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委員会会議録

委員会補足文書

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令和2年10月情報通信技術利活用特別委員会
一般社団法人日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会 理事 牟田学氏 【 意見陳述 】 発言日: 10/15/2020 会派名:


○牟田学氏
 皆様、こんにちは。本日はどうもお招きいただきましてありがとうございます。
 エストニアは最近注目されるようになっているんですが、日本とエストニアのどちらが優れているかというよりは、そのアプローチの方法がちょっと異なると思いますので、エストニアならではのやり方といいますか、規模や環境も全然、違うのでどこまで参考になるかは分からないんですが、日本が今回のコロナによっていろいろな課題が見えてきたと思います。
 そういった課題に対して、エストニアはエストニアなりの回答を出しています。その回答が日本にそのまま当てはまるかどうかは別として、そういった事例を知ることで今後の参考になればと思いますので、よろしくお願いします。
 まず、私どものジェアディスという団体がございまして、エストニアにはかなり前から電子政府やデジタル化を進めてきた関係で注目されておりました。そういった取組を日本の方に紹介したいと思いまして、何人かの有志が集まりまして団体をつくっています。一応、本が出ていますので、もし興味のある方は御購入いただければと思います。
 写真の中心に当時のエストニアの首相がいて、かっぷくのいいもう1人の外国人が私どもと一緒にやっているラウル理事ですが、彼はもともと経済通信省で次長をしておりまして、IT戦略などを策定しておりました。その関係で、今でも政府とコンタクトがあるので、この前、大統領が来られたときもエスコートしていたりするので、そういった関係で政府とのつながりもあって、まだ公開されていないような情報も一部は頂いております。
 エストニア共和国は、いわゆるバルト三国の1つで、面積としては九州より少し大きいくらいです。1991年、ロシアから独立――これは「独立を回復した」と言われているんですが、現在はEUに加盟してユーロも導入して、ロシア色やソ連色はかなり払拭されています。人口や経済規模が日本の100分の1なので、かなり小さい国です。ですから、いろいろな数字が出てくるんですが、大体100倍していただければ日本の規模になるかと思います。
 インターネット自由度という、インターネット上の表現の自由であるとか、あるいは安心してインターネットを使えるといった指標があるんですが、こういったところで世界1位で、税の徴収コストが非常に低いので競争力1位となっております。
 デジタル化では有名なんですが、実はかなり自然が残されておりまして、人々もデジタルに詳しいというより割とのんびりした方が多いように思います。
 エストニアは、非常に小さな国なので、自分たちで何らかのビジネスを起こして、それをEUやアメリカも含めて世界展開していこうという国としての戦略もありますし、そういった起業を好む国民性もあるようです。もちろんそのデジタル化を推進する上で、サイバーセキュリティーは重要なので、非常に力を入れております。
 一応、NATOのサイバーセキュリティー対策の研究機関のようなものがエストニアのタリン市に設置されています。
 デジタル公共サービスは、最近では国連の電子政府ランキングでも上位になったんですが、EUの中では昔からトップ3くらいにランクされておりまして、非常に公共サービスのデジタル化が進んでいると言われておりました。
 国民性は、非常に楽観的な人が多くておおらかな人が多い。ただ、お酒はすごく飲み過ぎるので、男性の平均寿命が七十二、三歳で非常に低くなっていて、女性は82歳くらいなのですが、そういった特徴があります。
 女性医師の割合が、歴史的な経緯もあるんですが非常に高く、OECDの中でも1位で、バルト三国は割と女性が活躍しておりまして、現在のカリユライド大統領も女性で、司法長官とか検事総長も女性がやっております。
 公共交通機関の無料化は、最初は人気取りの政策だと言われていたんですが、実際にタリン市でやってみたら市外からの人の移動も含めて経済効果が非常にありました。それによって全国でバス等の公共交通機関を無料化するという試みが始まっております。現在、無人の電気自動車のバスが走っております。もし、タリン市に行かれたときは、ぜひ乗っていただければと思います。
 冬の寒さは非常に厳しいです。地域によってですが北海道以上に厳しい。ですから、冬場も含めて地域の過疎化も進んでおりますので、わざわざ外に出て役所に行って手続することが、特に高齢の方は大変だと思います。ですから、環境的にもオンライン利用のニーズが必然的にあったのかなと思います。
 エストニアの電子政府のデジタル化を語る上で、必ず出てくるのが安全保障の考え方です。危機管理とか安全保障に対して非常に力を入れております。それは、歴史的にずっと大きな国に挟まれていて占領されて、それから回復することを繰り返しておりました。その関係で、自分たちの平和の状態は当たり前のものではないと認識しております。
 ソ連の崩壊のときに、その機会をうまく活用して平和に独立することができました。このことは、エストニアの人々にとって誇りになっているようです。
 データは非常に重要なので、日本でもクラウド化の話がありますが、データを自分たちのところに保存しておくことはセキュリティー上重要です。ほかの国に置いておくことによって、ほかの国の政府が勝手に見てしまうようなことがある。
 ただ、エストニアの場合は非常に小さな国なので、国土を侵略されたときにエストニアだけに置いておくのはかえってリスクになるということで、現在はドイツの隣にあるルクセンブルクという国のデータセンターに、電子政府関係の重要なデータをバックアップしております。これも危機管理という観点から行っています。
 人口密度が北海道の半分くらいなので、かなり人が少ない状況で、医療費は非常にコストパフォーマンスがよく、OECDよりかなり低い率になっています。出生率は非常に問題になっていまして、少子高齢化が進みつつあります。日本ほどではないんですが、1.6くらいになっているので、このまま行くと人口は減ります。
 ただ、現在はヨーロッパでエストニアに興味を持ってくれる人が多いので、その関係で人口は少し増えているんですが、子供を産むということだけに絞ってみると、人口は減少していくことになります。
 一応、新興国の中では優等生と言われておりまして、順調にGDPが2万ドルの壁も突破して、今後、自力でやっていく部分がかなり増えてくるので、財政的にEUの支援をどう受けるのか問題にはなっています。
 自治体ですが、広域自治体というものがもともとありましたが、現在は行政区画だけ残っています。いわゆる静岡県庁みたいなものはなくて、静岡圏域という中にある自治体が共同運営することになっています。これは合理化もあるんですが、基礎自治体の自治権を確立しようということで、過疎化が進んだ段階で基礎自治体を集約して少なくしました。広域自治体については、その中の自治体で運営してくださいという方向にしました。
 2017年の大きな改革によって、地方議員の数も半分になっています。
 人口は非常に少なく一番大きなタリン市で40万人くらい、2番めで10万人いくかいかないかくらいの非常に小さい自治体です。
 公務員の割合は、北欧ほどではないんですが、日本よりはかなり多くなっています。ただ、国と地方の割合を見ると逆転しておりまして、日本は地方公務員が多いんですが、エストニアでは基本的に国が行って、地方は地方にしかできないことをやってもらうようになっています。
 タリン市の場合、職員は1万2000人くらいいるのですが、実際、公務員法の対象となる公務員は1,200人ほどです。一般の雇用関係によって契約されている学校の先生が多いので、公務員自体の数は非常に少なくなっています。
 ここからデジタル国家のお話になります。
 エストニアでは、1990年代に様々なIT施策が行われてきました。
 その中で、1998年に基本原則を定めました。法律にはなっていないのですが、議会で採択されております。
 この中で、最終的なゴールは、社会全体の幸福であると。幸福というのは、人によってあるいは成熟している国か新興国かでも定義が違ってくるんですが、まず、ゴールをしっかり見据えた上で、必要なことを行っていくことになっています。
 この中で、アクセスを保障する、情報を分かりやすく提供する、あるいは情報の正確性に対する責任であるとか、重要なことが書いてありました。
 よく日本で電子政府のことで言われるのが、国民が政府を信頼しているからできるんだと言われます。ではエストニアはどうかと言うと、国民は政府のことをあまり信頼していません。これはOECDの調査ですが、一番新しい調査だと日本のほうがちょっといいくらいなので、必ずしも政府のことは信頼していない。
 その一方で、電子政府のサービスはかなり信頼されていて、76%の人が誇りを持っている。これは最近の調査なので、コロナ関係の問題もあったと思います。
 では、何をしているかと言うと、徹底した透明性です。透明性という言葉はエストニア政府関係者が電子政府を説明するときは必ず出てくる言葉です。政府はもともと信頼できないからこそ、いかにしてその透明性を高めるかで行っています。
 具体的には、国民が政府を監視できるようにするために、公務員、裁判官、警察とかみんな同じガラス張りの中で活動しなければいけないことによって、誰がどういう責任を持つのかがあらかじめ決まっている。では、実際誰がやったのかというのは、必ずデジタル的に追跡できるようになっています。追跡できるので、悪いことをしてもすぐばれてしまうところが非常に大きな特徴になっています。
 情報公開についてはいろいろされているんですが、ソースコードというプログラミングの中身です。いろいろな情報システムをエストニアは作っているんですが、それらを全部公開しています。こういった試みはセキュリティー上も重要なんですが、特定の企業にロックインされないことも可能ですし、いろいろな人たちがこのコードを使うことで、ほかの国でエストニアのやり方を使ってもらうことが可能になっています。
 情報のアクセスについては、いわゆるデジタルデバイドと言われる高齢者とかITが得意ではない人はどうするんだという話はもちろんあります。エストニアでは図書館でコンピューターを使ってインターネット環境を提供することが法律で義務づけられています。ですから、あまりITが得意ではない人は地元の図書館に行けばある程度のサポートが受けられてインターネットを使うことができる。例えば、IDカードを使ってインターネット投票をするといったサービスも可能で、いろいろなサポートを受けられます。
 公務員の給与、個人の給与でも全部公開することが法律で決められていて、ウェブ上で全部公開されています。
 政府の高官とか、あるいは、大臣関係の会議をするときに政府会議情報システムを使うことが、電子政府サービスが本格的につくられる前の2000年ぐらいから始まりました。エストニアでは会議資料の印刷は基本的に行っていなくて、全部情報システムの中で事前に閲覧してくる。何か議題があれば事前にイエスかノーかを投票することもできる。あるいは、発言したいときはチェックしておけばいいので、特に反対のない議論については、その場で決裁されて議題にも上がらない。これよって時間は10分の1から5分の1ぐらいになったという実態があります。
 現在は自分のパソコンを持ち込んで会議に参加できるようになっていまして、もちろん、海外にいる議員もリモートで会議に参加できるようになっています。これもセキュリティー上どうなんだという話はありますが、当然、強力な本人確認をする仕組みがありますので、それを使うことによって安全な環境で会議をすることができる。政府の会議ですから、当然機密情報が扱われる場合があります。最近はズームを使った会議がありますが、あれは民間のサービスのため政府がそのシステムをコントロールできないので、そういう会議システムを使う場合は、当然機密情報は扱うことができません。ですから、セキュリティーが確保された政府のコントロール下にある専用のシステムを使って会議をする必要があります。
 閣議決定されたものが法案になると、法案のデータベースに自動的に送られて、その協議のプロセスが公開され、もちろん公開する協議に国民が参加することもできます。ただ、この利用はそれほど多くないのでなかなか難しいところだと思います。市民請願という市民がデジタル署名を集めて法案を出すことも行っております。
 教育のデジタル化ですが、エストニアでは生涯の教育が1つのデータベースで全部管理されています。ですから、卒業証明書は基本的に不要で、大学の入学試験を受けるときはデータで提出することができます。それ以外にも、教師と家庭の間ではオンラインでやりとりができますし、教科書はほとんど電子化されていて、インターネット上で誰でも利用できるようになっています。例えば、先生が自分のお気に入りの教材を登録しておけば、その先生に習う子供たちは、そのお気に入りを見れば、この先生はこういう教材を使うんだと分かりますし、そういった形で子供たちのかばんを軽くしようという試みが行われています。
 教育は非常に重要なので、お金がない、人がいない中で、子供に対してはずっと投資を続けてきました。学校の中でインターネットが使えるような環境は早めに整備しましたし、あるいは大人に対してもトレーニングして、現在でも無料の講座を大学とか研究機関が提供しているので、政府と連携しながらITがあまり得意ではない人も学べる環境があります。学んでもできない人は当然いるので、そういった人たちに対しては、例えば、代理の機能を使うとか、ほかの人が支援できるようなことも可能になっています。
 現在は、Eesti2.0という教育で、コンピューター関係だけではなく、人文の教育関係も全部ミックスさせた上で、総合的に教育する試みを行っているのですが、この試みはNGOが中心になって行っています。もともと政府が中心になってやってきたのですが、それだけでは追いつかないので、そういった非政府機関が政府と連携しながら共同でIT教育を行っています。
 これは教育クラウドと呼ばれるものですが、自分の学習状況を親子で確認できますし、学校からの連絡はこちらで確認できます。パソコンで確認してもいいですし、スマホでも確認できます。こういったものがあることで、例えば、いじめも早期に発見することが可能になっています。
 これは教師側にもかなり得がありまして、日本でも学校の先生が雑務に追われて実際に教えることに十分な時間が取れない場合、デジタル教科書はオンライン化されている教材が使えますし、いろいろな報告書を作成するときも、このシステムを使っているとほぼ自動的に報告書を作ってくれるので先生の負担はかなり減っています。
 今回の新型コロナウイルスの危機のときに、エストニアでは3月12日に緊急事態宣言が出されて、2か月間くらい緊急事態になっていました。そのときに学校はどうしたかというと、研究活動を除いてリモート教育に移行しました。これは命令なので全ての学校がそれに従っています。なぜできたかというと、もともとデジタル教科書もありましたし、家庭と学校の間のやりとりもオンラインでできた。ただ、授業だけは学校に行っていたわけです。ですから、それをどういう形でやるか。急なことでシステムをつくることはできないので、民間のサービスを活用している。こういった機密情報が含まれていないようなものについては、民間のサービスを活用するという選択肢はあり得ます。
 コンピューターは一般の家庭に普及しておりまして、日本ではスマホが普及した関係でパソコンをあまり使えない子供が増えていると聞くのですが、エストニアでは学校の授業で子供が使う関係で、各家庭に一人一台に近い形で高齢者も子供もパソコンを持っています。その関係で割とスムーズにできたのですが、たまに子供が多いところだとパソコンの取り合いになったりすることもあったので、そういった家庭に対しては、民間企業とか、ボランティアの人たちが使わないパソコンを提供して対応することができました。
 こういった遠隔学習のソリューションは、北欧のスウェーデンとか、フィンランドでも活用されていたので、お互いに共有して、誰でも無料で使えるようにすることが行われました。子供たちも7歳ぐらいからパソコンのプログラミングの教育を受けるので、一、二週間で大体慣れてしまったようです。実際、学校に行かない分たくさん寝られるのでうれしいみたいな話もあるぐらいなので、子供は順応するのが早いなという印象です。
 エストニアでは先ほどお話をした市民参加で、市民から意見を聞いて法案にすることがあるんですが、あまり利用されていない。ただ、民間の力を活用するという方法として非常に効果を上げているのがこのGarage48で、政府とか公共分野で抱えている課題について、ITに詳しい企業の方、あるいは学校関係の方がテクノロジーを使って問題を解決する仕組みを作ってしまおうと。それはアイデアベースで始まって48時間で動くものを作ってしまうというイベントが定期的に行われて、政府のほうで推奨して、良いアイデアについては実際に採用したり、あるいは、資金を提供することを行っていました。
 そういった関係があったので、今回の新型コロナウイルスの危機に対しても緊急事態宣言の翌日には、自分たちで解決できる部分については解決しようということで、日本でもこういった試みはあったんですが、エストニアから広まって世界68か所でハッカソンといったイベントが開催されました。いろいろなシステムが作られて、政府が持っているデータを活用して非常に見やすいサイトを作ったり、あるいは自動で回答するような仕組みを作ったり、アンケートの回答でコロナ関係のアドバイスができるような仕組みを作りました。あるいは、ボランティアのマッチングをしたり、医療の資格がある人で現在働いていない人たちを活用するサービスも作られました。
 これはコロナというよりは、平時に使われるサービスなんですが、いわゆる電子申告はエストニアにもあります。エストニアの電子申告は平均3分で終わるといいます。3分で終わるのは、もちろん理由があって、全部書いてあるものが送られてきてチェックするだけで特に変更がない人で、大半の人が変更・修正が要らないので、チェックをしてそれでオーケーだったら完了になる。遅くて1週間、早い人は大体3日で還付金は振り込まれることになっています。法人については電子申告が義務化されているので100%です。一般の市民も95%の人が利用しています。非常に人気のあるサービスです。
 オンラインでの会社設立は日本でも可能ですが、エストニアでは大体1日で設立できます。もちろん大きな複雑な会社をつくるときは手続がもっと必要なんですが、小さい企業をつくるときは非常に簡素な形で、短時間で会社をつくることができる。エストニアと日本を比較すると、時間もそうなんですが、費用が結構違うんです。いろいろな免許税とか、公証人の手数料とかで最低2 0万円以上になってしまうのですが、エストニアでは基本的に2万円で済みます。資本金の振り込みも後で構わないので、非常に安く起業することができるようになっています。
 インターネット投票には、もう既に15年ぐらい歴史があります。10回以上行われています。現在はスマートフォンとかタブレットは使えないんですが、パソコンで専用のソフトウエアをダウンロードして、非常にセキュリティーには気を遣いながら行っています。
 投票スケジュールを見ますと、インターネット投票は期日前投票になります。期日前投票ですから、当日にインターネット投票をすることはできません。期日前投票期間であれば、オンライン投票は何度でもやり直しすることはできます。ただ、紙で期日前投票をすると、その時点で締切りでインターネット投票はできません。期日前投票をした人は当然当日の投票はできません。
 インターネット投票ができるようになれば、特に若者の投票率が上がるのではないかと言われるんですが、エストニアに限って見ると投票率にはほとんど影響はありません。この折れ線グラフでも利用はどんどん増えていっているんです。1回利用すると非常に便利なので次回も利用する人が圧倒的に多い。ただ、投票率を見ると国政選挙が一番人気があって、その次は地方選挙、欧州のEUの選挙がありますが、その順番で投票率はほとんど変わっていないことが分かると思います。ただ、利便性が非常に高いので使う人がいます。特にエストニアでは自分たちの国だけではなく、EUの中で自由に移動できるので、ほかの国で働いている人が多く、国外から簡単に投票できるというのは非常に大きなメリットなので、エストニア以外の国に在住するエストニア人の9割ぐらいがインターネット投票を利用しています。国内だけで見るとまだ半分ぐらいなんですが、そういった形で特定の人にとっては非常に利便性が高いサービスだと思います。
 個人番号とIDカードについては、日本でもマイナンバーカードがありますが、仕組みとして似ている部分はあるんですが、運用についてはかなり違います。例えば、公共情報なので、一般にさらされる機会は多いですが、自由に使えるようになっています。患者の識別番号としても使われているので、ドクターは患者識別番号が分かれば過去の医療履歴などを確認して、その人にどういう治療が必要かを判断することができる。IDカードは義務になっていますが、なぜ義務にしているかというと、エストニアのIDカードはもともとフィンランドで使っていたものを少し改良して使いました。フィンランドでIDカードを国民に配ったときには全然普及しなかった。それは任意だったからで、10%いくかいかないかぐらいでした。そのときに義務にしたほうがいいのではないかと言われて義務にするようになりました。日本の住基カードも5%ぐらいでしたけれども、現在、マイナンバーカードは任意なのに2割ぐらい取っているのは非常にすごいことだと私は思います。
 あと、安全保障という観点から身分証明書を国民が全員持つということは非常に重要なので、このことを後でお話ししたいと思います。住所は基本的に掲載していなくて、住所があるというのは日本独自のものだと思います。現在ではモバイルIDとして携帯電話等でも使えるようになっています。健康保険証といったものも全て使えるようになっています。
 エストニアでは安全保障を非常に重視しているので、人がなりすましできないようにしています。これは日本の戸籍とか住民基本台帳はエストニアから見ると非常に脆弱なシステムで、ある人に代わって戸籍の乗っ取りが可能であると。エストニアはどうやって防いでいるかというと、この身分証明書をデータベースによって防いでいます。身分証明書を発行するときは顔写真と指紋情報を登録します。ですから、年とか背格好も似ているからといってほかの人になり代わって戸籍を乗っ取ることはできなくて、当然チェックされる。身分証明書の有効性はオンラインで確認できますし、このデータベースを見るとそういった生態情報も含まれているので、いわゆるスパイ活動の防止も含めて非常に安全なものにしています。
 日本では電子署名あるいは、マイナンバーカードがほとんど使われていないと言われます。エストニアは誰が一番使っているかというと、公共分野で働く人たちです。公共分野で働く場合に様々な個人データにアクセスするのですが、これらのデータにアクセスするときには、誰が、いつ、何のためにアクセスしたのかを法律上必ず記録しておく必要があります。これが法律で義務づけられている関係で公共の仕事をする人たちは、その業務のシステムにログインするときに必ずIDカードによる本人確認が必要になります。ですから、医者もそうですし、政治家や公務員、警察、裁判官といった人々が一番率先して日常的に使っています。一般の人は彼らほど多くは使わないということです。
 個人識別コードについては、エストニアでは基本的に国が管理しているのですが、日本では市区町村単位で発行されているという違いはあります。利用範囲は非常に広くなっています。オンライン出生届がエストニアでは可能ですが、病院で電子出生証明証を住民登録のデータベースに送ってくれるので、少なくとも病院で生まれた子については、住民登録に必ず登録されるようになっています。日本では戸籍のない無戸籍の子供の話が問題になるんですが、少なくとも病院で生まれた子供については、病院で登録してくれるので必ず住民登録は行われます。このときに名前より先に個人番号が作られます。それによって、この子供の保護者に対して、子供の名前を登録してくださいという案内がいくので、それによってオンラインで出生届をすることができ、自動的に健康保険の登録もされることになっています。
 IDカードを日本と比較すると幾つか違いがあるんですが、エストニアでは日本でいうマイナンバーである個人識別コードをそのまま使えるので、できるだけ情報は少なくできています。日本の場合は証明するために住所が分かってしまうので、これは本当にいいのかということは議論しなければいけないと思います。特に住所情報というのは身体的な危険に直接関わるので、ストーカーであるとか、あるいはDVの問題もあって、住所情報はかなりプライバシー性が高く、直接的な被害をもたらす可能性があるので、電子証明をするたびに相手に住所が分かってしまうということは基本的には問題なのかなと思っています。
 最近はスマートフォン、タブレットのアプリで使える電子証明書が普及しています。非常に利便性は高いので、エストニアでは利用できるところを増やしています。銀行のオンラインサービスではスマートIDを使いましょうと推奨しています。
 人気の高いオンラインサービスを見ると、eスクールみたいなものはほぼ100%学校で普及しているので、学校に行っている子供たちの親御さんも使っていて、当然学校の先生も使っている。電子処方箋というサービスもあるので、これもほとんど100%に近いということです。実際、日本もそうですが、何か役所の手続をするのは一般の人はそんなに多くはないんです。住民票を取るなどが1年に1回あるかないかだと思います。
 エストニアも基本的は同じような形なので、民間のサービスを定期的に使います。
 高齢者の利用については、日本よりはかなり進んでいます。これはインターネットアンケートで、対象者も100名ぐらいのアンケートなので、多少偏っている部分もあるんですが、高齢者は電子政府サービスやインターネットサービスを利用していることが分かっています。大体8割の高齢者が何らかの電子政府関係のサービスでメリットを実感しているということです。
 個人情報については、日本のマイポータルのようなところで自分の個人情報は全部確認できます。どういう不動産を持っていて、運転免許証はあるのか、健康保険証はあるのかも全部分かるようになっています。誰が、いつ、何の目的で自分の情報にアクセスしたかも全部確認できるので、何か不審な点があれば、通報することができます。
 これは新しいバージョンですが、エストニアの課題は幾つもあるんですが、サービスについては、国と自治体の連携という部分でまだ不十分かなというところはあります。
 引っ越しで住所を変えるのは住民登録ポータルで行うことができます。これによって、例えば公共サービスについては電話、銀行、ガス、電気といった関係も本人の同意をもとに住所変更の登録、手続が完了できるようになっています。日本は住民票は取得できる人が制限されていますが、エストニアの場合は、ある程度理由があれば誰でもアクセスして、ほかの人の住民登録データも一部利用できるのですが、本人がコントロールできるようになっていて、広告目的でDMみたいなものが勝手に送られてくるといったことを本人が制限できます。
 エストニアでは電子政府のサービスがいろいろあるんですが、必ず裏側にはデータベースがあります。データベースがあることによって初めてその入り口となるサービスを提供することができます。住民登録のデータベースについてもエストニアの場合は内務省という国の機関が管理しています。内務省は国家の安全保障を所管する部署で、彼らが管理することには非常に意味があります。住民登録のデータについては、日本でいうと住民基本台帳と戸籍が一緒になってプラスもう少し詳しい情報になったという感じです。
 新型コロナウイルスの危機に関してエストニアでも失業する人がいました。失業保険ポータルというのは以前からあるサービスで、失業した人はここに登録するとオンラインで給付を受け取ることができます。もちろん雇用を維持するという対策も行われていて、エストニアでも賃金保障給付金みたいなものが企業を経由して従業員に支払われましたが、それはオンラインで申請すると遅くても1週間ぐらいで、早いときは二、三日で振り込まれました。
 社会福祉給付に関しては、統合されたサービスがあります。ここに銀行口座を登録しておくと様々な給付を受け取ることができます。児童手当なども含まれていて、児童手当は申請する必要がありません。児童手当がもらえるようになりましたよという通知がくるので、通知を受け取ったらサイトにアクセスして、例えば、口座情報の確認をしたり、お父さんとお母さんのどちらに支払うのかとか、あるいは割合を半分にするかも選べます。そういったことでもらい忘れはなくなりますし、エストニアの政府で本当に支援すべき人は誰かを確認しているということです。これは非常に重要で、それによって制度からこぼれ落ちてしまう人たちをできるだけ少なくする試みが行われています。
 これも裏側にはデータベースがあって、社会福祉給付関連のデータを1つにまとめています。このデータベースはほかの15種類ぐらいのデータベースと連携しているのですが、その中には年金情報のデータベースも含まれています。
 自治体については、独自に出生手当とか補助金などを行っている場合がありますので、そういうところは自分たちの自治体のサイトでサービスを提供しています。ここと国との連携がまだ不十分なところがあるので、もう少し使いやすくできるのかなとは思います。タリン市の場合、同じように口座を登録して給付金を受け取るような仕組みがあります。
 エストニアでは一元管理ではなく、様々なデータをリアルタイムで共有することができます。その仕組みはXロードと言われるんですが、特に中央にシステムがあるわけではなく、コンピューター同士でデータをやりとりすることで、一部が壊されてもほかのところは機能するので、セキュリティー上も問題がないところはあります。これは、ほとんどコンピューターの自動処理によって仕事が行われているということです。当然人間は命令をしますが、こういう仕事をしてくれと命令すると、コンピューター同士でお互いに処理をして、処理の結果が出てきて、最後に人間が確認して決裁する。これは当然人間でないと責任を取れないのですが、その途中の過程はコンピューターに任せる。この仕組みをつくるためにXロードという情報連携の仕組みがあります。ですから、電子的にデータを共有できるようになることは重要なんですが、そこに自動化がないとかえって職員の負担になってしまいます。データが必要なときにこういうデータをくださいとやると、今まで郵送でやりとりしていたものを電子化しただけなので、基本的に職員の負担が増えるだけになってしまいます。
 ですから、仕事の大部分をいかにコンピューターに任せることができるかが重要で、デジタル化にはいろいろなやり方があるんですが、基本的な考え方としては、コンピューターが働きやすい環境をいかにして作ってあげるかが本質的なことです。あまりそんなに難しいことを理解する必要はなくて、コンピューターが人間の代わりにパートナーとなって働いてもらうためには、どういう法律が必要なのか、どういうデータベースが必要なのか、データベースに関連した情報システムはどういうものが必要なのか、そういったものが整備されることによって、初めてコンピューターが人間のために働いてくれます。そのことによって窓口となる何とかポータルみたいなものができて、そこで初めて行政サービスを市民に対して提示することができる。市民に対するサービスの窓口だけを作ってもどうしようもなくて、いかに中の処理を自動化して、コンピューターに働いてもらうかことがデジタル化の一番目指すべきことだとエストニアの場合は考えています。
 この情報共有の仕組みを使って、年間13億件ぐらいのデータのやりとりが行われています。日本でもマイナンバー制度の関係で情報提供ネットワークシステムをつくったんですが、1年間で何千万件いくかいかないかぐらいの量です。エストニアは100分の1の人口なのに13億件、月間でも1億件以上ある。これはどういうことかというと日本では人間が作業してデータのやりとりをしていますが、エストニアの場合はコンピューターで自動的にやっているので、コンピューターは人のように休む必要はないので、24時間フル活動してくれるということです。具体的な効果としては、GDP2%の節約と言われています。1回の情報のやりとりが省略されることで紙の処理と比べて大体15分の節約効果があるだろうということで、計算するとGPD2%ぐらいは節約できている。これはエストニアの軍事費とほとんど同じで、エストニアの人は、電子政府の利用によりほぼ無料で軍隊を維持できていると言ったりします。
 医療関係もかなり進んでおりまして、患者ポータルでは自分の医療データあるいは、処方箋のデータが閲覧できるようになっています。自分以外の家族のデータは、未成年の子供は見ることができますが、配偶者のデータを勝手に見ることはできないので、配偶者の許可が必要になります。
 電子処方箋は紙ではほとんど発行されておりません。ですから、お医者さんがデータを登録して、薬局に行くとIDカードで本人確認をすれば自動的に処方を受けることができる。今回はオンラインで薬を注文することもできました。これはお医者さんが命令するとコンピューターが自動的に仕事をしてくれて最後の確認だけお医者さんがすると、データが処方箋センターというデータベースに集まって薬剤師さんも確認できるようになっています。
 エストニアでは、お医者さんは健康情報システムに電子カルテのデータの提出が義務づけられていて、画像情報などが送られるようになっていました。今回の新型コロナウイルスで、そのうちの感染症に関するデータだけが感染症登録データベースに転送されるので、最新の情報を政治関係者とか、医療関係者が見て様々な政策的判断をしたり、分析することができました。
 重要なのはこういったことがほぼ自動で行われることで、日本では保健所や医療機関の負担が大きくてシステムが使われないことがありましたが、エストニアの場合は通常の業務をしていると自動的にデータは送られる。
 エストニア成功要因はいろいろあるんですが、義務化は結構重要で、何を義務化して行うのかということ。患者ポータルで医療データはお医者さんで共有できるようになっているのですが、本人がコントロールできるようになっていて、自分のデータはこのお医者さんには見せないとかいろいろな設定ができるようになっています。そういったバランスを考えながらデータの共有を行う必要があります。
 公的データの管理を今後日本がどうしていくのか。今までみたいに戸籍や住民票のデータを自治体ごとに管理していていいのか。個人的には重要なデータについては、国が責任を持って管理して、1つのデータベースで管理して、自治体では実施事務の中で特に自分たちでなければできないことについてデータを持っているといった役割分担の見直しが必要だと思います。

○落合委員長
 ありがとうございました。
 以上で、牟田様からの御講演は終わりました。
 これより意見交換に入ります。
 それでは、牟田様に質問や御意見等ありましたら、御発言願います。

お問い合わせ

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