東南アジア駐在員報告
2016年5月 経済
駐在員 : 吉住理恵子
昨年6月号で、静岡県発祥のABCクッキングスタジオがシンガポールの高級デパート高島屋にテナントとして出店したことを報告した時に、「将来的に静岡県食材を使ったコラボレーションの可能性なども考えたい。」と述べたが、どのように展開が可能か思いあぐねているうちに、民間事業者の取組による静岡県産品PRが早くも実現した。
実現させたのは、菊川市の製茶会社で、代表者は生産管理の行き届いた循環型農業を目指して農業法人格を取得し、有機緑茶を栽培しているエコファーマーでもある。
ABCクッキングスタジオの1周年記念レセプションと、翌日の店頭イベントでデモンストレーションを実施。碾茶を石臼でひき、ひきたての抹茶を使い、その場で抹茶を点て飲んでもらうというデモンストレーションは、シンガポール人、特に家族連れに大人気で、販売用に用意していた商品は、筆者が訪問した販売二日目の朝には、既に売切れだった。会場でひきたての抹茶を飲んだ人からは、「これまで飲んだことのある抹茶と全く違う」「苦味がない」と驚きの声があがった。
抹茶の原料となる碾茶は、玉露同様、収穫前20日以上、遮光率90%以上のネットで茶の木を被覆し、収穫した茶葉を感想させ、葉脈などを丁寧に取り除いて仕上げ、その碾茶を石臼でひくことで良質な抹茶ができると教えていただいたが、シンガポール人はもちろん、日本人でもこうした手間ひまを知る人は多くないのではないだろうか。これだけ手がかかることを知れば、高額ではあっても、その値段(と味)に納得して商品を購入する気になるというものである。また、シンガポールの中間層は、こうした「ちょっとした日常の贅沢消費」ができるだけの購買力を、十分に備えている。
抹茶に向いている茶葉品種は「さみどり」や「さえみどり」だそうだが、海外での抹茶需要が高まるにつれて、様々な茶葉を使い、葉脈を取るなどの手間を省き、機械で粉砕した廉価な緑茶パウダーも供給されるようになっている現実や、そうしたことが決して茶農家の収入増には結びつかないことなども話をうかがい、素人ながらも、静岡県産抹茶については「悪貨は良貨を駆逐する」とならないような戦略が必要だと感じた。
今後も静岡県が日本一の緑茶産地の座を維持するためには、東南アジアをはじめとする海外市場での需要増を背景に、煎茶No.1を守るだけでなく、宇治や西尾をしのぐ「日本一の抹茶産地」を目指す攻めの戦略というのもありではないかと、個人的には感じている。
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