本会議会議録
委員会補足文書
令和6年11月人口減少社会課題対応特別委員会
リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト 坂本貴志氏 【 意見陳述 】 発言日: 11/25/2024 会派名: |
○坂本貴志氏
御紹介頂きましてありがとうございます。
私は、リクルートワークス研究所という株式会社リクルートの研究機関で研究員を務めております坂本と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
私から、まず50分ということでおおむね2時5分まで御説明を差し上げられたらと思っております。
それでは、スライドショーにて御説明させていただきます。
私から本日御説明させていただきますのは、人口減少社会の未来ということで、労働市場で人口減少時代にどういったことが今後起きてくるのか、あるいはそのための対応策にはどういったことがあり得るのかについて御説明を差し上げられたらと考えております。
まず、私の紹介ですけれども、初職が役所でございまして、厚生労働省にて社会保障制度に関する業務に携わった後、内閣府で月例経済報告や経済財政白書など経済に関する分析を行ってまいりました。
現職のリクルートワークス研究所には7年前ぐらいに入社いたしまして、キャリア全体として労働市場に関する分析や、あるいはもう少し広く経済全般に関する分析などに従事しております。
こちらにありますように著書も著しておりまして、経済に関することや高齢期の就労に関することなどを論述しております。
こちらのキャリアを見ていただくとおり、基本的には労働市場全般を経済の観点で日々分析しておりますので、そういった観点で御説明させていただけたらと思います。
まず最初に、第1部ということで、リクルートワークス研究所が行っている未来予測というものがございまして、そちらをまず簡単に御説明させていただきます。
リクルートワークス研究所では、5年に1回未来予測という形で実施しておりまして、このたび扱うテーマは、労働供給制約というキーワードを掲げ、いわゆる人手不足の問題に関してシミュレーションなどを行っております。
早速ではありますけれども、私たちの研究所で行った労働需給シミュレーションの結果がこちらの結果になっております。
2040年に向けて労働に対しての需要と供給がどういった形で推移していくのかシミュレーションしたものになっています。青いものが労働の需要側――働き手が何人必要かを表しております。一方、赤の線が労働の供給側――需要に対して実際にどれだけの働き手の供給の量があるかを表しているものになります。
シミュレーションした結果を御覧頂きますと分かるとおり、需要に関しては引き続き底堅く推移していくものの、それに対して供給量が足りなくなってしまうという結果になってございます。
細かい推計式などは申し上げませんけれども、一定の仮定のもとに算出したところ、需要はそれなりに底堅くあるけれども、供給量が絶対的に不足していくという形で、2040年にかけて1,100万人の人手が不足するというシミュレーションを推計しております。
こちらは、職種ごとにシミュレーションを行っているんですが、おおむね全ての職種で人手が不足していくという結果が得られているわけですけれども、職種ごとにその推移は少し形状が異なってまいります。
例えば左上が輸送や運搬の仕事ということで、ドライバーの仕事です。右上は建設の仕事ということで、建設作業員の方の仕事になってまいりますけれども、例えば2つの職種を御覧頂きますと、やはり全体の傾向と同じく、需要の量は減らないんだけれども供給の量が減ってしまうと。
これは背後でどういったことが起きるかですが、供給面に焦点を当てますと、ドライバーや建設作業員の方々は今非常に高齢化しております。高齢化して、かつ若い方が入ってくるのかというとなかなか入ってきていただけないといった現状にある中で、これを2040年まで引き伸ばしていけば、高齢の方はやがて引退されていくわけですし、あるいは若い方はますます人口が減って少子高齢化ですから入っていただけなくなると。そういうことで、正味でやはりマイナスになっていきますから、赤い線を考えれば減っていくことになるわけですね。
一方で、需要側はどうなるのかと。人口は減少するんだから減っていくのではないかと考えられる方もいらっしゃるのかなと思うんですけれども、実際に推計してみますと、例えば建設のほうを御覧頂けたらと思うのですが、需要はむしろ少しずつ増えていってしまうという予想です。これがなぜ発生するのかというと、人々が生活に使うインフラですが、インフラは人口が2割減少したからといってインフラ、道路を2割削減しましょうということにはならないわけです。むしろ高度経済成長期につくられた各種インフラに関しては、今後修繕が必要となるインフラが多くございますので、多くの人手がかかっていくと。そういった中でどうしても需給ギャップが広がっていくという結果になる。
ドライバーに関しても、人口が減ったからといって、宅配の必要な地域が2割減って集約されていくかというとやはりそうはならないわけで、人口が減りながらスポンジ状にぽつぽつと人がいなくなって、残っている人もいらっしゃる中で、なかなか需要が減っていかない形になるのではないかと推測しております。
あるいは、例えばこちらの左上の介護に関する仕事あるいは左下の医療関係職種でございますが、こういったところは供給面はそこまで大きく減っていくわけではないんですけれども、需要は先ほどの職種以上に伸びていくんです。これは御案内のとおり、高齢化が非常に進んでおりますから高齢者の方がどんどん増えていくと。今、団塊世代が大体70歳を過ぎたぐらいに当たりますけれども、医療・介護サービスは、同じ高齢者の中でも若い方というのはあまりそういったサービスを消費しないんですが、御高齢者の中でさらに年を重ねられた方は介護や医療をたくさん消費しますから、そう考えれば高齢化の進展あるいは高齢者の中でも比較的年齢層が高い方の割合が増えていくことに応じて需要が今後大きく伸びていくといった推計になっている。
御説明させていただいた以外の職種もやはり同じように需給ギャップが開いていく結果になっておりまして、マクロ全体で見て人手不足が深刻化していくのではないかというのが私たちの研究所のシミュレーションになっております。
それでは、この人手不足の状況をそのままにしておくという前提で、生活にどういった影響が生じてくるのか絵に表したものがこちらになります。
例えばこれは物流関係の仕事で表記させていただいておりますが、物流の仕事は当然ドライバーの方の労働が必要になるけれども、ドライバーの方がいないとなりましたら荷物を届けられない地域がどうしても発生してきてしまうと。シミュレーションの結果によりますと、2040年でドライバーの不足率は24.2%になります。人が住める地域は物資が届く範囲に限られることになってきますから、日本のおおむね4分の1の地域は居住不可能になってしまうこともあり得るのではないかと考えております。
あるいは、医療に関するサービスも同様です。
こちらは医療・介護の介護スタッフのお話ですが、介護現場で介護スタッフの方が恒常的に不足してしまうのではないかと。2040年に25.3%不足してしまうわけですから、これまでであれば週5回訪問介護を受けていた介護度の高い方に関して、毎週のように、週一、二回は急な連絡で介護スタッフが来られないといった事態が起きてしまうのではないかと思います。そうなれば高齢者自身でケアしなければいけない、あるいは家族の方が仕事を休んで対応せざるを得ないことになってしまいますから、生活全般に大きな悪影響を生じてしまうのではないかと考えられます。
そのほかにも、こちらはインフラの絵になりますが、道路や橋梁などもメンテナンスができないということになればやはりインフラに悪影響が出ていくことが予想されますし、あるいはこちらは病院の絵を描いておりますけれども、医療に関してもサービスが提供できないということになれば行列が生じて医療サービスを受けるために待たなければいけない、あるいはもう予約が取れないという事態になるかもしれません。あるいは事務の仕事や専門職も悪影響が生じてしまうところで、最終的には様々な人手が不足してサービスが提供されなくなってしまいますと、生活に手いっぱいとなって仕事どころではなくなってしまうという形で悪循環が生じてしまうのではないかと予想しているわけです。
ここまで第一部ということで、私たちの未来予測のシミュレーションを御説明してまいりました。
少し大げさに書いているところもあるかもしれないんですが、このまま人手不足を放置していけば、少なからぬ生活への悪影響が生じてしまうだろうというのが私たちの予想でございます。
このままいったらどうなるかという説明をさせていただきましたけれども、他方で、実は企業を中心に、人手不足に対応するための様々な施策が現在講じられているところです。実際、特に地方中小企業を中心として、今労働市場の現場は大きく変わりつつあります。第2部では、こういった人手不足の深刻化を背景に、地方の中小企業ではどういったことが起きているのか、地方経済においてどういった事態が生じ始めているのかを御説明させていただきます。
第2部では、山形県酒田市の事例を基に御説明させていただけたらと思います。私が山形県酒田市の商工会議所さんと一緒に、酒田市内の中小企業の経営者の皆さんに様々なヒアリングを行っておりまして、その結果を基に中小企業の現状を御説明させていただく資料になっております。
山形県酒田市は、人口が大体10万人に届かないぐらいで典型的な地方の中心都市になりますけれども、他市町村に漏れずやはり深刻な少子高齢化に直面しております。
酒田市の人口を御覧頂けると分かると思うんですが、人口のピークが1,944人の70歳ちょっとぐらいの年齢で、団塊世代の方の階層が一番人口が多くなっているんですけれども、そこから年齢を下るにつれてどんどん人口が減少していき、18歳は地元の中小企業の高卒人材採用の主なターゲットですが、今758人いらっしゃいます。
そういった中で、中小企業の皆さんはとにかく人手が足りませんので、高卒の人材は引く手あまたになっておりますし、中小企業の経営者の皆さんはこの人材を取り合っている状況です。
758人でも相当足りないということで、なかなか取れない企業もどんどん増えているんですけれども、では20年後どうなるかというと、これはゼロ歳のところを見ていただければ分かりますが、出生数は現時点でついに404人まで減少しています。当然、20年後を考えれば、この404人の方の多くが18歳になって成人を迎えるわけですが、今758人を取り合っている企業の皆さんが、今後はこの400人、半分の数を取り合うという事態が容易に想像ができる。
こういった中、企業も対応を大きく変えざるを得なくなっております。例えばある建設会社の経営者の方の話ですが、建設業ということで休みが少なかった。週1回の休みで週2はなかなか取れない現状が数年前まで当たり前だったのですが、今この会社さんは一気に増やしていて、今はもう日曜日は完全休みで、土曜日もほぼ出社はないということです。
なぜかというと、他社が一気に増やしてきたということです。この御時世、高校に求人票を出すと、まず求職者の方は何を見るかというと、真っ先に休日の数を見るわけです。休日数が少ないと、もうこの企業はいけないということで、真っ先に就職先の候補から外されてしまうんですね。企業としても採用を確保するために休みを増やさざるを得ないことになるわけですし、この社長さんもこれは切実に増やさないともう取れないんですとおっしゃられておりました。
さらに、休みの数だけではないんです。求職者の方は休みの数をまず見た上で、次は何をチェックするかというと、初任給をチェックします。初任給をチェックして、比較されるわけです。比較した中で初任給が安い企業は行ってもしようがないということで、そういった企業に応募しないという選択をするわけです。この建設会社の社長さんは初任給を大幅に――5年前は16万円ぐらいだったものを18.5万円まで引き上げましたと、2022年時点でヒアリングをした際におっしゃられておりましたけれども、ベアをかなりやっているということでしたから、今はもう高卒でも20万円ぐらいの給与になっているということです。
では20万円出せば十分人が取れるのかというと、そうではないわけですね。高校生の進学率が上がっていますから、東京に人材が流出しておりますし、今年の夏も何人来るか冷や冷やしておりますと。入った後もそうです。せっかく採用しても、毎年給与が上がっていく、あるいは労働条件もしっかりとした環境を整えていくということでなければ簡単に辞めてしまうと。そういった中で、賃金も労働条件もこれまでとは比較にならないぐらい上げなくてはいけなくなっている。
少し飛ばしますが、衣料品会社の役員の方のお話です。やはり同様のことが起きておりまして、こちらの会社さんでは、衣料品やユニフォームの販売などを行っていらっしゃるのですけれども、働き方改革を要請されて、今は新卒はもう取れないということで新卒採用はやっていないということですが、中途採用に関しても、募集要項の基本残業なしという項目が決め手になって弊社を選んでくれたと聞きましたと。この役員さんの部署にも若手のエースの方がいらっしゃるということで、非常に優秀で営業の数字も抜群ですと。ただ、そういった彼ですけれども、定時になると仕事をきっぱりと切り上げて帰ってしまうということです。労働者側からすれば、優秀な社員であれば長く残業してたくさんの成果を上げてくれるというのが過去の常識だったわけですが、今はしっかりと定時に帰してくれ、給与も高い水準を支払ってくれる会社じゃないともう定着することができなくなったんだと言われています。
そうなってくると、この会社さんも労働者の方の要請に応える中で、働き方の見直しを抜本的に行っていらっしゃいますし、短い時間で成果を出せるように従業員全員に生産性の高い仕事をしていただく形になっているということです。
では生産性を上昇させる取組で十分に企業の利益が確保できるかというと、なかなか難しくなってきているとおっしゃられます。この会社さんは、衣料品事業以外に介護事業も行っていますけれども、介護事業はカルテに丁寧に記載を行わなければいけませんので、そういった紙仕事に忙殺されて、生産性を高めるのももう限界であると。
賃上げに関しても、先ほどの建設会社の事例でもありましたが、賃上げが広がっている中で、この会社さんも、労働条件の改善や賃上げは考えていかなければならないでしょうと。経営としても腹をくくって考えているけれども、ただその原資はどこから出すのでしょうかと。これ以上、待遇改善の動きが広まっていくこと、当然賃金が上がれば企業としては人件費が高騰します。あるいは労働時間が減少すれば、企業の売上げが下がる圧力がかかります。そういった中で利益を確保するのが難しくなっている。経営者としての危機感が少なからずあるというのがこの会社の経営者さんのお話になっております。
中小企業の方の声を紹介させていただきましたが、これまでの時代と状況はかなり変わっているなと皆さんもお感じになられるかなと思うんです。つまり、これまでの日本の労働市場であれば、人手がたくさんいらっしゃった。就職氷河期世代という言葉もありますが、過去は景気がなかなか悪い中で需要が足りないと人手がどうしても余ってしまうという中で、企業としてはたくさんの人手の中から選べる時代にあったわけです。そういった時代であれば、ある程度長い時間で働いてもらいましょう、場合によってはサービス残業もしてもらいましょう、あるいは安い賃金でもある程度我慢してくださいと。その代わり、生じた利益を企業側は確保しますという企業行動が幅広く見られていたけれども、現在は逆のことが起こっているんです。賃金も上げなきゃいけない、労働時間も減らさなければいけないという中で利益が圧迫されているというのが今起きていることです。
実際に、第3部ではデータを見ながら環境の変化を確認させていただけたらと思います。
先ほどはヒアリングの結果でしたけれども、データを見ても労働市場はこれまでとは大きく変わり始めています。近年の労働市場の変化、人口減少に伴う経済のパラダイムシフトということで、どういう変化が起きているのか御説明いたします。
資料が多いのでかいつまみながらの御説明になりますが、10個変化を記述しておりますけれども、主なものを御説明させていただきます。
まず、変化3の需要不足から供給制約へと書いてあるところです。
人手不足が中核的な話になるわけですが、新聞記事を見てもやはり人手不足が非常に激しいと。右側を見ますと、企業業績は好調だけれども死角があると。それは何かと言いますと、人手不足、供給面で制約が生じているということです。つまり需要はたくさんあって受注は結構取れそうだけれども、それをこなすだけの人手がいないという供給面の制約でビジネスがうまくいかなくなっているんだということです。
実際の人手不足のデータを確認しましても、これは日銀短観という統計から持ってきておりますが、直近で見ますと、人手不足の状況がかなり深刻化していることが分かるかと思います。これは上に行けば人手が不足していて、下に行けば人手が過剰ということを表すわけですが、足元の動向を見ますと、やはり人手不足の状況が非常に激しいことが分かります。過去から遡ってみると、バブル期以来の人手不足になっていますから、こんなに人手不足になるのは30年ぶりという状況になっている。
一方、点線は景況感になっているけれども、景況感との乖離が開いているのももう1つの特徴です。つまり、これまでであれば基本的には景気がよくなれば需要が増えますので人手が不足すると。一方で、景気が悪くなれば人手が余りますので過剰感が強くなるということでおおむね連動した動きになっていたわけですが、ここ近年はこの赤いところを見ますと、人手不足の指数と景況感の指数が乖離し始めているのが大きな特徴でございます。つまり景気もそこそこいいけれども、それ以上にとにかく人手が足りないという事態に陥っているという経済の実態になります。
これは何で生じているかというと、簡単に言えば、やはり少子高齢化が原因だと思うんです。つまり若い方がどんどん減っていく中で、中堅世代とかもどんどん高齢に差しかかっている中でどうしても人手が不足していくと。あるいは需要面で考えれば、御高齢の方がどんどん増えていくわけですから、そういった方は当然働きに出ることは難しいですし、医療や介護など人手を使う労働集約的なサービスをより需要しますから、そういった意味で言えば供給面で制約がかかり、かつ需要も増えていく中で、人手不足が恒常化しているんだろうと分析しております。
では人手不足になるとどうなるのかが続いての説明になります。
人手不足になると、人手が不足するという状態がそのままになるわけではなくて、市場メカニズムを通じて調整が入るわけです。
では、どういう調整が入るのか説明してまいります。
まず、正規化が進む若年労働市場と書いてありますけれども、雇用形態という観点でも変化が生じてくると予想される。この写真は左側が就職氷河期の頃の写真、右側がリーマン・ショック後の年越し派遣村の写真ですが、過去は人手が余っている中でどうしても景気後退局面において非正規の方、非正規で働かざるを得ない人がどんどん増えていったという過去の歴史かと思いますけれども、これも大分状況が変わっているんです。非正規比率と雇用形態別の就業者数の内訳を見たものになりますけれども、非正規比率を御覧頂きますと、2019年が38.2%とピークになっていまして、ずっと長い間上昇を続けてきました。ただ、ここ最近では少し非正規比率が下がっているんです。2023年を見ますと36.9%になっていまして、若干減少傾向に移っています。比率だけ見ると若干の減少ですけれども、正規雇用者の人数で見ると意外と結構増えているんですね。この青の濃い線ですけれども、正規雇用者の数も2010年代半ばまではずっと減少傾向だったんですが、2010年代半ば以降緩やかに増えています。
これは何が起こっているかと申し上げますと、非正規の方自体は高齢の方が増えていますので、高齢の方はどうしても短い時間で働きたいという人が多いです。そうなると、非正規の方はトレンドとしてどうしても増えていくんですが、その一方で正規の方も増え始めているんですね。これはどういうことかというと、若い方や中堅の方で正規で働く方が増えているということです。企業側としても、今までは安い労働力として非正規の方を大量に確保するのが企業の合理的な戦略だったわけです。そこで生じた利益を企業側としては確保していくというのが経営合理性があったわけですが、これからの時代は人手が足りなくなるから、もう企業としてもある程度コストを払って正規として優秀な社員は確保していこうと戦略を変え始めています。そういった形で労働市場も変化が見られる。
変化5とありますけれども、賃金に関してもかなり大きく変化をし始めています。上がり始めていると書いていますが、世の中のニュースでさんざん報じられていると思いますけれども、例えば春闘の賃上げは去年の平均が5.1%でした。5%超になるのは、33年ぶりなんですね。今年の2025年の賃上げに関しても、去年と同じく5%以上で行くぞと連合も言っていますし、経済団体もこれに応じる構えがあるという中で、恐らく来年も同じぐらいの賃上げが多分実施されると思います。
あるいは、最低賃金も今どんどん上がっています。現在の政権が2020年代後半に1,500円まで伸ばすぞと言われておりますけれども、政府としても公約として掲げているわけですから、恐らく全力で1,500円まで伸ばしに行くのかなと思います。
そういった中で、賃金が上がらないと言われているんですけれども、やはり丁寧に見れば結構上がり始めているんです。上がり始めているのは2010年代半ばからで、名目賃金は時給で見ています。年収ではなくて時給で見ているのが1つのポイントです。つまり年収で見ると労働時間がどんどん少なくなっていて、短い時間で働く方が増えているので、どうしても平均値が下がってしまうんですが、時給で見ると結構上がっていることが分かるかと思うんですね。名目時給で見ますと、2010年代半ばが2,100円台半ばぐらいだったものが、今足元では2,418円まで上がっています。労働者側からすればより短い時間でそれなりの給与を稼ぐことができるようになっている、それが今の労働市場の実態です。
第2部でも企業経営者の声を説明しましたが、やはり経営者の皆さんは今どんどん賃金を上げなければいけないと認識されていますし、実際に上がっているというのが実態だと思います。
でも実質賃金は上がっていないでしょうとよく言われると思います。確かに実質で見るとなかなか伸びていないんですが、どうしても実質というのは為替の影響などを受けますし、それに伴う輸入物価の上昇の影響を受けますから、今円安が進んでいてどうしても実質は上がっていない状況になっていますけれども、恐らく将来を考えれば今後また力強く上がっていくのではないかと考えております。
労働時間が減少していますというお話や、労働参加率で女性も高齢の方も働くのが当たり前になっているという変化も掲載しておりますので、後で御覧頂けたらと思います。
少し飛ばしますけれども、賃金が上昇している中で、企業側はどう対応するのかですが、これまでと同じように人を雇っていれば人件費がどんどん上がっていく時代になっているんですね。では企業の経営者はどう考えるのかというと変化9として記載しているところです。
つまり、企業としては今後省力化投資をどんどん進めていくことになるのではないかと思うんですね。イメージの絵を記載していますけれども、企業としては人件費が上がっていくのであれば、人手を使わずに資本を使ってビジネスを行おうと考え方を変えていくはずです。なぜなら資本のほうが安いからです。これまでであればとにかく賃金が安かったので、人手を大量に使いましょうというのも企業の合理的な戦略だったんですが、今後は賃金が上がっていくわけですから、そうではなくシステムを使いましょう、ロボットを使いましょう、そっちのほうが安上がりになりますねと行動が変わっていくはずです。
実際に例えば小売店舗を見ますと、今セルフレジが急速に拡大しています。何かというと、パートの方の賃金が上がっているからですね。かつ今後も上がり続けると経営者が思っているからだと思います。長期的に上がるということは、これはもうシステムを導入しようと経営者の皆さんは思っているはずです。
あるいは、右側は配膳ロボットの絵ですが、配膳ロボットも近年急速に普及を始めています。これもやはり同じで、今までであれば丁寧なサービス、ビジネスを行っていたわけですけれども、それだと人件費見合いで利益を出すことは厳しくなってきますからロボットを導入せざるを得ないことになっています。
実際にデータを確認しても、これは財務省の法人企業統計から設備投資の実態を見たものですが、ソフトウエアの投資が今12.2兆円で緩やかに拡大を続けています。恐らく今後もそういったソフトウエア――いわゆるデジタルに関する投資を企業もかなり増やしていくんじゃないかなと思います。
最後に、変化10ですが、企業としてはそういった形で人件費が上がるのであればシステムに投資をしましょう、あるいは生産性高くビジネスを行いましょうと何とか吸収しようとするはずですけれども、ただ全部が全部生産性向上策で吸収できるわけではないのもまた事実です。この値段ではどうしても今後は利益を確保できないとなってくれば、もう販売価格に転嫁せざるを得ませんという形になると予想することができます。
実際に物価の推移を確認しましても、周知の事実だと思いますが足元で物価上昇がかなり進んで、物価上昇率がかなり上がっております。過去は円安による輸入物価上昇に伴っての物価上昇だったのですが、今何が起きているかというと、人件費が上がってその分サービス価格を上げざるを得ないという企業が今どんどん増えているということです。物価に関してもこれまでのような賃金の上昇が伴わない輸入物価上昇による物価上昇ではなく、これからは賃金が上がりながら人件費が上がって物価も高騰するという形に恐らく姿を変えていくと考えております。
最も重要なのは、企業側がどういう形で生産性向上策を打っていくのかであることを、ここまでデータも含めて御説明させていただきました。
第4部では様々な事例を通じて生産性向上策、特に人手を使わず短い時間でサービスを行うといった方向性がこれからの時代最も重要になってくると思いますので、私がヒアリングを行ったものですけれども事例を幾つか掲載しています。
時間もそんなにありませんので簡単な御説明にさせていただきますが、例えば小売の店舗に関してはセルフレジとか、あるいは従業員、消費者の方にある程度やってもらう。これはバーコードをスキャニングしてもらっている写真ですけれども、サービスとして労働者が手取り足取りサービスを行うんじゃなくて、消費者の方にも協力していただきましょうという形で小売業界も変わり始めております。
小売の仕事は品出しなどの仕事がかなり多いんですね。仕入れ・品出し業務に関しましても、自立協働ロボットというロボットを導入しながら労働者と協働して仕事を行うように取り組んでいるということです。
介護業界の事例です。介護業界も記録に関する業務がかなり負担が重いんですけれども、この会社さんはアプリを開発されまして、アプリを使えば音声入力も行える仕組みになっておりこれまで2時間かかっていた記録サービスが18分に短縮されたという成果も出ていらっしゃいます。こういった企業の取組が進んでいくかどうかが今後の大きなポイントになるかと思います。
ここまでは、基本的には市場メカニズムを通じてうまく調整していくでしょうと御説明いたしましたけれども、最後に第5部として政策的な対応も幾つか必要になってくると思います。
政策的な対応ということで、政府が行うべきことも結構多いと思うんですけれども、地方行政もかなり関わってくるかと思いますので論点を7つ取り上げております。例えば論点1として、外国人労働者をどれだけ受け入れるのかはかなり大きな論点になってくると思います。どんどん受け入れるべきという考えもあれば、抑制的にしたほうがよいという考えもあると思いますけれども、右側のグラフの現状は、外国人の方の給与は非常に低いんですね。賃金センサスの平均値は489万円ですけれども、今外国人の労働者の賃金は338万円になっています。
これは正面から捉えれば、日本が社会全体として安い労働力を外国人労働者に頼っている、そういった安い労働力を流入させているという側面があるかと思うんですけれども、これを今後どう考えるのかと。確かに企業とすれば、安い賃金で働く労働者が増えてくれれば利益の確保は容易になりますし、あるいは消費者としても安い価格で至れり尽くせりのサービスを受けることが今後も可能になるわけですけれども、ただ本当に市場の観点から言っていいのかどうか考えなければいけない大きな課題だと思います。
論点2、企業の市場からの退出をどう考えるかということです。これから人口が例えば2割減少していくのであれば、企業体がこのままの数で居続けられることは、恐らくあり得ないと思うんです。そう考えればやはり企業も時代の流れについていけない企業、生産性が低い企業は市場から円滑に退出していただくことも考えざるを得ないと思います。そういった観点で、中小企業に対する政策も考え直す必要があるんじゃないかと思います。
論点3、地方中核都市の稠密性をどのように保っていくのか。地方も過疎地域がどんどん増えていく中で、そういった地方に交付税や国庫支出金などを潤沢に供給しましょうという考え方もあるかもしれませんが、やはり今後を考えればある程度集約していく。各地方の中核都市に人が集まっていくような誘導策を社会全体として考えなければいけないと思います。それはこれまでのまちおこしや地方創生だけではなくて、そういった行動をどう促すかということも真剣に考える局面にあるのではないかと思います。
御紹介させていただくものは一部になりますが、論点7です。これも非常に重要だと思うんですけれども、言い尽くされていることかもしれませんが、少子化に社会全体としてどう向き合うのかということも真剣に考えていただきたい問題だと思います。当然中央政府もそうですし、地方行政としてもできることはたくさんあると思うんです。
これからの時代は子供を持ちたいと思っていらっしゃる方に関しては、行政として最大限の給付を行っていくという考え方になるのではないかと思います。そういった意味で、抜本的な対策を政府としても考えていかなくてはいけないと思いますし、厳しい財政事情の中かと思いますけれども、そこだけは世界の中でも一番子供に関する給付が充実していると言えるぐらいの水準まで引き上げていかなければいけないのではないかと考えている次第です。
最後にまとめになりますが、これから起こり得る変化についてです。
どういう変化が起こるかというと、今まで説明してきたことの延長線上の変化が起こると思うんですね。つまり人手不足はますます深刻化していくと思います。そうなってくれば賃金は恐らく今後力強く上昇していくはずです。賃金が上がれば労働参加は限界まで拡大するでしょう。つまり、これまで低い賃金だったら働かないという意思決定をしていた人も、高い賃金、1,500円などであれば働こうかなと考えるはずです。
そういった中で、企業としては人件費の高騰が利益を圧迫し始めるといった局面を必ず経験するはずです。そうなれば、資本による代替が進みますし、人件費高騰について行けない企業は市場から退出を迫られる、あるいはM&Aを通じて、あるいは合従連衡が活発化するという時代が起きていくと思います。
それに伴って、企業体が少なくなっていけば競合他社が減るわけですから、より積極的に価格転嫁も可能になっていくし、人件費の高騰に伴って価格も上げざるを得ないという局面になります。
優先順位の低いサービスの消失ということで、これまでであれば安い労働力がたくさんいたのでそんなに重要ではないサービスも行われていたと思うんですね。例えば物流で言えば、一戸一戸に丁寧に過疎地域であっても宅配してくれる、あるいは再配達も自分の都合で家にいなくても無料で届けてくれるという高水準なサービスが実現していますけれども、恐らくそういったサービスは今後、人件費に見合わなくなってくるのではないかと思います。優先順位が低いサービスは少しずつ市場からなくなっていくのかなと思っております。
最後の資料になりますけれども、経営としても考え方を変えていただかなくてはいけない。安い賃金で利益を確保するのではなくて、もう賃金は上げざるを得ないのでその影響から逃れることができないという前提の上で、生産性向上策、省力化の策を考えなければいけないですし、あるいは業界全体で協力して協働する取組も進めていかなければいけないのではないかなと思っております。
私からの説明は以上になります。
○和田委員長
ありがとうございました。
以上で坂本様からの説明は終わりました。
これより質疑に入ります。
委員の方にお願いいたします。質問はまとめてするのではなく、一問一答方式でお願いいたします。
それでは、質問、意見等がありましたら御発言願います。
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