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委員会会議録

委員会補足文書

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平成27年10月地方分権推進特別委員会
横浜国立大学経済学部 准教授 伊集守直氏 【 意見陳述 】 発言日: 10/16/2015 会派名:


○伊集守直氏
 では、私のほうから、本日は、今後の地方分権のあり方を考えると題しまして、これまでの日本における地方分権改革を振り返りながら、現状の課題ですとか、あるいは今後の方向性というものについて、できるだけこれまでの背景だったり、地方分権改革の意義あるいは財政、あるいは公共部門、地方自治体の役割、さらには地方自治体や公共部門の効率化というものが何を意味するのか、あるいはどういう方向を向いていくべきなのかという点などに重点を置きながら、お話をさせていただきたいというふうに考えております。
 全体の構成としましては、レジュメの1枚目にごらんいただけますように、まず、これまでの地方分権改革というものを振り返ってまいります。その後、財政、政府の役割、機能というものを改めて考えてみることで、よく指摘されます、政府あるいは公共部門の効率的でない、無駄があるというような点が何を意味するのか、あるいはそれについて、どういうふうに向き合うべきなのかということの論点を提示させていただきたいと思います。
 それを踏まえまして、3点目に今後の地方財政運営のあり方というものを展望してみたいと思います。
 論点につきましては、先ほど述べさせていただいたようなことになります。
 特に、3点目の公共部門の効率化という点に関しましては、これまでも国だけでなく、地方自治体におきましてもさまざまな行財政改革が取り組まれてきたところでございます。しかし、今、日本の自治体が行っている行財政改革の捉え方の中では、かなり狭い意味で公共部門の効率化というものを捉えてしまっているのではないかという問題意識を持っています。
 そこで、そういう観点から、そもそも公共部門が持つ本質的な非効率性――無駄があるということの問題が何かということを把握しながら、それに対してどういう課題設定が必要なのかということを考えてまいりたいと思います。
 では、1点目にまいりたいと思います。これまでの地方分権を振り返るというところで、年表のような形で、これは委員の皆さんにおかれましては、既に御案内のものであるかと思いますが、簡単に見てまいりたいと思います。
 日本におきましては、地方分権改革というものが公式な形で始まるのは、やはり1993年、平成5年の衆参両院における国会決議――地方分権改革に向けた国会決議であろうと考えられます。その前に、特に先進諸国はオイルショック以降、高度成長が終了する中で、従来のような経済成長を前提にした豊富な税収をもとにサービスを拡充していくというような方向がとれなくなってくる。これは、日本も同じ状況に置かれるわけですけれども、その中で、経済優先だけではなく、国民の生活のゆとりであるとか豊かさというものを実現するためにはこれからどうしたらいいかという問題意識が生まれてくるわけです。世界的に見ますと、特にヨーロッパではその流れを受けて、1985年にヨーロッパ自治憲章が採択され地方分権改革が進むわけですけれども、日本の場合はそれにややおくれをとる形で、90年代の初頭にこういった地方分権というものが、実際に政策として動き出していくということになります。
 その後、地方分権推進委員会の組織などがありまして、大きなものとしましては、99年の分権一括法、ここにおきまして、従来の機関委任事務が廃止され、自治事務を中心とした事務の再構成がなされるというところが一つ大きな出来事であったかと思います。
 同時期に、その地方分権の受け皿という形で、その財政力を高めていくことを目的にしながら、平成の大合併が推進されていくということがあったわけです。
 2000年代になりますと、一定の機関委任事務の廃止、事務の面、権限の面での移譲というものがなされる一方で、今度は財源面での地方への移譲というものが具体化されていくということになります。それが現実の政策として大きく行われたのが、御存じのとおり三位一体改革であります。これは、国の所得税から3兆円を地方の住民税へ税源移譲――その際に、地方の住民税はこれまでの累進課税から比例課税化することになるわけですけれども――それがなされたと。それに対して、国庫補助負担金がおよそ全体で4.7兆円の削減、さらに地方交付税の見直しという呼び方ではございますが、実質的には5.1兆円という非常に大きな削減がなされ、ここにおいて、地方自治体の予算規模というのが大きく削減されるという状況が生まれてまいりました。
 その後、夕張市の破綻なども受けながら、自治体財政健全化法が成立したり、あるいは地方債制度改革が行われるというような形で、その後の第2期分権改革におきましては、第1期の改革を受けた上で、今度は国と地方の協議の場を法制化する動きでありますとか、あるいは各種一括法の中で、特に基礎自治体への権限移譲や、事務配分の整理というものが中心的に行われている状況になっているかと思います。ただし、全体的に見た場合に、これまでの日本の地方分権改革のインパクトという意味で申しますと、やはり2000年代初頭の合併でありますとか、あるいは三位一体改革が地方自治体に及ぼした影響というのは、かなりインパクトの大きいものであったというふうに評価できると思います。
 2枚目をごらんください。
 こういった日本の地方分権改革の流れを踏まえた上で、少し歴史をさかのぼりまして、そもそもなぜ分権改革が求められるようになったのか、その課題は何だったのかということを、改めて考えてみたいと思います。そうすることによって、これまでの分権改革が行ってきたことを、どのように評価できるのかという、評価の軸として非常に重要な点かと思います。
 先ほど、ヨーロッパのほうでは、1985年にヨーロッパ自治憲章が採択されたというふうに申し上げましたが、特に戦後の経済成長の先進諸国の動向を見た場合に、ヨーロッパの諸国というのは、アメリカの軍事的、経済的な支援を受けながら、50年代、特に60年代以降、経済成長に合わせて社会保障制度を充実させてきたというふうな動きがあるわけなんですが、日本の場合、高度成長の中で、公害などを初めとするさまざまな問題、あるいは都市間の格差というような問題がある中で、革新自治体などの登場を踏まえながら、福祉の充実というのを訴えるようになるのが、田中角栄首相の時代の73年ですね。福祉元年。以降、社会保障制度を拡充していくというような動きが見られるようになりました。ただし、その73年というのは、まさにオイルショックが起きた年でありますが、その後の低成長と重なりながら、福祉を拡充したいんだけれども、そのための財源がこれまでのように入ってこないというなかなか難しい状況の中で、財政赤字が出てくる。75年には赤字国債が発行され、その後、継続的に発行されていくというような状況が見られるわけです。
 そういうところで、ヨーロッパ諸国に比べて、日本の国民の生活保障を行うという意味での社会保障制度の整備というのは立ちおくれていたというような評価ができるんですが、ただし日本の特徴として、国民の生活保障というのは公的な社会保障ではなくて、その枠の外で達成されてきたという非常に大きな特徴がございます。以下、その特徴を3点ほどにまとめさせていただいておりますけれども、ここでは日本型雇用、特に都市部の大企業を中心として、従業員のいわゆる終身雇用、年功序列主義、あるいは企業別組合というふうに整理されるように、日本型雇用において、社員の安定した雇用というものを守ってきた。あるいは、家庭の中で、家族によって子育てや介護、親の面倒というものを広く見ている状況があった。さらには、公共事業を通じて、特に農村地域に対して公共事業を打つことによって、そこでの雇用の創出であったり、あるいは所得保障を行う、こういう要素が合わさり合うことによって、政府が公的な社会保障を十分に整備しなくても、国民の生活が満たされているという状況が保たれているということがあったわけです。
 結果としまして、日本の国民負担率――いわゆる租税負担と社会保障負担を合わせた概念ですけれども――あるいは社会保障費というものは、先進諸国との国際比較を見た場合に、相対的に低位にとどまることができたというのが、その当時の日本の特徴であったと思います。
 参考資料のほうをごらんいただけますでしょうか。別にとじてあるかと思います。図を幾つか載せてございます。
 最初に、一般的な資料でありますが、社会保障を含めた全ての債務残高を対GDP比でとったものを、主要先進諸国と並べているわけなんですが、御案内のとおり、日本の今の一般政府の債務残高というのは、GDPの200%を超える規模になっていて、ギリシャなどは載っていませんけれども、先進諸国と比べても突出した高さになっているというのは明らかな事実としてあるわけです。この図を見ますと、90年代以降、急激に債務が拡大しているということが読み取れるんですが、もう1つ重要な点としては、実は70年代初頭は、日本はその債務残高は非常に小さいものだったということがあるわけですね。それが、70年代後半から80年代にかけて、この今の図に載せてある諸国の中でも、高いところは、70%、80%台のほうまで上がっていくという動きがあり、バブルの時期に幾らか下がるんですけれども、その後、バブルの崩壊を受けてさらに拡大していくというような動きがあり、実は、日本の政府や自治体の債務の拡大というのは、決してバブルの崩壊以降に限られた話ではなくて、むしろオイルショック以降、安定成長期に入ってからの構造的な問題として捉えることができるということは、一点、指摘させていただきたいと思います。
 この債務残高がある中で、その下の政府支出の規模という図をごらんいただきたいと思いますが――これも一般政府の政府支出をGDP比でとったものでありますが――これだけのその債務の大きさがあるわけなので、その支出が大きくて、それを税で賄い切れていない、そのために赤字が拡大しているというようなイメージを持たれることもあるんです。しかし、実は重要な点として、日本の政府支出というのは決して高くない、むしろ非常に低いレベルにあるということがわかるかと思います。OECD平均が42%であるのに対して、日本はアメリカと並んで非常に低い、特に大陸ヨーロッパ、ドイツ、フランス、あるいは北欧のスウェーデンなどと比べて、非常に政府の支出は小さいというような状況にある。にもかかわらず、債務の大きさだけは世界的に突出した形になっているという、非常に特異な状況になっているわけであります。
 その参考資料の2枚目になりますが、先ほど述べたことに関連するデータを2つほど載せております。やや文字が小さくて恐縮ですけれども、2000年代半ば、OECD各国の租税負担と社会保障負担を合わせた国民負担率で見た場合に、日本の負担率が2007年度で40%という形で、これは例えばデンマーク、スウェーデン、アイスランドといった60%、70%というのに比べれば、かなり低いことになっているというのが見られるかと思います。
 さらに、その下の社会保障給付費、これは囲みの中にありますように、さまざまなものが含まれておりまして、一般的な社会保障として理解されるものだけではなく、その中には住宅であるとか、あるいは労働者に対する給付ですね。それも失業手当だけではなくて、その職業訓練などの政策を含めた積極的労働市場政策――ここでは積極的雇用政策と示しておりますが――そういうものも含めた社会保障給付費の国際比較をしております。日本もこの図ではOECD平均よりやや右にあって、中位程度にとどまっているという特徴があるわけでございます。
 こういった動きを図をもって確認していただいたわけなんですけれども、このように日本の戦後の社会というのは、経済成長を背景にしながらも、一方で政府ではなくて、民間部門あるいは家庭の中でその国民の生活を保障していく、さらには政府が税ではなく、むしろ郵貯でありますとか、公的年金の保険料という、いわゆる財政投融資を使って地方に公共事業を打っていったというようなことがあるわけです。
 こういう要素に支えられてきた日本型福祉国家――ここではこう表現していますけれども――これが特に90年代、大きくこの前提条件が変化していくということですね。それも、上の3点に合わせるような形で示しておりますが、グローバル化に伴う雇用の流動化、失業の問題、あるいは非正規雇用化ということですね。さらには家族の変化、女性の社会進出に伴って、これまで家庭で行われていた保育に対するニーズ、あるいは介護に対するニーズというのが非常に大きくなっている。さらに成長がとまる中で、これまでの地方へ再分配するという形の公共事業というものが批判されている。特に橋本政権以降、大きく公共投資は減っていくわけであります。
 その結果として、これまで相対的に低位にあった国民の生活保障機能というものを、拡充する必要性が出てきたということがまずあります。しかも、その内容というのが、申し上げましたような労働市場における労働者に対する政策でありますとか、あるいは保育や介護といった福祉であり、現金を給付すればいいのではなくて、むしろサービスそのものを提供する必要がある。つまり現金給付から現物給付というものを提供する必要が出てくる。その中で、その対人社会サービスを担う地方自治体の重要性というのが高まっていくということで、そこが地方分権が求められる背景として、非常に大きな要因になっているわけであります。
 しかし、特にその財政問題が顕在化してきた80年代以降、じゃあ政府はどのように対応してきたかというと、そういった公的なサービスを拡大するというよりは、むしろその財政問題を歳出削減によって解決しようという方向が強く見られました。書いてありますように、中曽根政権期の増税なき財政再建でありますとか、あるいは90年代に入りまして、これはすぐにアジア通貨危機の影響を受けてとまってしまいますが、橋本政権期の財政構造改革でありますとか、あるいは2000年代に入りますと、小泉政権期の改革ということですね。この中では、増税をするのではなくて、歳出削減による財政の健全化というものが求められたわけです。
 参考資料の3枚目をごらんいただけますでしょうか。これは、よくごらんになる図かと思いますが――財務省のホームページから持ってきているわけですが――そういう公的なニーズというものが拡大する中で、一方で財政再建策としては、収入をふやすというより、むしろ歳出を削減するという方向がとられていき、財政赤字の問題が拡大していくというのが、この図から読み取れるかと思います。特に90年代に入りますと、歳出総額というものは横ばいからやや上がっていく状況が見られるわけですが、税収、国の一般会計ですけれども、税収に関してはそこから大きく減少していくということですね。
 そういう中で、世界的に見れば非常に小さな規模として整理される日本、政府の支出にもかかわらず、非常に大きな財政赤字を抱えるその要因は、小さい支出であるけれども、それを税収でもって賄うことができていないというような問題が、非常に大きな点として挙げられるわけであります。
 最近になりまして、社会保障と税の一体改革の議論を経まして、消費税が引き上げられるという動きが出てきているわけですけれども、これまでの動き、赤字の拡大というものを踏まえれば、なかなかそれによって財政健全化が達成されるというような簡単な状況でもないわけであります。
 こうした背景の中で、一連のこういった財政再建、あるいは財政改革の中で、地方分権改革におきましても国の財政再建というのが優先され、一方で、一定の権限移譲や税源移譲などが実施されながらも、先ほど三位一体の改革のところでお話ししましたように、地方の予算規模というのは縮小という結果になります。その結果として、地方においても、財政健全化をするために行政改革を推進することが求められるという状況になるわけでございます。
 参考資料の今見ていただいた3ページの下の図、これは総務省の地方財政白書の平成27年度版から自治体の歳入の決算額を示した図を抜粋してきたんですけれども、全体を100%としてとった場合、確かに税源移譲の動きがある中で、平成18年、19年、20年あたりで税収の割合が拡大しているというのが見られるんです。そしてそのままリーマンショックなどの世界的な金融危機の影響を受けながら、税収が下がってしまうという動きが読み取れるわけです。
 一方で、これは全体が100となっている棒グラフなんで見づらいんですが、一番上のほうの歳入決算額の総額というのを見ますと、平成10年度のころから、非常にその規模というのはどんどん押し下がっていく。最近になって、ようやくその平成10年ごろの歳出規模に戻ってくるというような状況になって、この間、予算規模というのは縮小を余儀なくされていたという状況があるわけです。
 報告資料のほうに戻っていただきたいと思いますが、その中で、地方のほうですね。国と同様に歳出削減、あるいは歳出の効率化、そういうものを目的とした行政改革の推進というものがなされているわけです。
 次に、3枚目をごらんいただきたいと思います。
 では、これまでの状況を振り返りながら、政府、地方自治体あるいはそういう公共部門の、財政の機能や役割というものがどういうものかということを、最初に論点として提示させていただきましたように、少しお話しさせていただきたいと思います。
 一般に、政府あるいは公共部門は無駄が多いとよく批判を受けるし、しかも自治体なども、住民の意思に沿わないようなサービスが多くなされているというような批判があるわけなんですが、これは多分に正しいところもあるわけなんです。ただし重要なのは、その際の無駄というのは何を指しているのかという点であります。見方によっては、政府に無駄が多いというのは、ある種当たり前のこととも言えるわけです。それはどういうことかと申しますと、民間部門と公共部門という対比で考えた場合に、民間部門、つまり価格をシグナルにして消費者と企業が物の取り引きをするというような市場では、市場メカニズム――価格を媒体に効率的な資源配分を行うということが達成される。つまり、消費者は自分の需要に合わせて商品を、あるいはサービスを購入するわけですし、企業も利潤を上げるために、そこに合うような形で財やサービスを提供するわけですが、消費者のニーズに合わないようなものを提供している企業というのは、結局その市場から淘汰されるという形で、つまりそれは、消費者がお金を払うという行為を使って調整するということ、いわゆる市場における需給調整になるわけです。この過程の中で、要は非効率な、要は消費者のニーズに合わない企業は排除されていくということが想定されるわけです。
 それに対しまして、公共部門というのは、そもそも市場メカニズムが働かないという特徴を持っています。それはなぜかと申しますと、公共部門、政府、自治体の場合は、税を財源にして公共サービスを無償で供給するということを基本にしております。ですので、住民がサービスを受ける場合も、それは無償で受ける。サービスにお金を払って受けるわけではないので、政府あるいは自治体のほうは、それとは別のルートで収入というものが入ってくるということになるわけですね。ですので、市場のような形で、政府の市場メカニズムが機能する、政府の活動が効率化していく、というような機能はそもそも働かないという特徴があります。そういうやり方を使って、政府部門というのは国民に、あるいは住民に必要な財やサービスというものを供給する役割を負っているということ。
 市場において、その価格を使った資源配分が行われるのに対して、公共部門の特徴は何かというと、これは政治過程を使っているということですね。つまり、予算を決定するという中で、その政治的な意思決定をする中で、何を供給するかということが決定され、そのための財源を、税を使ってどういうふうに集めるかということが決定される。これが公共部門の活動の特徴になるわけです。
 そのために、そういう市場の部門と比較する意味において、公共部門は本質的に非効率性を伴うというのが、先ほど当たり前といったところになるわけですね。
 そういう整理をした場合、昨今の自治体の行財政改革の話をすると、企業であればまずみずから身を切って経営の効率化を図っていくのは当たり前なのだから、自治体も当然それをやるべきだという議論もあるわけなんです。これはいろんな文脈で語られるとは思うんですけれども、今話した点に関して言えば、自治体が企業のように身を切るんだというロジックというのは、的外れな批判になってしまうということですね。つまり、企業の場合は、その収益を高める、あるいは企業の生産性を高めるために人件費を削減する、あるいは人員を整理するということによって、労働生産性を高めるというようなこともできるわけですが、それを自治体がやった場合に、じゃあその地域において、そこから外れた、切られた人々の生活はどうなるのか、あるいは企業から解雇された人々の生活はどうなるのか、そこを含めて、生活を保障してその社会を統合していくというのが政治の役割であって、単に自治体単体だけの経営状況を見て、歳出削減をして財政健全化をするというところだけを主張してしまうと、そもそもの政府部門の役割を見失ってしまうという問題があるわけです。
 ただし申し上げたように、公共部門が非効率性を伴ってしまうという状況があるわけなんですけれども、ではそれを放置していいのかというと、必ずしもそうではなくて、やはりその問題をどういうふうに解決していくかというのが重要な点になるわけであります。
 そのときに、じゃあ効率化、あるいは効率性というのはそもそも何を指しているのかというのを、いま一度しっかり考える必要があるのではないかと思います。その際に、その効率性という概念を2つの観点で整理させていただきたいと思います。1つは、外部効率性と呼ばれるものです。もう1つは、内部効率性と呼ばれるものですね。
 外部効率性というのは、政府が行っているサービスというのが、どれだけ住民のニーズに対してマッチしているのかというような考え方。これは、企業においても外部効率性が存在するわけですが、要は企業の製品がどれだけ消費者のニーズに合っているかということですね。その上で、政府が生産しているサービスあるいは企業が生産している製品などをいかに効率的に生産できるのかというのが、内部効率性なんですね。いかにそのコストをカットして価格を下げる、あるいは利潤を上げるというような意味で、内部での生産の効率性というものが、もう一方で重要になります。
 ただ、重要な点は、歳出をコストカットし、そのサービスの生産にかかる費用を抑えていくということが達成されたとしても、その提供しているサービスというのが、そもそも住民のニーズに合っていないものであれば、幾ら内部効率性を高めても、外部効率性という意味での効率は一切上がらないということになるわけですね。そういう意味では、住民のニーズに対する応答性を高めるという意味での効率性をしっかり高めなければならないということが、公共部門の効率化という観点で非常に重要になっていて、これは市場のような形で調整されるというメカニズムがないからこそ必要になってくるということになります。
 では、そういう意味での公共部門の効率化というのはどういうふうに考えればいいのかというところでありますけれども、仮に、じゃあ今、自治体が行っているサービスというのが、これは決して自治体が行う必要がないんじゃないか、むしろそこに公共性が余り認められない、むしろこれは企業に参入してもらって、自由にやってもらったほうがいいんじゃないかというようなサービスがもしあるのであれば、それは民営化をすることが可能であるということ。全く政府部門から切り離して、普通に商品が売買されるのと同じような形でサービスをすることがもし可能だと判断されるものであれば、民営化することが可能であると。
 ただし、一方で、そのサービスが持っている公共性というものを認識し、それを維持するという場合には、じゃあその効率性を高めるというのは、つまりその政治的な機能、先ほど申し上げたような、例えば住民のニーズに対する応答性を高めるといったような観点での強化、改善というものが必要になってくるということであります。
 この以下に挙げる内容というのは――政治の分野に入りますと必ずしも私の専門ではないんですけれども――そういった場合にどういうものが挙げられるか。具体的には、つまり政治機能を強化するというのは、言いかえれば民主主義を活性化するということにほかならないわけであります。では、どうやってその住民のニーズというのをしっかりくみ取って、政治の機能を強化できるかといった場合に、さまざまな方法が考えられるわけですけれども、今、幾つか例示しておりますが、例えば議会の機能を強化するといった場合に、議会そのものを改革するということが考えられるわけです。
 あるいは最近、大阪都構想でありますとか、あるいは古くは道州制の議論などもありますが、そもそもその自治体の区域を大きくしたり、あるいは小さくすることによって、どれだけその地域の住民の意見を反映しやすい形がつくれるのかというのも、実は同じ論点において、効率性の問題にかかわってくるということになるわけです。
 さらに最近では、公会計改革などの進展とあわせまして、行政評価というものを活用していこうという動きもあります。さらに、新しい公共というような呼ばれ方もする中で、公民連携、パブリック・プライベート・パートナーシップというものですね。そういう中で、その民間部門を活用していこうという動きが見られるわけであります。
 特にその企業的手法を使った公共部門の効率化というものが、自治体でかなり数多く見られているわけなんですが、その状況がどうかと言いますと、民間のそのノウハウを活用することによって、サービスの質を高めるというような可能性は十分にあるわけなんですけれども、ただしこれまでの自治体の取り組みを見た場合に、その事業の民間委託を決定する際の基準は何かと。歳出削減に寄与するかどうかという観点で決定されることが非常に多いという傾向が全国的に見てとれるわけであります。
 そうすると、歳出削減だけを目的にした場合に、民間に委託されるけれども、その場合にサービス自体の支出が悪化するという問題もありますし、あるいは、安い委託費の中で委託を受けた企業での労働環境が悪化するかもというような問題もあるし、公共部門が民間部門に対して労働問題を押しつけてしまうようなことというのも、実際に指摘されていたりするわけです。
 それは1つの論点でありますが、全体としましては、その公共部門の効率化というふうに考えた場合は、必ずしもそのコストを下げるということだけが公共部門の効率化ではないということを、しっかり認識する必要があるのではないかということです。
 ここはあえて逆の形で書きましたけれども、わかりやすく言えば、歳出や歳入を拡大するということによって効率化をするということが十分あるということですね。つまりこれは、特にそうやってサービスを提供することによって、地域住民のニーズが満たされるという、これは公共部門の効率化としてしっかり捉えるべき問題であるということです。
 その中で、もう一点関連するところでは、その住民の応答性、住民に対する応答性強化に向けて、例えば自治体の中でも昨今議論されていますように、県や自治体での役割の分担というのをどう明確化していくか、つまり住民がこの税を市町村に納めることによって、どういうサービスが受けられるのか。この税は県に納めているので、その結果として、県から私たちはこういうサービスを受けているんだというような、受益と負担がしっかり可視化されるような中で、住民に対して、じゃあこのサービスは維持するのか、削減するのか、あるいはふやすのか。ふやす場合には、場合によっては負担を求めることもありますが、いいですかということ。その中で住民と向き合い、意思決定をしていくというものが、政治機能をしっかり機能させていく上で重要なプロセスになっていくと考えられるわけです。
 4枚目をごらんいただけますでしょうか。
 これらの論点を踏まえながら、最後に、地方財政運営のあり方ということで、幾つか論点提示をさせていただきたいと思いますが、今申し上げました民主主義の活性化、あるいは公共部門の活性化というものが一方で大事になる上で、今後、自治体の財政運営というのは、これまで非常に不十分であった歳入の自治というのを、どれだけ取り戻せるか、あるいは拡充していけるかというのが、非常に重要な論点になります。その前提として、これまでの日本の地方税制の特徴というのを簡単に整理させていただいておりますけれども、大きく3点ございます。
 1つ目が、均質的な課税というものであります。これは、特に地方税法に――法定税ですけれども――地方税法に定められた標準税率を基本として税を課しているというところですね。超過課税というのがもちろん制度としてありまして、実際に行われているわけですが、特に超過課税が行われる場合でも、日本の場合は、法人に対する課税に非常に限定されているというような特徴があります。特に今現在、自治体の基幹税目になっている個人住民税などにおいては、非常に全国で一律な形での課税がなされているということです。
 2つ目の、特にほかの諸国と比べた場合の日本の地方税制の特徴というのは、法人課税の比重が非常に高いということですね。法人住民税もそうですし、県レベルにおける事業税もそうですが、そこに依存している割合が非常に高いということになります。これが地域間の税収の偏在性の要因にもなりますし、一方で景気の変動を受け、その自治体における税収の不安定化の要因にも強くなっているということです。
 3点目は1点目と強くかかわるんですけれども、自治体は標準税率を基本にしながら税を集める中で、一方で政府からの財政移転、特に地方交付税と国庫支出金を、両者を踏まえたその財政移転によって、自分たちの活動の財源を確保していくということが行われてきたわけですね。
 その中で、特に戦後の高度経済成長を背景に、そういう中で地方税制が統一化され、一方で国からの財政移転がしっかり機能していく中で、全国においてかなりの程度、標準化されたサービスが達成されるという状況があったわけです。けれども、特に分権改革の流れの中で、地方への財政移転が抑制される、減らされるという中で、一方で、自治体は自分たちで歳入を動かす権限は持っているんだけれども、それをなかなか行使してこない。そうすると、改革の方向はどうしても歳出削減に向かわざるを得ないというような展開になってしまうということであります。
 そういうこれまでの特徴を踏まえた場合に、今後は、地方分権に即した、特に地方におけるそのサービスの応益性、あるいは税収の安定性というものを重視した地方税制度を構築していく必要があると考えられるわけです。
特に、ここで挙げましたのは、今述べた地方法人課税、不安定性や偏在性を持つ法人課税であり、現在そういう問題があるために、地方法人特別税という形で、さらにそれを再分配の財源に使ったり、つい最近は、法人住民税の一部を国税化して、地方交付税の財源に回していくというような、地方税源なんだけれども、それを国がとって、さらに交付税になるという別のところを使いながら再分配をやっていく。それによって、その偏在性の問題などに対応していこうという、1つの対応ではあるんですが、これによってますます制度が複雑化していくし、さらに不可視化と書いたのは、つまり住民はどこに税を納めて、そのお金がどこに回ってどうやって返ってくるのかというのが、全く追跡できないというような状況が見られるということですね。こういうところに、非常にその日本の税制度、あるいは公共サービスの対応での問題が隠れているというふうに考えられるわけです。そういう意味では、これは既に全国知事会なども提言として出しているところでありますが、この法人課税に多くを頼っている部分を、税源交換、特に国の所得税や消費税などと交換しながら、地方の税制の応益性、安定性を高めていくというような方向も1つ考えられるわけであります。ただし、税源交換というのは、その税収を交換するので、必ずしも地方の税収の増加にはつながらないですし、税源移譲ということにはならないわけですけれども、その中身を変えるということですね。
 ただ、一方で、これまでも話してきましたように、非常に国全体としての財政赤字が大きい中で、国も地方への財政移転をできるだけ減らしたいと考えている。しかも交付税を交付するための財源も、国としては非常に足りないということで、ここから地方が税源移譲を勝ち取ってくるというのは、非常に難しい問題を抱えているわけですね。そういう点を踏まえると、では住民が求めているニーズを、どういうふうに確保してサービスとして供給していくか、そのための財源を確保するかとなると、やはり今後の方向性として本当に重要になってくるのは、自治体がみずから税収を確保する決定を行っていくということが、非常に重要になるわけです。
 そこで、その基幹税目による課税自主権の活用というふうに書かせていただいたんですが、分権改革以降、特に法定外税を使ったようなその新税の創設というような動きもあるわけなんですが、ただし、非常にその税目の設定は限られていますし、その創設をしたとしても、その税収というのは非常に限られているわけですね。ですので、その非常に大きな財政難というのを賄うだけの税収を確保するのは、非常に難しいということ。
 その場合に、非常に重要になるのは基幹税目、例えば個人住民税などを使って、それを自治体が自分たちのニーズに合わせて税率を動かしていくというような動きというのが、非常に重要になってくるということが考えられるわけです。
 参考資料の最後の4枚目をごらんいただけますでしょうか。
 これは、財務省の資料でやや古いものでして、日本ですと2000年、ほかの国ですと1999年ぐらいになりますので、ちょっと日本の分権改革の動きも踏まえていないものではあるんですけれども、ただ大きな特徴としてつかめるのは、日本、そのほか、イギリス、フランス、スウェーデン、ドイツ、カナダというような国の地方税目を挙げていますけれども、日本の場合は、細かく都道府県、市町村の中の所得課税、法人課税も載せられてますし、一方でイギリスの場合は、カウンシル税という財産課税に特化しています。1つだけですね。スウェーデンなども、個人所得税1つのみが地方税目です。一方で、フランスであれば住居税、不動産税などを中心にとっている。さらにドイツでは、営業税でありますとか、カナダの個人所得、こういう税目で、国ごとに地方税目は違うわけですが、こういう配置がある中で、日本と比較した場合、何が違いとして見られるかというと、まず日本とイギリスを除いた場合に、地方税に対して標準税率が設定されているというのは、非常に例外的なケースだということですね。その中で、特にフランス以降の自治体、イギリスのカウンシル税も含めてですけれども、自治体間の税率の格差というのがかなりあるということになるわけですね。
 これは、日本の場合も超過課税をしている団体もあるので、税目によっては最低税率と最高税率の格差と示されている欄に何倍というのが出てくるのがあるんですけれども、それでも、イギリスあるいはスウェーデン、ドイツ、カナダを見ても、それぞれの税目によって、自治体間の税率というのがかなり差が出ているということ。これは、毎年の予算編成の中で、歳出が幾らかを行い、一方で国からの財政移転もある中で、それを含めて、では来年度の税率は幾つに設定すべきかというのを毎年度決定していくという作業があるわけです。その中で歳出を拡大する、あるいは維持するために、税率の上昇が必要な場合には税率を上げるというようなことが、毎年度毎年度行われていると。こういうように、各国において、地方税においては、自分たちの課税自主権、特に税率決定権を使いながら、自分たちの歳出を賄っているということをやっているわけです。
 そういう観点から、先ほども述べましたように、日本が標準税率を基本としながら税をかけているというのは、非常にユニークな特徴でもあるわけなんですが、そこが、今財政が非常に厳しくなっていく中で、柔軟な公共サービスの提供というものを難しくしている要因になっている。ここをどういうふうに捉えていくかというのが非常に重要。より具体的には、どうやって自分たちでその決定権の行使を行っていけるかというのが非常に重要な点になるわけでございます。
 ちょっと時間のないところではありますけれども、最近では、日本の都道府県レベルで言いますと、余り規模は大きいわけではないんですが、例えば森林保全でありますとか、水源環境保全というようなことを名目に、個人住民税あるいは法人住民税も含めて、超過課税を行うというようなことを――静岡県でも森づくり県民税、もう導入されていると思いますが――やられているわけです。そういうふうに、自然環境を守っていくためにはこれまでの財源では足りないので、プラスアルファでやる必要が出てくる、そういう動きが出てきているというのは、その自治体の自主的な決定の形というところで、非常に評価できるところがあるわけです。ただ一方で、この超過課税という形にこだわり過ぎているために、どうしてもそれを特定財源化しないといけない。例えば、神奈川県などは基金をつくって、さらにそれを特別会計でかなり厳密にやっていて、これによって住民に対する説明責任を果たすというようなロジックになるわけなんですが、ただ一方でそれはやはり、全体としての予算の決定というものを非常に硬直化させてしまう問題もあるわけですね。それは、国レベルで見た場合の道路特定財源なんかと同じような問題を抱えるわけなので、非常に問題を抱えるところもあるわけです。そういうところをこれからどういうふうに乗り越えていくのかというのは、非常に重要な論点にもなるわけです。
 最後に、地方が、自治体が、自分たちで住民と向き合いながら、しっかりその税を動かしていくということをやっていくためには、その前提として、国の財政調整制度がしっかりと機能していなければならないというのがあるわけです。それがなければ、単に財政力のない、あるいは経済産業基盤のない自治体は、課税ベースが少ないので、高い税率に上げないと税収が賄えないということになってしまうので、これは単純にその税率の格差が、もう経済力の格差をそのまま反映してしまうということになるわけで、そうではなくて、自治体ごとの税率の差というのは、これは住民が多くを求めるのであれば、その分、税負担も高くなるんです。少なくていいのであれば、税率は相対的に下がりますよという、このロジックが成り立つのには、その前提として、国の責任でその前提としての財政力の平準化というのがしっかりなされていないといけないということですね。それがないと、繰り返しになりますが、単に税率の格差というのは経済力の格差になってしまうということですね。それは避けなければならないということです。
 同じ点になるんですけれども、最後、財政調整制度とまとめているところですけれども、その地方自治体の課税自主権の行使の前提として、日本であれば交付税というのが重要になるわけです。この交付税が担っている役割というのは、まさに財政力格差の是正です。これは、課税力の面と、あるいは自治体にかかってくる費用、特に構造的に費用を政府の責任によって調整し、全ての地方自治体において標準的な行政サービスを保障するという機能です。これにプラスアルファをしたいのであれば、自分たちで税を上げるというような、その動きの前提になるということですね。
 これまでの日本の地方交付税の制度変更などの動きを見た場合に、特に三位一体改革前からですけれども、2000年代に入ると、地方への、特に農村部への合併を推進するというような目的もあったわけですが、その財政移転を抑制する中で、国の一方的な判断で基準財政需要額を圧縮していく、特に補正係数を引き下げたりというような動きが見られてくるわけであります。その場合に、それに対して地方というものが、その評価に対してなかなか物を言えない。あるいはお互いが合意ができるような形での制度設計ができないというような問題があります。
さらに最近、つい最近ですけれども、経済財政諮問会議などの議論においては、新たな交付税、新型交付税論議が行われているわけですけれども、その中では、トップランナー方式によるその単位費用の算定ですね。特に、非常に効率的にできている自治体があれば、それを基準にして基準財政需要を算定しましょうというような、それによって自治体が頑張れるようなインセンティブづけが必要だというような制度を入れるべきではないかという議論がなされているわけです。ただし、財政調整制度という意味での地方交付税が持っている役割というのは、その下に書いてありますけれども、そこにおけるコストの調整というのは、インセンティブづけをするというのではなくて、自治体がみずから影響を与えることができないようなものを政府の責任によって平準化するというのが、財政調整制度が担っている役割なので、そこを使ってインセンティブづけをしていくというような機能を持たせるというのは、そもそもの財政調整制度の役割とずれてしまうということですね。インセンティブづけをしたいのであれば、特定補助金を使う、奨励補助金を使うなり、いろいろやり方はあるわけなんですが、少なくともこの機能を交付税に持ってきてしまうと、本来のその財政調整制度の役割が非常に曖昧になってしまう、あるいはゆがんでしまうという問題を抱えるわけです。そこが、最近の議論で重要なところだと思います。
 もう1点、特に地方の自立をどう考えるかというようなところも論点になっているというところがあるようですので、簡単にですけれども、少しコメント程度に述べておきます。地方の自立というのは、まず大前提として――こういう使い方をされることがあるんですが――不交付団体になれば、地方は自立しているということでは決してないということですね。先ほども述べましたように、地方自治が機能していく、地方が自主的に決定できるというのは、国の責任において、その中で一定の財政の平準化ができた上で、それを踏まえて自治体が住民との対応の中でどうやって政策に対する意思決定をできているかという状況が、地方が自主的な意思決定、あるいは自立しているというふうに捉えることができるわけです。その中では、当然、不交付団体もあれば、交付団体もあるかもしれませんが、そのときに、交付団体であると、自主的な決定ができないというわけではないわけですね。交付を受けて、財政保障、財源保障を受けた上で、その中で自分たちが税をどう動かすか、どういう政策をやるのか、どういうところの政策を重点的にやるのかという意思決定をしていくというのが、地方の自立的な財政運営、あるいは政策運営になると考えられますので、特によくこういう議論に出てくるような、交付税を受け取らないということが地方の自立を意味しているわけではないという点は、非常に重要な考え方かと思います。
 最後に、まとめは今申し上げたことになるんですが、特に国のほうですね、非常に財政が厳しい中で、そこから今、税源を移譲していくというのはなかなか難しい中で、重要になるのは、やはり国のほうは財源を確保する中で、地方に対する財政調整機能というのをしっかり担ってもらう必要がある。その中で、自治体が自分たちの住民のニーズに応じて、しっかりサービスを拡大していく、あるいは求められるものを提供していく。その場合に、必要があるのであれば、自分たちで裁量的に税を動かすということをしっかりこれから実施していくということが、今後の地方財政運営としては非常に重要なあり方だというふうに考えられます。
 用意した報告は以上になります。もう1つ、参考資料として、私の専門でもありますスウェーデンの地方財政について資料を御用意したんですが、一旦ここで意見陳述を終わらせていただきまして、もし必要があれば、また質疑応答のときに参照させていただければと思います。どうもありがとうございました。

○阿部委員長
 まだ先生のお時間は5分ほどありますので、スウェーデンについて簡単にお話しいただいても結構です。

○伊集守直氏
 わかりました。では、ちょっと資料の枚数は多いんですけれども、簡潔に御紹介だけさせていただきたいと思います。
 今回のお話をいただいた際に、特に国際比較の観点と申しますか、特に地方分権の観点から参考になるような例はないかというようなリクエストも受けておりましたので、このような資料を用意したんですけれども、では、簡単に報告させていただきます。
 スウェーデンというのは、その最初のページに小さく簡単に載せているわけですが、北欧の国になりまして、国土は日本より広いんですが、人口は1000万人弱と非常に小規模なわけですね。ただし、単一制国家の中で、しかもイギリスやあるいはフランスなどと違って、地方自治体が住民生活に対して担っている責任が非常に高く、特に市町村レベルの教育と福祉、県レベルでの医療の提供というのが非常に大きい。日本のように国対地方の支出が4対6とよく言われますが、こういうふうにサービスを提供している点、単一制国家なんだけれども自治体のほうが高いという意味で、日本に非常に近いところがあるわけですね。
その中で、スウェーデンというのは高福祉国家と呼ばれるように、非常に高い税をかけていて、一方で広範な公共サービスを提供しているという国にもなるわけで、2枚目になりますけれども、これは先ほども同様な図を見ていただいたんですが、国民負担率を見ると、確かにスウェーデンというのは、大陸のヨーロッパのドイツやフランスよりも高い税負担、あるいは社会保障負担があるということですね。
 日本の議論では、公共部門が拡大すると、経済成長を阻害するので、そこは何としてもスリム化すべきだという議論になるわけなんですが、ただ、最近のOECDの報告などを見ても、近年ではその公共部門の大きさと経済成長の中には明確な相関関係はないということが明らかになったわけですね。相関関係がないということ、つまり公共部門が大きくて成長している国もあれば、成長していない国もあるし、一方で公共部門は小さいけど、成長している国もあれば成長していない国もある、つまり公共部門の大きさが大きいか小さいかは、経済成長に対する重要な要因ではないという解釈ができるわけですが、むしろ大きい場合でも、それはどういうふうな制度設計にするのかが非常に重要な点になるわけですね。
 今見ていただいている図の下ですけれども、スウェーデンは近年でも、90年代の初頭には日本と同じように大きな財政赤字を抱えたんですが、その後経済回復をして、リーマンショック以降においても非常に安定した経済成長を維持して、さらに、次のページをごらんいただけますでしょうか。これは先ほど見ていただいたような政府債務と同じ図になるんですが、日本が紫の線になるんですが、政府債務が拡大しているのに対して、スウェーデンはオレンジ色になるんですが、近年ではその政府債務を縮小していって、今はGDP比の50%に満たないところまで落として、財政の健全化が進んでいるということですね。つまり、そこにおいては非常に大きな公共部門と経済成長が両立しているということが見られるわけです。
 その地方財政とのかかわりで、少し興味深い点として指摘させていただきたいのは、5枚目をごらんいただけますでしょうか。スライド番号で言うと9と10というふうになっているところでございます。スウェーデンの場合も、日本と同じように、地方が実際に歳出をしている割合が高いという、日本との共通性を持っているわけですが、しかもスウェーデンの非常にユニークなのは、いわゆる分離型の事務配分と呼ばれていまして、コミューン、いわゆる市町村のレベルと、ランスティング、県のレベルの事務が非常に明確に区別されている、事務配分の明確化が非常に進んでいるということですね。
 この図で見ていただきますと、左側の市のレベルの歳出の大きな部分は、就学前教育を含めた教育ですね。それと高齢者、障害者、あるいは家族に対する福祉というもので、全体の7割以上が占められている。一方で県レベルでは、医療に関連する支出がもう9割以上を占めているというような形、非常にその役割が明確化されているということになります。
 その下の歳入構造を見ていただきますと、このスウェーデンにおける特徴は、市と県、どちらもそうなんですが、税収の割合は、非常に自主財源の比率が高い。日本の場合は現在3割から4割弱という動きになっていますけれども、スウェーデンの場合はコミューンレベルで6割強、ランスティングでも年によっては7割を超えるぐらいの税収を確保していて、それはスウェーデンの場合は地方所得税、税目1本でやっているということなんですね。ですので、向こうの地方所得税、日本の場合は県と市町村合わせて10%ですけれども、平均で31%という、しかも課税最低限が非常に低いので、一般の人でも自分の所得の30%を地方所得税で持っていかれるという、さらに消費税、付加価値税で、日本でいう消費税は25%でかかっているという、そういう意味では非常に税は高いというのはわかるわけです。
 なぜこういう非常に高い負担が成り立つかといったことを考えた場合に、次のページを見ていただけますでしょうか。先ほども少し触れた点ではあるんですけれども、国民あるいは住民から見た場合のその受益と負担の対応関係というのが、非常にわかりやすくなっているということですね。つまり、コミューンのレベルでは、住民は自分の所得から地方所得税をコミューンに払うことによって、教育と福祉というものを受けていると。県のレベルにおいては、その税を払うことによって、医療の提供を受けているということが、非常に強く認識されている。向こうの新聞などを見て非常におもしろいのは、統計だとかアンケート調査などがあるわけなんですが、住民のアンケートをとった場合に、もちろん非常に税負担が高いので、下げてほしいという意見も当然あるわけなんですが、一方で、もっと上げてもらっても構わない、あるいはもっと細かく言うと、コミューンの税率はもう少し下げてもらいたいけれども、ランスティングのほうはもうちょっと上げてもらっても構わないというような意見が出る。つまり、それはどう解釈ができるかというと、私はもっと医療サービスを充実させてほしいので、それがもし達成されるのであれば、現在よりもランスティングのほうの負担がふえても構わない。その分、ちゃんとサービスをしてほしいというような形で、その払う税の負担の部分と受けているサービスの認識というのが非常に明確化しているので、そこに対する合意がとりやすいということが見られるわけです。
 もう時間もありませんので、これで一旦最後にさせていただきたいと思いますが、次の7枚目をごらんください。こういった、日本と比べると非常に高い地方税になっているわけなんですけれども、これがどういうふうに形づくられてきたのかというのを少し歴史的に見ると、戦後の高度成長の中で、いわゆるスウェーデンは福祉国家と呼ばれるわけですが、ただし国民の福祉というのは、基本的に地方自治体のサービスで賄われてきたと。先ほど申し上げたような市のレベルにおける教育や福祉、県のレベルにおける医療というものが拡充される中で、国民に対する生活保障が充実してきたというところで、これは上のほうの図の真ん中のほうで、60年代以降、急激に折れ線グラフが伸び上がっているところがあると思うんですが、これは地方の消費支出になるわけですが、この時期、地方が非常に大きくサービスを拡大していく時期になるわけです。これが、この時期に対応するわけなんですが、下の図を見ていただきますと、これはこの地方がかけている所得税の平均税率の推移ですね。これは、毎年毎年自治体は自分たちで税率を決定するので、その平均所得というのが示されているわけなんですが、これが先ほど見ていただいた、特に60年代以降の地方の歳出に応じて、地方の所得税の税率というのが徐々に引き上げられていく。最初、50年代初頭は市と県合わせて大体10%だった税率が、80年代には現在の30%に近いところまで上がっていく。つまり、戦後のサービスの拡充の中で、自分たちの自治体でサービスを拡充することに応じて、毎年毎年地方税率を上げていく。それに対して住民からの合意を取りつけながら、その税の引き上げも行っていって、このサービスを量的に賄っていったということが、スウェーデンの福祉サービスの拡充、公的サービスの拡充の動きの中で、税財源の拡充と合わせて確認できる点であります。
 今は省きたいと思いますが、その前提として、地方の場合、スウェーデンの場合も、その財政調整制度によって自治体間の財政力格差というものがしっかり調整されていて、その上でのこの自治体間の税率決定権の行使というものがあるということです。
 少し簡潔に省略してしまうところがありましたが、この紹介、以上とさせていただきたいと思います。

○阿部委員長
 伊集先生、大変ありがとうございました。非常に整理をされていてわかりやすい御説明をいただいて、大変勉強になりました。ありがとうございます。
 以上で、伊集先生からの意見陳述は終わりました。
 これから質疑に入ります。
 委員の皆様に改めてお願いを申し上げます。質問はまとめてするのではなくて、なるべく一問一答でお願いをいたします。
 それでは、御質問、御意見等がありましたら、御発言願います。

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