台湾駐在員報告
2014年6月 政治 駐在員 : 宮崎悌三
南シナ海に浮かぶ南沙諸島や周辺海域の領有権をめぐる中国とベトナム、フィリピンなどとの緊張の高まりを受け、ベトナムでは激しい反中デモが起き、一部は暴徒化して、中国系企業ばかりでなく、日系企業なども被害を受けた。
台湾系企業の被害も大きく、最大5億米ドル(約510億円)に上る可能性があると、台湾政府は明らかにしている。
ベトナムへ投資する台湾系企業の3分の2が集中する南部では、5月13日に、反中デモを行っていた市民の一部が暴徒化し、中国企業ばかりか、中国語表記の台湾系企業も攻撃の対象となった。5月18日現在、在ベトナム台湾系企業のうち、224社がデモ隊などによる侵入や施設の破壊や備品などの盗難に遭い、うち18社が放火されたほか、5社はほとんどの施設が破壊されるなど、約1,100社に上る台湾系企業が、営業・操業の停止に追い込まれている。中でも、台湾の大企業である台湾プラスチックグループの現地関連企業では、中国人従業員ら(注:中国に投資した台湾系企業が、中国で育成した人材をベトナムへ中間管理職として送り込んでいるケースが多い)5名が死亡するに至った。
台湾政府は、当初、台湾系企業が、中国系と混同されて攻撃を受けているとして、台湾の国旗の掲揚やベトナム語や英語で「私は台湾人です。」「台湾から来ました。」と書いたシールを現地の台湾人に配布すると決めたが、国際的には、台湾は中国の一部とみなされて攻撃を受けているケースもあり、主権をめぐって台湾と中国が話し合いを続けている現状を、ベトナムに説明すべきと台湾政府に求める声が出るなど、国際的に台湾が置かれている複雑な立場を改めて噛み締める状況となった。
台湾のベトナムへの累計の投資額は、第三国を経由するケースも含めると、日本や中国を上回っており、台湾にとってベトナムは、東南アジア諸国連合(ASEAN)で最大の投資先となっている。駐台北のベトナム代表は、記者会見を開いて謝罪し、台湾系企業がベトナムで被った被害について賠償する意向を示し、台湾系企業がベトナムにおける経済活動を継続するよう求めているが、ベトナム政府の対応次第では、台湾系企業の対ベトナム投資は、中長期で大きな影響を受けるとの見方もある。今後は、隣国のカンボジア、ラオス、ミャンマーなどへの投資や台湾への回帰ということも選択肢の一つとして考える台湾系企業も出てくるかもしれない。
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