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委員会会議録

委員会補足文書

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平成25年10月子どもの人権擁護特別委員会
参考人の意見陳述 特定非営利活動法人ジェントルハートプロジェクト 理事 武田さち子氏 【 意見陳述 】 発言日: 10/11/2013 会派名:


○武田さち子氏
 今、御紹介に預かりましたNPO法人ジェントルハートプロジェクトの理事をしております武田さち子と申します。よろしくお願いいたします。
 私たちの法人は、いじめをなくすことを目的につくられまして、ことし11年目です。また、法人の特徴として、いじめやそれから教師の指導による自殺――指導死というふうに私たちは呼んでいるのですが、その遺族と一緒にこの活動をしています。ただし、私自身は遺族ではありません。8人の理事のうち5人が遺族で、このNPOを運営しています。
 私たちは講演などで主に学校などに呼ばれ、児童生徒もしくは教職員の講演、研修、そして保護者の方たちの講演などをふだん行っています。そして、最初に本日、3つの御要望がありましたので、いじめの現状と課題について、それからいじめの対応がどうなっているのか、そして行政に何ができるのかという、この3つについて答えてほしいということでまいりましたので、その3つについてお話ししたいと思います。
 最初にいじめの現状として、ジェントルハートプロジェクトが、つい最近発表したいじめのアンケートというのがございます。これは2012年10月からことしの5月にかけて、全国の8,000人余りの小中高校生にとったアンケートです。これは講演の後にアンケートに記入していただきました。そして、その6ページを見ていただきたいんですが、いじめの被害経験がある、そして少しあるというのを足すと全体で約4割、小学生では半数近くがいじめの被害経験があるというふうに答えています。どの地域のどの学校にもいじめはむしろあると思って対応すべきだと私たちは思っています。そして、7ページですが、いじめの被害経験のある3人に1人が辛くて死んでしまいたいと思ったことがあるというふうに答えており、10人に1人は死んでしまいたいと思うことがとてもあったというふうに答えております。
 子供の自殺というのが年間どのぐらいあるか、御存じでしょうか。A3版の資料を用意しているのですが、2011年度の文部科学省の発表の小中高校生の自殺というのは202人です。200人ちょっとですね。ですが、同じ年の警察庁の発表の職業別では353人自殺が報告されています。つまり、ほぼ毎日、小中高校生のうち1人が自殺をしているという計算になります。もちろん、いじめが原因の自殺とは限りませんが、少なくともいじめという原因がはっきりしているものに対しては対策をきちんととらなければならないのではないかと思います。
 現在のいじめの特徴について少しお話ししたいと思います。現在のいじめの特徴としては、まず低年齢化というのがあります。今までですと一般的に中学生ぐらいのいじめはこういったものではないかと思っているようなことが、もう小学校の段階で始まっていると考えてください。そのうちの例えば1つは性的ないじめ、それも、もう小学校の3、4年生ぐらいからあります。小学生というのは体の成長に非常に個人差がありますので、また羞恥心もそろそろ芽生えるということで、体育の授業中、特に水泳の授業のときに、着がえている最中に部屋から追い出したり、下着を隠したりということがあります。また、例えば恐喝金額など、小学校6年生で100万円とられていたという事件なども報道されています。
 そしてもう1つ、今のいじめは外部から非常に見えにくくなっています。これは事件があるたびによく言われていることです。今はいじめというのが遊びやゲーム、それからいじりという言い方をするんですが、ふざけやこうしたいじりと言われているものにカムフラージュされやすい。ただやってる側は結構わかっていてやっている。ただし罪悪感が薄いということがあります。大人がいじめを見抜く目を持っていないと、目の前で行われていてもわからないということがあります。特に部活動の中や、仲よく見えるグループの中でのいじめというのが、大人だけでなく子供たちの間でもわからなかったりするということがあります。
 そしてもう1つ、いじめの犯罪化というのがあります。よくいじめと犯罪行為とは分けるべきだという専門家の意見がありますが、現実にはいじめをやっている普通の子供たちが、相手が思いどおりになるとお金をとるようになったり、暴力を振るうのが当たり前になっていく、どんどんエスカレートしていくということがあります。特に暴力と恐喝というのは、少年犯罪の中でも非常に繰り返すことの多い犯罪です。学校内でそういった行為を見つけたら、少なくとも在学中に、もう繰り返させない、そういった指導が必要だと思います。社会に出てからではもう誰も指導する人間がいません。学校の中でいじめとしてあらわれているときは、むしろその子をきちんともとに戻すチャンスであると私たちは考えています。
 それから今、ネットによるいじめというのが非常に深刻になっています。ネットいじめというのは、今まで以上に時間と範囲を非常に広げています。以前でしたら不登校になったり転校することで、いじめから逃れられていた子供が、不登校になったり、それから夏休みの間もネットで誹謗中傷されたり、携帯電話で呼び出されてお金を巻き上げられるなどということがあります。今、多くの学校で携帯電話を持ち込ませないというやり方をしていますが、なかなかそれだけでは防げません。子供たちはこっそりと持ち込んでいますし、こっそり持ち込んでいるだけに、いじめられている側、そして見ている側もばれて携帯電話を取り上げられることを恐れて先生に言えないということがあります。特に携帯電話で暴行場面やそれから下着や裸の写真を撮ってネットに上げるということが、ごく普通の中学校でも頻繁に行われています。私たちが講演に行った学校でも、研修の後、実はうちの学校でも同じことがありましたという話を非常によく聞きます。これはほとんどそれほど大きく報道されることはなくても、どこの学校でも当たり前のように起きていておかしくないことだと思っていただいたほうがいいと思います。
 そして、現在のいじめの対応がどうなっているかということについてお話ししたいと思います。
 いじめ自殺が報じられると、文部科学大臣を初め、大人たちは子供たちにいじめの相談をしましょう、大人に言いましょうというふうに呼びかけます。先ほどのアンケートの9ページを見ていただきたいんですが、いじめられたときに誰かに相談しましたかという問いに対して、小学生の62.7%、中学生の54.7%、高校生の57.4%が誰かに相談していました。思っている以上に、子供たちは大人に相談しています。ただその相談相手というのは、私たちの想像以上に親が多かったというのがあります。どの学年でも教師より親が圧倒的に多かったということがあります。しかし、恐らく親は子供から訴えを聞いて学校の先生に相談するという形になると思いますので、やはりいじめ問題のキーマンは親というよりも学校の先生になるのではないかと思います。
 そして、文部科学省の平成23年度の児童生徒の問題行動等に関する調査では、いじめの発見のきっかけは学校の教職員というのが約半分近くなんですね。小学校で54.6%、中学校が48.2%、少し下がります。高校が51.9%です。それ以外は教職員以外からの情報ということになります。法人のアンケートでは、10ページに当たりますが、相談した結果、どうなりましたかということで、解決したというのが小学校で70%台から80%台、中学校では60%から70%台です。ただ、中には教師に相談した結果、かえって問題が大きくなってしまったと答えているものがあります。しかも、親よりもむしろ教師に相談したときに、若干ではありますが、問題がこじれてしまったと書いてる子供がいます。
 子供はいじめを打ち明けたがらないからいじめ問題は解決しないというふうによく言われるんですが、いじめ自殺事件を調べてみると、実際には子供やまたその保護者、また見ていた周囲の子供たちが心配して、先生に相談していたということが非常によくあります。大津のいじめ自殺事件でも、当初は学校はいじめを把握していなかったというふうに言っていましたが、いろいろ調査を進めるうちに、先生方の目の前でいじめが行われていたり、心配した生徒が職員室に先生を呼びに行っていたということがわかっています。
 法人では、教職員にもアンケートを実施しています。アンケートの26ページに教職員のアンケートの結果があるのですが、281件の回答が寄せられています。そして、いじめを解決できる、ほぼ解決できるという回答した教師は、小学校で約4割、半分以下ですね、中学校では3割に満たず、わからない、できないかもしれないと回答した教師が半分以上を占めていることがわかります。これは、かなり正直な答えではないかと思います。
 いじめ問題は1980年代の前後から社会問題となっています。1997年には森田洋司氏らが文部省の委託を受けて、大々的ないじめの調査を行っています。そのときに、いじめられている子供の5割以上が自分のいじめのことを先生は知らない、知っていても何もしてくれなかったと回答しているのですが、一方で、先生がいじめをなくそうとした場合、6割以上が効果があったというふうに答えています。しかし、その結果が果たしてその後のいじめ対策にきちんと反映されたのでしょうか。教師のいじめ対応力は、果たして以前より向上しているのでしょうか。今、少子化とそれから経済の低迷によって、教育予算が非常に減らされています。そんな中で、教師も正職員からどんどん非常勤の先生がふえています。非常勤の先生が生徒指導に責任を持つということは非常に難しいのではないかと思います。
 また、先生方の多忙化が言われて随分久しくなります。先生方になぜ忙しいんですかとお聞きすると、事務量が非常にふえている、またいろんな調査への協力要請が多く、また通知も非常に多いということを聞いています。文部科学省はたくさんの通知を出していますが、ほとんど先生方は読んでいないというのが私たちの実感です。余り読んでもらえないので、先生方一人一人に渡るように、薄いリーフレットのようなものをつくって、例えば自殺予防について簡単にわかりやすいものを配布していても、研修などでこれを読んだことがある方とお聞きすると、ぱらぱらっとしか手が挙がりません。その内容となると、ほとんどは記憶にないという形で、余り文部科学省の通知が生きていないというのが現状です。
 そして、法人アンケートでいじめの被害者は先生に相談したい、先生に解決してほしいと願っていることがわかりますが、一方で、先生はいつも忙しそうだと感じているということがわかります。先生がやはり忙しそうにしていると、なかなか子供も相談しにくいということがあるのではないでしょうか。
 そして、そのいじめ対策はいろいろ今、事件があるたびに新たないじめ対策というのが生まれていますが、その対策はうまくいっているのでしょうか。今、主にされているいじめ対策の1つに、学校で行われているいじめアンケートというのがあります。昔は年に1回程度だったものが、地域によっては年に3回も、学校によって7回もやっているというようなところを聞いたことがあります。しかし、実際にいじめ自殺があった後、そのアンケートにいじめは報告されていたのかどうかを調べてみると、今までほとんど報告されていなかったということがわかります。自殺後のアンケートにはこんなことがあった、あんなことがあったと書いてくれている子供たちでさえ、その事前のアンケートでは何も書いていないということがわかっています。ましてや、自殺に追い込まれるほどの被害者がアンケートには何も書いていなかったというのは、非常によくあることです。
 実は私、今、中学生の自殺事案の調査委員を務めています。もうすぐ報告書が上がる予定ですが、そこでもやはり、アンケートに事前にその子へのいじめは書かれていませんでした。1つには、アンケートがいじめを発見してなくすことを目的にしているのではなく、むしろ教育委員会に報告を挙げなければいけない、そのための資料づくりという形でルーチンワーク化しているのではないかと思われます。しかも、各クラスのアンケートは大抵担任教師が中継するそうです。かえって多忙化しているということです。また、せっかく子供がアンケートにいじめがあるというふうに書いても、何も対応されない、もしくは解決まで導いてもらえないと、むしろ教師への不信感になります。子供がアンケートにいじめがあると書くのは、非常にリスクの高いことです。それがいじめの加害者にわかってしまったら、自分がいじめの対象になったり、報復される可能性があります。それでもそこにわざわざ勇気を振り絞って書くのは、先生に何とかしてほしい、解決してほしいと思うからなんですね。でも、そこで書いても何の意味もなければ、だんだん子供は書かなくなります。そのために、アンケートの回数を重ねればいじめの件数は減ります。それを学校では場合によっては、アンケートを繰り返すことによっていじめへの認知が高まって減ったのではないかというふうに勘違いすることがあります。
 そして、また生徒指導をすると、そのたびに今、先生方は報告書を書かなければならないそうです。ですので、丁寧な指導をすればするほど、今度また事務仕事もふえていく、そのために忙しくなってしまうということがあります。事務仕事をしたくないために、また指導もいいかげんになってしまったり、しなかったりするということが現実にあると先生方から聞いたことがあります。
 そして、今のいじめというのは、先生方が1回や2回注意したぐらいでは簡単におさまらないです。何度も繰り返すことが多いです。そういったいじめをおざなりな注意だけでは簡単にはおさまらなくなります。また、慢性化したいじめというのは、だんだん見えなくなります。心理学者の中井久夫さんという方が、この慢性化したいじめのことを、風景の中に例えば電信柱があったとしても、電信柱というのは見えなくなる、透明化していく、それと同じで、あるのが当たり前になったいじめというのはだんだん子供たちの目にさえ見えなくなるというふうな解説をしています。
 またそれだけでなく、非常に問題行動の多いグループ、怖いグループ、加害者に対しては恐怖心が強くありますので、いじめを受けている児童生徒はもとより、それを周りで見ている子供たちも下手にその子たちにかかわり合って、自分が被害者になることを恐れて、不良グループのことはかえってアンケートに書けないということがあります。結果、先生方が、たとえ目の前でいじめが行われていても、いや、うちのクラスにはいじめがないはずだから、うちの学年にはいじめがないはずだから、これはいじめではないだろうと先入観を持ってしまうとしたら、アンケートの集計でかえって時間と労力を使ってマイナスにさえなりかねないという結果があります。
 そしてもう1つ、いじめの対策として多くの学校で実施しているのが児童生徒と教師との交換日記というのがあります。文部科学省が平成23年度の問題行動調査で、個人ノート、生活ノートを実施している学校を調査していますが、公立学校の場合、小学校で57.3%、公立中学校では77.5%、中学校のほうがこの割合が多いんですね。この日誌というのは毎日のことです。書くほうの子供たちも労力が要りますが、それをクラス全員分チェックしなければならない教師のほうもかなりの労力になります。形骸化してしまうと、これもアンケートと同じで、子供がそこにいじめのSOSを書いていても、それを読んでもいない、もしくは読んでも返事も書かないということが起きていきます。
 実は幾つかの自殺事案で、こういった生徒と教師との交換日記を私は見せていただいたことがあります。そうすると、その中に明らかにSOSのサインが書かれているにもかかわらず、教師からは何のコメントもなかったり、もしかしたらこのノートを早く先生が見ていたら、自殺を防げたかもしれないというような例があっても、その先生がそのノートを見たかどうかさえはっきりとわからないという状態のものがありました。こういった状態が続くと、子供たちはだんだん、ノートにいじめのことを書くのはばからしくなります。また、書くのがばからしくなるだけでなく、こういう先生に相談しても無駄だと思って、かえって日常的にも相談しにくくなるのではないかと思います。
 そして、教職員のいじめ研修がどうなっているのかについて、お話ししたいと思います。
 2010年12月に、幾つかのいじめ事件をきっかけとして、文部科学省が教職員のいじめ研修がどうなっているかの調査をしました。その結果、都道府県政令指定都市では約86%の教育委員会が生徒指導担当教員を対象とした研修を実施しています。研修または予定をしていました。約83%の教育委員会が初任者研修において実施または予定と回答、市区町村では約43%の教育委員会が生徒指導担当教員を対象とした研修を実施または予定と回答しています。特に実施の予定はないと回答した教育委員会は、市区町村で約34%でした。いじめの研修は結構行われているのではないかと思われるかもしれません。しかし、実態はこの調査のためにかなり駆け込みで、例えば私たちのところに研修依頼が殺到しました。
 日常的には、教員の研修というのは教科研修がほとんどです。例えば、国語、英語、数学などどのように子供たちに教えれば効果的かというような研修が中心になっていて、ほとんどいじめへの研修は行われていません。また、いじめの研修に参加している先生方であっても、人権教育担当であったり、生徒指導担当であったり、一部の先生であって、全教職員が参加するという機会はあんまり今までもなかったと思います。そして、あったとしても年に1回、それも私たち依頼を受けても1時間や1時間半程度の時間しかありません。しかも、来年もあるかどうかわからない中で、いじめの対応をお伝えするのにはかなり限度があります。研修の大切さを理解していただくために、私が教職員研修で主に使っている資料を今回用意させていただいています。これは先ほどの自殺の表やいじめの手口など、いろいろ資料をつくっています。何しろ短い時間での研修ですので、どうしても資料を持ち帰って勉強していただくというような形になります。この教職員の研修で感じることは、まず教職員のいじめ問題への関心の薄さです。統計調査ではそれほど上がってはこないかもしれませんが、学校でいじめや生徒間のトラブルというのは日常茶飯事です。毎日毎日幾つもあって、むしろ当たり前の状況です。そのために、かえって一般の人たちよりも先生方のほうが、いじめに対する感度が鈍っているのではないかというふうに感じています。
 リスクマネジメントの基本は、最悪の事態に備えることだと言われていますが、実際に事件のあった学校のコメントでは、関係者が言うには、今までも同じようなことは幾らでもありました。でも、それで大けがをしたり人が死ぬなどということは今まで一度もなかった、だから今度も大丈夫だと思ったというような言葉をよく聞きます。しかも、学校や管理職や教員の評価も、いじめがあればもちろんマイナスにはなりますが、いじめ対応を一生懸命やったからといって、いじめがなくて当たり前だと思われていますので、プラスの評価にはなりません。むしろ評価されるのは学力テストで点数が上がった、もしくは部活動で非常に活躍した、そういったことが評価の対象になりますので、どうしてもいじめ問題よりもそういった学力や部活動に力を注ぐということになります。そしてそのために、去年やことしのように、他の学校でいじめ自殺が非常に言われている状況であっても、なかなか自分の学校でも起き得ることだという意識が薄いようです。それは体罰問題でも言えていると思います。体罰問題があれだけ騒がれても、まだ同じような事件が後を絶たないということがあります。
 そして、先生方は忙しいせいか、ほとんどニュースもどうやらごらんになっていないようで、同じ県内のいじめ事件であっても、大きく報道されていないものについてはほとんど知らないのです。2006年度、いろいろいじめ自殺事件が報道されました。皆さん覚えてらっしゃるでしょうか。2005年の9月に北海道滝川市で小学校6年生の女の子が何通かの遺書を残して自殺を図りました。実際に亡くなったのは2006年の1月ですが、この事件は教育委員会がこの女の子の遺書を曲解して、友達関係の悩みが書いてあった――本当はいじめについてはっきり書いてあったんですが――友達とうまくやれないことの悩みを書いていたと曲解したコメントをしたために隠蔽だと騒がれて、日本全国から抗議の電話がきました。また大きく報道されました。
 そして同じ2006年に10月11日――大津のお子さんが亡くなったのも実は10月11日で、きょうも10月11日なんですが――福岡県筑前町の当時中学2年生の森啓祐君がいじめを苦に自殺をしています。この事件の場合、1年生のときの担任の言動が発端となって、先生がいじめているんだから自分たちもいじめてもいいと思ったということで、非常にメディアでも大きく取り上げられました。ただ、2006年に大きく取り上げられたこの2つの事件を、今、教職員研修で覚えてらっしゃる方とお聞きすると、ほとんど手が挙がらないのです。せいぜい管理職が、ああ、そう言えばそんな事件あったなということで手が挙がる程度です。今現在、大津の事件に関してはほぼ100%手が挙がります。でも、一、二年後にはまた同じ状態になるのではないかと思います。
 第三者委員会がつくった大津の報告書は、滋賀県のホームページから無料でダウンロードできます。しかし、教員研修で約30名いて、その中でその報告書を読んだことのある方とお聞きすると、せいぜい1人か2人、手が挙がるか挙がらないかというのが現状です。また、中には教育委員会の担当者でさえ読んでいなかったというところもあります。
 そして、いじめの手口についてもある程度わかっている学校と、ほとんどわかっていない学校というのが教員研修に行っても非常に差が大きいというのを感じています。例えば消しゴムを机にぽんと置く、この意味というのは皆さんおわかりになるでしょうか。消しゴムをぽんと置く。もしくは消しゴムをちぎって投げる。この意味というのは、消えろという意味があるんですね。実際に亡くなった女子生徒がお母さんに、男子生徒が消しかすをつくって頭からかけるという相談をしていて、そのうち先生に相談しようねと言っている間に自殺をしてしまった。また、ことし、男の子が消しゴムを投げつけられたことを理由に、トイレで相手をナイフで刺してしまったという事件がありました。この事件の消しゴムに、果たして消えろという意味があったかどうかはわかりませんが、先生方がその意味を知っているのと知らないのとでは随分違うと思うんですね。消しゴムというのは当たってもけがはしないです。痛くないです。でも、これに消えろという意味が込められていたとしたら、心はかなり痛いのではないかと思います。
また、マクドナルドのコマーシャルで、ピエロが踊りながらランランルーというコマーシャルがあるんですが、それがどういう意味でいじめでは使われているか、御存じでしょうか。教員研修でこの話をしたところ、ある先生が言っていました。実は児童から、自分もランランルーと言われたことがある。その子はランランルーと言って逃げて行った。でも、その意味がわかりませんでしたとおっしゃいました。ランランルーとは、子供たちの間では死ね、死ね、消えろの意味で使われています。これはネット検索すると出てきますので、多分かなり広く使われている言葉ではないかと思います。こういったことも知らなければ、目の前でいじめが行われていても見過ごしてしまいます。
 そして、私たち法人では、いじめは加害者の問題であるということを1つのスローガンとして言っています。いじめの加害者というのは大勢です。場合によってはクラス全員がいじめにかかわっているということがあります。それというのも、いじめに加担しなければ、自分が今度いじめのターゲットになってしまうかもしれない、そういったおそれから、いじめに加担せざるを得ないという事情もあります。よく大人たちは、いじめの傍観者も加害者だと言うんですが、私たちはいじめの傍観者も、いじめにおびえる被害者であると考えています。むしろ困難ないじめの解決を子供たちにだけ押しつけている大人こそが傍観者であり、加害者ではないかと思っています。
 そして、人数的にもいじめの被害者は数が少なく、また親も子供も守ってもらわなければなりませんので、先生の言うことを比較的よく聞いてくれます。そんな中で、どうしても被害者にああしなさい、こうしなさいと言うことが多いです。でも、現実には被害者がどれだけ努力しても、加害者が変わらない限りいじめというのはなくなりません。よく被害者にも問題があるんじゃないかというふうに言われますが、欠点があるのは人間当たり前のことです。欠点があればいじめてもよいのでしょうか。子供たちの研修で言うのは、いじめは被害者がどれだけ努力しても、なくすことは困難です。でも、いじめの加害者がいじめであることを自覚して、やらないと決心して実行に移せば、いじめは確実になくすことができます。もしくは、いじめを見ている大勢の子供たちが、いじめる側につかずにいじめられている側について、本気でいじめをとめようと思えば、いじめは確実になくすことができますという話をします。
 そして、いじめとネグレクトを含めた児童虐待とは非常に密接な関係があります。研修資料の中に、愛着障害とADHD――注意欠陥多動性障害の比較表というのを入れています。これは主に小学校の教職員向けのときに、私は必ず入れるようにしています。愛着障害というのは、5歳未満の母と子の間に愛着のきずなが形成されなかったことによる人間関係の障害です。実は幾つかのいじめ事件で、背景にこの愛着障害があるのではないかと思われる事例があります。また、学級崩壊の中心になっている子供が、やはりこの愛着障害ではないか――もちろん私は心理学の専門家ではありませんので、断定することはできませんが――いろいろなデータを見るとそうではないかと思われるものがあります。しかし、学校の研修で一般の教職員はもとより、養護の先生たちでさえ、この愛着障害というのを知らないという方が非常にたくさんいます。一方で、ADHD――注意欠陥多動性障害については、ほぼ100%先生方が御存じです。それというのも、文部科学省がクラスに何人いるか数字を上げてくださいという形で、こういった特徴の子がADHDですということを盛んに言っていますので、ほぼ御存じです。ただし、深いところまでわかっているわけではないので、かなり勘違いされているのではないかと思います。
 この愛着障害というのは、相手によって子供の態度が大きく変わります。そこがADHDとの大きな違いなんですね。厳しい男の先生のときには何の問題も起こさなかった子供が、次の年度、優しい女性の先生が担任になった途端、非常に問題行動が多くなった。そうすると、その女性の先生の指導力に問題があるのではないかと、ほかの先生方もまた親も思ってしまうという、また先生自身がそう思ってしまうということがあります。その結果、うつになって休職せざるを得なかったり、中には不幸なことに自殺をしてしまった小学校の先生もいます。愛着障害というのは実は治らない障害ではありません。愛着のきずなの結び直し治療で、後からでも修復できます。しかも、早ければ早いほど脳の発達を助け、治療効果が高く、短期間で済むというふうに言われています。海外の研修でも、16歳までであれば80%の子供たちが回復するというふうに言われています。
 資料には、愛着障害の子供に対する接し方を具体的に挙げています。これらは、愛着障害の子供でなくとも通じるようなことです。例えば、子供が他人や自分を危険にさらす行動をしたときだけ、その行動の何がいけないのか、行動を描写してきっぱりと諭す。中には、自分で考えてみればわかるでしょうと言っても、本当に障害があって相手の気持ちがわからない子供がいます。そういった子供に、きっぱり具体的に何がいけないのかを言いながら禁止する、やってはいけないことはやってはいけないと言う。そして、いいことをしたときにはきちんとほめるというような、それも行動を描写しながらほめるということで勘違いさせない、間違ったことを教え込まないという効果があります。これは愛着障害以外の子供にも適用できますし、逆に愛着障害を知らないと、こじれさせてしまう。むしろ被害者にも加害者にもしてしまうということがあります。
 また、いじめを発見したときの教師の対応というのがまずければ、先ほどのアンケート調査にもありましたが、いじめの被害者をかえって追い込んでしまったり、加害者を増長させてしまったりすることがあります。
 私たちは学校に行っても、先生方から、あの子の場合、実はいじめられていると思い込んでしまった被害妄想なんですというふうに言われることがあります。どうしてそう思ったんですかとお聞きすると、加害者と言われる子供たちに聞いたら、自分たちはいじめていないと言った、だからあの子の勘違いだというふうにおっしゃるんですね。でも、いじめの加害者が正直にいじめましたと認めることのほうがむしろまれです。そのような場合は、むしろいじめへの関与の低い子供から先に聞き取りをして、事実を固めてから最後にいじめ加害者に事実と照らし合わせながら聞くという方法をしなければなりませんが、そういったノウハウが現場に蓄積されていないと思います。また、教師同士の連携や保護者との連携も非常に大切です。
 最後に、行政に求めるいじめ対策についてお話ししたいと思います。
 いじめ防止対策推進法が施行されたことで、これからはチームでこのいじめ対応をしなければならないということになりました。しかし、これが形骸化すれば、今までと何ら変わらないということが起きると思います。まずは先生方の忙しさを解消する工夫をしていただきたいと思います。できるだけ正職員の先生方をふやしていただきたい。また、事務量をできるだけ少なくして、もしくは事務専用の方を置いて、先生方が授業やそして生徒指導に専念できるような環境を整えていただきたいと思います。特に小学校時代というのは、いじめ問題の解決にも非常に肝心な時期です。小学校のうちはきちんといじめを発見して指導すれば、子供たちも比較的反省をし、繰り返さないということがあります。それが中学校、高校まできちんと指導されることなく続けば、なかなか中学、高校生になっていじめはいけない、こんなことはしてはいけないと言っても、やはり繰り返すことが多くなります。また、生徒が繰り返したときの指導についても、繰り返しているときにまた同じ指導をしても同じことが起きますので、きちんと前の指導の何が悪かったのかを反省して、別の指導方法を考える、もしくは繰り返している子供に対しては、次回はいついつに話し合いをしましょうということを必ず約束して、その間の緊張感を持たせるなどの工夫が必要だと思います。こういったノウハウを研修によってやはり身につけることができるのではないかと思います。
 そして、子供向けの研修としては、相手の立場を想像する想像力、そして辛い気持ちを理解する共感力、自分の気持ちを伝え、相手の気持ちをきちんと受け取るコミュニケーション力を育てるプログラムを提案しています。この3つの能力を高めることは、いじめ問題の解決だけでなく、よりよい社会に生きるための知恵となるのではないかと思います。
 また、現在、研修が予算的にもそれから手続的にも多忙な中で、非常に難しいということがあると思いますが、私たちのところへの依頼でも、教育委員会単位で研修を承ることが非常によくあります。熱心なところですと教育委員会単位で私たちのところに依頼があり、特に地方の場合、交通費が非常にかかります。ですので、1回地方に行って、そこで何人かで手分けして全ての小中学校で研修を行う、そういった形もありますし、また小学校の5、6年生と中学生が一緒になっていじめの講演を聞くというようなところもあります。そうすると、中1ギャップの解消にも役に立ちますし、また予算面でも、また手続面でも簡略化することができます。また、教職員研修でも、多忙な教職員が参加しやすいように、幾つかの学校で合同して、幾つかの日にちを設定して、自分の都合のいいところに出られるようにするなどの工夫がされているようなところもありました。
 また、先ほどお話ししましたように、いじめ問題と児童虐待の問題というのは密接な関係があります。また、今、児童虐待は非常に深刻な状況ですので、児童虐待を発見するという意味でも、またいじめを発見するという意味でも、児童虐待の研修を児童相談所などと連携して行う、またそれに保護者も参加できるような形があるとよいのではないかと思います。
 ざっと早口で説明しましたが、私のほうからは以上です。ありがとうございました。

○多家委員長
 ありがとうございました。
 以上で武田様からの意見陳述は終わりました。
 これより質疑に入ります。
委員の方にお願いいたします。質問はまとめてするのではなく、なるべく一問一答方式でお願いいたします。
 それでは、御質問、御意見等がありましたら発言願います。

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