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2012年3月 社会・時事駐在員 : 井口真彦
2月に入り、新聞紙上で目にしない日はない名前が2つある。 一人は雷鋒(らいほう)。毛沢東の時代、中国各地の農場や工場で作業するなどの奉仕活動を続けた人民解放軍の兵士。 模範的な兵士、人民に奉仕する無私の人物とされており、1962年に22歳の若さで事故で殉職したのだが、1963年3月5日、毛沢東によって「向雷鋒同志学習(雷鋒同志に学ぼう)」運動が始められ、現在でも3月5日は「雷鋒に学ぶ日」として、学生たちが公園や街路などの掃除をする日となっている。雷鋒が亡くなって50年となる今年は、1か月以上前から、国を挙げてキャンペーンが繰り広げられ、2月中から「雷鋒に学べ」という活動が始まり、雷鋒の精神と文化フォーラム、写真展・文物展・歌謡大会、「新世代の雷鋒探し」など、様々なイベントが行われた。 もう一人、この2月から急にメディアに登場し、毎日のように報道されているのが、林書豪(りんしょごう、英語名:Jeremy Lin)。NBA(北米プロバスケットボールリーグ)のNew York Knicks(ニックス)所属の選手。 23歳のルーキーだが、2月4日のネッツ戦で、主力選手が怪我で退場したのに代わり途中から今季初出場を果たすと、25得点を挙げ勝利に貢献。6日のジャズ戦からはスタメンに抜擢され、その後も毎試合のように20得点以上を挙げる大活躍でチームを7連勝へと導き、低迷していたニックスを復活させ、第7週(2月6日〜12日)のプレイヤー・オブ・ザ・ウイークに選出された。 代表チームの低迷、八百長事件などで国内のサッカー人気が低迷する中国で、近年のスポーツ界のスターと言えば、陸上ハードルの劉翔、テニスの李娜、そしてNBAで活躍する姚明であった。その姚明が昨年引退し、ぽっかり穴の空いたところに突如現れたのが林書豪。 両親が台湾からの移民で、米カリフォルニア州出身で米国籍。アジア系の二世であること、名門ハーバード大学出身であることなども、注目を集める一因となっている。 米国籍であること、両親も含め大陸出身でないことに、複雑な思いを抱く中国人も多いようではあるが、人民日報は「林書豪は何をもたらしたのか」「林書豪の夢に続くことはできるか」といった論説を掲げ、上海の大衆紙新民晩報道では、早速「林書豪、そして彼の両親に学ぼう」という記事も掲載された。 雷鋒と林書豪。中国メディアを賑わす新旧2人の英雄。 経済発展によって拝金主義が蔓延する中で倫理理観の欠如が指摘され、また、急速な国際化の進展の中で自らの立ち位置に戸惑っている様子もうかがえる中国とその国民。善行を行ったり、努力により成功したりした個人を英雄としてメディアが大々的に取り上げ、「○○に学べ」といったキャッチフレーズで善行、ボランティア精神、努力の大切さ、長幼の序などを奨励する手法が目立つように思える。日本では最近はあまり見られないものでもあり、人々の反応も含めて極めて興味深い。
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