東南アジア駐在員報告
2015年3月 経済 駐在員 : 吉住理恵子
タイへ進出する企業は年々増え続け、2014年4月現在バンコク日本商工会議所会員数は1,546社と在外日本商工会議所として世界最大規模を誇る。こうした日系企業をはじめとする海外資本のタイ進出を後押ししてきたのはタイ投資委員会(BOI:Board of Investment)による投資奨励政策だ。
海外から進出する企業の大型の投資案件に対して、法人税、機械設備輸入税、輸出製品に使用される原材料輸入税の減免などの税制面のほか、出資比率や事業用の土地取得、外国人のビザ・労働許可の便宜供与などの特典があり、巨額の設備投資を伴う製造業の進出には有利な制度で多くの進出企業がこの恩恵に浴している。また、タイ側も優遇措置により誘致した外資の力を活用し経済発展を遂げ、中進国としての地位を築いてきた。
今年1月から、タイ政府はBOIの投資奨励策を大きく制度変更した。今までは、全国を3ゾーンに分けて税制上の恩恵に差をつけ、バンコクから離れるほど恩恵が厚くなる(ただしタイにとっての「特別重要業種」等は地域に関わらず恩恵が付与される)という制度で、地域格差の是正とタイ全土への外資による投資誘致を図っていたが、新制度では、事業が産業別にA1からB2までの6つのカテゴリに分けられ、タイ政府が優先度、重要度が高いと判断した事業に対して厚い恩恵が与えられることとなっている。業種別の基本恩恵に加え、研究開発機能など競争力向上に資する事業には、税免除期間の延長などの追加的な恩恵が与えられる仕組みだ。
タイでは、経済成長に比例して労働賃金も上昇してきている。周辺発展途上国でのインフラ整備が進みつつある中、低賃金労働力に頼る労働集約的な産業にとって、タイは相対的な立地の魅力が薄れてきている。また、タイにとっても、今後は技術力、研究開発力の向上により付加価値の高い産業構造を構築すること、つまり「量から質」への転換が先進国入りにかかせない。昭和60年代に、日本が四全総やテクノポリス政策などにより、国土の多極分散と産業高度化を図った時代を彷彿とさせる。
先進国入りを前に成長が停滞する 「中所得国の罠」を、新政策で回避できるか、タイの今後に注目したい。
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