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東南アジア駐在員報告
2001年10月 経済 駐在員 : 岩城徹雄
・アメリカ同時多発テロ、各国経済への影響
今回の事件は、低迷が続く東南アジア各国の経済にも大きな影響を与えている。特に輸出依存度の高いシンガポール、マレーシア、タイ、フィリピンへの影響が大きく、先行きを悲観する見方が多くなっている。
・ シンガポール
政府関係者やエコノミストは事件の影響を正確につかむのは時期尚早としながらも、貿易や航空貨 物の混乱、原油高騰とアメリカの消費不安の影響などにより、シン ガポールの非石油地場輸出の停滞が続き、中継貿易の低迷は国内の小売業にも打撃を与えるとの見方がされている。第3四半期のGDPは対前年同期比でマイナス3%との見方や、2001年の年間の成長率がマイナスになるとの見方もされている。8月の石油と再輸出を除く輸出が名目で前年同期比約30%の落ち込みを記録するなど、事件の前から芳しくない状況となっていたようだが、事件の影響で低迷が長引きそうな気配である。政府では第3四半期の成長率を見たうえで何らかの経済対策を実施する模様である。
・ マレーシア
マレーシアでは昨年の輸出総額の20%を対米輸出が占め、主要輸出品目であるエレクトロニクス製品や電子部品などの製造が影響を受けている。同じくアメリカが主要輸出先の家具やゴム製品の輸出も需要低迷で減少し、中東向けのパーム油も輸送手段が確保できなくなることから減少する見通しである。
このため、深刻な影響を懸念する声が多くあがり、中央銀行では9月20日に、約2年間据え置かれていた事実上の公定歩合である3か月物市場介入金利を0.5%下げ、4.5%とした。これに続き政府は9月25日に43億リンギ(約1300億円)の景気対策を発表した。10億リンギが小規模開発プロジェクトに、1.5億リンギが失業者の職業訓練に、1.1億リンギが観光振興に当てられる。
・ タイ
タイでもアメリカ向けの輸出が全体の21%を占めるだけに、エレクトロニクス製品、冷凍水産物を中心に、予想される輸出の減少による影響が大きいと見込まれている。今年1〜7月のアメリカ向けの輸出は対前年同期比6%のマイナスとなっており、事件の影響がこの低迷をさらに長引かせるものとなりそうである。繊維産業、観光業、宝石産業などでもアメリカへの依存度が大きいことから、悲観的な見方が多い。農産物については、生活必需品として需要が見込まれるため影響は少ないとされており、特にコメについては、アメリカの軍事行動が始まった場合、主要輸出先である中近東、アフリカ、中央アジア諸国が輸出を増やすのではないかとの見方もある。タイ中央銀行では、景気刺激のため引き続き低金利政策を維持するとしているが、利下げについては明らかにされていない。
タイ経済の大きな問題である不良債権は、8月中にほとんど変化がなかったとされ、テロの影響による株価暴落と世界的な景気低迷により、これから年末にかけて増加するものと見られている。
・ フィリピン
フィリピンでも対米輸出の割合が大きい半導体、電子製品、ココナッツ油などを中心に輸出の停滞が見込まれ、経済全体に悪影響を及ぼすことが懸念されている。7月のフィリピンの対米輸出は対前年同期比23.8%のマイナスとなるなど事件以前から状況はよくなかったが、貿易産業相は全輸出額の約70%を占める電子部品の需要減などの要因により、今年の輸出目標を対前年比10%減に下方修正すると発表した。電子部品だけでなく衣料部門での受注減で大幅な人員削減が行われるのではないかとの見方もある。
・ インドネシア
インドネシアでは、アメリカへの依存度が高い繊維、靴製造、観光業などが大きな影響を受けると見られている。繊維業界ではアメリカへの輸出減を受けて日本を新たな輸出先として見ているようである。国全体としては、国内向けの産業比率が高いためか、成長率に影響が出ることはないとする見方もされており、国際的な格付け機関S&P社では今年のインドネシアの経済成長を当初予想どおりの3.5%のままとしている。
また国際通貨基金(IMF)では、昨年4月の主要債権国会議(パリクラブ)で決められた総額58億米ドルのインドネシア対外債務繰り延べは、今回の事件でインドネシアとパリクラブとの交渉が中断しているものの、繰り延べの承認が延期されることはないとしている。
・ オーストラリア
オーストラリアでは、自国通貨オーストラリアドルが安い状態が続いているにもかか わらず輸出が低迷していることに加え、事件によりアメリカへの空輸が滞り農産物の輸 出を中心に影響が出てきており、他の輸出先を探すなどの対応が求められている。
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