台湾駐在員報告
2020年3月 政治 駐在員 : 内藤 晴仁
1月11日の台湾総統選挙で蔡英文氏が再選を決めてから10日後、台湾で初となる新型コロナウィルスの感染者が公表された。再選を決めたばかりの蔡英文氏にとっていきなりの難題であったが、強い指導力を発揮して取り組み、民衆から高い支持を集めている。
「台湾民意基金会」の調査によると、2020年2月の蔡英文総統への支持率は1月再選時の56.7%から68.4%へと11.7ポイント上昇した。また、「蔡政権が新型コロナウィルスの拡大を抑えると信じるか」の質問に対し、「信じる」と回答した者が全体の85.6%であった。台湾の感染者数は41名(2月29日時点)と他アジア地域と比べ相対的に少なく、当局の果断な施策はその効果も相まって、高い支持を得ていることが調査結果にも反映されている。
台湾はSARS流行の際、死者を含む多くの犠牲者を出した。SARSの教訓を活かし、世界保健機構未加盟のハンディキャップを跳ね返す当局を、メディアや民衆が熱烈に支持、調査結果以上の団結力の強さを感じている。
他方、感染予防対策の長期化、厳格化に伴い、企業では欠損が発生し、民衆からも不満が漏れ始めているようだ。観光業界は3月までの損失額を1,200億台湾ドル(約4,390億円)と試算、当局の渡航注意や入境規制等が強化されれば損失額は更に増えるとの報道があった。また、医療従事者の出境制限を発表した際、感染対策の現場にいる医療従事者が真っ先に反発、個人の自由を当局の権力で制限することに異論を述べる声が出た、との報道があった。
多様な意見を内包する台湾社会だが、全体的には当局の対応は肯定的に評価されている。政治体制が異なる日本との単純な比較は難しいが、客観的な観点に立ち双方の危機管理体制を比較、優れた点や劣っている点から学び合うのは、危機発生時の経験値を高める上で有効と思われる。
感染予防は世界的な関心事となっている。台湾も現在の封じ込め施策から感染拡大防止への転換の岐路に立っており、緊張感のある生活状態は続いている。
新型コロナウィルスが早期に収束し、安心して暮らせる世界が戻ることを願わずにいられない。
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