中国駐在員報告
2014年6月 政治 駐在員 : 井口真彦
中国でも日本のテレビニュースはインターネットを通じてリアルタイムで見ることができる。中国が石油掘削を始めた南シナ海の西沙諸島の近海での中国とベトナムの船の衝突事件については、日本では中国の船がベトナムの船に体当たりする様子が繰り返し流されているが、中国のニュースでこの映像を見ることは無い。中国の報道は中国共産党の指導下にあるから、中国のマイナス評価につながる報道が極力抑えられていることは当然ではあるが、同じ事件に関する報道を比較してみることは大変面白いものである。
中国の報道からは、中国の強気の姿勢が揺るがないように見えるが、ベトナムとの関係悪化は中国企業にも打撃を与え始めているようである。安い人件費を求める中国の生産代替地としての意味合いや、東南アジア諸国連合(ASEAN)市場などの開拓を目指す中国企業にとっては冷や水を浴びせられた形だ。
ベトナムで起きた大規模な反中デモは、現地に進出する香港、台湾を含む中国系企業の一部に被害を与えた。ベトナムに生産拠点を持つ中国系企業の中には工場を閉鎖し、生産を一時停止した企業も出てきている。
近年は中国企業によるベトナムへの投資の流れが強まっており、地下資源や不動産開発、インフラ開発等の分野の中国企業も同国進出を狙っていると言われ、今後投資額が膨らむとみられていたが、今回の事件は中国のベトナム投資熱にも影響を与えた。
両国の関係悪化がもたらす中国企業への影響は現時点で不透明だが、業界では悪影響が長期化するとの見方も広がっている。
繰り返される反日運動を経て、優秀な日系企業はチャイナリスクを管理し、回避・分散を図って生き延びているが、今回はくしくも中国企業が日系企業のチャイナリスクと同じ構図の中に立たされている。
ベトナムには中国系企業が1,000社もあるとされている。このような多くの“人質”を取られている中で、中国がこの状況にどう対処するのか。
一方、世界第二の経済大国となり、ベトナムでもプレゼンスを高め、ベトナムにとって最大の輸出国である中国に対し、ベトナムはどこまで対抗するのかも、大変気になるところである。
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