本会議会議録
委員会補足文書
令和6年10月人口減少社会課題対応特別委員会
東京医療保健大学医療保健学部 教授 瀬戸僚馬氏 【 意見陳述 】 発言日: 10/08/2024 会派名: |
○瀬戸僚馬氏
東京医療保健大学の瀬戸僚馬と申します。
今日はお招きいただきまして大変光栄に思っております。ありがとうございます。
およそ50分間でありますけれども、医療情報の分野で20年ぐらい教育研究に携わってまいりましたので、私見を述べさせていただければと思っております。
簡単でございますが、自己紹介させていただきます。
東京医療保健大学という大学の教員をしておりまして、医療情報学科というあまりない学科ですけれども、それぞれの病院の中に情報管理をしている担当者がおりますし、システムをつくる会社もありまして、静岡県にも電子カルテを作っている会社がありますが、そういういろいろな会社に人を送り出すというのが任務でございます。
先ほど、委員長から、御殿場市・小山町という話を頂きましたけれども、私事になりますが、出身地が神奈川県足柄上郡でございまして、御殿場線沿線です。神奈川県民ですので、JR東海――当時は国鉄ですけれども――のエリアで育ちましたので、お近くからお呼び頂けて、大変うれしく思っている次第でございます。
私の出身職種は看護師でございます。医療情報分野の長は、医師であることが多いですけれども、どうしてもいろいろな職種がおりますこと、人口的に医療従事者の中では看護師が一番多いということ、あと何よりも泥臭い仕事担当という面がございますので、そういった業務をやっている人が情報管理をするのがよかろうという流れも、海外ではかなり強いところでございまして、日本国内では人数がかなり少ないのですが、そういう業務をしておりました。
直接静岡県とはつながりませんけれども、神奈川県の山奥、当時の津久井郡の病院で臨床をやった後、東京へ出て、杏林大学病院でシステムを担当して、今の大学で教育研究に従事して15年ぐらいでございます。
日本医療情報学会という学会がございます。この静岡県におかれましては、近年御勇退されましたが、浜松医大の木村通男教授がいらっしゃいまして、日本医療情報学会の会長経験者で、かなりビッグネームもある中でございますけれども、私は若輩者ですが、教科書委員長をやらせていただいたりしておりますことと、近年、看護DX実践ガイドという本をちょうど作りまして、本日、参考資料として各会派分お持ちさせていただきましたので、もし御興味がございましたら後ほど御覧頂ければ幸いに存じます。
さて、東京医療保健大学でございますが、大正時代にできた裁縫塾という実学教育――生活支援の教育をする機関が少しずつ大きくなって専門学校になり、短大になり、大学になるという形で発展してまいりました。それが、ちょうど生活支援のメインテーマが変わることとかなり符合しておりまして、大正時代の生活科学は裁縫であるというような、衣食住である。それから戦後になって、少しずつ栄養状態がよくなっていく中で、栄養士の教育をすると。そして平成に入り、中盤ぐらいになった頃には、世界トップの平均寿命、健康寿命の国になってくる中で、逆に健康状態が良すぎて生活習慣病になるという例もありましたので、医療の大学に変わると。そういった転換をしてきているところでございます。
私どもも、東京の五反田にありますNTT東日本関東病院、昔の関東逓信病院がありまして、伊豆にありますNTTの伊豆病院と関東病院はペアの関係にありますので、こういう関係の中で、一緒に教育研究をやらせていただいているところでございます。
それでは、どのような背景でどんな取組をしているかに関して、少しずつお話をさせていただければと存じます。
医療従事者の人材需給に関しては、もういろいろなところで出ている資料ですので通過しますけれども、医師も看護師もすごく足りないということ、足りないところをどうやって補うかということになります。医師のほうは同じ表現がなぜかないのですが、看護のほうはプラチナナースという言葉がございまして、いわゆる大先輩のことをプラチナナースと呼んでいて、定義はありませんし、きっと定義をすることは誰も望まないと思うんですけれども、その大先輩に当たる年齢層の方々がどんどん増えているといった実態であります。
そういった状態が続いていきますと、もちろんいつかは医療を支えられなくなりますし、80歳でも90歳でも頑張ってくださる従事者はいるのですが、幾ら何でもそこまでお世話になるのも申し訳ないところもあるので、新しい形を考えていかなければいけないというところでございます。
DXという絵を考えてみたときに、イメージとして考えられるのはどういう形なのかと言いますと、かつて手塚治虫さんが、御承知のとおり医師でございますから、どうしても生命への畏敬の念とか、人間中心というところにすごくお考えがあると。けれども、実際に漫画を描くときは、その裏返しとなる、こういう社会にしないほうがいいよねというところをすごく強調される面がございまして、かなりロボット中心の社会を描いているところかと思います。
様々なシンクタンクがつくっている将来の絵というのは、この裏返しのようなことがすごく多くて、非常に有名で分かりやすいものは、三菱総研さんが三菱の未来戦略という2050年の絵をつくっていますけれども、裏返しになって、人間が中心で、周りをデジタルが支えるというものかと思います。
昨今、マイナンバーの健康保険証としての活用をはじめとして、デジタルを観光、医療に使うことに関しては、多くの住民の方々がすごく前向きに捉えている状況にはあまりないところはありまして、私は学の立場なので、行政に対して別に不満があるわけではなく、むしろ産学官連携の中で、自分たちは自分たちなりに手が届いていないというところをすごく感じます。結局、DXが進んでいくと、医療がどうなっていくのかということに関して、まだまだ十分にイメージが湧かない方がほとんどなのではないかとすごく思うところです。
例えば、マイクロソフトやインテルなどITの大企業がつくるイメージはロボットの世界でございまして、もうドラえもんをそのまま実写にしたような世界観でございます。けれども、さすがにそうはいかないので、もう少し現実味がある中で、未来像を共有していくことが多分必要だろうというところです。
ということを考えておりましたら、ニュージーランド政府がつくっている未来の医療イメージみたいな動画がありまして、ちょうど1分ぐらいですので、少し御覧ください。一応英語で流れますが、イラストさえ見ていればイメージがつかめる、すごくよくできています。もちろん聞いていただいても結構ですけれども、主にイラストのところを御覧いただければと思います。
(動画の視聴)
今の動画ですごく重要なのは、これをニュージーランドの保健省、行政が作成していることだと思います。行政はこういうドラえもん的なイメージの絵は、なかなか作りにくいと思うんです。ただ、このイメージだとさすがに分かるだろうというところがあります。だけど、実は裏側にかなり緻密なコンセプトがいっぱい詰まっていることが分かります。すごく重要なのは、デジタル化されていく中で、医療や福祉の従事者が自分に接してくれないのではないかと、特に御高齢の方はすごく気にされるところだと思います。決して人が自分のところに来なくなってしまうことではありませんという安心感がないと、なかなかデジタル化されていくことに関して、特に御高齢の方、住民の皆さん、患者さんたちは受け入れ難いのではないかと思われます。ですから、行かないということではないですよというところが明確になっています。
実は、これは裏側がすごく緻密に設計されています。例えば、薬がロボットで作られる、ドローンが運んでくるみたいなところは、少しドラえもん要素の強いところですけれども、例えば薬を実際に出しているわけです。ですから、もちろん看護師が単独の判断で薬を出すことができるわけがないので、この点に関しては、あらかじめ医師とかなり綿密な詰めが終わっていることが前提になろうかと思います。どういう状況であれば、どの範囲でどの薬剤を使うことを医師が認めるということが前提にあった上で、こういった流れが可能になっていきますし、薬剤師も必要ならば運びますというようなことになって、恐らく日本の場合、ただドローンを飛ばすことはきっとないと思うので、大急ぎだったらバイク便で運ぶとか、あるいはそんなに急いでないなら、明日、コンビニで受け取ってくださいという話になると思いますけれども、そういう物流の問題など、かなり裏側に緻密な制度設計があると。そうしていくと、デジタル化された中で、今までであれば病院に行って薬をもらって、薬局にさらに立ち寄らなければいけなくてみたいなプロセスが、かなり縮まりますよとか、でも別に医療従事者が誰も診てくれないわけではありませんという、そのイメージが一応湧くものになっているので、こういう世界観の共有が恐らく重要ではないかとすごく思うところです。
さて、DXとは何かということに関しては、研究者としてはすごく面白く感じます。
もともと、スウェーデンのストルターマン教授が、20年前に提唱した、生活全ての面を変えるものというのが、キックオフになったことはよく知られておりますが、ストルターマン教授はDXとは何かということに関して、物すごく緻密な定義はしませんでした。ですので、それを引き継いだり、いろいろな人たちがいろいろな議論をしていくわけですが、例えば、日本の行政の中で比較的早かったのは経済産業省が産業育成という観点に軸を置いて、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することと表現をしているわけです。
もちろん、経済産業省なので、どちらかと言えば対事業者向けの説明になっているので、こういう表現になっている。
左の図は総務省ですが、総務省は、どちらかというと消費者視点的な表現になっていて、デジタルによる新製品やサービスという話をしていると。それぞれの行政がそれぞれの施策目的で表現している場合、表現形は違いますけれど符合していることでございまして、産業という観点からすれば、競争優位性を確保するためにデジタルによる新製品やサービスを生み出すことになるわけですから、別に矛盾はしていないということは、お気づきのことかと思います。ただ、見え方が全然違うというところです。
さて、日本の医療DXとは何かということに関しては、結構議論がございます。この件はもちろん、いろいろな行政の組織の中で、誰が表現したというところはありますけれども、実務としては、厚生労働省が上述の定義のようなものをしているわけであります。
ところが、見ていただくと物すごく分かりにくいですよね。医療DXとは、保健、医療、介護の各段階において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化、共通化、標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることと書いてあるわけですけれども、この表現で理解できる患者さん、住民はいないので、よく分かんないという話になってしまいます。よく分からないので、マイナンバーを使って受診しなければいけない、今までの保険証がなくなるというところにフォーカスが当たってしまうのも、それはそうだよねという面があって、とにかく分かりにくいところが大きな課題ではないかと思います。
では、なぜ分かりにくくなってしまうのかですが、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように社会、生活の形を変えるというところに、奥歯に物が詰まっている感がやはりあるわけです。日本は既に世界最長寿国ですし、医療に関してはかなり充実している国だし、介護保険制度ができて20年以上たって、介護に関していろいろな課題があるけれども、とにかくサービスの供給は一定程度できているので、今の課題は、今までやってきたサービスの供給を同じようなのりで続けていこうとか、不可能である中でどうするかがもちろんテーマだから、そういうことを本当は言いたいはずですが、それはすごく言いにくいという中で、より良質な医療やケアを受けられるという言い方をしているので、どうしても奥歯に物が詰まったような表現になってしまうところです。ですから、厚労省が、情報処理推進機構の説明文を引っ張ってきていますが、情報処理推進機構は経済産業省の独立行政法人ですから、経産省自体の定義を見ると、それぞれの企業が優位性を確立することだから、それぞれの組織が自分たちの知恵とか創意工夫によって新しいことをすることが元ネタですけれども、そのトーンはかなりないです。それは当然のことながら、既にある程度、いい状況ができてしまっている中で、コストパフォーマンスをよくしなければいけないというところに重点があるので、こういう表現になってしまう。その中で、すごく内向きな話が多くなって分かりにくいというところかと思います。
つまり、日本の医療は、ぜいたく品とは言いませんが、既にかなり充実し仕上がった状態であるがゆえに、DXとは何かという話は表現しにくくなっている。左側に挙げたWHOのある地域のDX度を見ていただくとイメージが分かりやすく、一番上だけを見ますけれども、ユニバーサルコネクティビティという話をしておりまして、医療がまだ世界中で行き届いていない地域が幾らでもあるから、行き届いていないところに医療を行き届かせようというのがテーマだと、これはデジタルであろうと話はすごく簡単です。
日本でも、なかなかすばらしい取組もありまして、例えば沖縄県のベンチャー企業がすごく安いエコーをつくったという事例があります。日本は医療機器が物すごく優秀ですから、一番安いエコー――超音波診断装置でも、100万、200万、300万円、普通にするわけですが、二、三十年落ちのエコーもしっかりと動くわけです。ですから二、三十年落ちの古いけれども使えなくはないエコーを10万円台ぐらいでつくって輸出したら、アフリカの国は役に立つのではないかと言って、JICAもサポートして、ベンチャー企業が開発して輸出したケースがあります。これによって助かる命があり、アフリカの奥地に行くと――もちろん医師はいないから、助産師が1人でお産をするわけですが――超音波などない中で、例えば逆子になっていたり、胎盤がすぐ出血してしまうような位置にあるまま、危険な分娩をして命を落としてしまうお母さんたちが後を絶たなかった中で、超音波診断装置をすごく安いものにすることによって診断がつくようになって、大きな病院に運ぶことが可能になって助かる命が出てきたみたいな話もありますから、そういう世界観のDXもあると思います。
ただ、世界のDXを見ると、そういう医療が行き届かないところに行き届かせるためのDXだし、日本のいい医療ですが、これ以上継続することが人の面でもお金の面でも厳しいという意味でのDXに対して、トーンが違うんですけれども、ただ1点共通点があって、いずれにしても医師が足りないという点は一緒で、この点について課題解決しましょうということだけは一緒かと思います。
私は医師ではないので、すごく僭越だとは思うのですが、医師の先生方が十分にいない中で、医療を継続していくモデルを作っていかなければいけない中で、DXの出番はやはりあるのかなと思っています。
ただ、正直進みません。新型コロナウイルスの対応をしたときに、静岡県下でもかなり多くの方々が物すごく汗をかいて、ワクチンをやったり、いろいろな対策をして乗り切って今日にやっと至ったところだと思うのですが、あのときに、物すごくアナログな業務が多くて、大変だったという実感が多くのところであるのではないかと思います。
例えば、接種券を紙で送り、紙で回収し、接種券にQRコードが付いているのですが、QRコードを読み取るシステムも、安定運用するまでになかなか手間がかかったり、すごい苦労をしてきたという経験が、つい二、三年前にあって、過ぎてしまうと忘れてしまうもんですけれども、結構大変だったわけですが、別に国も考えていないわけでは全くないということです。
厚労省が作るデジタル関係の工程表は、左上が2000年ぐらいにできた表で、5年置きぐらいに新しい工程表ができて、政権交代も途中でありましたので、しばらく行ったり来たりを繰り返しながら、現在の工程表にいく感じになるわけですけれども、大体5年計画というのは、5年後にきちんと評価されないまま新しい工程表が作られますので、そういう意味では前にきちんと進まないという課題があります。
後ほど申し上げようと思っていたことの1つはここにありまして、どうしても永続性というものを考えたときに、国の施策で5年置きぐらいに更新して進めていくときに、担当者だったり、担当する立法府側の方だったり、かなり入れ替わってしまう。ですから、今までやってきたことは何だったのか、それを踏まえて次のステップに進むというところがなくて、どうしても断片的な繰り返しになってしまうと、情報システムを設計して、導入して、評価してと、この1サイクルにもともと5年ぐらいかかるわけです。それを継続的になかなかできないというのは、結構課題だと思います。
だから、地方自治体の役割はすごく大きくて、逆にそこを長い間テーマを預かり、続けていくことが可能だと思われますので、この手の工程表は、国のものはもちろんある程度踏まえないといけないでしょうけれども、やはり自治体ならではの考え方もあってもいいのかなとすごく考えているところですので、ぜひ検討いただければと思います。
ただ、自分の仲間もたくさんおりますので厚生労働省を批判する意図は全くなくて、すごく苦労しているのは、はたから見ていて感じます。
ストルターマン教授は、2004年に最初に論文を書いたときに、あまり方法論レベルのちょっとした改善をいっぱいやっても何も変わらないという指摘を最初からしています。ですので、私たちが行きたくないようなところに連れていってしまうという、そういう改革にならないような改善は少し違うという問題提起をしているところは大事だけれども、すごい苦労がある中で、国の医療DX施策のかなりのウエートが、今、電子処方箋とマイナンバーカードの保険証切替えにエネルギーとしては取られてしまっているというところがあって、それから先に全然進めないのは、行政も苦しんでいるところです。その先を示さないと何も変わっていかないだろうし、住民や患者さんたちの理解も得られないと思いますので、そこに踏み込んでいければいいのかなと思っております。
AIが進んでいく中で、私は看護師出身なので、思うことがあります。役割分担として、医師と看護師は結構面白い関係で、医師というのは、ほとんどの方が博士でもいらっしゃいますし、とことんサイエンスを追求するのが役割であると。つまり、生存可能性を1%でも、0.1%でも高めるのが仕事だから、それはとことんサイエンスでやっていただかないといけないという面があろうかと思います。
他方、看護師のほうも医師の仕事をサポートさせていただいていますからそこは一緒ですが、生活支援者として考えてみたときに、生活は必ずしも科学的、合理性の世界にはなくて、私自身もそうですが、食べ過ぎて飲み過ぎたら体重が増えるのは分かっているけれども、でもおいしいものは食べたいし、お酒も飲みたい、それは当然です。例えば、90代のお年寄りに在宅で関わらせていただいたりするときに、誤嚥のリスクがあったとしても、ジュースを飲みたいよねなど考えるのは当然でありまして、そこは科学の世界というより、人生の価値観の中で、その人がやりたいことをやるという支援が大事だと思っている。ですから、何でもかんでもデジタルにして、合理性をAIに追及させて、私たちは幸せになれるかといったら、幸せに多分なれないです。けれども、手放せる仕事をどんどん手放していくという作業をやりつつ、それによって時間を生み出すことができれば、たまにはリスクはあるけど、気をつけてジュースを飲もうみたいな話がある。面白がるのは不謹慎かもしれないんですけれども、すごく興味深いのは、入院患者さんたちにとって、お正月のお餅というのは結構大事で、病院の職員としてはお餅を食べさせることはリスクがあるのですが、ただ裏を返してみたときに、このお正月が人生最後のお正月だと思ったら、お餅を食べたいという気持ちは十分分かるわけです。そういうところにお付き合いをするのは、やはり医療や介護、福祉の世界ではすごく大事なことだから、そういうことを一緒に考えて悩みながら、合理性ではない幸せを追求する余力が今はないので、その余力をDXで生んでいきたいというのが、一番大事なことかと思っています。
さて、少しDX事例の話をしていきます。
若干専門的になり、恐縮でございますけれども、RPAという考え方がございまして、ロボティック・プロセス・オートメーションで自動化をすることであります。
ロボットの活用という言葉がすごく言われますが、ロボットは、歩き回るロボットや工場の製作ロボットみたいな動きというものに限らないので、コンピュータでちょっとした自動化をするのも、一応ロボットであります。クラス1、クラス2、クラス3というものがありまして、それを少しずつ高度化させていくのが大事かと思っております。ですから、いきなりAIをどんどん投入していくという、クラス3に当たるようなことを一度にはできないので、少しずつレベルを上げていくしかないと考えているところでございます。何年でできるかという時間軸を考えたときに、今、レベルゼロのところがかなり多いので、1に少しずつ上げる。ただ、十数年後にはレベル3に上げないと、あっという間に2040年になってしまうので、少しペースを上げないといけないと思うところです。
先般、国際学会がございまして、アメリカや中国の研究者と意見交換する機会があったのですが、先ほどのニュージーランドの動画で、とはいえ看護師は家に来てくれるとやりましたけれども、毎回必ず看護師だったりあるいは介護士だったり、医療従事者、福祉の従事者が来てくれるとは限らないという中で、既にバーチャルナースという考え方もアメリカや中国では出てきているところであります。
その点を考えるときに、地理的な条件の違いは少し考慮していいのかなと思います。アメリカで遠隔医療やテレワークが発達したすごく大きな背景も、国土が広く、移動が大変だと。静岡県も県がかなり広いので、下田から浜松まで移動するのにすごい時間がかかる――1日かかるとは思うのですが、ただ1日かかりはしないという地域が多いんだとは思うんですけれども、そういった地理的なギャップがあると、どうしてもバーチャルでやろうという話が増えてくるので、そういったことを考えていくのがすごく大事なので、少しずつバーチャルなものというのも、十数年後を待たずにできていっていいかと思います。
そういったことを議論するために、今、基本的な技術としてIoTとかAIという言葉がよく使われますが、IoTとAIはつながっておりまして、IoT――モノのインターネットは、センサーが発達してたくさんのデータが取得されると、ビッグデータになってしまう。このビッグデータを人間が処理することがもうかなわない量になっていきます。そうしますと、AIに処理をさせる、こういう流れになってまいります。いろいろなものが増えて、環境が変わってくるのが大きなところではないかと思います。
左側の図は、コンタクトレンズでございますが、何のためのコンタクトレンズかと言いますと、実は血糖値が測定できるというもので、グーグルも研究開発されています。これは名古屋大学の研究者が書いた論文のコピーですけれども、そういったものがいろいろなところで開発されていると。糖尿病の患者はすごく多いわけですが、糖尿病になりますと、年がら年中、指から血を出して、痛いですし、感染性廃棄物が出まして大変なわけで、それがある程度の近似値をコンタクトレンズから取れればすごく合理的で、そういったものを増やしていくことで観察の負担を減らしていく。こういったツールが少しずつ増えてきております。
自宅の中でも、例えばエアコンをスマートフォンから入れたり切ったりすることができるような装置は、既に普通に売られておりますけれども、ヘルスケアに応用すると、そういう観察をするときは、何か手間がかかったり、痛かったりするんで、そういった負担が減ってくるのはすごく重要なことではないかと思います。
ただ、IoTのツールはつくっただけだと、医療従事者は仕事が増えます。つまり、情報量が増えてしまいますので、見るべきモニターや画面が増えてしまいます。
私どもと一緒にやらせていただいているNTTの関東病院でも、例えば睡眠のスキャナーを全てのベッドに入れるというような取組をしておりますけれども、そうするときちんと寝れているのか、あるいは呼吸状態がおかしくなっていないのかなど観察することはできますが、そのたびにモニターが各ベッドに1個ずつ増えていくことになります。センサーを増やし続けていくと、病棟が証券取引所みたいなモニターだらけの場所になってしまいますので、その辺のバランスも少し考えていかなければいけない。
そしてもう1つは、プライバシーの問題があります。例えば、患者さんの表情が硬い、落ち着かないといった状態を、今はカメラで表情をスキャンすることができて、表情を数値で表すこともできます。ただ、その表情推定をして数値で表現することが、私たちの生活として受け入れられるかどうかということであります。
例えば、すごくにこにこした顔で、いや全然怒ってないですよって言っているんですが、絶対あの人は怒っているよねという場面は普通にあるかと思います。こういった場面は、今までは主観で済んだわけです。AIが進んで、にこにこして全然怒ってないですよって言って、80%怒っていますとAIに言われるような時代になったら、私たちは生活が物すごく不便になります。だから、やり過ぎるとよくないこともありますので、程々にしたほうがいい。
ですので、医療現場が受け入れられる技術にしなければいけないという議論はあるかと思います。ただ、顔認識を用いた表情の観察は、まだ医療現場の中でも、幾ら何でもこんなものは使えないと思っている人が多いので、4割ぐらいの人しか同意してませんが、少しずつそういったものが進んでくるというのは大事かなと思っています。
さて、こういったものを進めていくのはよいので、IoTのセンサーをつくるなど、ベンチャー企業がいろいろな取組をしていくことはすごく有意義だとは思います。ただ、課題もありまして、各社がばらばらに企画をつくっていきますと、データが同じ入れ物に入らなくなってきます。ですから、業界団体の中で、看護に限らず、医薬品も病名もいろいろなデータ交換の規約がありますので、静岡の地場の電子カルテベンダーさんも、JAHISというメーカー団体みたいなところに入って、一生懸命活動されていらっしゃいますが、やはりそういう取組も大事です。各社がばらばらにやっていくことも、競争優位を確保するために汗をかくといういい面もありますけれども、度が過ぎると、他者と一切つながらないシステムがたくさんつくられて、現場の負担が増えてしまいますので、この辺のバランスは大事かと思っております。
ケアマネジャーと医療施設を結ぶ取組も、厚生労働省の老健局になりますけれども、共通フォーマットみたいなものをつくりましょうと言って、今、いろいろな企画をつくっておりますので、もし静岡県で、県としていろいろな電子カルテや、あるいはヘルスケアのICTのシステムを開発する企業を支援する機会があるとしましたら、一生懸命やってもらえることはすごく評価しつつも、ただ、企画に関しては、既にある企画と足並みをそろえることも大事にしていただけるといいかなと思っています。
すごく重い課題もございまして、ACPをどう考えるかという点も、やはり重要な話かと思われます。
アドバンス・ケア・プランニングでございますが、日本語にすることが非常に難しい英語で、かつて厚労省で人生会議と訳して、あまりうまくいかないことがあったのを、御記憶におありの方もいらっしゃると思います。人生ですので、始まりがあれば終わりもあるので、よりよい人生というマラソンを走り切る、ゴールを迎えるということを考えていったときに、どういうゴールを迎えたいですかというところが、やはりあるだろう。どういう人生のゴールを迎えたいかという意向を共有しておきたい、ICTを使ってやりたいという希望は、ヘルスケアの現場側からすごく出てきます。
なぜかといいますと、人生の最終段階において救急車を呼んでしまいますと、ふだんかかっているわけではない病院に運ばれたり、自宅で最期を迎えるのとは正反対の方向性で人生が終わってしまうことが多かったりすると、それは必ずしも幸せではないのかもしれないということではあるんです。ただ、厚労省の特に医政局はすごくこの問題に関してセンシティブでいらっしゃいまして、情報の独り歩きがすごく怖い。ある一時期に、いざというときはもう救急車とか呼ばなくて、自然に自宅で人生の最期を迎えたいと言ったとして、それが3年たち、5年たち、10年たったときに、10年前の情報に基づいて、じゃあ救急車を出しませんよと、呼ばないわけにはいかないでしょうという問題があります。ここを詰めていくと、あまりにも話が重くて議論が進まないところはあるんですけれども、ただ、アメリカやイギリスや欧米諸国の中では、この問題は大きく考えられるようになってきているのですが、G7とは言いますけれども、G7の中で日本だけがキリスト教圏ではないので、周りの6か国は全部宗教的背景も一緒ですので、それを日本に当てはめる話にはきっとならないと思うので、その問題に関してはすごく深い問題として考えていかないといけないかなと、国でも触りにくい話題になっているところです。でも、いろいろな会議体で議論するたびに、その情報をきちんと共有したいという話題は出てきます。
さて、今回、宿題として他県の事例という話を頂いたのですが、実は他県の事例がそんなにたくさんは出てこないんです。なぜかというと、どうしても現行の法制や診療報酬制度を意識しないといけないので、ストルターマン教授からすれば、あまりよくないという指摘はあるんだけれども、ただ現実的にできることに関しては、ある程度制約があるところがあります。
例えば、病院とほかの病院、あるいは調剤薬局、訪問看護ステーション、施設同士がICTで連携して、ある程度オープンの施設同士がつながってる地域はどこかという話があるとすると、有名なのは長崎県です。何で長崎県ではやるかと言うと、これは地理的影響を受けていて、御承知のとおり、日本一離島が多い県でいらっしゃいますし、長崎県内を飛ぶために、オリエンタルエアブリッジという航空会社もおありですから、そういった地域条件の中では、情報共有をする基盤がどうしても必要だという環境があります。そういう中で運用しているところですが、では、長崎市や佐世保市のような、長崎県内の中で都心部に当たるようなところの病院同士が普通につながっているかというと、そこはまだ新たな挑戦をしている途上で、なかなかこれがベストプラクティスという県がはっきりあるわけではないし、そのモデルを他県にそのままスライドできるわけでもないというのは、すごく苦しいところかと思われます。
ですので、どんなことを考えたらいいかと考える上で、あまりレファレンスになる地域がありませんし、そういう意味で東京都に関して言うと、自分が今住んでいる地域ではありますけれども、病院同士が連携するニーズ自体はあまりないので、ICT連携はかなり進んでいない地域ということになってきます。
そういう中で、少し大きいことを考える上での行政の事業が、過去にあったかと言うと、実はなくはないです。文部科学省がコロナのときに、医療DX補助事業をやったんですけれども、文科省がやる事業なので、病院を支援するのではなくて、学校を支援するということでした。新たな医療の形を考えていかなければいけない、そういうことをできる人材を育成してくれないと困るので、いろいろ取組しながらやってみてねということで、挑戦を行い出したのがこの事業でございました。
本学は、学部が5つございますけれども、いろいろなものを買ってみまして、それぞれの学部の創意工夫ですが、例えば左側の青い装置は何の装置かと言いますと、実は排尿後の処理をする装置でして、お下の処理というのは羞恥心が伴うものですし、そういったところを軽減するために、洗浄して乾かす装置だったり、真ん中の機械は移動支援装置で、こういったものもあります。右上は、スマートグラスなんで、ちょっと先の研究的な感じがありますけれども、右下は先ほど話題に出した安いエコーであります。日本国内でも安いエコーが普及し、病院に行かなくても、軽く診るぐらいの観察ができれば、患者の負担が減ったり、病院に行く機会自体は減らせるので、そういった訓練をし始めているところです。
これから先の医療を支えていく学生たちと一緒に未来の形を考えたいということを、文科省が支援してくれたので、結構新しい形を考える補助事業としてはありがたくて、1学部1,000万円だったのですが、1,000万円は機械を数台買うと終わってしまうんですけれども、多くの人にいろいろなことを考える機会になったという意味では、割とよかったのかなと思っております。
もう1つは、産業育成という観点で、産業DX補助事業というのもありまして、これは私たちはオープンデータをつくろう、匿名加工された議論をするためのデータをつくろうと、産学連携基盤をつくるみたいなことを一緒にやってきたわけですけれども、議論するためにはデータが必要で、データが集まってくる仕組みをどうやってつくるというのは結構大事なことで、補助でその辺の基盤整備ができてきたというところは、ありがたいと思います。
それで、実はデータはお金になります。今回、どうしても補助に頼らない形をどう考えるかという、結構難しい宿題を頂きまして、どうしても行政の支援という話になりますと、補助金を出してほしいという話が当然のように出てくると思うんですね。補助金はあったらありがたいんだけれども、補助金の原資は税金だし、どこかでビジネスをしてお金を稼いでこないことにはお金はないわけで、それをどうやって考えるかというところで、実はデータは1つのヒントになっています。既に上場企業でヘルスケア系のデータビジネスをやっている会社が幾つかありますけれども、国は行政がつくるプランの中では、例えばナショナルデータベース――幾つかの官製データベースで、政府そのものが事業に関して議論するためのデータベースや国を支援している研究者の研究を支援するデータベースなど――を持っているんですが、それらとは全然別の話として、民間事業者はいろいろなヘルスケアに関するデータがたまってくれば、新たなビジネスチャンスを考えるきっかけになるものだから、データビジネスという業種もあって、それはそれで、別に国の支援を受けずに自主的に成長している面もあるわけですね。そういったところに個人情報保護法や次世代医療基盤法など、いろいろな法令上のハードルをクリアしながら、データを提供している医療機関もあるわけです。だから、DXでお金を出してあげるというときには、一番最初のキックオフの費用は出せるかもしれないけれども、そこから後のお金を出し続けることは不可能なので、そういったものをどうやっていくか。お金を生み続けていく仕組みを考えていくと、データをお金に換えるというのは1つの選択肢としてあるので、法令上可能な範疇で、現に上場企業が育ってますから、そういったものと結びつくようなビジネスモデルの支援ができるとすごくいいのかなと思っています。
残り5分を切りましたので、まとめてまいります。
もう1つ頂いた宿題に、人材育成の話がございます。
問題は、誰がそれをやるのというところかと思っています。医療現場でも福祉の現場でも、DX人材というのがすごく少ないというところがございます。
私もできてないなと最近すごく感じることは、次世代人材を増やすことです。私自身は、この図で言いますと、X世代に当たりますので、Y世代、ミレニアル世代より前の世代ですので、つまり、デジタルネーティブではないわけです。アナログ時代に生まれて、アナログからデジタルに変わって医療情報の仕事をしているのですが、ただ、その世代の人は、コンピュータが面白いと思ってこの世界に入ってきているわけです。
ところが、もうY世代、ミレニアル世代、もう少し簡単な言い方をすれば、平成生まれ以降の世代になってきますと、生まれたときに既にデジタルなものはあったわけで、いわゆるZ世代に至っては、非常に面白いと思いますけれども、うちの子供もそうですが、例えば、タッチパネルではない機材を触って動かないと怒り始めたりしますので、それが当たり前だろうと思うわけです。そうしますと、コンピュータを面白いとか、一々思わないんですね。ですから、実はヘルスケア業界の中で、デジタル人材は平成生まれは全然いません。職種を問わず、私の出身職種の看護師に限らず、医師でもほぼいないし、薬剤師もほんの少ししかいないし、事務畑の人も非常に少ないというところで、世代問題はあります。
私たち日本医療情報学会の中でも、医療情報技師という資格認定をやっておりまして、これはただの資格認定試験なので誰でも受けてよくて、毎年3,000人から5,000人ぐらい受けて3分の1ぐらい受かる試験ですが、受けてくれる人がいますけれどもそれでも少ない。医療従事者全体からすれば、看護師、医師、事務職員だけで3分の2ぐらいいるわけですが、そういった職種が特に少ないところは少し課題になっています。
さはさりながら、少しこれから先の時代を考えていく上で考えないといけないのは、人材は少ないですが、人材の多様性は進むというところかと思います。今から15年前、まだ研究者駆け出しの頃になりますが、マレーシアの国際学会に行ったときに、オーストラリアの人材派遣会社の人が、医療情報分野の国際学会に参加されたことがあります。人材会社の人が、医療のデジタルの国際学会、全然イメージが湧かないですよね。だから、何しに来たのか聞いてみたんです。そうしたら、非常に面白い回答をされて、スライドに書きましたとおり、病院によってシステムが異なっていては働きにくい、だから標準化をしたいという話をされていた。つまり、日本の人材派遣よりかなり柔軟で、例えば今日の今日、人が3人足りないから、今日3人誰かくださいって、じゃあ3人送るねというレベルで、派遣会社から人がやってくるみたいな支え合い方をしていて、そういうことをしますと、システムの使い方が分かりませんでは仕事になりませんから、ある程度環境を整えておきたいわけですね。
私たちでも、WindowsとMacが変わっただけでもすごく操作しにくくなってしまうと思いますけれども、電子カルテやそういう業務の基幹システムが変わってしまうと、もう仕事が全くできないので、そこをそろえておかなきゃいけないところかと思います。ですから、標準化みたいな活動は、実はいろいろな人が一緒に働くという上で、すごく大切な話題になってきている面もあるかと思います。
このスライドが最後になります。
社会変革期で、いろいろな形が変わっていくとは思うのです。DXでできること、やりたいことに結構ギャップがある面もあるのですが、ただ、規制も、やはり担当省庁ごとの縦割り感がどうしても出てしまうのは、やむを得ないことだとは思うんですけれども、それが住民の皆さんや患者の皆さんにとっては、何をやりたいのか分からないということにつながってしまっている面もあると思います。ですので、ぜひその辺を広げていただければと思います。
そして、DXは、これをどうしてもやりたいからデジタル化するという思いがないと、なかなかできないんですね。どこかに前例があるものを持ってきて適用しようといってもなかなかうまくいかない。だから、神奈川県出身者としては静岡県はすごいなと思うことがいっぱいありまして、民間のパワーがかなりある県かなと、隣の県の人としては思っております。航空会社やプロ野球の二軍チームなど、結構新しいことをいっぱいやっていて、どう考えても楽ではないと思うんだけれども、頑張ってやり通してしまう強さは、やはり全国47都道府県どこにでもあるわけではないと思うんですよね。その辺のパワーがある中で、これをやりたいんだから、デジタルでスタートしてみたいという、それは動く面もあると思うので、地域の中でこれをやりたいんだというところを、いろいろなことがあると思うので、前に出していただくと、住民の方々にも、ああ、これがやりたいんだねと伝わっていくと思います。ぜひ御検討いただければとお願い申し上げまして、私からのお話を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。
○和田委員長
ありがとうございました。
以上で瀬戸様からの説明は終わりました。
これより質疑に入ります。
委員の方にお願いをいたします。
質問はまとめてするのではなく、一問一答でお願いいたします。
それでは、御質問、御意見がありましたら発言をお願いいたします。
このページに関するお問い合わせ
静岡県議会事務局議事課
〒420-8601 静岡市葵区追手町9-6
電話番号:054-221-3482
ファクス番号:054-221-3179
gikai_giji@pref.shizuoka.lg.jp