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台湾駐在員報告
2013年9月 社会・時事 駐在員 : 宮崎悌三
8月のとある日、事務所向かう時にいつも乗るエレベーターの中に「来る8月19日、1階ロビーで祭事を行うので、お供え物をお持ちください。」という趣旨が書かれたピンク色の紙が貼られていた。事務所スタッフに聞くと、この時期、台湾ではどこでも行われている恒例の行事で、参加は強制ではなく自由という。言われてみると、住まいとしている住宅や他のビルのエレベーターの中にも、「8月○○日に祭事を行うので、お供え物をお持ちください。」と書いたピンク色の紙が貼られている。
事務所スタッフが言った“この時期”というのは、「亡くなった人たちの霊(先祖の霊、無縁仏となった霊=鬼)が、“あの世”から人間の世界に戻って来る」時期を指し、台湾に限らず中華圏で広く信じられ、「鬼月」と呼ばれている。鬼月は、「鬼門」が開く旧暦7月1日から門が閉じる旧暦7月末日までの1か月間(今年は8月7日から9月4日)である。
中でも鬼月の中日となる旧暦7月15日(中元節。今年は8月21日)には鬼門が大きく開かれるとされ、鬼に会わないよう出来るだけ外出を避ける習慣がある。
また、鬼月の間、してはいけないタブーもたくさんある。水遊びをすること(水が好きな鬼に水の中へ引き込まれる)、夜に洗濯物を干すこと(乾いていない衣服に鬼が取り付いてそれを着てしまう)、肩や頭をたたくこと(鬼を避けられるとされる頭や肩から出ている炎が消えてしまい鬼に乗り移られる)などのほか、結婚、引っ越し、旅行、不動産や新車の購入なども悪い鬼の仕業で上手く行かないと信じられている。
エレベーターの中にピンク色の紙が貼られる中元節のころになると、台湾の人々は“この世”に戻った先祖の霊に振舞うと同時に、鬼を慰め、楽しんでもらい、人間に危害を加えないよう、「拜拜(パイパイ)」をする。軒先に並べられたテーブルにてんこ盛りのお供え物を置き、竹を漉いて作られた祭事用のお金を盛大に燃やす炎が街のあちらこちらに立ち上る。
鬼月は、もともと祭る人のいない無縁仏の霊たちを毎年、中元節にまとめて慰めようという慈悲の心から始まった人情味あふれる風習だそうである。それを知ると炎天下の熱い炎も心地よく映る。
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