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委員会会議録

委員会補足文書

開催別議員別委員会別検索用


平成27年11月地方分権推進特別委員会
ForbesJAPAN副編集長兼シニアライター 藤吉雅春氏 【 意見陳述 】 発言日: 11/27/2015 会派名:


○藤吉雅春氏
 よろしくお願いします。
 今、御紹介いただきました藤吉と申します。
 今回は、文藝春秋から私が出した「福井モデル」という本を御愛読いただきまして、どうもありがとうございます。この本で書いた北陸3県というか、富山と福井が中心なんですけれども、そのことをなぜ注目したかに始まり、私がいろいろ聞いて分析した話をここで御紹介できればと思います。
 もともと、この福井というところに注目したきっかけがございまして、3年前に月刊誌の「文藝春秋」で、私が「ドキュメント現代官僚論」という連載をしておりました。これは、ちょうどデフレからの脱却というところで、日本の社会をどう構築していくのかということについて、各省庁を取材して執筆をしてほしいという依頼を編集長から受けまして、ずっと連載しておりました。
 その中で、現役の官僚の方々を含め、OBの方にもいろいろお話を聞くんですけれども、その中で、たまたま知り合った慶応大学の井手英策先生という、この方もいろいろ著作のある先生なんですが、この先生が「富山モデル」ということを言い出しまして、井手先生は富山県庁でいろんな審議会に入っていらっしゃって、富山県の研究をしていると。なぜ、富山県なのかというと、これは理由がありまして、1人当たりの所得が非常に高いと。全国レベルでいうと、かなり上位に入っています。それと、高齢者と女性の社会進出、あるいは障害者、身体障害者も含めて、活躍する場が非常に多くて、女性の就業率も全国で7位。また、昔、経済企画庁が幸福度ランキングみたいなのをやっていましたけれども、富山と福井というのは必ず1位か2位をとっている。そういうことで富山の研究をされていまして、富山がワーク・ライフ・バランスですとか住みやすい町ということで常に注目を浴びるのはなぜかという話をいろいろ聞いていて、その井手先生がおっしゃったのが、そういう官僚の連載をされるのもいいけれども、地域住民が持っている課題に実際に顔を合わせていて、一番詳しく知っているのは地方行政なんだと。霞が関の官僚の話よりも、地方行政に焦点を当ててみたらおもしろいかもしれない。これは実は世界的な流れであって、日本のメディアも、永田町ですとか霞が関とか、そういうところばかりを取材するのではなくて、地域のお役所の人、あるいは役場の人たちが、住民と顔を合わせてどういうふうに課題を解決しているのかというところが、実は非常にホットであるというお話をされました。その中で、実は東京大学を初め、幾つかの大学の学識者が注目しているのが、富山よりもさらにその全国都道府県の幸福度ランキングで常に1位を独走している福井県でして、非常に謎が多くておもしろいのではないかと。富山モデルというのを、自分なりにその先生は調査されていましたけれども、福井をやったらどうだという話を受けました。
これは偶然、当時大阪で橋下市長らの維新の会が非常に躍進している時期でして、大阪の自治ということを取材する機会が非常に多かったんですけれども、そのときに、大阪で橋下さんが府知事時代から教育改革というのをやっておりまして、その教育改革を取材する中で、大阪というのは貧富の差が非常に大きいと。それは教育現場に非常にあらわれていて、荒れている学校は非常に荒れていますし、もう授業が困難だと。そういうところで学校の先生たちにお話を聞いていると、ここで福井という名前が出てきたんですね。教育はやはり福井に見習うべきではないか、橋下さんが組織した府の教育委員会の教育委員の先生方も福井に視察に行った、やはり教職大学院というのは非常にすばらしい、あれを日本全国に普及できたら非常にいいんではないかと。
 これもまた偶然なんですが、今、世界を席巻しているグーグルという企業がありますけれども、グーグルでいろいろお話を聞いていると、世界的に注目されているのは福井県鯖江市だという話をするんですね。オープンデータという、データを使った行政データを市民に開放することで、新しい民主主義をつくろうとしていると、鯖江は注目だというのを、世界的企業からも聞くわけです。
 そういうのもありまして、福井というところに注目をしようと、これがきっかけです。
 当初、出版に際して、この出版不況の中で、「福井モデル」という自費出版みたいな地味な本を出してどうするんだということを、さんざん出版社の中でも言われ、地味なタイトルで地味なテーマとも思ったんですが、実はふたをあけてみると、ことし4月に出版をして、もう毎月増刷をしている状態でして、今度は韓国の出版社から韓国語版を出すということになりました。非常に小さくて地味なところなんですけれども、なぜかそこが常に発展を、産業的な発展が非常に大きいですし、地場産業が何度も斜陽と言われるんですけれども、発展を繰り返していく。あるいは教育でも、全国学力調査で、小中学生の福井県の成績というのは、常に1位か2位をとっている。体力テストでもそうですし、教育、産業、いろんな面で、実は非常に住みやすいという、そういう結果を必ず数字で出している。そこを探訪して分析してみようというのが、この本を出したきっかけであります。
 きょう、こういう場をいただきまして、皆さんのほうが専門家でいらっしゃいますから、私がいろいろ申し上げるのは僭越なんですけれども、この本を通して私なりにいろいろ分析していくと、たまたま昨年創刊しました「Forbes」というアメリカの経済誌――これは富豪のランキングの記事で有名な雑誌でアメリカ版が本体ですけれども、10年前に10カ国で出ていたのが、今、39カ国までふえています。いろんな富豪の記事のイメージが強いんですけれども、実はお金を使って貧困を解決したりとか、社会的課題を解決する仕組みとかを結構紹介していて、僕は非常におもしろいメディアだと思っています。そこで取材していると、世界的に地域再生が成功している都市というのは幾つかありまして、それらと北陸の福井ですとか富山というのは、非常に共通点が多いんですね。その共通点とは何かというのをこの本の中にも書いているんですが、その共通点というのが目からうろこが落ちるような物すごいアイデアかというと、実はそうではないんですよ。どこにでもある話が、実は共通項としてありまして、その幾つかをきょう、ちょっとお話したいと思います。
 1つは、この本の中でインキュベーションという片仮名を使ってるんですけれども、これは卵をふ化するという意味でして、小泉政権のとき内閣官房がそういう資格をつくって、全国で地域再生とかそういう活動をされている方、卵をふ化して地域を育てていくという役割をしている人たち、これが1つの共通点であると。
 次に、これも世界的に共通するんですけれども、垣根の低さ。垣根の低さというのは、これも別にすごい話ではありませんで、日本では、産学官連携という言葉があったり、業界や分野を超えてどう連携していくかという仕組みがうまく構築されていると。
 もう1つ、郷土主義という言葉。イタリアにボローニャという町があって、ここは、ランボルギーニとかマセラッティとかの自動車からバイク、あるいはシリコンバレーになぞらえてパッキングバレーと呼ばれているんですが、世界のほとんどの包装ですね。静岡のお茶をティーバッグにする機械も、このボローニャがつくっている機械でして、産業もファッションも、あとハリウッドの古い映画のフィルムを修復する技術もすぐれていまして、このボローニャという小さい町は、中世からずっと発展を続けている町です。ここも非常に北陸と共通するんですけれども、郷土主義という、これも共通点の1つであると。
 もう1つが、これもあとでお話ししますけれども、貧困ですね。貧困というのは非常にネガティブなキーワードなんですけれども、明治期に、東の渋沢栄一、西の大原孫三郎と言われる、渋沢さんですとか倉敷の大原一族ですとか、町自体をつくっていった民間人たちがいるんですけれども、彼らが一番取り組んだのは何かというと、実は貧困でした。貧困というキーワードは、社会を発展させるおもしろい切り口でして、これも今、世界的な傾向としておもしろいテーマですので、あとでお話ししたいと思います。
 もう1つ、よくIターンですとか、移住しませんかというのを、富山県ですとか福井県はキャンペーンでやっていますけれども、その中で、ネガティブな話として必ず東京のメディアが取り上げるのが、保守性ですね。非常に保守的な土地柄でよそ者を受け付けないんではないか、実は住みづらいんではないかという。これは地方に共通する話で、村八分という言葉がありまして、これもキーワードの1つなんですが、村八分というのは非常に嫌な言葉でネガティブなイメージしか皆さんにないと思います。私も非常にこれは嫌いな言葉なんですけれども、何で村八分が起きるのかというのを考えると、実は非常に信頼に根差した人間関係やコミュニティーの確立というのが、土壌としてあるわけですね。ここにもちょっと注目をしたいと思います。
 それではこのキーワードをもとに、ちょっとお話をしていきたいんですけれども、私の本の中で、割と中心を割いて書いているのが、福井県鯖江市です。人口が福井県の中で唯一微増を続けている市でして、非常にユニークな市長がいらっしゃるんですが、ここの地場産業で昔から有名なのが眼鏡ですね。眼鏡フレームの製造で、日本の眼鏡の96%ぐらいは鯖江でつくられている。あるいはヨーロッパの高級ブランドの下請けですね。川中産業と言われていますけれども、そういう製造をされている。あと、地場産業というと眼鏡のほかに漆器がありまして、これも古くからつくられている産業です。もう1つが繊維ですね。実は眼鏡よりもこちらのほうが産業としては大きい規模を持っております。これも、眼鏡よりも早く70年代から台湾産、韓国産が出始めて、苦境に陥った産業でして、その後も中国産が出てきて、同じく斜陽の産業となったんです。けれども、実はパリコレの7割は北陸産と言われていて、世界の中心を担っているのが実は鯖江及び北陸の繊維産業だと。こういう地場産業が非常に強い地域で、何度も死に体になりながらも復活を遂げてきたという土地柄です。
 ここで1つ、私が感銘を受けた例をちょっと紹介したいと思います。これは地方再生でよく言われるキーワードで、よそ者、若者、ばか者という言葉があるんですけれども、鯖江にメディディアという会社がございまして、この会社を運営しているのは山本典子さんという女性で、もともと看護師をなさってた方です。この方は京都生まれ、京都育ちで、京都でずっと看護師をなさっていて、鯖江出身の男性と結婚をされて、2000年に親御さんの都合があって家族で鯖江に移住されます。そこで直面するのは、非常に保守的な土地柄だということですね。この山本さんは鯖江に移転してすぐ4人目のお子さんを出産されて、ゼロ歳児の育児をしなければいけないんですけれども、女性の社会進出が当たり前の土地柄ですから、育児をしている一方で外に働きに出ていないというのを非常に不思議がられて、何で働かないのかと近所からいろいろ言われてしまい、家で育児ばっかりやってるんだったら、PTAの役員でもやってくれないかと、いろんなのを押しつけられるんですね。実は、保育施設が日本で一番充実しているのが福井でして、山本さんは、そんなに言われるんだったらと、もともと看護師ですから、福井の病院に勤めることになりました。そこで彼女はちょっと驚くんですけれども、看護師さんたちが、ポケットに入れているサージカルテープという包帯をとめるテープをぽろぽろ床に落とすんですね。これは非常に危険なことでして、テープですから、側面が粘着質になっています。そこにほこりがついたりして、これが院内感染の原因になる。しかも粘着の部分に手で触るもんですから、菌がそこについてしまう。当時、厚生労働省が院内感染を防止するために、徹底的に病院を滅菌せよという指令を出しているんですけれども、そうはいっても、地方の中小の病院というのはそこまでコストをかけられない、院内感染の防止はやっていなかったわけです。
 そこで彼女はどうしたものかと思って、地域の人たち――例えば化粧品を買いに行けば化粧品のお店の奥さんに、こんなのを見てしまった、これは危ないということをいろいろ相談する。ここに行政が出てくるんですけれども、1つは商工会議所ですね。商工会議所を紹介してもらって、そこにインキュベーションマネジャーという職業の人たちがいると。これは地域連携コーディネーターと言われていて、産学官民、あと金融ですね。それをつなげていくおもしろい人たちです。いわゆる職業を創出しようとしている人たちがいると。そこのコーディネーターである出水さんという方を紹介されて、だったら院内感染を防止できるテープをつくったらどうだということになり、そのとき、鯖江市が、市として中小企業や新規事業の応援をしたいということで、ビジネスプランとかアイデアコンテストというのをやっておりまして、そこに応募しましょうということになった。山本さんは旦那さんがたまたま技術者ということもあって、3D設計で、テープをプラスチックのケースに入れて、テープの側面を手で触れずに切れるという製品をつくるんです。これは優秀賞をとりまして、賞金も出ました。次に中小企業基盤整備機構にも応募しようということになったんですけれども、応募するには法人資格がないといけない。じゃあ会社をつくるかといっても、出資をどうするか。すると、やはり地域の人たちや、あるいは職場の病院の先生とかが、じゃあ応援するよということでお金を出し合うんですね。これは非常に北陸ならではと思いまして、みんなで応援しようという仕組みができ上がっている。しかも、地場産業の、金型をつくったりとかそういう人たちが、サンダルを履いて行けるところにいっぱいいる、皆さんが手伝ってくれる。これが「きるる」という商品になりまして、グッドデザイン賞をとり、彼女は中小企業庁ですとか経済産業省、特許庁などから注目をされます。
 医者とメディカル企業が連携する医工連携という言葉を政府はずっと推奨しているんですけれども、看護師さんのプロの目と創業する企業の連携、看工連携というのができるんではないかと、政府はそこに注目して、これを全国でやっていけるんではないかと。山本さんを講演で全国に回ったりさせるんですけれども、看護師という人の困っているところに目がいくというか、医者では気がつかないところに目がいく。病院にはいろんな企業の人が出入りしていて、お医者さんには、こういう提携しましょう、いろんな機械をつくりましょうと持ちかけるんですけれども、看護師さんと話す機会なんかないわけですね。それは看護師さんを見下しているからなんですけれども、しかし、看護師さんというのは一番患者に寄り添ってまして、患者が一番困難になっているのは何かということに非常に詳しいんですね。
 山本さんは、「きるる」がグッドデザイン賞をとったもんですから、どうしても昔からやりたいことがあった。それは、彼女は京都で小児病棟で働いておりまして、小児病棟には、小児がんで生まれながらにして余り寿命がないと言われている子供たちの病棟がございました。大人ですら、あの抗がん剤の治療というのは非常につらいものです。けれども、せっかく成長期の子供たちが生きているのだから、楽しい時間を過ごさせてあげたいという中で、一番子供たちがつらいのは何かというと、病院のベッドで寝ていて看護師さんと楽しく話しているときに、廊下から聞こえてくる金属音なんですね。その金属音は何かというと、点滴台なんです。抗がん剤治療の際の点滴台を引っ張ってくるときに、からからという音がする。子供たちはもう表情ががらっと変わりまして、非常につらい表情になって、泣いたりする子もいる。せっかく生きているこの時間を楽しく過ごさせてあげるためにはどうしたらいいかと彼女は考え、この金属音の点滴台が何とかならないかと。これをまた鯖江で、いろんな人に相談をするわけですね。地場産業が盛んですから、相談をする中で、先ほど申し上げた行政側の地域連携コーディネーターとも相談しながら、木製の点滴台をつくるんです。木製の点滴台は音が出ないというのもありますし、これは一つポイントがありまして、さすが看護師さんだなと私が思ったのは、点滴バッグを下げる一番上のところを木製のボードにしまして、そこを熊の顔とかチューリップの形にしたんですね。ここは実はメッセージボードになっていまして、お見舞いに来るお母さんが、何とかちゃん、早くよくなって遊ぼうねと書いたりする。コミュニケーションツールとしてこの点滴台をつくるわけです。これは非常に感動的な話でして、神戸の小児病棟に小児がんの施設があって、不治の病を抱えた子供たちがいるんですが、そういうところで導入したりとかですね。点滴台の目的というのは、点滴をするためのものなんですけれども、実は親と子の縁を再確認するものというか。こういう目的は看護師さんならではの発想です。これもまたグッドデザイン賞をとり、外務省が選ぶ日本の100選というのに選ばれまして、木製のこの点滴台を、今、世界ツアーということで世界の都市を展示して回っている。政府を挙げて展示しているんですね。
 ここまでは、私はこの本の中で書いたんですけれども、これには後日談がありまして、実は中小企業のつらいところなんですけれども、先ほど申し上げた「きるる」というサージカルテープ――テープカッターをつくって手をふれないで切れるテープをつくったんですけれども、これはもちろん特許もとっているんですが、特許をとっているといっても非常に簡単な構造ですので、すぐに、医療品や粘着テープをつくっている大手企業や幾つもの会社が買収しようとしたんですね。でも、それを彼女が断ったら、大手企業が模造品をつくって、流通網を持ってますから、全国の病院を席巻してしまうわけです。そうするともう、彼女の会社はやっていけないんですよね。その商品を開発したときは、旭化成と組んで東南アジアへ輸出して非常にいい開拓をしたんですけれども、全部それは大手企業に持っていかれてしまいまして、もう会社を畳まざるを得ないというところまでいくんです。
 ところが、ここがやはり北陸のおもしろさというか、何がそのあと起こったかというと、情熱を持って何か困難なことを解決したいと思っている旗振り役が、旗をひたすら振り続けていると、山本さんのもとに、看護師をやめましたという人たちがやってきて、仲間に入りたいと言い出したんですね。私たちも看護師の仕事をしていて、患者さんの困った点というのはいっぱいある、課題解決しなきゃいけない点があると。これはお医者さんに言ってもわかってくれない、企業からは相手にされない。でも、山本さんの会社がこうやって政府にも注目されて、地域の鯖江市、あるいは福井県がバックアップしてくれて、ここまでこういう仕組みができているのであれば、実はもっといろいろなことが可能なんではないかと。まず2人の看護師さんが仕事をやめて入ってきて、そのあとも全国の看護師さんたちが、私も仲間に入りたいと手を挙げたと。いろんなアイデアがあるから一緒にやりませんかと、病院の看護師さんたちが声を上げ始めたんですね。こういうネットワークをつくっていく。ここは非常に地方再生の話と似ていまして、旗振り役のリーダーというのは、富山市の市長も鯖江市の市長もすばらしい人なんですけれども、リーダーがすばらしくても、地域の活性化というのは、ほとんど無理だと思っています。何が成功させるかというと、リーダーではなくてフォロワーの存在でして、一緒に情熱を持って共感し合う人たちですね。この共感する仕組みをどうつくるかというのは非常に大切でして、この山本さんの話を聞いていると、グッドデザイン賞をとってよかったねという話の先に、実はもっと深いドラマがあり、これは全国にいろいろ広げられていく1つのモデルケースではないかと思いました。それが、私が言った一番最初のキーワード、幾つか並べましたけれども、卵をふ化する、インキュベーションという言葉、ここに共通する話かなと思いました。
 この小児科病棟の連携というのは、1つは、彼女は看護師をやりながら育児をして、さらに、福井高専という学校があるんですけれども、福井高専は夜間講座を社会人に開放しておりまして、そこで彼女は3D設計ですとか環境デザインという学問があるんですが、そういう勉強をしていく。その福井高専という門戸を開いた学校の存在、あるいは商工会議所、そして市役所ですね。みんなでバックアップするという仕組み。そして病院の先生、あるいは職場の仲間ですとか、ものづくりの人たちもアイデアを出しますし、お金も出し合うということで、1つの非常におもしろいモデルの物語をつくったなと。これは、やはり成功のヒントはクレームにありというふうに言いますけれども、クレームや課題を解決したいと願う人たちの気持ちを、どう形に具現化させていったかと、ここが非常に大きなところだと思いますね。
 もう1つの垣根の低さ。産学官連携という言葉で言うと、一般の人たちは、上から目線だということを言うわけです。産学官連携という言葉自体が、何か政府が、はいやってくださいと言っているようで、じゃあそれをやらなきゃいけないのかというイメージになってしまって、印象の悪さがあるんですけれども、でも実際に成功しているところというのは、産学官連携が本当にうまくいっていまして、これは言葉を変えると垣根が低いということなんですね。この垣根の低さというのは、先ほど申し上げました世界的に地域が発展している町、アメリカで言うとシリコンバレーですとか、先ほどのイタリアのボローニャという町の共通点でして、ボローニャという町は、亡くなった作家の井上ひさしさんが「ボローニャ紀行」という本を書いているぐらい心酔した町なんですけれども、ここの特徴は何かと申し上げますと、先ほど申し上げましたように、いろんな産業があると。これは実は鯖江と似ていまして、この垣根の低さというのはどういうことかというと、ボローニャの町というのは、夕方5時とか6時になると、仕事が終わって、皆さんカフェに行くんですね。カフェテラスは外にテラスがありまして、そこでビールを飲んだりコーヒーを飲んだり食事をしながら、わいわいがやがやする。これはホンダがよく言うワイガヤなんですけれども、わいわいがやがやをやって、おもしろいアイデアを思いつくと、ちょっとあそこの大学の先生に連絡して呼び出そうかとか、これは市長を呼び出そうかと言って、市長も大学の先生も労働者も、平場で平等に同じ話をする。千葉県松戸市の松本清さんが市長のときに、すぐやる課なんていうのをつくるんですけれども、それに非常に似ていまして、これやりませんか、じゃあやろうよという話を、酒の飲み食いをしながらやっていると。これもいわば産学官連携の1つの形でして、ヨーロッパでは非常に注目されていて、このボローニャというのはエミリア・ロマーニャ州という州の中の町なので、ヨーロッパではこれを、エミリアモデルというふうに言っているんですね。このエミリアモデルというのは、いわゆる共存していくにはどうしたらいいかを示したもので、これは、鯖江でなぜ眼鏡産業が、大企業も何もないのにあれだけ盛んになったかという話と非常に似ていまして、これもやはりリーダーとフォロワーという関係で語れると思います。
 ちょっとボローニャの話は後回しにしますけれども、鯖江というのは、貧困、寒村の町でして、殖産興業で繊維の産業が盛んになるんですけれども、明治時代の金融危機でばたばたと潰れて、繊維が非常に厳しい状態になったときに、増永五左衛門さんという、まだ20代の村議会議員なんですけれども、家が割とお金持ちの農家で、この方が、やっぱり町を何とかしなきゃいけないと。産業がめちゃくちゃになってて、冬場は皆さん、出稼ぎに行くんですね、雪深い町ですから。そういうときに、弟さんがたまたま大阪に働きに行って、大阪の南船場で眼鏡のフレームの技術者と出会うんですね。当時眼鏡というのは一般的な道具ではなくて、お金持ちと知識人がつけるものでして、一般の人にはまだまだ普及してなかった時代なんです。けれども、眼鏡は初期投資が余りかからない、これは貧しくてもできるんではないかということで、リクルートをしようと大阪の職人3人を鯖江に連れてきまして、そこで手先の器用な農家ですとか大工さんですとかをいっぱい集めて、3年間かけて眼鏡フレームづくりの講習会というのをひたすら続けていくんですよ。そうしたときに、明治天皇が主催する博覧会で金賞をとるんです。増永さんの先見の明があったのは、1つは、当時、日露戦争があって、国民は情報に餓えていて、戦況がどうなっているのか非常に知りたいと新聞が爆発的に普及するんですね。それで老眼鏡が必要となるだろうと。賞をとったときに第一次世界大戦が勃発したものですから、国民が情報に餓えているときに老眼鏡のフレームをつくるという、これが時代にマッチした。
 もう1つの発展する仕組みというのは、帳場制という制度。1人の技術者のもとで技術講習をさせていき、そこで腕を鍛えさせてどんどん独立させるんですね。独立してまた眼鏡フレームの会社をつくれと。それをみんなで支援していく。行政も一緒になって支援をしていく。独立をすると、実は競争しなきゃいけない、競争すると技術は発展する、競争する中でも実は仲間なんですよね。仲間ですから、情報を共有し、共有をしながら競争するという、この非常に相反するものをミックスさせているところが、実は先ほど申し上げたボローニャとそっくりなんです。
 村八分という言葉を最初に申し上げましたけれども、ボローニャという町が、何でこんなに産業が発展するのか調べていくと、やはり同じ帳場制を使ってるんですね。靴職人ですとか、あるいは自動車、オートバイクの技術者をどんどん独立させていく。あるいはファッション、洋服もそうですけれども、独立をさせていく。のれん分けというのは、ライバルをつくることで自分の身が脅かされて危ないんではないかと日本人は思いがちなんですけれども、実はそこに暗黙のおきてがあって、価格競争をまずしてはいけないと。安売り合戦になっちゃうと、全体が滅びてしまうんですね。価格競争をしないというのと、もう1つは、競合商品をつくらない。実は、靴といっても、靴にも婦人用の靴とか子供用の靴とかスポーツシューズとか、いろいろと用途が分かれているわけです。洋服もそうです。子供服もあれば婦人服もある。ティーバッグとかの包装機械がすばらしい、世界の包装機械産業と申し上げましたけれども、包装といっても、コンドームのパッケージをつくる会社もあれば、伊藤園のティーバッグをつくる会社もあったりとか、すみ分けをしていくわけですね。こうやって、仲間でありながら競争する。
 でもそこで裏切り者が出たらどうするんだという疑問がわくんですけれども、裏切ったら生きていけないわけですよ。資本主義というのは信頼で成り立っているので、信頼を裏切ったらこの町で生きていけないということを、皆さんわかっているんです。これはもう村八分どころではなくて追放ということになってしまいますから、そもそもそういう裏切りという行為ができない。
 東京のメディアは地方の保守性というのを割と批判的に言うんですが、確かに保守的だというのは、ちょっと息苦しいというかそういう一面もあるんですが、それは裏を返せば、信頼関係が歴史的に既にでき上がっていると。新たに今から東京で信頼関係を醸成しましょうと言っても、これはなかなか難しい話なんですけれども、地方自治体のおもしろいところというのは、最初から割と信頼関係ができ上がっていて、ただそれは当たり前過ぎて皆さん気づかないんですね。東京の人間から、信頼関係が醸成できていて産業も発展しやすいし、産学官連携など、行政もやりやすいですねと言っても、皆さん、ぴんときてないんですけれども、東京みたいによそ者ばかり集まった町からすると、非常にもうでき上がっている。ここは生かさない点はないかなというのが、非常にこのボローニャでも感じますし、シリコンバレーという、世界で今、中心地になっているところでも感じます。ことし安倍総理が訪問されましたが、日本の地方の中小企業とシリコンバレーを結びつけるかけ橋プロジェクトをやろうということを、政府を挙げてやっていまして、私も「Forbes」という雑誌をやっているものですから、シリコンバレーの投資家たち、あるいは長くいる人たちに話を聞く機会が多くて、静岡からシリコンバレーに行かれて大成功された、世界にDVDを広めた曽我さん――私は静岡が生んだスターだと思ってて、スティーブ・ジョブズと互角に戦った人なんですが――とも知り合って。
 こういうシリコンバレーのことを取材していくと、シリコンバレーって実は北陸ですとか先ほど申し上げたボローニャとそっくりでして、何が似ているかというと、やはり喫茶店文化なんですね。この喫茶店文化って非常に意外なんですけれども、幾つもカフェがありまして、朝食をみんなそこで食べる。インテルですとか大手のIT企業の社長たちが、何人かで朝食を食べている。そこにまたベンチャーキャピタルと言われている投資家たち、お金を持ってる連中が来て食べてる。そこに、スタンフォードの学生なんかが、ちょっと話を聞いてもらえませんか、このテーブルいいですかって言って、自分が持っているアイデアを持ってくるわけです。そうすると、そこには競合する企業の社長たちがいるんですけれども、それはおもしろいとか、それはもうちょっとこうしたほうがいいんじゃないかと、企業の社長たちや投資家たちが話し合うんですね。それはお宅の会社がやったらいいよと。秘密は秘密として各企業にあるんですけれども、実は秘密主義ではなくオープンな場でもありまして、秘密とオープンが非常に共存しているという、これはボローニャ、あるいは鯖江、富山に共通する話なんですよ。
 こういうたまり場があるというのは、実は物すごく大きくて、やっぱりホンダさんのワイガヤじゃないですけれども、おしゃべりやディスカッションをしているとアイデアというのは生まれてくると。お金をどこにどれだけつけたらどれだけ伸びるというのは、プロの投資家ですとか企業経営者はよくわかっている。そこに行政はどう参加するか。中小企業を支援するのは、今アメリカで――アメリカで企業支援って、行政がやることはなかなかなかったんですけれども――ここ数年、やっぱりそういうのを地方行政がやっていこうというムーブメントが起きてまして、行政がそれをどうバックアップするか、そういう仕組みができてきている。これが今非常にうまくいっているのが、日本で若者創業率ナンバーワンと言われている福岡市でして、TSUTAYAの本屋が福岡市の天神にあるんですけれども、福岡市と労働局などが提携して、この天神のTSUTAYAのフロアーの1つを借りて、スタートアップカフェという喫茶店をやり始めたんですね。これは何の喫茶店かというと、僕も行ってきたんですが、非常に活気を帯びてまして、自分はサンダルづくりをずっとやってきたから、これで会社をやってみたいと言う80歳のおばあさんとか、あるいはITが得意な若者たちですとか、老若男女いるわけです。もともと福岡や北九州は下請け城下町と言われているぐらい、いろんな企業の下請け工場があったもんですから、リストラされた技術者たちなんて大勢いて、仕事がないわけです。その人たち同士を引き合わせていくこの喫茶店というのは、非常におもしろくて、たとえば会社をつくるのに弁護士が相談に乗るんですけれども、労働者を雇用するにはどういう法的な仕組みがあるかというのをただで教えてあげたりとか、福岡市としてはどういうバックアップができるか教えてあげたりとか。福岡市というのは創業支援というのをこれまでやったことがなくて、もちろん市役所の中にはあったんですけれども、大体屋台のラーメン屋をやりたいという人の窓口でしかなかったわけです。それを新たな産業をつくっていこうというふうに変えたんですね。
 そうやってこのような場をつくるというのは非常に大事でして、富山県や福井県にそういう場があるかというと、そういう改まった場というのはないんですけれども、その場の役割をしているのが、実は市長と非常に仲のいい、市長がうまく土俵に乗せているNPOの若者たちですね。皆さんも視察に行かれた竹部さんという女性の物語をこの本の中にも書いたんですけれども、電気屋さんの娘さんで、鯖江みたいな田舎にはいたくないと東京へ出て、いろんな企業で派遣社員をやりながら点々として、やはりいろんな挫折を経験して、やっぱりやりたいのは地域振興というか鯖江に自分は帰りたいんじゃないかとなった。そのようなとき、たまたまインターネットで市長のブログとぶつかって市長と意見交換をするうちに、最終的に、「市長をやりませんか?」コンテストというものができた。これも非常にすばらしい仕組みでして、全国の大学生、特に東京に集中している一流大学の優秀な大学生が、お金を出してわざわざ鯖江にやってきて合宿をして、鯖江をよくするためにはどうしたらいいかというビジネスプランコンテストをお寺で、福井県というのはお寺がいっぱいありますから、みんなで合宿をしてアイデアを出し合う。そこに行政の人たち、いろんな市役所の課がありますから、福祉関係の人もいれば産業関係の人もいると。福祉の問題を解決するにはどうしたらいいかと、プロの行政マンと一緒になってアイデアを出し合う。この大学生のアイデアというのは、行政側からすると無料なんですよね。ここで学んでアイデアを出していった学生たちは、お寺のお堂に泊まって3日間ぐらい議論をし合って、合宿経験をするので、非常に連帯感が生まれて、ビジネスプランコンテストが終わった後、泣いて帰りたくないと言い出す若者たちもいる。彼らは一流大学を出ているわけですから、就職先もよくて、霞が関の官庁で国家公務員になる者もいれば、外資系のコンサルタント企業に入る者もいる、あるいはIT企業に入る者もいる、あるいは三井物産とか三菱商事とか大手商社に入る者もいる。彼らはやっぱり鯖江のことが忘れられなくて、社会に出たあと、会社の中でいろんな企画を提案するときに、鯖江と何かやりましょうという提案をし、また鯖江に戻ってくるわけですね。このUターンの仕組みというのは、竹部さんが最初から意図してたとは思えないんですね。鯖江の竹部さんという1人の若い女性の情熱が共感を生んで、周囲を巻き込んでいったと、そういう仕組みだと思います。
 ここで申し上げたかったのは、先ほど言ったキーワードで言うと、垣根の低さ。井戸端会議というのは、無駄話のように思えて、実は発展が発展を呼ぶ仕組みをつくり上げると。そのベースには信頼性があり、村八分という嫌な言葉の背景には、実は信頼性の醸成がある。歴史的に、これは日本のどこの地方もそうなんですけれども、それがあるということだと思います。
 もう1つのキーワード、これは本の中には書いてないんですが、貧困という言葉。貧困格差の問題というのは、いつもメディアでも話題になりますし、いろんな議論になりますけれども、今、日本の相対的貧困率というのは、子供たちの貧困率で見ると6人に1人が貧困家庭と言われているような状態でして、学習塾に行くお金もないとか、給食費が払えないという大きな問題なんです。私は貧困率が高いというのは、実は産業の発展ですとか、地域が発展するチャンスじゃないかと思っています。渋沢栄一にしても倉敷をつくり上げた大原一族にしても、彼らには、特に大原さんはそうなんですが、貧困を解決したいというのがもともとあって、倉敷中央病院ですとか、クラレですとか、クラボウとか、労働者の環境をどう克服していくかという、貧困の解決というのが1つの大きなテーマだったんですね。この貧困の解決というのは非常に難しくて、今いろいろ言われているのは生活保護費ですね。こういうのを提供すると、行政からお金をもらって税金の無駄遣いだと反対する人たちがいたりして、非常に難しい課題なんですけれども、実は今、非常に画期的な取り組みが、世界的な兆候としてあります。私がことしインタビューした中でおもしろいなと思ったのは、G8の中に社会的インパクト投資タスクフォースというのがありまして、その委員長がロナルド・コーエン卿というサーですね。イギリスのサーなんですけれども、キャメロン首相の親友でイギリスのベンチャーキャピタルの父と言われている人です。実は、貧困を民間投資で解決する仕組みをつくり上げまして、イギリスの政府が今、取り組んでいます。イギリスだけではなくて、アメリカも今こちらのほうに動いていると。どういうことかというと、リーマンショックでもう懲りたという人たちがいまして、あの強欲資本主義というか、自分さえもうかればいいというのに対する反動が、今、アメリカでもカナダでも来ていまして、この仕組みというのをちょっと御紹介したいと思うんです。
 イギリスで税金を使って、貧困あるいは犯罪、あるいは就職困難ですね、解決しなければいけないテーマというのが、600あるんですね。これを税金でやっていくというのは非常に難しい話でして、はっきり言って無理ですね。日本もそうですけれども、限界があって、これをお金で手当していってもどうにも解決はできないと。
 わかりやすい例でいいますと、このロナルド・コーエン卿が始めた社会的インパクト投資の1つの事例として、イギリスに最貧困地域がありまして、最貧困地域って犯罪の温床なんですけれども、極端に貧しい人たちがそこにいると。そこはそういう地域ですから、地価が非常に安いんですね。そこで何をしたかというと、彼の呼びかけで、イギリスに「THE GYM」という高級スポーツクラブのチェーン店がございまして、これは年会費と会員費が非常に高いんですね。そのかわり、いろんなマシーンがあって、健康増進のために活用できる。この超高級のスポーツジムを最貧困地域につくったんですよ。どうやってつくったかというと、もちろんお金が必要ですから投資を募るんですね。こんなところに投資してリターンがあるのかと普通思うんですけれども、この社会的インパクト投資というのは実はちょっと変わった方法でして、インパクトをビッグデータとかで数値化できると。全てを見える化していくんですが、貧しい地域ですと地価が安いもんですから、通常のスポーツジムよりもジムをつくる設備がかなり安い価格でできる。そこに広大な施設をまずつくって、200台のマシーンを入れた。会員費や年会費も本当だったらかなり高いんですけれども、物すごく安くしてるんです。物すごく安くすることでどういうことが起きたかというと、その地域は、人生で一度もスポーツジムに通ったことのない人たちがほとんどだったんですけれど、このスポーツジムの会員の40%以上がこのような人たちになったんです。彼らが会員になると何が起こったかというと、覚醒剤とか薬をやっているよりも楽しいことがあるわけですね。彼らは健康増進ということやスポーツも楽しいというのを知るわけです。それから、雇用が生まれたんですね。このスポーツジムを運営するには雇用が要ると。何よりも、健康増進によって社会保障が――実はこういう貧困地域にかかる社会保障費というのはかなり莫大なものがあったんですけれども――どんどん抑えられていくと。これを全部見える化して、どれだけ効果が出たかというのを全て数字にあらわしていく。そして、今までかかってきた税金の浮いた部分を、まずリターンとして投資をしてくれたお金持ちに返していく。そのかわり、リターンは本来の投資に比べると少ないんですね。少ないんですが、彼らにはメリットがありまして、こういう社会事業に自分がかかわったという、インパクトに関与したという、こちらのほうがお金持ちにとっては名誉なわけですよ。ほかに投資事業はいっぱいやっているわけですから。
 こうしたことで、この最貧困地域というのは、徐々に人がおもしろがって生きるようになっていく。たったスポーツジム1個でこれだけ効果が出たということで、これをもうちょっとやっていこうということになり、次に何をやったかといいますと、このロベルト・コーエン卿がやった事業でよく取り上げられる社会的インパクト投資の1つの例なんですけれども、イギリスの税の問題ですね。イギリスで非常に問題になっているのは、犯罪者の再犯率です。犯罪者を刑務所で更生させて、社会に出す。社会に出てまた悪の手に染まって犯罪を犯してしまう。そして再犯者をまた逮捕して収容する。この1人当たりの再犯者の収容にかかる金額は、日本円にすると大体422万数千円だというんですよね。この再犯者を1,000人削減できれば、422万円掛ける1,000ですから、かなり税金の圧縮になるんです。これをちょっとやってみようということで、イギリスにピータボロ刑務所というのがありまして、ここは強盗ですとか重犯罪を犯している者が入っているんですね。ここで社会的インパクト投資をしますというふうに、このロベルト・コーエン卿の団体が世の中にアピールするわけです。そうすると、8億円調達できたと。8億円調達してこれをどうするかというと、入札を行い、再犯率を防止できるというプログラムを持っている4つのNPOが手を挙げてきた。じゃあ、どういうプログラムがやれるんだと、それを審査しました。もちろん刑務所の中での教育だけではなくて、その受刑者が刑務所を出て社会に戻ったとき、彼らが戻る場所はその家族が住んでいる地域なんですけれども、地域を再教育していかないと、また再犯になります。その地域の再教育にお金をかけていくのをうちのNPOがやっていきますと。うちのNPOは、これだけの仕組みでこういうプログラムをできますということを何年もかけてやるんですけれども、4年たって中間報告で、実はかなりの成績を出してきていて、再犯率の防止につながっていると。要は、貧困の人たち、あるいは犯罪を犯す人たちに、犯罪を犯してから税金で対処するという対処療法ではなくて、予防のところにお金をかけていくことで税の負担を減らしていく。
 こういう仕組みをロベルト・コーエン卿とキャメロン首相がG8に提唱しまして、アメリカのゴールドマン・サックスですとかいろんな投資銀行もそれはいいと。ビッグデータによって見える化して、大体どのぐらいその地方行政ですとか、国家の予算が圧縮できるかというのが見えてくると。じゃあ、投資銀行としてもCSRの一環にもなるしやろうということで、NPOから巨大投資銀行までいろんな団体がこれに手を挙げ始めまして、これをやり始めた。韓国もこれに手を挙げて、日本でも横須賀市と岡山市と福岡市が手を挙げてまして、横須賀市が先陣を切ってモデルケースとして始めました。横須賀市で非常に大きな問題になっているのが児童養護施設でして、もうパンク寸前なんですよ。児童養護施設っていうのは、じゃあ増設すればいいじゃないかと言われても予算の問題がありますからできないと。児童養護施設に収容される子供の大半は、親のない子供たちではなくて、児童虐待を受けている子供たちなんですね。児童虐待で収容される子供たちって年々ふえてまして、通報件数も右肩上がりでふえているという状態です。児童養護施設というのは最終手段ですから、こういう子供たちを野放しにしちゃうと、まともな教育を受けさせてもらえなかったり、非行に走ったりとか犯罪に走ったりと、こうなるケースが実は非常に多いんです。これを何とかしなきゃいけないということで、日本財団とNPOと組みまして、インパクト投資をやろうと。それは何かというと、特別養子縁組です。里親制度よりも、両親が2人そろっていて、戸籍を変え、名字も変えてしまう。子供にしてしまって、そこでその家庭で育てる。児童養護施設みたいな集団で育てるよりも、どんなすばらしい施設よりも、2人そろった親のもとで愛情で育てるというのが一番効果的であるということで、それについてはお金が必要なわけですね。その仕組みをどうしていくか、ちゃんとその子が特別養子縁組をされたところで育っていっているか、経過も見なきゃいけないと。
 そういった仕組みを、例えば1つの事例でいうと、ことしの5月に、漫画喫茶のトイレで16歳の女の子が子供を産み落としまして、これは実はうまくいったケースなんですけれども、妊娠についての相談窓口を横須賀市が行政としてつくってます。やはり一番悲惨なケースは、生まれたその日に殺されてしまうという、これは人口減少、人口をふやさなきゃいけないというときに非常にひどい例でして、亡くなってしまうという。あるいは、育てはするものの、内縁の夫が暴力をふるって、結局児童虐待で通報されて養護施設に入れられてしまうと。ただ、養護施設というのはゼロ歳児含めてあるんですが、一人一人に手をかけられる状態ではなくて、職員も足りないし、予算も行政としてつぎ込めない。
 そういう中で、その16歳の女の子は、どうも妊娠している、特別養子縁組というのを行政側に相談していた。相談しやすい、敷居の低い窓口をたまたまつくっていたということが功を奏したんですけれども、漫画喫茶で寝泊まりしているときに、予定より早く生まれてしまったんですね。ですが行政が、日本財団のインパクト投資で、NPOとうまく連携をつくってまして、すぐに病院に通報する仕組みがあったもんですから、すぐに病院に連れて行けたと。里親というか、特別養子縁組をしてくれる親も、実はNPO側が産みの親と何度か面談をして、大阪にいるいい御夫婦を探してくださってて、マッチングが実はできていたと。このマッチングするまでのお金とかも、これはモデルケースなので社会的インパクト投資で日本財団がお金を出したわけですが、そうやってうまく仕組みづくりができていたので、生まれてすぐ大阪の御夫婦に引き取られて、女の子だったんですけれども、非常に健康的にすくすくと育っているというお話を聞きました。
 実は横須賀市は、現金な話なんですけれども、1人の子供を救うことでどれだけ税金が抑えられるかと、全部試算までしてるんですよね。社会保障にかかわるいろんな、あるいは生活支援とかにかかるお金を減らしていこうという仕組みづくりをしていまして、何人養子縁組できたらどれだけの予算が削れるということを全部計算をしまして、それで、NPO側と組んでやると。今回は日本財団なんですけれども、これをロベルト・コーエン卿が提唱している社会的インパクト投資というモデルにして、民間の投資家からお金を募って、圧縮された税金で、浮いた部分からわずかなリターンを返していくと。
 この仕組みは、今、アメリカではやり始めまして、横須賀市は児童養護施設で、福岡市は産業創出支援だったと思うんですけれども、そういうお金を集める仕組みというのをどう使うか。財政難の日本では、全て税金で賄うということは、未来永劫、もう無理なんじゃないかと。どんどん大きな財布をつくっていけばいいのかというと、それは無理でして、現役就労者人口も減ってますし、民間が社会的インパクト投資をできる土壌にあると。なぜこれを確信的に私が言えるかというと、これはロベルト・コーエン卿も言っていましたし、また、アメリカの投資ファンド等を取材しててみんなが同じことを言うんですが、ミレニアム世代の登場ということを言われてるんですね。これは、80年代以降に生まれた子供たち、今はもう20代、30代になっていますけれども、この人たちと、私は今、47歳なんですけれども、世代間の意識の違いって大きな隔たりがございまして、東日本大震災を経験した若者たち、あるいは9.11のテロをリアルタイムで見た若者たちは、物心ついたときからインターネットを使っている世代でして、この人たちの世代の特徴というのは、向社会的――反社会的という言葉の反対の言葉で使われる学術的言葉なんですけれども、非常に向社会的傾向にありまして、私も震災の被災地で、企業支援ですとか、就労支援をやっている団体の人たちに会いましたけれども、みんな若くて、しかもエリートですね。非常に学歴はすばらしくて、大手の企業あるいは外資系の大手企業を就職したものの、そこを数年でやめて、東北の被災地に入って、就労支援の仕組みづくりをする。お金をどこかから集めてくる。銀行や金融機関だけじゃなくて、昨年私が知り合った人たちは、仙台でしたけれども、産油国の財団を引っ張ってきて、インキュベーション――先ほど申し上げた、ふ化する仕組みのインキュベーションセンターというのを、仙台の倉庫街につくろうと、オイルマネーでつくっちゃっいました。今のインターネットをやっている若者たちは、非常に行動が速くて、自分だけよければいいという考え方は、私みたいにバブルを経験している世代には非常に強いんですけれども、そうではなくて、インターネットで国境がなくなってますので、みんなでよくなりたいという意識が物すごく強い。こういう世代が出てきましたので、アメリカで、先ほど申し上げた社会的インパクト投資という、社会的課題をみんなで解決してリターンはわずかでいいという仕組みが浸透しやすい土壌ができたんですね。これは、日本の震災以降の被災地支援なんかにしてもそうです。いろんな企業ですとか若者たちが入ってますし。ヨーロッパはもともとこういう土壌があって、非常にオールドエコノミーの世界ですし、キリスト教のチャリティー文化などがありますから、もともとやりやすいものがあったと。
 こういうふうな今の若い人たちを、富山市と鯖江市のことをこの本に紹介しましたけれども、この市長たちのうまさというのは、確かにリーダーシップを発揮していて、フォロワーシップというのを先ほど申し上げましたけれども、フォロワーをおだてるのが物すごくうまいんですね。鯖江の市長というのは長靴が似合うようなおじさんなんですけれども、実は非常に巧妙な人だなと思うことがあって、市政ですとか行政をやっていると、文句を言う住民というのは絶対、どこにでもいるんですね。何をやっても反対する人たち。この人たちを呼んで、それはさすがの意見ですと、それは自分も気づかなかったと、じゃあ一緒にやりませんかと、その人を同じ舞台に上げてしまうんです。それが鯖江の市長は非常にうまい。鯖江は、IT先進都市を目指そうと今言ってまして、若い起業家がいっぱいいてスマホのアプリなんかをいろいろつくってるんですけれども、彼らはもともと行政なんかに全く興味がなくて、選挙にも行かないような人たちだったんですけれども、彼らが今、市の行政の中でかなり重鎮になっています。彼らが政策を提案する。民間側から政策を提案すると。議会でも1回問題になったんですけれども、じゃあ議員要らないじゃないか、直接民主主義じゃないかということになって。でも、議員の皆さんも一緒にやりましょうよと、公共事業も民間側から提案するけど、それを議員の皆さんで精査してやりましょうよと。反対する人たちを土俵に上げるうまさというのは、これはもう、何ていうんでしょうね、ばかなふりをしてるんじゃないかなと、時々市長と話をしていて思うんですけれども、例えば野球で言うと、観客席からやじばっかり飛ばしてて文句しか言わない連中を、じゃあ一緒に野球やろうよって言ってグラウンドに引っ張り出すうまさ、グラウンドに引っ張り出すと、この人たちは実はめちゃくちゃ活躍したりするんですよ。ふだん文句ばっかり言ってるのは、実は何かやりたいことがあって、文句ばっかり言ってるNPOですとか、文句ばっかり言ってる団体、組織、うちを使わせろとかそう言ってる人たちを中心に据えて、リーダーのもとで一緒にやらせると、俄然活躍するんですね。これは非常におもしろい傾向だと思いまして、実は北陸の成功というのは、こういう人たちを排除するのではなくて、うまく取り込んでいるところが、成功のポイントではないかなと思いました。
 ちょっと済みません。長くなったかもしれませんが、以上でございます。ありがとうございました。

○阿部委員長
 藤吉先生、大変ありがとうございました。すばらしい、興味深い意見が多々いただけたと思います。
 以上で、藤吉先生からの意見陳述は終わりました。
 これより質疑に入ります。
 委員の皆様にお願いをいたします。
 質問はまとめてするのではなくて、なるべく一問一答方式でお願いをいたします。
 それでは、早速、御質問、御意見等がありましたら、御発言願います。

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