙の節約ということもありますが、どこでも出てくるような、例えばこういう図はきょうは省略させていただきましたので、御了解いただきたいと思います。必要最小限の資料をお手元にお配りしました。もしデータ等が御入り用であれば、お渡しいたしますので、お申し出いただきたいと思います。それでは座らせていただきます。
 
 それでは、これから報告をさせていただきます。
 きょうは、話は4本柱でまいりまして、1つは、人口減少と2つの不均衡という話ですね。
それから、人口がこれからどうなっていくのかということなんですけれども、我々というか、まち・ひと・しごと創生本部もそうですし、大方の方が、減少しっ放しじゃ困るということで、静止人口――人口がふえも減りもしない状態を目指していこうということで目標が一致していますので、その静止人口が本当に実現できるのかということについて、お話をします。
 その次に、少し視点を変えまして、歴史的な観点から、人口が減少する時代とはどんな時代なのか。やはり共通の課題を抱えていると私は考えておりますので、その中でこの21世紀をどう過ごすか、あるいはその間に何をすべきかということについて、お話をさせていただきたい。
 4番目に、それまでのお話を1つの方向へまとめていきたいと思っております。ちょっと大げさな言葉を使っていますけれども、文明のパラダイムシフトという観点で21世紀を捉える。そうなってきますと、どういう地域づくり、あるいはまちづくりが求められるのか、少し私の経験というか、日常の生活の中からの思いつきをお話しするということで、進めさせていただきたいと思います。
 
 まず最初にお見せしていますのは、ことしの4月に社会保障・人口問題研究所から発表されました将来人口推計でございます。この推計ですと、2005年以後、少しずつ出生率が戻ってきていますので、ひところの推計よりは少し楽観的な見通しになってきて、一時期は2006年の推計ですと、2100年に4200万人ぐらいまで減るだろう、人口3分の1になってしまうだろうと言われていたのが、この新推計では5200万人ぐらいまでで済みますということになっております。5000万人台は維持できるだろうと。しかし、ずっと減りっ放しではありますということです。
 実は、私がこの人口推計を行って結果を報告した社会保障審議会の人口部会の委員でありましたので、過去3回のこの推計にかかわってまいりました。ただ、私はどちらかというと異端派でありまして、この推計方法は間違っているとは言わないけれども、何もしなければこうなるということで、そういう使い方をしていただければ間違いはないんだけれども、新聞などは、こうなると使ってしまうんですね。これじゃ、若い人たちを絶望させてしまうだろうと。別の推計とか何か、もっと示すべきではないかという意見を申し上げてはいるんですけれども、それは多勢に無勢というか。今の方針が、何もしなければこうなるというベースラインの推計に非常に限定されていますので、何ともしようがないというわけじゃありませんけれども、別の見方もできるんじゃないですかと。あるいはジャーナリズムには取り上げ方を気をつけてくださいとは、お願いしておりますけれども、その読み方ですね。これに非常に気をつけていただきたいということでございます。
 その話はまた次のステップでお話しさせていただきます。
 人口減少しているということは、労働力が不足するとか、あるいは消費人口が減少するということで、日本の経済に直結するそれだけでもかなり大きな問題なんですけれども、2つの不均衡を伴っているところが、もっと苦しいところだろうと思いますね。その1つが、年齢構成が大きく老年人口の割合を高めていく超高齢化という現象が起きている。2015年には26.6%だった65歳以上人口が、2065年には38.4%まで、4割近くまで上がってきますよと言われていることです。ただ、これは誤解があるかもしれませんけれども、あんまりその先のことを言わないんですが、社会保障・人口問題研究所の推計でも人口が減りっ放しなんですけれども、実は、2060年を過ぎますと、高齢者の割合はもうふえないということです。大体38%か39%の割合を維持していきます。ですから、それまでに年金などの仕組みを整えていくと、幾らか息がつげるようになるんじゃないのかなという、楽観ではありませんけれども、かなり厳しいですけれども、100%高齢者の社会になるということはあり得ないわけですから、そこのところは注意したほうがいいと思います。
 それからもう1つの不均衡、これも地方消滅という増田寛也さんたちのグループのレポートで大きくクローズアップされましたけれども、高度経済成長の時代以来、ずっと続いております首都圏への人口集中と地方圏の人口減少が、もっと進んでいきますということです。全国の総人口の推計の後、地方の地域人口推計が今度出るかと思いますが、平成25年の推計で見ますと、全国1686の基礎自治体のうち――2040年、30年先まで推計しているんですけれども――増加するのは80で、残りの1600以上が減少すると言われている。そして、2010年の規模よりも半分以下になってしまう自治体が106あるという推計が出ております。ただ、過去のトレンドがそのまま続いたらどうなるかということなんで、人口移動というのは非常に予測が難しいものですから、これは努力次第で変えることはできると。ですけれども、こういう地域人口の不均衡がこれからもまだまだ進む可能性があるということは指摘されております。
 このような人口が減少することと、人口の分布が大きく、首都圏への一極集中が進むこと、それからもう1つ、高齢者の人口がふえていって、子供を合わせた従属人口の割合が上昇していく、いわゆる人口オーナスと言われる現象がこれからもっと進むことは否定できない。それはそれぞれ、人口分布の不均衡が、地方消滅という言葉で言われているように、非常に地方人口を減少させていくし、それが一次産業を大きく衰退させる、また耕地や山林の放棄が起きたりしているということで、その地域の社会資本が維持困難になる。それは引いては環境、あるいは国土保全問題にもつながるだろうということですね。当然人口が減れば、税収入も減っていくわけですから、十分に手当できなくなる。そうすると自然災害に非常に弱くなるという現象が起きるんじゃないか。それから、人口減少と超高齢化というのも、国民経済を弱くさせていくということで、両方の側から、この人口の不均衡と人口の減少が、国民生活の持続可能性を損なっていくんじゃないだろうかという懸念がされるわけでございます。この特別委員会の目的も、それをどうやって防ぐかというところにあるのではないかと思っておりますけれども、人口に直結した課題であろうと思います。
 それでは、人口は減りっ放しなんだろうか、あるいは減りっ放しでいいんだろうかということなんですけれども、さすがに人口が半減してしまうと――あるいは3分の1になってしまうことは避けたいですけれども――先ほど、静止人口ということを申し上げましたが、この言葉は、随分古く、昭和49年には唱えられているんですね。ただ、このときは状況が大分違います。昭和49年はオイルショックの翌年になりますけれども、このとき出されたいわゆる人口白書――今の白書とはちょっと形が違いますが――人口問題審議会という諮問委員会が、日本人口の動向という報告書をこの年に出しております。その報告書のサブタイトルが、「静止人口を目指して」となっております。
 静止人口は、先ほど申し上げましたように、人口がふえも減りもしない状態ということですが、これを目指そうというのが、当時の日本の状況でした。世界は人口爆発が起きている。そしてこの年には、8月にルーマニアのブカレストで、国連の人口開発会議が開かれ、初めて政府間レベルの会議がございました。国連は何を目指したかというと、途上国が人口爆発を起こしているので、それを抑え込もうということですね。今のパリ協定で、温暖化ガスの排出を削減して地球の温暖化を食いとめようということと似たような状況でして、当時は人口爆発を抑えようということだったわけです。日本の政府も、率先して人口を抑制しようと、この白書の中で訴えているわけです。途上国を説得するためには、みずからそれを実践しようということだったわけで、もし人口を維持できる水準を4%下回るように出生率を落とせば、昭和85年をピークにして人口は減少に転じるということを推計しております。ちなみに、昭和85年というのは西暦で言うと2010年ですので、現実の人口はまさにその期待どおりに減少し始めたということです。ただし、サブタイトルに静止人口と書いてあるわけですから、どこかで出生率を元に戻して、人口を安定化させなきゃいけなかった。そういう方策を早く打たねばいけなかったんですけれども、昭和49年から36年間の間、すっかりそういうことが忘れられてしまったわけですね。出生率を元に戻すという作業は、手をつけるのに時間がかかったということだろうと思います。次世代育成の法律ができて、推進法ができてからです。出生率は少し改善に向かい始めましたけれども、ちょっとスピードが遅いのかなという気がします。
 しかし、静止人口という言葉は使っていませんけれども、本格的に言い出したのが、平成26年のまち・ひと・しごと創生長期ビジョンでございます。この中で、まち・ひと・しごと創生本部事務局が、人口の長期見通しを出しておりますけれども、これがまさに静止人口をどうやって実現するかということでございました。また、各都道府県及び市町村に対しても、総合戦略と長期ビジョンを出しなさいと指示されております。どんな形になったかと。
国はこういう絵を描きました。この点線は古い人口推計ですから、2110年で4200万人まで人口が減ってしまうということになりますけれども、この実線、小さな字で書いてございますが、2030年までに合計特殊出生率を1.8まで戻すと。そして、2040年には人口が維持できる水準を2.07まで戻すと。これが実現した場合、この赤い実線のように、2060年には1億人を維持できます。そして、2110年には9000万人台でほぼ安定し、静止人口が実現できますと言っているわけです。ですから、この出生率をできるだけ早く上げようと言っているわけです。もし、出生率が上がるのが少し遅ければ――5年ごとに遅くなったケースを点線で示してありますけれども――人口が安定する水準はより低くなるし、安定する時期も遅くなるわけで、こういう図を示して、目標を示したということですね。
 静岡県でも同じ推計と言いますか、ビジョンとして出されております。静岡県の場合には、もっと急激な変化というか、出生率の回復を予測しておりまして、2020年までに合計特殊出生率が2.07まで上がると。あと数年しかございませんけれども、その場合、人口は280万人ぐらい、21世紀の終わりには静止人口の状態になるだろうということです。もちろん、出生率の回復が遅ければ、この水準は下がるし、静止人口に至るまでの期間も、もうちょっと時間がかかるということになりますけれども、ピーク時よりは100万人ぐらいは減る。100万人以上減るかもしれませんが、出生率さえ戻れば、どこかで安定するということです。
 下のほうは、社会保障・人口問題研究所の地域人口推計で、2040年までしか推計してありませんけれども、その傾向が持続した場合はどうなるかというと、2100年に138万人まで減ってしまいますから、できるだけ早く出生率を上げなきゃいけないということで、子どもや子育てについて、いろいろな施策を今打っているというところです。
 現実的に出生率の回復が起きるのかということを、社会保障・人口問題研究所の推計では非常に客観的に、何も変化がなかったらこうなるよと言っているんですけれども、それじゃ余りにも将来暗いじゃないかと異議を唱えていらっしゃるのが、明治大学の加藤久和さんです。実は私は彼と組んで――私は何も貢献していないんですけれども――一緒のチームで、10年ぐらい前になりますけれども、社会保障・人口問題研究所と別の推計を出したことがあります。そのときの推計と同じやり方で、加藤さんはまた新しい推計を昨年出されています。
 どういう前提条件かというと、社会保障・人口問題研究所の推計は、結婚年齢とか、年齢別の出生率とか、死亡率とか、そういういろいろな人口に影響する人口学的な要因を分解して、それぞれのトレンドを推計して、それをがちゃっと組み合わせて将来人口を推計する。外の変数――経済成長率であるとか、失業率であるとか、財政的な支援であるとか、児童・家族関係の給付ですね、そういうものは一切考慮しないやり方です。非常に厳密なんですけれども、社会が全く変化しないことを前提にしてやっております。しかし、加藤さんの場合は、経済成長だって影響するだろうし、それから家族手当だって影響するだろうと。もしそれを、幾通りかの方法で条件を変えていった場合に、どうなるかと計算しています。
 経済成長率は、名目のGDPで、2020年代に1.4%、30年代に入ってから2%成長が実現すると仮定する。そして、子ども手当ですね。児童手当とか家族関係給付費が、GDPの2012年の1.2%相当の金額から2%まで上昇した場合にどうなるだろうか。過去の経験値を当てはめて計算しております。そうしますと、2030年には、合計特殊出生率は人口維持できる水準の2.07に回復する可能性があるぞと言っているんですね。これはそう遠くない将来の話です。皆様方には――これはお配りする必要がないかと思いまして省略させていただいたんですけれども――これは過去のトレンドです。今のお話は、これがうまくいった場合、経済成長も続いて、児童手当などが大幅に増額されるといった場合に、出生率は2035年には2.1まで上がりますよということです。そうしますと、当然人口は、社会保障・人口問題研究所の推計とは違って、2060年に1億人維持できますと、まち・ひと・しごと創生本部の見通しに近いものになってくるということです。
 ですから、絶望しないで、今度の選挙でも争点になりましたけれども、子供に対する手当に、消費税を使うのか、保険制度にするのか、いろいろなやり方があろうかと思いますけれども、手厚くしていくことで出生率は上がる可能性は十分あると見通しが示されているということです。
 ただ、これはちょっと省略させていただきますが、問題は、静止人口になったときに、人口が将来うまいぐあいに9000万人台で維持できるか、あるいは静岡の場合には200万人台で、それも280万人とか、ピークよりも100万人ぐらいの減少で済むのかどうかなんですが、そうなった場合、どんな社会をつくればいいのかという見通しがないとやはり困るということです。つまり、静止人口は1つの目標ではありますが、それまでに時間がかかりますし、その間に人口は着実に減っていきます。まち・ひと・しごと創生本部の見通しでも、ざっくり言って、21世紀のうちに3000万人は減りますし、静岡県のように2020年までに合計特殊出生率が2.07に戻ったとしても、100万人近くは減るということですから、3分の1近くは減ってしまうということです。ですから、将来を見据えて、この社会をどうつくり直していくかが大きな課題になると思います。
 私の領域の歴史的な観点から、人口の減少期がどんな時代だったかを少し振り返っておく必要があると思いまして、こういう話題を挟ませていただきました。
 人口というのは、ずっと単調にふえてきたわけではない。近代の人口増加は、産業革命以後に、爆発的に人口がふえたと言われ、事実、そのとおりなんです。しかし、それよりももっと前の時代を振り返ってみますと、人口はふえたり減ったり、何度もそれを繰り返してきたということです。しかし、それは単調に一定の幅の中で動くんじゃなくて、階段を上がっていくようにぐっと上がっていった時代があると思えば、減退した時代がある。そしてまたぐっとふえた時代があるというように、ちょうどエスカレーターを乗り継いでいくように、増加と減退を繰り返してきたのです。
 すぐ次でお見せしますけれども、日本の場合には、人口の減退期というのは縄文時代の後半、それから平安から鎌倉時代、西暦1000年前後の時期ですね。それから江戸中期から後期にかけて、18世紀から19世紀です。この時代が人口の減退がはっきりわかっている時期です。
 人口が増加した時代、つまり縄文の前半であるとか、弥生時代から奈良時代であるとか、それから室町時代から江戸時代の前半であるとか、それから明治から昭和、こういう人口の増加期に、どういうことが起きたのかということですね。単に気候がよくなって人口がふえたわけではない。新しい資源が入ってくる、あるいはそれを見つける。そして、それを利用する技術が発達していく。社会の制度――土地制度であるとか、家の制度であるとか、政治の制度であるとか、経営の制度であるとか、いろんな制度的なものも新しいものが発明されてくる。それから、衣食住を中心とした暮らし、生活様式も、大きく変わっていく。これが人口の増加期であったということです。
 それに対して、人口が減少した時代、気候変動も確かにあるんですけれども、それ以前に、人口とか経済の量的な拡大が実は困難になっている。ちょっと違った言い方をすると、新しい資源とか技術、制度、生活様式、それが社会の中に普及し尽くして、いわばフロンティアがなくなった時代なんですね。そして、文明が成熟して、量的な拡大が困難になった。そういう時代は、その社会が持っている人口浮揚力の限界近くまで人口がふえています。経済もそこまで膨らんでいます。ですから、環境変動に対して弱い時代でもあったと言えます。事実、縄文時代の後半は気候が寒冷化している。平安時代、鎌倉時代にかけては、1200年前後に大きな飢饉が起きている。ただし、この時代の飢饉は主に干ばつですね。気候が温暖化していく。ヨーロッパではノルマンコンケストが起きて、イギリスをノルマン人が征服したり、あるいはデーン人が地中海のほうへ回って国をつくったりと、非常に北方の民族が元気になった時代であるわけですが、日本の場合には温暖化と同時に乾燥が進んだ時代であったと。
 それに対して、江戸時代の中期、18世紀はどんな時代かというと、世界的な寒冷気候の時代で、日本でもたびたび大きな飢饉が起きた。やはり人口が目いっぱいふえている時代というのは、環境変動にも弱い時代であったと言えるだろうと思います。
 図で示すと、このような形になります。上は日本の総人口です。時代によっては――北海道と沖縄は入れてないですが――こういう形で、増大と減退を繰り返してきましたということです。
 下のほうは、同じようなやり方で静岡地域、あるいは伊豆、駿河、遠江の人口を推計したもので、ほぼ日本列島と同じような変化をしていますね。少し、縄文時代の落ち込みが大きいかもしれません。
 それから、平安時代、鎌倉時代にかけてですが、余り目立たない。だけど、奈良時代までと比べると明らかに停滞している。それから、江戸時代はやはり1世紀ですけれども、落ち込んでいます。大体日本列島の人口と同じようなパターンを示しています。
 じゃあ、人口が減少したり、停滞した時代は、悲惨な時代だったのか。確かに、ひところの日本史の教科書ですと、江戸時代の後半、特に18世紀終わりの寛政の改革のあたりは、東北地方を中心に人が大勢餓死していますとか、そんな絵が出ていたりしました。堕胎とか間引きが盛んに行われましたよと言われ、確かにそういう時代、あるいはそういう地域があったにせよ、日本全体が貧しい時代であったかと言うと、必ずしもそうとは言えないだろうということです。むしろ、この時代には、文明のシステムの時代を象徴するような文芸作品が生まれたりとか、非常に文化的には大きく高まった時代なんじゃないのかなと思いますね。縄文時代も土偶とか土器とか、非常にすばらしいものが生まれていますし、平安時代は、仮名文字が生まれて、文学が生まれて、日本的な文化が成立していく。そして、女性が文学作品を書くような時代になっている。
 それから、江戸時代の18世紀――吉宗の時代に始まり、大体松平定信の時代までが大体18世紀になりますが、1760年代、70年代には、田沼意次が非常に活躍した時代で、悪口を言われる場合も多いですけれども、最近では、この時代はかなり大きな評価が行われるようになっています。どんな評価かというと、それまでは江戸幕府は主に、土地に対して年貢をかける。これが財政の基準になっているわけですが、田沼意次は、その当時発展しつつあった工業であるとか、商業であるとか、第2次産業、第3次産業にも何とかして課税できないかと、いろいろ工夫をします。それらはまだうまくいかないんですが、実験的にいろんな試みが行われています。つまり、田沼意次の時代、18世紀半ばというのは、飢饉も起きているんですが、同時にその農村を舞台にした工業化が非常に活発に起こった時代であるということですね。
 農村の中に、あるいは農民自身が副業として、あるいは兼業として機織りをやったり、糸をつむいだり、醸造業を行ったり、地主ですと金貸しを行ったり、いろいろな産業が勃興してきた時代だと今は評価されているわけです。
この階に上がってくる途中に、世界で最も美しい海駿河湾と、それから世界遺産の富士山と、それから日本の産業革命遺産と、レプリカと証明書が置いてあります。一番右側にある明治日本の産業革命、静岡県では江川太郎左衛門がつくった製鉄、高炉がそこに入れられていますけれども、このネーミング、実は間違っているとは言わないまでも、誤解を生みますね。明治日本の産業革命遺産と言っているわけです。だけど、あの溶鉱炉ができたのはいつか、明治じゃないですよね。幕末です。ほかの長崎にせよ、それから鹿児島の工場にせよ、これらの世界遺産の始まった時代を考えてみると、結構早いですね。製鉄、それから造船、それから石炭採掘、みんな江戸時代に始まっているんです。ここが誤解されては困るところで、明治に産業革命が起きますけれども、その前提として、実はもう幕末にあちこちで動いていたと。
 それからもう1つ、あの中には大阪とか東京、江戸って入ってないんです。一番北は岩手で、あとは山口であったり、長崎だったり、鹿児島だったり、どちらかというと端っこですね。伊豆が一番中央になりますね。つまり、地方を舞台にした産業化や試みが既に1840年代から始まっているということです。そしてまた、長崎から来た欧米人、特にヨーロッパ人や、長崎から入ってくる本、こういうものや人をテキストにして、見事につくっていくわけです。余り地名を言うと失礼かもしれませんけれど、アフリカあたりの途上国で、新しい技術を持ってきてすぐにそれを現地の人たちが自分たちでつくっていけるかって、そう簡単にはいかないです。やはり日本でそれがうまくいったというのは、それよりも前の18世紀に、農村を舞台にした工業化が起きているのが前提だと思いますね。資本がある、労働力がある、それも訓練された労働力がある。それから、経営のノウハウがある。規律もあると。そういうことが前提になって、新しい技術とか、新しい物産とかが入ってきたときに、そんなに大きな困難もなくそれを受け入れて、明治期の経済成長の準備を整えたと言っていいんじゃないかと。しかもそれは地方であったということですね。そういうことが行われたのが、この人口の減退期じゃないだろうかということです。
 例えば、鎌倉時代はどうなのか。人口はそんなにふえていないらしい。あんまりよくわかっていないんですけれども、本格的にふえるのは、室町時代に入ってからだろうと推測されています。15世紀には、人口1000万人に達したという推計もございます。そうすると、この時代に何が起きたかと言うと、実はこの時代に、江戸時代に主流になる貨幣経済、あるいは市場経済、その前提がつくられた。平安時代から鎌倉時代にかけて、中国から宋の国の貨幣がどっと入ってくる。日本の国内では、皇朝十二銭という貨幣が奈良時代につくられましたけれども、それは使われなくなって、しかし一方で、日本の中で貨幣的な取引が始まりつつあった。多分、13世紀ごろですね。鎌倉時代のころから、荘園の年貢を貨幣で納めるということが起きている。それが、乾いた土地に雨が降って、水たまりができて、それがつながっていくように、マーケットが大きくなっていく。大体全国的にネットワークができて、ほぼ完成するのが18世紀初めの吉宗の時代であると考えられますから、非常に長い時間かけて変化が起きているんですが、その発端はここの人口の減退期である。
 それから、この弥生時代から奈良時代にかけての人口増加です。弥生時代は60万人ぐらいですが、奈良、平安時代は600万人ぐらい人口がありますので、10倍にふえます。縄文時代には人口が8万人ぐらいだったんですが、この時代に何が起きたかと言うと、植物の栽培が始まっている。種をまいて育てるという考え方が、もう既に広がりつつあったと言われています。つまり、人口が減少していた時代、あるいは停滞していた時代は、何もしなかった時代じゃなくて、いろんな困難が起きている中で次の文明をつくり上げるような、いろんな要素がその中で育てられつつあったという時代だったと思うわけですね。
 ここで――これはもう後でお読みいただければいいんですが――詳しくは省略しますけれども、それぞれの人口の増加を支えたシステム、ここでは縄文システムとか、水稲農耕化とか、仮の名前がつけてありますけれども、その時代の特徴を示すような名前をつけてあります。室町時代から江戸時代には経済社会化、市場経済化が進んだと強調しています。それから、明治以後は工業化と言っております。次にくるのがどんな文明なのかと。21世紀は、まさにそれを準備する時代であろうということです。
 人口は、これから減少はしますけれども安定に向かっていく、静止人口に移行していくプロセスであると。人口は若干減ります。減りますけれども、その中でただ人口が安定すればそれでいいというんじゃなくて、それを支える新しい仕組みが求められてくるんじゃないだろうかと。
 ここでは、クエスチョンマークばっかりつけているんですけれど、はっきりと書いてあるのがここですね。主要エネルギー資源。縄文時代には、燃料とか、食べるものとか、全部生物、あるいは人間の力そのものであるということだったわけです。それが、農業を始めると、生物を、特に牛馬の場合は運搬のために使う、あるいは土地を耕すために使うように、物理的な力を利用するようになってくる。それから帆船のように風力を使う仕組みも生まれてくる。水車、日本では余り普及しませんでしたが、水力を利用するという動きも生まれてくる。
 それから、室町時代から江戸時代、この場合には農業社会ですから、基本的にはそれより前の時代と、主要なエネルギー資源は変わりませんけれども、風をうまく利用する仕組みが大きく進んでくる。帆船などが大きく発達してくる。それから水車も普及してくる。あるいは、森林資源。積極的に栽培をしながら利用するような、できるだけ多くのエネルギーを自然界からくみ取ろうとする動きが出てきていますね。しかもそれが、マーケットで取引されるようになってくると、変化が出てきます。
 それから言うまでもなく、工業化が始まると――明治日本の産業革命遺産の中にも含まれましたが――石炭の利用と鉄の利用が象徴されます。つまり、鉱物資源は、燃料にしろ素材にしろ、重要な役割を持つようになる。それから、水力を使った発電、電気力、これも利用されるようになる。これは非常に大きな特徴ですね。
 次の、21世紀型の文明社会はどうなるんだろうか。今、地球温暖化で、二酸化炭素などの温暖化ガスの排出が大きな課題になっていますけれども、そういう側面もありますが、同時に昭和49年に静止人口を目指そうということが起きた、そういう考えが生まれたことの背景として、資源の問題が非常に大きくのしかかっていたわけです。つまり、当時、石油の将来見通しで、その当時の人口は2%近い年率でふえていたわけですし、それから経済成長も起きている、この勢いがとまらなかったら、資源はもつんだろうかという疑問が起きた。そこで、ローマクラブの報告書として、成長の限界というものが出ました。1972年です。
 そのときどういうことが言われたかと言うと、石油はあと30数年しかもちませんということが言われました。幸い、潜在的な埋蔵量がどんどんふえていったこととか、シェルガスのような新しい利用の仕方が生まれてきたとか、いろいろありまして、石油はまだまだ使えるということがわかったんですけれども、ただ、いずれなくなることは目に見えているということですね。それに加えて、当時は公害が言われていましたが、70年代には、地球環境の汚染とか環境破壊が課題になりつつありました。現在は、環境汚染の問題と資源の枯渇を考えると、再生可能なエネルギー、脱炭素へ切りかえていかなきゃいけないことは、はっきりしていますね。既にその動きをはっきり示しているのが電気自動車を中心とした輸送機器の動きであろうと思います。鉄道も今、完全に電化でいこうという時代になりつつあるということですね。そんな時代に突入している、それがだんだんはっきりしてきたと思います。
 要するに、過去の日本の人口の減退期に起きたような、次の文明システムへの移行の準備が、21世紀には行われなきゃいけない。だから、社会資本、まちづくりと言うときも、今までのものを何とか維持できたらいいとか、何とか経済成長が維持できればいいとかではなくて、もっと明確な目標を立てるべきなんじゃないだろうかと。文明とかそんなことは言わないにせよ、この日本最高戦略2016では、第4次産業革命に向けてというサブタイトルで、いろいろな夢が語られている。
 第4次産業革命――インダストリーフォー、ドイツで生まれたと聞いていますが――そう言っていいかどうかわかりませんけれど、18世紀後半ですが、蒸気機関による機械化が1つの変化であったと。それに続いて、19世紀は電気の時代になったんだと。そして20世紀になるとコンピュータの時代だと、そして自動化が進んだ時代だと。これからは、スマートファクトリーなんだと。どんなんだかよくわかりませんけれども、そういう表現がされている。つまり、コンピュータがいろんなところへ入り込んでいって、ICT、IoT、AI、ロボット、そしてさらには――これはちょっと自動化とは違うかもしれませんけれども――ビッグ・データを利用して、何かを予測したりする。あるいは、生命をつかさどるゲノムを編集することで、新しい作物をつくったり、病気を治療するような、より進んだ産業化へ、今、向かいつつあるんだという表現がされる。
 それからもう1つ、ソサエティ・ファイブという言い方もあります。これは、日本では第5期科学技術基本計画の中でうたわれていることですけれども、これは私が考えている先ほどの文明システムとほぼ同じでしょうかね。狩猟採集社会――縄文時代ですね。それから農耕社会――弥生時代から平安時代、鎌倉時代、あるいは江戸時代までここでは含んでいるでしょう。私はその中を、市場経済があったか、なかったかで2つに分けていますけれども、ここでは、1つにしてあります。
 それから、明治以後の工業社会。そして、ちょっと曖昧ですけれども、20世紀の情報社会になるわけですね。この辺は、上の日本最高戦略の分類とちょっと似ているところがあるかもしれません。それに続く、超スマート社会だというんですから。
 超スマート社会って、どういう社会なのか、ちょっとわかりにくいんですけれども、やっぱりコンピュータをあちこちつないだ社会という意味でしょう。具体的な像というのはなかなか出てきていませんけれども、今までとは違ってくることは、どんな立場でも同じように訴えられています。
 そのときに、きょうの本題になりますけれども、どんな社会を念頭に置いたらいいのかを、私は漠然と考えておりました。日本の少子化が始まったのはいつか。1974年、あるいは75年です。合計特殊出生率が2.0を割ったのが、75年です。これはまさに、先ほどの人口白書が出たその翌年になります。日本だけが特別だったかというと、決してそんなことはない。実は、もう既に、先進諸国、アメリカもフランスもイギリスもドイツもイタリアも、いずれも1970年代の中ごろに、合計特殊出生率は2を割ってるんです。これは偶然とは言えないんです。オイルショックがあったから、それもあるかもしれません。だけど、それより前から少しずつもう落ち始めていた。
 その共通する背景って何だろうかと。これは、経済学者や人口学者はなかなかそこをはかれないんで分析しませんけれども、私はやっぱり、将来対策だと。不安だと思ってるんですね。まさに私の世代が、それにぶつかっているわけですけれど、これから結婚する、それから出産する、そういう時期に当たっている人たちが迎えたその当時の社会はどうなのか。オイルショックである、地球環境の破壊である、資源の枯渇の予測である、もう将来真っ暗だということですね。そういうことが、人口、その再生産行動に影響を及ぼしているんじゃないか、価値観に影響を及ぼしているんじゃないだろうかと。それを払拭して、静止人口をもたらす、出生率を上げていくことについて、やはり将来、今までと違った暮らしができる、いい暮らしが、そこそこの暮らしができることを示していかないと、若い人たちは、なかなか自信を持って家族を持とうということにはならないんじゃないだろうかということです。
 その1つの目安として、今までと違って経済成長が続けばいいんだという、それだけでもかなりうまくいく可能性はあると思います。先ほどの加藤さんの推計はそのとおりだと思います。しかし、それだけだったら、多分問題は最終的に解決されない。もっと具体的に、その経済成長の中身を吟味しなきゃいけないし、将来、安心して迎えられる社会はどんなものか、それを形として示していかなきゃいけないだろうと思っております。
 私は、非常に曖昧な言い方なんですけれども、新しい価値を生み出していかなきゃいけないだろうと思いますね。あるいは、それは豊かさと言ってもいいと思います。この動きは既に始まっています。国連がそうです。OECDがそうです。それから、前のフランスの大統領、サルコジの時代につくられたスティグリッツ委員会がそうです。何を言っているかというと、これからの豊かさというのは、マーケットで取引される商品やサービスの付加価値の総額、つまりGDPじゃないんだと。これも大事です。大事ですけれども、そういう物的な豊かさ以外の豊かさというのが、実は必要なんですよと言っています。スティグリッツというのはアメリカの経済学者で、ノーベル経済学賞をとった人ですけれども、同じくインド生まれのノーベル経済学賞をとったアマルティア・センであるとか、それからフランスの経済学者でフィトシーという人がいるんですけれども、こういう人を中心にして、フランスの一種のシンクタンクというようなものをつくらせて、新しい豊かさをはかる指標を研究させたんですね。それは報告書が出ております。この中で、いろんな環境の要素が非常に強く訴えられているんです。いろんな豊かさの概念が示されています。
 それから、国連は何を示しているかというと、2000年にミレニアム・サミットというのを開きます。2000年に、持続可能な開発という概念を強く打ち出しました。2015年を目途に、持続可能な社会をつくるという目標を立てたんですね。2015年、おととしになりますけれど、今度は持続可能な開発目標という新しい目標を17項目立てました。これは、2030年を目途に進めております。この中にも、経済的な豊かさはもちろん入っているんですけれど、そのほかに教育であるとか、ジェンダー間の平等であるとか、環境であるとか、いろんな要素が入ってきます。これはそれぞれ数値目標を立てて、それを達成しましょうと、努力目標として、示しています。
 それから、もう1つ、OECDですね。OECDは、2011年からスタートさせたんですが、ベターライフインデックスと呼んでいる概念、これは11項目あり、全体をよくしていきましょうということを示しています。これですね。ちょっと順序が変わりましたが、こういう目標ですね。こちらが先にありますから、これを見ていただいたほうがいいですね。全体として、ウェルビーイングと言っていますが、――日本では難しくて、豊かさと表現をしていますけれども――いい暮らしということでしょう。だから、ベターライフと同じ意味で使われているんですけれど、こういうものを出しています。これは11項目ありますね。健康であるとか、ワーク・ライフ・バランス、教育、社会関係、それから社会的なかかわりとか、ガバナンス、投票行動なんかはここに入ります。それから、環境、個人の安全――殺人率であるとか、自殺率なんかはここに入ってきます。夜、1人で歩けるかというのもここに入ってきます。それから、主観的な豊かさ、満足しているかどうか。満足度ですね。それから、所得と収入、富ですね。それから仕事、稼ぎ。それからハウジング、住宅。彼らはこれを大きく2つに分けて、物的な条件、金銭的なもの、それから働く職場があるかどうか。家というものと、クオリティ・オブ・ライフ、生活の質というのを8項目に分けて示している。
 これらが全体として豊かさを構成する要素と言っているわけで、そしてそれを支えるのが森林であるとか、草原であるとか、水であるような自然資本。それから、設備とか機械とか道具であるとか経済的な資本。それはお金、金銭も入ってきますね。それから、労働力、あるいは教育、どこまで教育を備えているか、健康であるかというような人的な資本。それに加えて、社会関係資本、人間関係ですよね。これを入れている。こういうのを資本と呼びたくないと言う人もいるかもしれませんが、OECD、経済協力開発機構では、この4つに分けて、こういう資本が充実させられなければ、こういうクオリティ・オブ・ライフというのは維持できませんよと言っているわけですね。
 日本ではどうなのかと。日本の場合をこういうふうに指標として示しています。2016年のケースです。これは、ここに11の大きい指標があって、その中の幾つかに、数値のデータが示されています。この中で、この線に近いほど成績がいい。中心に近いほど評価が低いということです。これを見ていただくと、低いのは、例えば健康ですね。平均寿命、ライフエクスペクタンシーと書いてありますが、これはトップなんですよ。OECD、ここでは38カ国だったと思いますけれど、トップの部類に入る。
 ところが、個人的な評価になりますと、実は低いんですね。自分は健康だと思っていますかとの問いに対して、回答はよくない。それから、教育についても、いいんですけれど、教育年限について見ると、日本って、え、そんなに低いのと言うぐらい低いんです。これは多分、幼児教育が影響しています。6歳からの義務教育、それから幼児教育が低い。それともう1つは、高等教育への進学率が、実は日本は低いです。まだ6割いっていない。韓国は7割超えている。そういうところが影響していますね。それから軒並み低いのは、市民参加とかガバナンス。どれだけ政治家とつき合って、自分の意見を表明しているか、あるいは傍聴に行ったり、請願をしたりしているか。あるいは投票に行く人の割合、投票率はどうなのか。これは非常に低い。こういうことが、社会参加あるいは社会関係資本で、日本の評価を非常に低くしていると思います。一つ一つ上げていくときりがありませんけれども。
 環境だって、いいなと思っていたら、実は空気の質はそんなによくない。水はちょっといいですけれど、トップクラスではないとか。案外、こうやって見ると低いんですね。住宅も、1世帯1住宅という、戦後目指した、60年代に公団住宅など一斉につくっていった時代と違って、ほぼ世帯当たりの住宅は、充足されるようになってきてはいるんですけれど、その設備、内容であるとか、1人当たりの部屋数であるとか、そういう点からすると、決してまだ満足いくレベルではないんだと。また、ワーク・ライフ・バランスですね。これも悪いですね。それから、稼ぎも実は、単価がよくないとかですね。失業率は低いから、比較的いいですけれども。実は、いいなと思っていたものが案外悪い。そして主観的な生活満足度を見てみますと、これも低いほうに入ってしまうというぐあいに、決して日本の生活水準はよくないですね。
 これはお見せしておりませんけれども、この38カ国を並べてみますと、日本ってこの辺なんですね。これは総合点で並べてありますけれども、38カ国中23位なんです。決して高いとは言えないですね。これは、それぞれ項目別に世界の何位かということなんですけれど、30位台というのは結構あるんですね。1番よくて所得で5位です。決して日本の生活は、満足いく水準ではないことになります。だから、これをいかに充足していくかが、国民生活をよりよいものに導いていくことにもなるんだろうと思います。
 もう時間になりましたので、最後に少し、私の考えていることをお伝えしたいと思います。こちらは今回の話題ではないかもしれませんけれど、超高齢化に限度はあるとは申し上げたんですが、今27%が、40%近くまで、まだまだ高齢者の割合はふえていきます。高齢者が住みやすい社会をどうつくっていくか、それは人間関係だけじゃなくて、やっぱり物理的な、バリアフリーの社会であるとか、住宅の問題であるとか、いろいろな社会資本とかかわってまいります。
 それから、人口が将来安定する可能性はあると申し上げたんですけれど、それまでに全国規模で3000万人以上、4000万人近く人口が減る。静岡も100万人近くは減るでしょう。社会規模がダウンサイジングしていくということです。その中で、すかすかにならないよう、穴だらけにならないように、社会をつくり変えていかなきゃいけない。快適な都市をつくる、豊かな地方をつくることに対して、どんな方向に向かっていかなきゃいけないのかと思います。
 具体的な方策は、午後の大石さんで報告が出るんだろうと思いますけれど、私、一昨日、ふじのくに交流会に参加しまして、知事の報告を聞きました。その中で一番印象に残っているのは、やっぱり美しい村、美しい海であるとか、ふじのくにガーデンアイランドという考え方だと思います。全体として、ほかにまねのできない地域をつくっていく。いただいたパンフレットの中に、ふじのくに回遊式庭園構想という言葉が出ていましたけれど、これで地域をつないでいくことは、非常に大事なんじゃないかと思います。
 志賀重昂という、哲学者と言っていいと思いますけれど、「日本風景論」という本を書いた人がいるんです。ちょうど日清戦争のころにその本が出されているんですが、日本の風景はとてもいいよと言っているんです。その中で、火山があり、滝があり、海がありと言っていて、それはたまたまいた地形がそういうところ、住みついたところがそういうところだったことはもちろんあるんですが、日本人がその保護に努めて、それを維持してきたことが実は大事なんだと、言っている。富士山遺産センターも間もなく開所ということでございますけれど、それは、富士山がたまたまそこにあったからいい景観があるんじゃなくて、そことのつき合い方、それが実は大事なんですよと、130年ほど前に、この志賀重昂という人が訴えているということですね。こういうものをベースにした、まちづくりをと思います。
 きょうも家族とか、運転手の人とかからいろいろ話を聞いてきたんですけれど、交通の面ではどんなことがいいだろうかと聞いたら、やはり自転車に乗る人が非常に多いので、自転車道を整備したらどうだとか、都心部では自動車の乗り入れを禁止して、パークアンドライドを普及させたらどうだろうかとか、そういう意見を非常に多くの人からいただきましたし、そういう新しいまちづくりって、必要なんだろうと思います。
 それからやはり、これはどなたでもおっしゃることかもしれませんけれども、シャッター通りになってしまうと、非常に寂しい。どうやってうまく、土地に対する権利を尊重しながら、コンパクトシティ化を進めていくか、魅力的な新しい町をつくるかが必要になってくるだろうし、やはり静岡市を――人口70万人を切っているわけですけれども――緑豊かなガーデンシティとして生まれ変わらせることで、魅力を高めていく。それを静岡の県内に幾つもつくって、それをつないでいくことができたら――これは私の個人的な願いですけれども――外からも大勢の人がやってくる県になるんじゃないかなと思っております。
 それと最後に一言申し上げますと、最近、私、大月敏雄さんという方の本を読んで印象深く思ったんですが、彼は、同じような町ができている、同じような家が並んでいるような団地は寂れると言うんですね。例えば、全て一戸建てであったり、全て分譲マンションであったり、あるいは、全て賃貸アパートであったりというところだと、これは同じ住民の構成――人口構成、年齢構成です。それから、所得の問題もあると思います。これは決してうまくいかない。やはりどこか偏るというわけですね。
 私は、横浜の郊外に家がありまして、60年代から70年代にかけて開発されたところで、そこへ中古で買って移ったんですが、その当時は子供がみんな若い。私は比較的遅く入ったから、一番若いほうでしたが、みんなそれぞれ成人して、子供たちは出ていってしまいますね。そうすると、今残っているのは、70から80代の高齢者ばっかりになる。あるいは空き家があります。一部新しく借家で入ってきている方もいますが、こういう状態になるわけですね。戸建ての分譲地というのは。もう高齢者に偏ってくる。
 似たようなことは、分譲マンションでも起きます。ですから、これをうまく組み合わせたら、町全体の人口構成にどれだけ近づけるかを、この大月さんという方は計算して、シミュレーションでやっているんですね。分譲の戸建てのみだったら、20年後にどうなるか。高齢者のところへ人が集まってしまいます。分譲マンションでもそれに近い。ちょっとまだ若い人は出入りがありますから、若い人もいますけれども、やはり高齢者が多い。賃貸アパートの場合には、むしろ若い人が多い。これをどういう組み合わせでやったらいいのかとやったら、戸建てが4割、分譲が1割、賃貸アパートが5割という状態で組み合わせると、かなりバランスのいい町ができますよと。本当にそういうふうにできるかどうかは別ですけれども、つまり、町を活気づかせるためには、いろんな年齢構成の人がいなければならない。そうでないと、個人商店なんかは、子供向けのお店は、全体が高齢者になると、もうやっていけなくなって撤退してしまうと。高齢者向けの店だったら、若い人は入ってこないとかですね。そういう偏りが生まれてしまうだろうと、ここで訴えていらっしゃいますね。こんなことも、人口との絡みで参考になればと思います。
 いずれにしましても、新しい地域をどうやって形成するか、道路の問題もありますし、地域をどうやってつくっていくか、今、いろんな連携が模索されておりますけれども、単独の基礎自治体だけでは多分うまくいかないんで、いろんな組み合わせでいろんな地域を再構成していくことも、非常に大きな課題なのではないのかなと思っています。
 時間が多少超過しまして申しわけございませんでした。これにて報告を終わらせていただきます。

○中澤(通)委員長
 どうもありがとうございました。
 それでは、これより質疑に入りたいと思います。
 委員の方にお願いいたします。質問はまとめてするのでなく、一問一答方式でお願いをいたします。
 それでは、御質問、御意見等がありましたら、御発言を願います。

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