台湾駐在員報告
2016年3月 政治
駐在員 : 宮崎悌三
2016年2月、サイクリングでまちづくりに取組む欧米の都市を中心とした会議が、アジアで初めて台北市で開催された。
その重要な会議の主催者である台北市政府のトップ、柯市長は会議期間中であるにもかかわらず、世界各地から訪れた客人を置いて、台湾を縦断するサイクリングの旅に出てしまった。柯市長の旅とは、台湾の北端から南端の2つの灯台(双塔)の間を自転車に乗って約1日で走り抜けようというものである。この構想は、2015年5月に台北101の階段を上るイベントに参加した柯市長の口から“発表”された。しかし、誰にもその訳を話さぬまま、柯市長は2月27日早朝、北の灯台から南へ向けて走り出した。2つの灯台の距離は約524kmである。走ること約28時間、翌28日の10時過ぎに無事、台湾南端にある灯台へ到着した。
そこでようやく柯市長は口を開いた。「(今年の228事件の記念式典とサイクリングの国際会議を欠席し)サイクリングをしたのは、事件の悲しみの涙を汗に代え、台湾に寛容と許し合いの未来を作っていきたいからだ。」柯市長の祖父は、228事件の被害者である。拷問が原因で命を落とし、柯市長自身が深い悲しみを抱えている。昨年(2015年)2月28日に開催された228事件の記念式典では、遺族代表として台北市長の立場で挨拶をしたが、悲しみに押し潰された柯市長は声を詰まらせ、事前に推敲を重ねた原稿を読むことが出来なかった。そのとき、参列した国民党党首(当時)でもある馬総統の握手の求めにも応じなかったのは、事件で祖父を失った悲しみが未だ癒えていなかったからではないか。
事件から69年を経てもなお、国民党政権の下、真相解明が進んでおらず、被害者家族の苦しみが続いていることを、柯市長のサイクリングが訴えていた。
(参考)228事件とは、1947年2月28日から台湾全島で起きた国民党統治への抗議行動を指す。国民党は多数の台湾の住民を殺害。行政院(内閣に相当)は1992年、武力弾圧などによる犠牲者を1万8千から2万8千人とする推計を公表している。
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