中国駐在員報告
2009年3月 経済 駐在員 : 若田部 孝
地方政府発の消費拡大策がブーム
〜日本は、「定額給付金」、中国は、「消費券」〜
2月17日付の中国の「新華日報」が、「中国各地で「消費券」ブーム、ばらまきでも効果あり?」との見出しで報道した。この「消費券」は、日本の小渕内閣時代に配布された地域振興券と同様の試みで、内需拡大を図るため、中国の地方政府が、消費券を住民に配布しているものである。
最初に実施したのは、昨年5月に汶川地震(四川大地震)が発生した四川省の省都の成都市である。成都市は、昨年12月29日に、1月31日までの期限付きで、配布対象に制限が設けられたが、1人100元(日本円換算:約1,350円)の消費券を配布した。春節(旧正月)少し前の12月31日までに100%が消費されたという。配布総額は、3,800万元(同:5億1,300万円)であった。
また、浙江省杭州市で、2009年の旧正月(1月26日)前に、132万人の市民に、総額2億元(同:約27億円)の消費券が、配布された。この消費券は、4月末までの期限付きで1月24日から配られ、低収入者のほか小中学生にも配られたのが特徴であり、約200ヶ所のショッピングセンターやスーパー、家電店が使用場所として指定された。その結果、1月24日から2月8日までの間、指定を受けた(電気店の)杭州産家電では、1,707台の家電製品が売れ、合計49万5,300元(同:約669万円)の消費券を回収したという。その際の売上高は、約202万9,300元(同:約2,740万円)で、消費券を配布したことにより、4倍の消費が促されたことになった。
その後、同じく浙江省の寧波市内の各県市(中国では、主要な市の下には、「県」や「市」がある。)でも、観光における消費を拡大するため、「観光割引券」等を配布するという。これは観光に関連する施設等を利用する場合の割引券だそうだ。
以上のような動きが江蘇省南京市など中国各地域に波及するような兆しもある一方で、国務院商務部の姜次官は、3月9日、「特別な状況下で導入される特別な手法であり、実施して差し支えのない選択だ。」と容認している。
なお、2月19日付の「人民日報」は、消費券配布の効果を評価すると同時に、「消費券配布は、経済の根本治療にならない。」とする論説を発表した。その概要は、次のとおりである。
消費券は富の再分配の特殊な手段であり、短期間で内需を拡大する効果があるため、これまでも多くの国と地域で行なわれてきた。一方で、消費券は応急措置であり、経済の根本治療が可能な「万能薬」ではない。これまで、中国では収入の格差や老後・失業関連の社会保障が遅れていること等から、それらへの不安のために庶民は消費を抑制しており、現在の国際的金融危機が、さらに庶民の不安に拍車をかけている。また、中国の一部地域で実施されている消費券の配布は、内需拡大と生活支援の効果を確実にもたらすことを念頭に置いており、そのまま貯金に回される可能性がある現金の支給は考慮されていない。
なお、この地方政府の動きに対して、「国家消費券」を配布することを提案する動きも一部で見られたが、現在のところ、政府からの公式発表はない。
日本でも、「定額給付金」が支給され始めたが、日中双方の景気刺激策の行方は、どうなるのだろうか。
注1 換算レートは、次のとおり。
1中国人民元=13.5日本円
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