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委員会会議録

委員会補足文書

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平成25年10月子どもの人権擁護特別委員会
参考人の意見陳述 常葉大学こども健康学科 准教授 柴田俊一氏 【 意見陳述 】 発言日: 10/11/2013 会派名:


○柴田俊一氏
 おはようございます。常葉大学の柴田と申します。
 私、実は浜松市の行政に30年ほどおりました。正確には27年と少しですけれど。昭和57年だったと思いますけれど、一番最初が浜松市の保健所に心理相談員として就職をいたしまして、保健所の仕事が12年、その後、市役所の中の家庭児童相談室――昔、児童家庭課とか児童保育課と言っていたセクションですね、そこで、相談と事務系の仕事もしておりましたので、今の子供子育ての前の、その前のエンゼルプランの時代でしたけれど、エンゼルプランの事務局をやり、その後に浜松市の子育て家庭支援センターをつくりましたので、そこの所長を2年やらせていただいて、大学に移る前、最後の2年が、県の児童相談所には大変お世話になったのですが、浜松市が政令市になったときに児童相談所をつくりましたので、そこで心理の仕事をしていました。
 きょうは、虐待の話をさせていただくのですが、もう30年前になるんですけれど、実は一番最初、保健所に勤め始めたころに、アメリカでバッタードチャイルド――ひっぱたかれる子供という意味ですね、バッタードウーマン、そういう言葉がニュースでちらちら聞こえてきまして、日本で起こる現象はアメリカにおくれること10年とよく言われていましたが、そんなことになるのかなと懸念を持って見ておりましたら、間もなく保健所の相談の中に子供をたたくのがやめられない、あるいは自分も虐待されて育ったので、子育てをどうしていいかわからないというふうに言うお母さんたちがちらほら出てきたんですね。これは、何だか大変なことになるなという感じがありました。
 当時、まだ虐待についての研修などはほとんどされていなかったのですが、一遍やっておかなきゃと思って虐待の研修を始めました。当時の上司が今の保健所長なんですけれど、母子保健の分野では、より伸びる方向に行く話がメーンの研修でしたので、「柴田君、そんなことやって暗い話だね、虐待という世の中の暗い部分の研修などやる必要があるのか」と言われたんですけれどもね。当時、浜松医大にいらっしゃった、今は東海大の教授になってらっしゃいます松本英夫先生に講演をお願いしたのですが、「残念ながら柴田君、まだ僕は虐待の子供を見たことがない」とおっしゃっていた時代だったんですね。当時、児童相談所は主に不登校の子供の相談をやっていまして、不登校の子供のキャンプですとか療育教室とかをメーンでやっていたところでしたが、ほどなくして一挙に、あっという間に虐待の対応で追われることになってまいりまして、私は母子保健の分野から福祉の分野に来たものですから、言ってみれば一番入り口のところから、一番重い状況のところを行政で経験させていただいて、今、大学でそのことを教えるという立場になっておりますけれども、そんな経験の中からきょうはお話をさせていただこうというふうに思っています。
 まず、お手元の資料の中で、2005年、もう随分前ですけれども、A4横書きの「人生」という毎日新聞の東京版に載った記事です。これの電子版でコピーしたものです。25歳主婦。
「30度を上回る暑さのせいなのか、毎日いらいらする日が多い。夜、2歳の娘が寝てくれると、やっと1人の時間。ため息をつきながらパソコンをいじる私に、主人が、毎日こんな涼しい中で3食昼寝付か、いいなあ、俺も女に生まれたかったとぼやく。3食昼寝付、冗談じゃない。その3食をつくっているのは私だし、昼寝しているのは娘だけ。働きに出たいと言った私に、子供が幼稚園に行くまでは家で子育てしろと言ったのはあなたじゃん。なぜ、いつの時代も専業主婦という立場はこんなにも弱いのだろうか。会社は休みがあるけど、専業主婦は完全に休める日なんて絶対にないんだよ。外食に行っても子供の食事補助をしたり、あやしたりでゆっくり食べてなんかいられない。せめて土曜日の午後くらい1人にさせて。独身時代に想像していた結婚の理想と現実が余りにも違い過ぎる。まるで出口のないトンネルを歩き続けているようだ。確かに子供はかわいい。大切だが、主人は……というのが本音。結婚って何だろう。恋人同士にはあった思いやりというものがお互いになくなってしまったのではないだろうか。この先、何十年もずっと一緒にいると思うと将来が不安になってしまう。私の人生って何だろう」。
 この記事は、当時の子育てをしている主婦の代表的な意見だったと見えて、この後、この新聞の読者投稿欄に似たような記事がずっと続きました。途中からお父さんが僕はそれでも頑張っているという記事が出たり、いや、昔の女の人はそれぐらいのことではへこたれなかったとか、いろんな意見が錯綜しました。
 この記事の中で注目しておきたいのは、これぐらいの時代からちょっと過ぎて、実は保育所に子供を預けて働いている女性が産む子供の出生率と、子供を産むために会社をやめて家庭に入った女性が産む子供の出生率が逆転し始めたんですね。これ、おかしな現象なわけですよ。本来、子供をたくさん産むぞと思って会社やめたはずの女性が、このような状態で煮詰まっていってしまって、もう子供は1人で十分だ、旦那は帰ってこやしないし、協力はしてくれないしということで、精神的な疲労度が専業主婦のほうが高いことも調査でわかっています。保育園で働いているお母さんは、体はきついし、時間はないし、どたばただし、大変なんですね。ところがやっぱり、仕事に生きがいを感じているし、保育士の先生方と一緒に子育てをするという感覚がありますので、育児の社会化とか言われたりしますけれども、そんな現象の中で、2人は珍しくなくて、知り合いの保育園の先生たちの話では、このごろ3人ラッシュでというような話が結構保育所ではあるんですね。
 というふうに、専業主婦の人の煮詰まり感というのは、実は結構大変なことになっています。
 前のホワイトボードに4分割の図を書かせていただいたんですけれど、この図は虐待をされて育った、虐待を今している――世代間伝達と言いますけれど、虐待をされて育ったので、やっぱり親にされたとおりに自分の子供を虐待してしまうという現象で、虐待されて育ったので自分の子供のほうにもしている。図のここは虐待されてないし、自分の子供にもしてない。ここは虐待されて育ったわけじゃないのに、自分の子供には虐待をしてしまっている。この人たちが煮詰まっていくと、だんだんイライラして子供をたたいてしまうという現象が多くなりますね。もう1つ注目すべきは、虐待されて育ったひどい親子関係だったけど、今、自分の子供にはしてない。この人たちは多分、社会的なサポートがきいているんですね。この人たちも注目に値するなと思いました。
実は虐待されて育った層がふえてきているので、虐待の件数が一挙にふえたんだろうなと思っています。
 ホワイトボードのこの三角形の図もよく出ます。健康な子育てをしている多くの層、少し煮詰まってきている層、手が出始めた層、虐待に至っている層。パーセンテージから言いますと、図の一番上の虐待というふうに認定される人たちは、出生人口の中の1から3%と言われていますので、絶対数としてはそんなに多くないんですけど、我々が心配しますのは、むしろイエローゾーンとかグレーゾーンのところで、けがをするとか死亡するまでにはもちろん至らないけれど、非常にぐあいの悪い親子関係の中で育ち、大人になってまともに働けない、非行になる、ひきこもりになるみたいな子供たちの多くの根っこを探っていきますと、実は虐待をされていた履歴のある人が非常に多いんですね。不登校とか非行の施設に行きますと、大抵そんなような子育て時代の履歴があります。
 というわけで、スライドを少し見ていただきましょう。
 これは、心理テストの一種で、心理学でバウムテストという1本の実のなる木を描いてくださいという心理検査です。長いこと、この仕事をやっていますけれど、こんなに曲がって異常な姿をする木を描く子は見たことがなくて、通常、くるくると描いてりんごがなっているようなかわいい木を描く子供たちが多いんですが、こんな木を描く子がいました。何だろうと思って資料をひっくり返していきましたら、その異常な絵を描いた子は、新しくきたお父さんに空手チョップ方式で首を横からがつんとやられて、頸椎がずれて首の骨が欠けてしまって大変な状況になりました。ちなみに、この写真にあるあざですが、ほっぺを親指と人差し指でつまんで思い切りぐいぐいとやられると、親指側の小さい跡と、人差し指側の大きいV字型になります。実はこのようなあざをつくってくる子が、どこの保育園でも毎年1人や2人はほぼ必ずいます。残念ですけれど、そういうのが現状です。仕事の経験上ですけれど、この子たちを見ていると、数カ月おきにより深刻な状況になってくるという、そんなケースがたくさんありました。
 その子たちの問題は、大人を信用できなくなることす。こんな状態にさせられて、大人が信頼できる人と思えるはずがないわけで、この子たちは心の傷を負っていきますので、愛着障害――大人との心のきずなをうまく結べなく育ってしまった子供たちの状態を「愛着障害」というふうに言います。これはアメリカの子供が描いた愛着障害の子供の絵です。これがおもしろいこととして認識されているんですね。頭がつぶれて、手首がちぎれているみたいな激しい暴力性のものをおもしろいと感じてしまう。
 これは、私が児童相談所時代にいた子供が描いた日本の子供の絵です。こんなことも描いてしまいます。この子は思春期で、中学生になっていましたので、喉頭蓋のことを喉ちんこと言いますけれども、口から男性性器状のものが飛び出していて、それが殺人ビームになるという、要するに性的なエネルギーと暴力性は近いところにありますので、こんな絵になってしまいます。
 そういう状態にあった子たちが荒れていく、乱暴になっていく、暴力的になっていくという状態を少しビデオで御紹介しておきたいと思います。静岡県立吉原林間学園も情緒障害児短期治療施設と言いますが、そこと同じような施設です。
(ビデオ上映)
 今の図が一番わかりやすいわけですが、要するに心に傷を負ったまま大人になろうとする子たちは、すごく生きにくいということが起こるということです。スライドを続けます。
 愛着の大切さ、定義が書いてありますけれども、心のきずなができることだということですね。それがうまくいかないと、愛着障害という状態になります。なつくことができないか、無差別に誰かれとなく、くっついてしまう。さっきの男の子がディレクターの人にいきなり抱きついていましたけれど、あんな状態を起こしてしまうんですね。実は、中高生の援助交際をする女の子――男の子も含めてですけど――そういう状態になっちゃう子たちに、少し自分のことを構ってくれれば無差別的に誰でもいいんだという、そういう子たちがいるというふうに言われています。破壊的な行動が多くなります。愛きょうを振りまく、今の行動ですね。それから、逆にお母さんの側が子供に何だか自分の子供じゃないみたいだなというふうに、親の側の要因で子供に愛着を感じられなくなってしまったということも実はあります。そのような状態になると、子供たちは問題を起こしてくれますので、そうすると困った子だな、手に負えないな、厳しい処罰、より温かみのあるかかわりを失う、より強くしかる、やっぱりこの子はね、とこの図のようにぐるぐる回り始めるんですね。このサイクルをエスカレーションサイクルと言いますけれども、この状態になっていくと、子供たちは言うこときかないので、たたいてしつけるしかなくなっていくというふうに親御さんが思ってしまうんですね。
 今、浜松医大にいらっしゃいます児童精神科医の杉山登志郎先生は、これが発達障害の子たちにも見られるし、虐待の被害に遭った愛着障害の子たちにも見られると。実は、虐待の問題を発達障害と一緒に論じなければいけないのは、発達障害の子たち、特に2歳代は多動なもんですから道路に飛び出すんですね。あるいは高いところに上って落ちるものですから、危ないんですね。危ないので、親御さんは、言ってもきかないので仕方がなく、道路に飛び出すときに思い切りおしりをぺんってやるととまる。それを学ぶと、体罰でしかこの子は言うこときかないんだというふうになっていって、実は発達障害をベースに持った子供たちが虐待的になっていくという現象をよく起こします。だから虐待は第4の発達障害だというふうに杉山先生はおっしゃっていて、その治療を今、浜松医大で懸命に行っていらっしゃいます。杉山先生はもともと静岡大学にいらっしゃって、あいち小児保健医療総合センターに行かれて、また今戻ってきておられますけれども。
子育て状況がだんだんおかしくなってきているということは、虐待の増加にあらわれているわけです。この資料は数字がまだ変わっていませんけれども、ことしの速報値は6万5800件ぐらいで、多分来年は7万件に近づくと思います。平成2年のときに1,000件でした。60倍になっています。世の中で60倍になっている現象ってそうそうないわけで、何かおかしくなっているということが起こっています。
 虐待は御存じかと思いますが、身体的虐待、ネグレクト――ほったらかしのことですね。それから性的虐待、心理的虐待というふうに分けます。児童福祉法の改正で、DVの目撃――目の前でひどい暴力を起こしている状況を見せられるだけで心理的虐待になるということが知られています。実はこの被害に遭った子供たちはたくさんいまして、夫婦げんかは誰でも子供にとって嫌なものですけれど、それの激しいものは非常につらいことになるということがあります。
 何でこんなことになってきたのか、1つの仮説なんですが、昭和初期の家庭の状況を考えてみますと、いわゆるサザエさんの家みたいに、3世代同居で、隣の家からのぞけば縁側が見えてみたいな、そんな家庭状況で子育てをする夫婦が多かったはずです。だから、おじいちゃん、おばあちゃんが面倒を見てくれる、見よう見まねで子育てが伝承されていくという現象がごく自然に起こったはずなんですね。ところが、戦後、団地というものができ始めました。高島平に今の天皇家が2階から手を振っている映像がありますけれども、団地は文化的な住宅で非常にすばらしいと思われていたんですね。ところが、集合住宅になって、ドア1つでプライバシーが守れるかわりに、誰も入ってこられなくなったという現象を起こしました。結果、子育てが孤立化していきます。孤立化する中で核家族が見よう見まねができなくなったんですね。要するに、何かに頼らなきゃいけない。
 戦後、日本が頼ったのはスポック博士の育児書なんですね。あれに、子供は30分までは泣かしていいと書いてあるんです。忘れもしませんけど、私が保健所にいるとき、「子供が泣いてます。今29分ぐらいたっていますけど、もう抱いてもいいですか」と電話をかけてきたお母さんがいましたけど、それだけマニュアルにとらわれないと子育てができなくなっちゃったんですね。その団地世代の人たちが、次の世代でどうなったかというと、テレビが子育ての邪魔をする。今、小児科の先生たちは、子供たちに2歳まではテレビ見せなくていいとおっしゃっています。そういうキャンペーンをしてますね。テレビを長時間見ている子が落ちつかない、乱暴になるというデータもはっきり出ています。そのような状況で、テレビ、ビデオが邪魔をする。その次の世代は、インターネット、テレビゲーム、さらに今の世代は携帯、スマホということになってきます。それで、昭和の初期に仮に育児能力を100持っていた人たちが、核家族になって世代間でうまく子育てが伝承されていかなくなっていって、80%の育児能力しかない。80%の育児能力の人が、テレビ、ビデオに邪魔をされて、さらに60%の子育てをする。その次の世代の人がテレビゲームや携帯電話やスマホに邪魔されて、40%の子育てをするというように、だんだん育児能力が退化してくるような現象を、今、目の前で見せられている気がしています。
 ですから、今、子育てを応援しているNPOの人たちと話をしていると、「この間、そこに赤ん坊を寝かせていて、ちょっとぐずってるもんだから、ほらほら、お母さん、そこの赤ちゃんあやしてやればって言ったら、え、あやすってどうやるんですかって聞いてきたお母さんがいた」と言っていました。それから、我々が昔、保健所で相談しているころは、赤ちゃんが0歳代のときは言葉をしゃべらないので、言葉はわからないからしゃべってもしょうがないんだと思って、しゃべりかけることを一切しなかったというお母さんが出てきて、びっくりしたことがあったんですね。今はそんなお母さんは、別に珍しくもないですね。「赤ちゃんはしゃべらないので、私は赤ちゃんに語りかけることをしてきませんでした」みたいなことを平気で言う人が幾らでもいます。
 というわけで、このごろは民生委員さんのところでしゃべらせていただくときに、「もうそろそろ皆さんは育児能力を持っている最後の重要無形文化財で、人間国宝みたいなものなので、亡くなる前にちゃんと伝承してから死んでいただかないと困るんです」と申し上げています。要は未熟な親御さんがふえてきているなというふうに思います。
 実は、虐待が1,000件から60倍にふえるこの現象の中で、児童相談所の数は195から200ちょっとになっただけです。それから児童相談所にかかわる専門職のケースワーカー、心理職の人たちは全国で2倍にもふえていません。たまたま青森県とか鳥取県が職員の数を一挙に2倍にふやしたら、虐待の件数を減らすことに成功しています。やっぱり圧倒的に人が足りないんですね。だから、県の児童相談所の方もそうですし、浜松市、静岡市の政令市の児童相談所もそうですけど、大体虐待は昼間発生して、夜、親御さんに接見をして子供を保護したりしますので、そこから記録を書き始めますから、9時に仕事が終わっているということはまずないですね。だから、どこの児童相談所も9時、10時に電気がついています。日曜日でも電気がついているところは珍しくありません。そんな状況でみんな疲れ果てて、毎日どたばたをしているのが児童相談所の現状です。1日だけでもいいので、いていただくと、どれぐらいどたばたしているか、おわかりになると思います。
 ところが、アメリカは1993年をピークに身体的虐待の数を46%、性的虐待数を51%、ネグレクトは減らすことにうまく成功していませんが、直接的な暴力とか性的な暴力を含む虐待を半減させているんです。これは物すごいことでして、アメリカは法律が違いますので、お聞きになったことがあると思いますけれども、車の中に子供を3分放置しておくと虐待で通報されますし、見てそのまま通り過ぎてしまった、通告をしなかった人も通告義務違反で警察に逮捕されることが起こるんですね。そのぐらい厳密に虐待を規定していますので、圧倒的に数が違うんですが、それでもその圧倒的な数の大きさを半減させているって、社会的な現象として物すごいことだなと思います。
 日本で公衆衛生上でうまく機能しているのは、虫歯を減らすことです。昔、3歳児健診のとき、虫歯の率は50%を超えていましたけれど、今、3歳児健診で虫歯の子は20%を切っていますので、公衆衛生の成功例です。ところが、残念ながら児童虐待はここからずっと右肩上がりでふえるばっかりです。厚生労働省がこれでピークを打ったかもしれないみたいなことを言いましたけれども、現場はちゃんちゃらおかしいやと思っていましたね。どんどん伸びるだろうと思っています。残念ながら、このカーブはそう簡単にはこの先下がらないと思います。
 何でアメリカでそれをやり遂げたかというと、実は親が親になるための教育プログラムを圧倒的にたくさんやっています。人間は子供さえ産めば親になれると自然に思われていました。それは三世代同居であったり、隣近所が手伝ってくれるという条件のもとではそうだったんですね。ところが核家族化して、誰も子育てを教えてくれない、誰か教えてくれた経験があるかというと、小学校5年生のときに、人間の赤ちゃんを観察しましょうというのと、おたまじゃくしを観察しましょうというのがちょこっとあるのと、保健体育で育児という単元がほんのちょこっとあるだけですね。あとは義務教育も大学教育も、保育士とか医学教育でない限り、圧倒的に子育てについては学ぶ機会はないんです。それでいきなり親になるわけですから、自動車教習所に行ったこともないのに、いきなり車を運転しろと言われるぐらい大変なことが、子育て中の初めに起こっています。そこら辺の大変さを誰も教えてくれないまま、親になってしまうわけですね。
 アメリカはそれに気がついて、ペアレント・トレーニング、通称ペアトレとかペアレンティングと言われていますけれども、日本に入ってきているもので言えば、コモンセンス・ペアレンティング、オーストラリアのトリプルP、それからノーバディーズパーフェクト――完璧な親なんていないというふうに訳して日本に紹介されています。こんなような、親が親になるための講座というのを圧倒的にたくさんやっています。基本的には週1回2時間、6回から10回ぐらいをベースにしています。今までも保健所で親になるための講座とか、両親学級とかいろんなものをやっているのですけれど、圧倒的に数が少ないですね。
 実は、静岡県では、ここ3年ぐらい、コモンセンス・ペアレンティング、ノーバディーズパーフェクト、そのほかのプログラムを導入してやり始めていただいています。私もかかわっているNPOが受託をして全国からこれらの先生を呼んできて、これらのプログラムがやれる人を育てるという仕組みをやり始めていただいていますので、そこについては非常に静岡県は先進的な取り組みで評価に値するなと思っております。
 ちょっとだけ内容を御紹介します。
 これはコモンセンス・ペアレンティングの教材なんですが、こういうビデオ教材になっていまして、お母さんたちは順番にセッション1から順番にビデオを見ながら、子供とのかかわり方を学んでいきます。どんなふうにかかわると子供が言うことを聞いてくれるかみたいな仕組みになっています。
(ビデオ上映)
 こんな形でモデルが示されていて、それを親御さんが学んで帰る、取っかかりをつくることで子供との関係が変わるというのを体験していただく教材になっています。
 実は、コモンセンス・ペアレンティングは、アメリカでデータがすごくたくさんとってありまして、このプログラムを受けた親の子供が成人になったとき、それからこのプログラムを経験してない子供が成人になったときに、それぞれどんな仕事についているかとか、学歴とか、経済状況とかを調べたんですね。そうすると、圧倒的にコモンセンスの講座を受けた親御さんのところで育った子供たちは順調に大人になっていて、対人関係もよく、優秀な納税者になっているというデータがあるんですね。一方、そうでないところは、最初につまずいてしまうとしかり飛ばす、たたくしかない、結局、集団教育の中でうまく適応できない、いじめられる、いじめる、不登校になる、非行に走るみたいなことが確率的に多くなってきますので、それで結果的に労働も続かないみたいなことがデータで示されています。そんなことを町ぐるみでやりましょうというので、市民感覚の親教育というふうに言っています。そんなものがだんだん日本に今、入ってきています。
 実は虐待の問題を扱うときに、一番最初にある国が気がつく取っかかり、虐待なんかないんだと言っている時代があるんですね。そのあとにやっと、虐待ということがあるらしい、そのあとに、身体的暴力についてはとめに入る、医療がかかわる、子供を保護するという時代がきます。そのあとに実は、それはいつまでやっていても、モグラたたきでだめだなということに気がついた人たちが、発生を予防するしかしょうがないだろうというところにいくんですね。そうすると、この手のプログラムをたくさんやって、親が子供をたたかなくてもしつけられる方法を教えていく、親が子供とよい関係を築く、愛着形成がうまくいくような関係を築くことをより早期にやり始めたところは、アメリカのように減らすことに成功し始めています。だから、日本も今やっと、これは予防を中心的にやっていくしかないんだということに、行政その他関係者が全面的にそっちに向き始めていますので、今、全国的にノーバディーズパーフェクト、コモンセンスが中心ですけど、和歌山県でトリプルPをやっていたり、ペアレント・トレーニングはあちこちの施設でやっていますけれども、そんなものが一種の流行のように広まりつつあります。
 この写真のように、たばこの火を押しつけられると、じゅっと、こんな跡ができますね。こんなあざをつくってしまう子もいます。結果的に、何が問題かというと、虐待されて育った子たちが大きくなって、リストカット、自殺、心的外傷、人格障害、性的な行動化、乖離――乖離って記憶が飛んでしまうことですけれど、乖離から多重人格になっていくと言われています。不眠障害、暴力性の問題、ありとあらゆる精神的な不調の根っこが虐待の問題から発生してくることがあります。
 このスライドは、ごみ屋敷と通称言っていますけれどもね。ペットボトルを持って公園の水道に水をくみに来ている変な子がいるぞと言って追っかけていったら、こんな家だったということであります。ネグレクトと言って、大抵こういうごみ屋敷状態になりますね。
 虐待は何で起こるか。その背景は、望まない妊娠、望まない子供、貧困、家庭内の不和、精神疾患、保育能力不足、アルコール、薬物。現場で仕事をしていますと、ただの養育能力不足じゃなくて、これらのことがだんだんひっ絡まってきて、ほぼ全てに当てはまるような状態までいくと、ひどい虐待状況になることが多いなというふうに思います。
 このスライドは、世代間伝達の問題と言いますけれども、やっぱり一発なぐられた子は、なぐられた爆弾が、この子供が大きくなるにしたがって大きくなっちゃうんですね。暴力性が増していきます。秋葉原の事件とか大阪の池田小の事件を起こした人たち、それから古くは神戸の少年殺人事件の犯人の酒鬼薔薇聖斗など、みんな子供時代に虐待を受けて育った人です。これを何とか断ち切らなきゃ仕方がないわけで、ほっとくとこの子供は、大きくなってそういう親になっていってしまいますので、やっぱりどこかで親になるための準備教育をするしか仕方がないというふうに思います。
 核家族化が進んでいますので、居場所づくりとして子育て広場事業をやっています。こんな形で見よう見まねで、ほかのお母さんと子育ての比較をしながら育てっこをしますので平均化するんですね。極端なことが起こらなくなります。子供の叱り方とか、おしっこの連れて行き方とか、あやし方とかをお互いに見よう見まねで学んでいくという仕組みが子育て広場事業で起こっていきます。自然発生的にこういう子育ての井戸端会議をつくる必然性があって、今、全国の卒業生も保育所なんかでこんなことをやっていますね。
 それから、きのうこども未来課の望月課長がお見えになって、赤ちゃん体験学習のイベントを浜松でやるのでと、チラシをお持ちいただいたんですが、県の仕事としてもやっていただいています。これは私も保健所にいた今から30年ぐらい前に、近くの中学生を呼んできてやり始めたんですが、たった1回や2回、子供を抱かせてもらったり、面倒を見たから子供に慣れるかというと、そういうわけにはいかないんですけれど、何か予防接種的にこの時期に赤ちゃんをさわっておくことで、自分の親子関係を振り返る取っかかりになります。赤ちゃんを抱いてきたよというのを、必ず家に帰って親に話すでしょうし、自分の母子手帳を見るかもしれません。思春期に入っている子たちはもう10年もすれば親になりますので、この時期に赤ちゃんのほんのちょっとの世話をさせてもらうことを経験することで、将来親になるための準備教育の取っかかりが始まるというふうに思っています。
 これをやっていておもしろかったのは、何回かやっているうちに、子供が落とされたり、興奮して泣き叫んだり大変な状況になりますので、お母さんたちはもう懲りて来てくれないかと思ったら、2回、3回と続けて来てくれるお母さんが何人かいるんですね。おもしろかったのは、よく見ていたら赤ちゃんのことを周りの中学生、小学生がきゃあきゃあ言ってかわいいかわいいと言うんですね。そうすると、お母さんは横に座っていてまんざらでもないなという顔をしているんです。要するに、子供がかわいいって言われる、イコールお母さんは頑張って子育てができていますね、お母さんはすばらしいですねというサインになりますね。だから、お母さんがサポートされる仕組みにもなるんだなというふうに思いました。これはなかなかおもしろい体験で、こういうことが義務教育の中で少し制度化されて定着するといいなと思っています。今のところ、やりたいと言った学校だけが手を挙げていただくと何とかできる状況ですので。
 先ほど申し上げましたように、愛着の修復をするようなかかわりとか、子供時代から暴力を使わないでコミュニケーションをするトレーニングとか、赤ちゃん体験学習、ノーバディーズパーフェクト、ペアレント・トレーニング、こんなような各種のプログラムを順番に、幼児期からやっていくことで、大人になって健全な親子関係も築けるようになるというふうに思っております。ノーバディーズパーフェクトは、こんな形でやります。
 これらのプログラムをやると、親がどう変わるのか。現象的には、毎回、回を追ってみていると親が物すごく明るく元気になるのがわかりますけれども、データをとってみますと、あなたの子供が泣いています、これはあなたですというシールになっているものを貼ってもらうんですね。そうすると、大抵の親が自分の子供が泣いていればここら辺に貼りますけど、ある親御さんは、背中を向けて一番遠くに貼るんですね。これは、どう考えても今、子育てに悩んでいますという図ですよね。こんな状況のお母さんも出席していただいています。これはGHQという精神的な健康度の悪さの指標なんですが、より点数が高いほど精神的な健康度が不健康な状態です。これが5点を超えると要精密なんですけれども、このグループに参加してくれたお母さんたち84人のデータの平均は7.3点で、余り健康度はよくないんですね。それが6回終わってプログラムを終えてみますと4.2点、正常値まで下がっています。それから、私はほどほどやれるなという自己評価得点も上がります。それから、抑うつ感、もう死んでしまいたいとか、世の中暗いと思っているような気持ちも、より明るいほうに動きます。それから育児不安も軽減するほうに動きます。さっきのお母さんも、こんなところに貼れるようになっていました。6カ月後もデータとしては下がり切らないで継続した効果が得られています。
 前にも同じような図がありますけれど、この分野を母子保健で補っていく、この分野を児童福祉ないしは医療で補っていくというふうに、重症度に応じてかかわるポイントを変えなきゃいけないと思いますが、これからは、やっぱりもう圧倒的に発生予防していくしかないと思っています。起こってしまった虐待を、子供を保護してというのは今までどおりやっていただくしか仕方がないんですが、それをいつまでやっていても減らすことができませんので、親になるための体験学習をしていく、ハイリスクの妊産婦をきちっと追っかけるホームスタートという事業がありますけれども、それから先ほど紹介しましたような親プログラムを導入して、なるべく全ての親にこれらのプログラムを順番に受けていただく。
 実は新潟県、和歌山県、静岡県は、これらのプログラムを全面的に取り入れて県下に広げようとしている、なかなかすぐれた行政をやっていただいている県の代表的なところです。新潟が早かったんですけれども。小さいところですと大阪の摂津市。摂津市は厚生労働省の資料に必ず出てくるんですが、7万人ぐらいの小さな都市ですけれど、コモンセンスもノーバディーズもBPというプログラムもマインツリーも全部やっているんですね。親のニーズに合わせて、今、煮詰まっちゃっているからこれだね、保健師さんが紹介してきたからこれを受けさせようねと、そこで出産した親の全てが何らかのプログラムに引っかかれるようになっています。
 それと、きのうもこども未来課の課長さんと話をしたのですが、実はこれらのプログラムに来てくれる親御さんは、もともと動機づけが高い人が来ます。これは行政の二律背反のところで苦しいところなんですが、もっと勉強しようと、もっといい親になろうという人ほど来てくれるんですね。一番ぐあいの悪い、広報も見ない、新聞もあんまり読まない、「親教育って何だ、そんなの知らん」と言っている人たちのところで、より問題が起きますので、そこを何とかしなきゃいけないんですね。そうすると、子育てに協力的でないお父さんをつかまえようと思うと、企業の人事研修に入らせていただくしか手がないと思っています。要するに、公民館事業とか保健センター事業でおいでくださいといっても、本来来てほしい親は来ません。無理やり企業の人事研修なんかに入らせていただくと、仕事の一環として研修を受けますので、もちろん仕事のスキルアップのための研修なんですが、そこにほんの少しだけ家庭のマネジメントという部分を入れていただくと、実は企業にとっても圧倒的にメリットがあると思います。なぜかというと、おわかりのように中学生になって非行だ、万引きだ、引きこもりだとなったうちのお父さんが、家庭のことを全く心配せずに仕事に没頭できるかといったら、うちでそういう問題が起こっていったら仕事に身が入らないですよね。そう考えると、家庭運営がうまくできているお父さん、お母さんほど仕事に熱が入れられると思いますので、企業にとっても本当はメリットのはずなんですよ。だけど、余裕がないとそんなことに企業研修の時間を割くわけにはいかないというふうにどうしても言われるんですけどもね。新潟県の上越市でNPOがやっている事業がありますけれどもだけど、ちょこっとずつ、そういうところに目を向けた人たちが内閣府で表彰されたりしています。
 静岡県も大きな企業がたくさんありますので、ぜひ県の事業として、これらのプログラムのお父さん版もありますので、企業人として仕事も一生懸命やっていただかなきゃいけないけれど、家庭運営もほっとくと後で大変なことになるよというのを、こういうふうに煮詰まっていくお母さんがいるんだよということを早いうちにわかっていただくお父さんになっていただかなきゃいけないなと思っています。
 実は、お母さんが、旦那が育児に協力的かどうかの認識をしているのは、お父さんが家事を手伝ってくれる時間の長さには比例しないんですね。たくさん手伝ってくれているから自分の夫はいい夫だと思っているかというと、さにあらずで、短い時間でもねぎらってくれる、子育て頑張ってるねとか、いつも世話かけるねとか、大変だねとかいうふうに、意識をちゃんと向けてくれているお父さんのパートナーである妻は、うちのお父ちゃん、いいお父ちゃんだと思っているんですね。そこら辺のことすら知らないで、子育ては奥さんに任せたと言っていると、後で大変なことになりますよというのをぜひ企業研修の中でやれるといいんじゃないかなと思っています。
 あとは児童相談所、福祉施設の体制整備、これはもう、先ほど申し上げましたように圧倒的に人が足りません。国の制度だから仕方がないというところがありますけれども、鳥取県みたいに、県単独で児童相談所の職員を2倍にしたら、虐待の件数を半分ぐらい減らしたところもあるんですね。だから、余裕があればやっぱりそれだけの仕事ができるということだなと思います。
 それから、保育所の機能がこのごろすばらしいなと思っています。保育所は毎日子供とお母さんの顔を見ていますので、その中でちょっと愛着に問題のある子、発達に問題のある子のかかわりを先生方が勉強して変え始めると、すごく変わります。我々臨床心理士はせいぜい週に1回、親御さんと会ってカウンセリングをする中で、2年3年かけてその問題を解決していくということになることが多いんですが、保育所は毎日ですので、お母さんたちもダイナミックに動きますので、これから保育所とか――このあと認定こども園になっていきますけれども、教育とか生活機能だけでなくて、やっぱり親子を育てる機能を持っているというふうに思いますので、厚生労働省もそんなことを言ってますけどもね、そこをうまく活用していくべきだなというふうに思っています。
 資料全部の説明はできませんでしたが、スマホで一度見ていただくとおもしろいのですが、鬼が子供を叱ってくれるアプリがありまして、「あんた、またなんか悪いことやったでしょ」と言って鬼が叱るんですね。そんなのが出てきたりしています。この「鬼から電話」の記事が出る前に、読者投稿欄で、娘が子供を連れて帰ってきたときに、スマホを泣いている赤ん坊の前でかざしてるもんだから、何やってるのよと娘に聞いたら、スマホのアプリの中に、子供に聞かせると子供が泣きやむ音とか映像とか入っているんですね。こうやって子供を泣きやませていましたという投稿があって、子育てもいかがなものかという投書だったんですけれど、鬼が叱ってくれるということになっています。
 それから「母親同士、いやし、いやされ」というこの記事は、プログラムの1つで、BP――ベビープログラムと言っていますけども、これも実は原田正文先生がお見えになって、静岡県でやっていただく予算をとっていただいていますので、静岡市で多分BPの講座をやりますので、ちょっとのぞきに行っていただくと、ああこれはいいんじゃないかなと思われるんじゃないかと思います。それら、さっきのノーバディーズパーフェクトもコモンセンスもそれぞれ静岡県内で養成講座をやりますので、またぜひ見ておいていただくとよいと思います。
 3年かけてその養成講座をやっていただいていて、養成されたトレーナーという人たちは各市に散らばり始めています。だけど、残念ながら、市町村が実施の予算をうまくとれないもんですから、結局実施されてないので、まだ件数が少ないんですね。新潟県は市町村の実施予算の半額を補助をしています。そうすると、市町村がやりやすいですよね。というわけで、県も取り組んでいただいているのはすごくすばらしいなと思いますけれども、実施のところまでちょっと応援していただくと、より市町村がやりやすくなるなというふうに思っています。
 市町村の行政だけでは、日常業務でやり切れませんので、NPOなどの団体がやることもありますので、NPOの力を借りてということになると、予算措置をどうしても考えないといけないということになろうかと思います。これを圧倒的に進めていただくと、虐待件数を減らすことに、ある程度アメリカのように寄与できるんじゃないかなというふうに考えています。
 それから、宮崎中央新聞の4月の22日、2504号。宮崎中央新聞っておもしろい新聞で、いろんな講演会の記事を載せてあるだけの新聞なんですね。これを書いている水谷さんという人はノーバディーズパーフェクトのプログラムの実施者で、私が宮崎に行って、この人も養成講座に来てくれた人の1人ですけど、去年、おととし、この新聞の社説が有名になって、日本一感動する新聞の社説という本が出まして、今、全国的に売れっ子になっています。
 「絵本作家の森野さかなさんは3歳のときのことを今でもよく覚えている。朝、目が覚めたら隣で寝ていたお母さんが死んでいたからだ。心筋梗塞だった。父親はというと、別の女性の家で寝泊まりをしていた。留守だった。お母さんの葬式の日に、新しいお母さんはやってきた。そしてその日はいわれなき暴力の始まりの日でもあった。来る日も来る日も信じられない虐待が続いた。当時のやけどの跡は、30年たった今でも体に残っているそうだ。2年後、貿易商だった父親は、5歳の娘を東南アジアに養女に出そうと言い出した。そんな話を聞きつけて、東京に住む亡き母方の祖父母が孫娘を引き取ることになった。実は、森野さんのお母さんが急死したとき、おばあちゃんは末期の子宮がんで入院中だった。子宮、卵巣、卵管、膀胱が摘出され、大腸、小腸、腎臓の一部も切り取られた。夫であるおじいちゃんには、手術は成功しましたが、生存率は1%もありませんと告げられた。それから2年、瀕死の状況でありながら、おばあちゃんは何とか生き抜いた。そして3歳だった少女もまた虐待の日々を生き抜き、5歳になっていた。少女は虐待から解放された。しかし、祖父母の家に引き取られる日、新幹線に乗り込む少女の気持ちは悲しみでいっぱいだった。私は悪い子だから家を追い出されるんだ。東京駅に着いてからも、祖父母の家までめそめそ泣いていた。祖父母の家は、貧しいアパートの一室だった。中に入って、少女は戸惑った。テンションの高いおばちゃんたちが大勢いたのだ。○○さんの家に小さな子供がもらわれてくるというので、近所のおばちゃんたちが歓迎会を開いてくれたのだった。おばちゃんたちは口々に、よく来たね、いい子だねと言った。少女には何が起こっているのかわからなかった。誰が新しいお母さんなのと思った。あのおじいちゃん、おばあちゃん2人には子育ては大変と、その日から5歳の少女はたくさんの大人たちに温かく大切に育てられることになる。小学生になる日がやってきた。文房具1つ1つに名前を書く。上履き入れの袋、体操着入れの袋、ぞうきん等々、準備をしなければならないことがたくさんあった。おばちゃんたちは分担を決めて家に持ち帰り、入学式までには全部そろった。参観日や学芸会の日、おばあちゃんの体調が悪いときは必ず誰かがかわりに来てくれた。遠足の日にはたくさんのおかずが集まり、誰よりも大きなお弁当になった。きわめつけは運動会。運動場の1カ所に異常にテンションの高い集団があった。自分の名前が書かれた垂れ幕が出た年もあった。学年が上がるにつれ恥ずかしくて仕方がなかった。でもうれしかった。森野さんは言う。どのおばちゃんたちもみんな輝いていた。いつも笑顔だった。喜んでいるのはお世話になっている私だけじゃない。手を差し伸べているおばちゃんたちも喜んでいると思った。私もいつかあんな大人になりたいと思った。私が絵本作家になった動機もそれでした。国境の向こうで地雷撤去をしている人たちや難民キャンプでワクチン投与している人たちだけが世界平和に貢献しているわけではない。子供に120%の愛情を注いで育てることも世界平和につながっていると思う」。
 こういう地域コミュニティと言われるような状況が失われて久しいわけですが、今、NPOの人たちがこれらの役割を子育て支援者として始めていると思います。おせっかいおばさんがほっておけんと言って子育てに窮しているお母さんたちの周りに集まってくるという現象が今、人工的に起こりつつあると思いますので、こんな仕組みのおばちゃんたちのエネルギーをうまく使いながら、地域のコミュニティを再構築していく仕組みを何らかの人工的な仕組みでつくっていくしか仕方がないなというふうに考えています。
 資料雑多で申しわけございませんでしたが、以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

○多家委員長
 ありがとうございました。
 以上で柴田先生からの意見陳述は終わりました。これより質疑に入ります。委員の方にお願いいたします。質問はまとめてするのではなく、なるべく一問一答方式でお願いをいたします。
 それでは、質問、御意見等がありましたら発言願います。

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