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委員会会議録

委員会補足文書

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平成21年10月新型インフルエンザ対策特別委員会
参考人の意見陳述 京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センター長 大槻公一氏 【 意見陳述 】 発言日: 10/27/2009 会派名:


○大槻公一氏
 京都産業大学に勤務しております大槻と申します。どうぞよろしくお願いします。
 私は、静岡県の出身でして、故郷のほうでこういうような機会をつくっていただけたということは、大変ありがたく思っております。私は、この建物に入るのは初めてですが、高校時代、この県庁の前を通りまして、公園を通って、英和と雙葉の女学生の人たちと一緒の方向に向かって歩いて行った、大変懐かしいところでして、そういうところへ来れたというのは、非常にうれしく思っております。そういうことで、ほんのわずかでも故郷の何かお役に立つことができれば、非常にありがたいというぐあいに考えております。では、早速、お話を進めさせていただきたいと思います。
 最初に、お断りを申し上げますが、実は私、昨日まで日本ウイルス学会に参加しておりました。特に、昨日は朝9時から夜7時半まで、新型インフルエンザの演題一色ということで、ずっとそれを聞いてまいりまして、私がこれまで新型インフルエンザについて思っていたことが確認できたことと、それと、新しい知識を得ることができましたので、そのような都合から、事務局の方から、きょう配付していただく資料について、送ってくださいということで、きょう配付していただいているわけですけれども、若干、差しかえをしたほうがより正しい情報をお伝えできるかと思いまして、急でしたが、差しかえさせていただきました。
5枚ほど、最後に配付していただいたのが差しかえの分でございます。また、具体的には、お話の途中で申し上げたく思います。
 最初に、このスライドに沿って御説明させていただきたいと思います。
 今、このようなスライドをお示ししておりますのは、このスライドに出てきております絵は、これは日本国内ではありません。ベトナムのハノイです。私たちは、2005年度から文部科学省の新興・再興感染症にかかわる国外研究拠点形成に採択されまして、当時、私は鳥取大学農学部に勤務しておりましたが、長崎大学熱帯医学研究所がベトナムのハノイにつくりました海外研究拠点を活用しまして、ベトナムにおける鳥インフルエンザの状況の把握、それとベトナムにおける鳥インフルエンザの撲滅という、そういう題目で、今、5年目になりますが、ずっと研究活動を続けております。2006年に、私は京都産業大学に移りましたので、京都産業大学と鳥取大学で学術交流協定を結びまして、現在、チームを組んで、ベトナムでそういう作業を行っております。
 2003年から2005年にかけまして、ベトナムでは非常に大きな鳥インフルエンザの被害に遭いました。合計4500万羽に及ぶ鶏、アヒル、ガチョウという家禽類、これが死んだりあるいは殺処分を受けたりしました。ベトナムで飼育されているそういう家禽類の約半分が消えてしまったという大きな被害を受けました。
 それから、日本では、幸いですけれども、まだ鳥インフルエンザの患者は出てません。ベトナムでは、既に五十数名、鳥インフルエンザで亡くなってます。そのような、非常に大きな被害を受けた国で、最近は大きな発生はありませんけれども、発生がないということがウイルスが消滅したということではないというぐあいに私たちは考えていますので、これから日本の安全を考えた場合、それからこのアジア近隣の鳥インフルエンザ撲滅のためには、私たちは欠かせない作業だと思って、現在、鋭意、ベトナムの農村部を主体にして、調査活動を続けているというところです。
 では、今回の新型インフルエンザと鳥インフルエンザと、どのような関係があるのか、ほとんど関係ないんじゃないのか、今回のウイルスは豚から来て、鳥とは関係ないというぐあいにお考えになられるかもしれませんが、私たちは、密接な関係があると考えております。これは、御説明のところで、また少し具体的なお話をしてまいりたいと思います。
 私自身は、鳥インフルエンザの研究を1970年代の半ばごろから、もう30年以上前になりますが、始めております。
 1976年にWHOが、人の新型インフルエンザの出現には、鳥インフルエンザが深く関与する可能性があるという考えを打ち出しまして、国連に加入している国々では、その国に飛来する渡り鳥ですね、特にこれはカモを中心とした水鳥ですけれども、それの調査をするのが望ましいという勧告を出しました。そういうことから、私の先生ですが、北大獣医学部の、その当時、教授をしておられた柳川先生から、「君は山陰地方の鳥取にいる。私たちは、その勧告に従って北方から北海道に渡ってくる渡り鳥を調査する。君は、山陰地方だったら、朝鮮半島が近い。だから、多分、朝鮮半島経由で来る別のルートの水鳥がいるはずだから、それを研究したらどうだ。」ということで、そのプロジェクトに入れていただきまして、本格的にそういう調査を始めたのが1979年、ちょうど今から30年前になります。私もまだ、その当時、30代半ばで、まだ張り切ってたものですから、それっということで研究を始めたんですが、非常におもしろいデータが出たものですから、ついついのめり込んでいるうちに、60を越してしまったというような状況です。
 私たちは、医学ではなくて獣医学ですから、人以外のすべての動物を対象にして、これまで研究を続けてきております。ですから、鶏にしても、豚にしても、非常に近い存在であるというぐあいに、私たちは考えてます。ですから、鳥インフルエンザの研究をしているといっても、必ず豚のインフルエンザというのは、いつも横で見ながら、これまで研究しているというところです。
 そのような背景がありまして、このようなスライドを、まず最初に出していただきました。
 これはもう、既に諸先生方、何度も、今回の新型インフルエンザについて会議を開いておられますので、もう釈迦に説法ということで申しわけないんですが、3つだけ、ちょっと御記憶いただきたいと思います。
 これは、インフルエンザウイルスの構造ですけれども、内部で遺伝子が8つあります。これがインフルエンザウイルスの特徴です。
 もう1つの特徴が、インフルエンザウイルスのほとんどはA型のインフルエンザウイルスです。A型インフルエンザウイルスということで考えていただきたいんですが、重要な構造が、この外側のスパイクです。灰色とピンクの2種類あります。重要なのが、この灰色のHAというスパイクでして、このHAが感染するウイルス側の場所になります。ここからウイルスが感染します。ですから、非常に重要です。現在、このHAが16種類知られております。ちなみに、今回の新型インフルエンザウイルスは、H1という、そういうHが1という番号がついてます。鳥インフルエンザウイルスで非常に重要性の高い、つい最近まで、次の新型インフルエンザウイルスの候補にあがってましたH5N1ウイルスのHは5ということになります。もう1つ、7というのが、鳥を殺す、そういうようなウイルスになり得るウイルスです。人は、これまではHが1と3。3は香港型インフルエンザウイルスですが、この2種類しか感染してませんが、鳥類は16種類すべて保有しております。
 もう1つのピンクのスパイクは、NAと呼ばれるもので、これはHAと逆で、ウイルスがある細胞に感染して、その細胞で子孫のウイルスをいっぱいつくってもらいます。つくってもらったら、今度は次の細胞に感染しなければいけません。ですから、つくってくれた細胞から切り離れて出ていくときに、このNAが酵素活性を示して、そのつくってくれた細胞から切り離す、そういう作用があるということがわかってます。今、抗インフルエンザ薬で一番重要なのはタミフル、それとリレンザという2種類あります。その2種類の抗インフルエンザ薬は、このNAの機能を阻害するということになります。ですから、つくってくれた細胞から離れられないと。ですから、ほかの細胞に感染できないということで、病気をそこでストップさせてしまうという、そういう作用があります。ですから、タミフルもリレンザも、予防的には使えません。これは治療薬として、発病した人にのみ有効であるということです。
 それから、これはインフルエンザウイルスが、どのような動物に感染するかという図であります。この図からおわかりのように、インフルエンザウイルスにとりまして、人は一番端っこに来る感染動物です。もともとインフルエンザウイルスは、人のウイルスではありませんでした。もともとは鳥のインフルエンザウイルスです。鳥は鳥でも、水鳥、特にカモですね。これがもともと感染していた動物です。多分、数百万年前から、このカモはインフルエンザウイルスに感染していたと考えられています。ですから、その長い間に、インフルエンザウイルスとカモは共存関係が成立しておりました。ですから、ウイルスはカモに感染しても、何ら病気は起こさない。それから、カモは腸の中ですね、呼吸器ではなくて腸管です。腸管でも一番おしりですね、鳥類では総排泄腔と言いますが、そこに近い結腸の粘膜でウイルスが増殖するという。ですから、カモにインフルエンザウイルスが含まれる場合には、そのふんが感染源になるということが特徴ですけれども、こういうような感じできたんです。
 ところが、地球上に人口がどんどんふえて、人がこれまで住んでいなかったところに、それこそ密林を切り開いて、どんどん畑をつくって、人が出て行ったわけです。ですから、そこで初めて、鶏とこういうカモとの接点が出てきたわけです。もともと、鶏はインフルエンザウイルスに感染している動物ではありません。人と同じで、これは専ら被害者です。ですから、今、鶏もカモもごっちゃにして、我々、ああ、鳥じゃないかという話になりますが、鶏は被害者です。その、たまたま鶏の中でウイルスが感染を続けている間に、このH5と7というのが、鶏をバタバタ殺す強毒の鳥インフルエンザウイルスになることができたわけなんです。その代表的なウイルスが、このH5N1ということになります。このウイルスは、現在、アジア全域、ヨーロッパ、アフリカに広がっております。しかも、人に感染して、今までわかっているだけで260何名、人を殺しているということがわかってます。厚生労働省では、もう次の新型インフルエンザウイルスは、この経路でH5N1のウイルスが新型インフルエンザになるものだというようなことでほぼ断定して、その対策を、これまで、ことしの4月までとってきたということです。
 このH5N1ウイルスは、なかなか人には感染しません。幸いなことに、先進国では、病人はだれも出てません。先ほど、260数名、人が亡くなっているということを申し上げましたが、これはメキシコ、中国、あるいは中近東のような、中心国よりもっと状況の悪い、開発途上国の国での話です。私たちも、なぜこの鳥インフルエンザウイルスが人に感染するのかという、その辺のメカニズムはよくわかってません。非常にまれに感染するだけです。ただし、まれに感染して発病した人の約60%は命を落としているという、そういう現実がある。そういうことを重視しまして、厚生労働省は、このウイルスの世界的な広がり、それから人をよく殺すということで、このH5N1をターゲットに、次の新型インフルエンザ対策をこれまでとってきたということです。それですから、きょうお集まりの先生方、プレパンデミックワクチンというワクチンが、今、日本に約3000万人分備蓄しているということを御存じだと思います。あのワクチンは、このH5N1用のワクチンです。ですから、今回の新型インフルエンザウイルスH1N1には使えません。ですから、あれは備蓄したっきりになっているということです。
 私たち獣医学をこれまでずっと研究してきているものは、この可能性も、もちろんありますけれども、これを全面的に否定するものじゃないんですけれども、私たちはこの豚を重視してきました。
と言いますのが、豚は非常にインフルエンザウイルスにとって都合のいい動物でして、この豚は鳥インフルエンザウイルスに簡単に感染してしまいます。また、人のインフルエンザウイルスにも簡単に感染してしまうという動物です。しかも、ほとんど症状を出さないという、感染しても平気という動物です。ですから、この豚の体内で、このウイルスとこのウイルスが一緒に、ほぼ同時に感染してしまうと、この豚の体内で遺伝子再集合体と私たち言っておりますが、遺伝子交雑が起きて、結局、両方の親が持っていないような新しい性質を獲得したウイルスが豚の中ででき上がってしまうと。それが、もし人に対して強い病原性と、人・人感染を容易に起こすような性質を獲得しているならば、そのウイルスが新型インフルエンザウイルスになると。ですから、必ずしもH5N1ではないよと。ですから、もっとほかに、候補に、もし鳥インフルエンザウイルスというのを考えるならば、もっとほかのウイルスもありますよということで、私たちはこれまで、そういう考え方をとってきておりました。
 そういうことで、今回の新型インフルエンザウイルスは豚から出たわけです。ということで、そのことについては、私たちは想定範囲内であったというように考えてます。
 ところが、その豚ということですと、よく御存じのように、日本以外では、これは韓国、台湾も含めてそうですけれども、農村地帯に行きますと、ほとんどの農家で、特に畜産農家では豚を飼ってます。豚は飼っている、アヒルは飼っている、鶏は飼っているという、そういう複合形式の農家です。これ、今、日本の農家ではほとんど見られません。40年ぐらい前までは日本でもありました。今はすっかり形が変わってきております。そういうことで、もし次の新型インフルエンザウイルスが出現するとすると、やはり中国、あるいは東南アジアの可能性があるということを私たちは考えたわけです。私たちがベトナムに入り込んだというのも、そこに1つ要因があるわけです。ところが今回、その最後の東南アジアから、あるいは中国から出るんじゃないかなという考え方が外れてしまって、アメリカから出てきたというのが、私たち、思ってもみなかったということです。
 これは、こういうのをお見せしまして、ちょっと申しわけありませんが、なぜ、人が鳥インフルエンザウイルスになかなか感染できないのかという理由であります。これは、人の呼吸器の粘膜にある、ウイルスがくっつくレセプター、受容体といっていますが、その構造式です。下が鳥類が持っている受容体の構造式で、ほとんど同じですが、1カ所だけ違います。ガラクトースとシアルロン酸をリンクしているところの、ここが1カ所違うだけです。その1カ所違うおかげで、今のH5N1ウイルスがなかなか人に感染できません。ところが、豚は、この両方の受容体を持っているんです。ですから、豚は、鳥インフルエンザウイルスにもヒトインフルエンザウイルスにも、簡単に感染できるということです。そういうことで、豚は非常にインフルエンザウイルスにとっては重要な動物ということになります。
 これは、20世紀に人で大流行を起こした3つのウイルスです。最初は1918年に出てきたスペイン風邪型のウイルス、2番目がアジア風邪型、香港型という3種類のウイルスが人に大流行を起こしてきています。
 特徴的なのは、ちょっとスペイン風邪の1918年以前は、現代ウイルス学というのは、ありませんでしたからよくわかってない。ですから、これ以降ですと、結局、1957年、昭和32年に、それまで人で大流行を起こしていたスペイン風邪型のウイルスと、別の鳥インフルエンザウイルスが掛け合わされたウイルスが、豚の体内でできてしまって、それが人に大流行を起こしたと。これがアジア風邪型のインフルエンザウイルス。それが1968年、昭和43年に、また新型インフルエンザウイルスが出現しました。すなわち、アジア風邪型の人のインフルエンザウイルスと、鳥のインフルエンザウイルスが掛け合わさったウイルスが、豚の体内でつくられて出現して、世界じゅうに広がってしまったということです。それが、ことしの1月、2月まで、世界で40年間にわたって流行を起こしてきていたということです。それですから、新型インフルエンザウイルスが出現するためには、豚の存在が非常に重要だということですし、鳥の存在も、非常に重要だということです。こういう形できていたものですから、それで今回、厚生労働省はH5N1ウイルスという、鳥インフルエンザウイルスを重視したということは、これは一理あるということであります。
 これは、今の、もうこのあたりはすっかりお聞きになっておられるところでありまして、結局、今回、メキシコ、アメリカで新型インフルエンザウイルスが最初に出てきました。1918年のスペイン風邪のときは、ウイルスが世界じゅうに広がるのに半年かかりました。これは、その当時、船しかなかったから当然です。現在は24時間あれば世界一周できます。ですから、1カ月もしないうちに、このようにもう世界じゅうで、新型インフルエンザウイルスが広がってしまったということです。それで、私たちは、今回の新型インフルエンザウイルスは、一応、メキシコで出たということになってますが、ウイルスの性質からしますと、これは明らかにアメリカから出てきたというぐあいに考えています。なぜメキシコなのかと言いますと、これはアメリカに季節労務者として働いていたメキシコ人たちが、アメリカで多分、インフルエンザウイルスに感染してメキシコに帰ったと。そこで、人に広げてしまったんだろうというぐあいに考えてます。そうですから、実際には、かなりウイルスは早く入っていたんだろうというぐあいに考えてます。
 それで、一応、日本では5月16日に最初の新型インフルエンザの患者が、アメリカから帰ってきた人たちで出たということになってますが、実は、もうそれ以前に、ゴールデンウイークのころに、神戸の高校が――これはもうあれですね、運動部が、高校同士の試合で、もう既に新型インフルエンザに――感染してたという、罹患してたということがわかってます。それですから、私たちは、日本がゴールデンウイークのころに、非常に厳しい検疫体制をとっていましたが、もうその前に、既に関西では新型インフルエンザウイルスは侵入していたというぐあいに考えています。
 それで、ここで1つだけ、ちょっと注目していただきたいのは、タイとフィリピンでの感染患者数が極めて多いということです。これは、私も6月の末ごろ、鳥取に――私まだ鳥取大学のほうも週に1回勤務しておりますけれども――鳥取に行きましたときに、鳥取県でタイから帰ってきた人が、新型インフルエンザになっているというのを新聞記事で見まして――いや、今回のウイルスはアメリカが震源地だから、アメリカだけ注意してればよかったはずなのにということで驚いたんですけれども――あと引き続き、京都に戻ってからも、フィリピン、あるいはタイから戻ってきた人が、随分、感染していたということがわかりました。慌ててインターネットを調べましたら、もうタイとフィリピンでは非常にたくさんの患者が出ているということがわかりました。その理由については説明されてませんけれども、私は多分、アメリカとこういう国は非常に太いパイプでつながれてますから、恐らくアメリカからウイルスに感染した人がたくさんこういう国に戻ってきていると。日本のような厳重な検疫体制とらなかったために、結局、感染した人から、次から次へと感染が広がって、この2つの国では大きな流行が起きたんであろうと。特に、タイの場合には、インドシナ半島諸国、ほかの国がありますから、ほかの国へこういうようなウイルスが広がってしまうと、恐らく収拾がつかなくなってしまう、そういう事態が起きるというぐあいに、私たち、今、心配しております。ですから、日本よりも、多分、東南アジアでの新型インフルエンザのほうが、脅威というのがより増すというぐあいに考えております。
 それで、私、厚生労働省が4月以降、いろいろ情報を出してきてますけれども、必ずしも正しい情報を出してきていないと考えてます。それが今のウイルスの広がりにつながっているのではないかと考えております。どういうことかと言いますと、当初、厚生労働省は弱毒インフルエンザが入ってきたというような言い方をしました。それまでH5N1の強毒ウイルスの対策をとっていて、何だ、弱毒じゃないかということでありました。ところが、関西では相当たくさん患者が出ましたので、一時、大騒ぎになりました。それ以降、おさまった後、どういうような言い方になったのかと言いますと、現在では、季節性インフルエンザとほとんど同じ強さのウイルス、病原性の強さだということになってます。私は、それは正しくないというぐあいに考えております。そもそも、弱毒、強毒という言葉は、人のインフルエンザウイルスには使いません。これは、鳥インフルエンザウイルスでのみ使う言葉です。ちなみに、強毒鳥インフルエンザウイルスというのは、そのウイルスに感染した鳥の90%以上が、大体、1週間以内に死んでしまいます。弱毒ウイルスというのは、死亡率は2%以下という、はっきりとした差があります。人の場合は、かのスペイン風邪のインフルエンザウイルスにしても、大体、死亡率5%以下ということですから、何が何でも強毒、弱毒ということになりますと、これはすべて人のインフルエンザウイルスは弱毒です。ですから、秋以降に強毒化するのが恐ろしいというような話がありましたが、私は、あれも非常におかしいというぐあいに考えております。
 ヒトインフルエンザウイルスの病原性はそんなに変わるものではない、若干は、もちろん変わります。ですから、我々が強い、非常に大きな被害を受けるか、受けないかというのは、これはウイルスの病原性ももちろんありますけれども、それより感染を受ける人の条件です。
 皆様方、よくおわかりのように、インフルエンザが一番流行するというのは真冬です。1月とか2月です。1月とか2月というのは、一番寒い時期です。特に、木枯らしが吹くとインフルエンザの患者がどっとふえます。これはなぜかと言いますと、空気が乾燥します。特に、静岡の場合では乾燥します。そうしますと、私たちの口の中も乾燥します。そうすると、ウイルスが吸着する、感染するのどの粘膜の細胞に変化が出てきます。どのような変化かと言いますと、粘膜細胞の上を、普通は粘液が覆ってます。粘液が覆っているということで、ウイルスがなかなか感染できない仕組みになってます。それが、乾燥することによって粘液が干からびてしまうために粘膜細胞が露出してしまう。そこにインフルエンザウイルスが簡単に感染してしまうと。しかも、木枯らしが吹きますと私たちは寒冷ストレスにあたります。ストレスというのは何かというと、免疫機能が落ちると、抵抗力が落ちるということになります。ですから、そういう冬にはインフルエンザウイルスに簡単に感染してしまって簡単に発病してしまう。人にも簡単にうつすということになります。これが冬の季節性のインフルエンザの流行のメカニズムになります。
 ところが、今回の新型インフルエンザウイルスは、いつ出現したんでしょうか。これ、日本で5月ですよね。通常ですと、私たち5月のゴールデンウイークが過ぎると、次の冬まで、もうインフルエンザなんか忘れてしまいます。それは私たちの体がインフルエンザウイルスに対する抵抗力がしっかり戻ったから、インフルエンザウイルスがもう我々に感染できなくて消えてしまうということになるわけです。そのような時期に、今回、新型インフルエンザウイルスが出現したわけです。ですから、本来、人から人へ感染して病気を起こすはずのない時期に、どんどんどんどん新型インフルエンザウイルスが人から人への感染をふやしてしまったと。それで、厚生労働省は、6月19日付で、もう一人一人の患者については、もうPCR診断はしないと。集団感染が起きたときだけ対応しますという、事実上の安全宣言、終息宣言を出してしまった。それで、静岡県の場合は、ちょっと私、存じ上げませんが、多くの自治体では、安全宣言を出した、終息宣言を出したですね。ですから、結局、そこでみんな、それまで、特に大阪ではマスク等々、大変な景色になってましたけれども、一斉にみんなマスクとっちゃったですね。それまでうがいをしてた、手洗いをしてたのが、一遍にやめてしまったと。だけど、現実には何が起きてたのか。インフルエンザがどんどんどんどんふえていた。対策は、ほとんどとられずに、長いことおかれてしまってたということです。
 これは、今、お示ししているのは、アメリカのCDCが出した、アメリカの新型インフルエンザの流行のパターン。現在のパターンで、これがことしの5月ぐらいからです。この茶色が、新型インフルエンザです。もう5月以降、この赤が香港型で、濃い紺色がソ連型です。これがもう、姿消してます。現在でももう相当たくさん出ているはずですけれども、茶色一色です。すなわち、新型インフルエンザ一色です。夏にもかかわらず、どんどんアメリカでも患者さんが出てしまったということです。これが日本ですけれども、これが日本でも、こういうようにふえているということです。
 私、厚生労働省はちょっと誤ったというぐあいに、先ほど申し上げたんですけれども、これが如実にあらわれております。このピークが関西でたくさん出まして、それで大阪府、大阪市で小学校や中学の1週間の休校措置がとられたときでした。
それと、検疫所で非常に厳重な検疫体制がとられたものですから、そこでうまくすり抜けた人たちも、自分たちの故郷へ戻ってから、発熱があった人、非常に多くの人が発熱相談センターに相談をされて、医療機関に受診されたということで、人・人感染が余り起きなかったと。それは非常に功を奏して、一度、発生は減ってます。ですから、そういう体制を緩めなければ――これは検疫は無理だったかもしれませんが、ほかの体制をしっかりとっておけば――これはもっと、こういう下がったままであったかもしれません。ところが、厚生労働省、手綱を緩めてしまったところで、どんどん上がってきてしまったということです。
それが、これがもっと、さらに進みますと、これ、日本の状態ですけれども、これは新型インフルエンザの患者さんで、もう季節性インフルエンザの患者さんは、全く姿が見えないと。ですから、本来は、夏場というのは、インフルエンザとは、我々、何の関係もないシーズンのはずなのに、物すごくインフルエンザの流行が進んできているということになります。そうすると、今、何が心配されるのかと言いますと、厚生労働省が、一度は10月にピークが過ぎるというような発表をしてました。そのうちに訂正をしまして、12月にピークが過ぎるというようなことを言ってます。私どもは、そのようには考えてませんで、今の調子で流行が進みますと、恐らく、本当のインフルエンザの流行期には、もう既に相当たくさんの患者が出た状態で、インフルエンザの流行期を迎えるということになろうかと思います。そうしますと、ことしの冬は、非常にたくさんの患者さんが出てしまうと思います。
 それから、先ほど、厚生労働省は季節性インフルエンザ並の病原性だと言っていると、それは、正しくないということを、申し上げた理由としては、これまで季節性のインフルエンザが真冬のインフルエンザの流行シーズンに人に対して示す病原性と、夏の、人がインフルエンザウイルスに対して強い抵抗性を持っているときに人にあらわれる今回の新型インフルエンザの症状、これが同じですよという言い方してるんです。ですから、人がインフルエンザウイルスに対して抵抗力が下がってしまって、感受性が高まってしまったときに出てくる、今のインフルエンザウイルスの臨床症状は、恐らく夏に人に出てきた臨床症状よりも、はるかに強い症状が出てくることが、当然、予想されます。そうすると、重症化する患者も、はるかにふえるでしょうし、死者もはね上がってしまうということになろうかと思います。ですから、私は、とても今のウイルスは、季節性並みの病原性のウイルスであると、とても考えられないということです。ですから、何が重要なのかというと、インフルエンザの流行シーズンでない、今の、まだ本当に寒くなっていない時期に、どれだけ今の新型インフルエンザを押さえ込んでしまうのか。それから、人から人への感染を、どれだけ防げるのか、もうここにかかっているというぐあいに考えます。幸い、人への病原性は、余り強くない、今、そういう状態でありますから、我々、そういうしっかりとした防疫体制をとれば、インフルエンザウイルスのさらなる広がりということは、これはとめられるのではないかというぐあいに考えております。
 これは、今回のインフルエンザウイルスの遺伝子の成り立ちで、非常に複雑な、いろいろな種類のウイルスから成り立っている。これはまだ、本当に豚から人に来たのかという証明はされてませんけれども、恐らく豚から来ているんだろうと考えられてます。
 それと、これ、ちょっと御記憶いただきたいんですが、通常の豚インフルエンザウイルスというのは、豚に対してほとんど病気を起こしません。人に簡単に感染します。人に感染しても、人はほとんど病気になりません。取るに足らない病気というのが、豚インフルエンザであります。ところが、今回は、豚から人にも来た、そういう豚インフルエンザウイルスですけれども、従来の豚インフルエンザウイルスに比べると、はるかに人に対して強い病原性と、人から人へ感染できる感染力を持っている、そういうウイルスであるというぐあいに考えております。それと、昨日ありましたインフルエンザウイルス学会で発表されてましたが、人に対して、この3番ですね、今回のインフルエンザウイルスの特徴ですけれども、サルを使った感染実験では、季節性インフルエンザウイルス、例えば香港型のインフルエンザウイルスに対して、肺に対して、はるかに強い病原性を示すということがわかったと、昨日、報告されてます。ですから、はるかに警戒しなきゃならないウイルスであるということであります。
 ちょっと時間がなくなってきましたので、これは余り説明できませんけれども、東南アジアでは、今、豚が鳥インフルエンザウイルスに非常にたくさん感染しております。調べられたところでは、約2割の豚が、鳥インフルエンザウイルスに感染していることがわかっています。ですから、そういうところで、今回の新型インフルエンザウイルスが蔓延してしまったら、そういう東南アジア、あるいは中国で飼育されている豚の中で、従来のH5N1ウイルスと――鳥インフルエンザウイルスと――今回の新型インフルエンザウイルスの遺伝子交雑体ができてしまう。すなわち、また別の、新しいウイルスが出現する可能性もあると。そういうことから考えると、私たちは、とにかく東南アジアから目を離すことはできないというぐあいに考えてます。ですから、そういう意味でも、今回の新型インフルエンザウイルスが、特に日本もそうですけれども、東南アジアでは、とにかく流行を起こしてはならない。だけど、これはほとんど不可能だと思いますけれども。
 これは、もうちょっと時間がなくなってきましたので、飛ばしますが、私は、マスクは極めて有効であるというぐあいに考えてます。アメリカでは、感染者がマスクをするものだと、そこで有効だという意見を持って、日本も大分、それに今、なびいてますが、私はそれは正しくないと思ってます。マスクは有効であると思ってます。もちろん、マスクをすれば100%、ウイルスの感染を防げるということは不可能です。だけど、ほとんど、日本で住んでおられる方の90%は、花粉症じゃないと思います。すなわち、マスクはしてないと思います。私も、幸い、してません。ことしの5月、6月は、大阪へ行くときは、もう仕方がなくてマスクしていったんですけれども、やっぱり、マスクをすると、やはり今、特別な状況にあるという、そういう感覚を持ちます。そうすると、衛生に気をつけなきゃならない。そうすると、しょうがない。いつも家に帰って、せっけんで手洗いをすることはないんですが、まあしょうがない。家に帰ったら、せっけんで手を洗いましょうということで手を洗いますし、それから、家内が用意してくれてるうがい薬でうがいをするということで、そういう意識になります。ですから、そういう意識を持つことができるということが重要だと思います。
 ただし、我々の年代ですと、三日坊主で終わっちゃいますが、高校生以下ですと、今のうちからそういう習慣をしっかりつけてもらって、来年の春まで、感染しても感染しなくても、そういう今の3つの、マスクを含めたそういう対策をとるということで、そういう習慣をつけてもらうと、たとえ感染しても、人に感染させる機会を激減させます。そうすると、流行をそれだけ減らすことができて非常に有効であると。いずれにしても、感染するかしないかは、これ個人の問題です。ですから、やはり個人個人、あるいは家庭、家庭がしっかりその対策をとるということが、この流行を防ぐことになる。もうそれが基本であるというぐあいに考えております。
 それと、もう1つ重要なのが、消毒薬も重要ですが、これはできるだけ毒性の少ないもので――これは私の個人的な意見ですけれども――塩素系のものは、余りお勧めしたくないです。と言いますのは、塩素系は、どうしても脱色作用がありますので、衣服等に吹きかけるというのは、ちょっと危険があると思います。ですから、我々に吹きかけるときには、そうでないものが望ましいと思います。いろいろな消毒薬がありますから、その消毒薬は使う場所を考えて、使い分けが必要になってこようかと思います。いずれにしても、消毒は重要であると考えております。
 それと、新型インフルエンザが蔓延しないためにということで、これは基本は1つしかありません。とにかく、早く休むということです。昨日のウイルス学会でも、本当の臨床症状が出る24時間前から、ウイルスの排せつが始まっているということです。ですから、ほんのわずかでも、ちょっとおかしいというぐあいに考えられたら、とにかく休むと。それが、人にウイルスをうつさないということになろうかと思います。ですから、教育現場にあっては、特に、これから受験シーズンで大変だとは思いますけれども、おくれは後で取り戻せると思います。特に教職にある方から、生徒さんにうつしてしまうということになったら大変なことになると思います。ですから、とにかく休むということです。それと、こういう都市部と郡部では、人口密度が全く違いますから、とる体制も違ってくるということです。特にこういう都市部、人と人との距離が短いところでは、十分、気をつけるということが必要になってこようかと思います。
 それで、きょう、ぜひお示ししたかったのが――すみません、ちょっともう5分ほど超過しておりますが、すぐに終わります――昨日のウイルス学会で重要なことがありました。
 今回の新型インフルエンザで、肺炎で子供さんたちが何人か亡くなっておられます。しかも、ウイルス性肺炎という言われ方をしてます。これは、鳥インフルエンザで人が感染した場合と同じ症状です。同じ症状ということは、非常に経過が早いということです。これは、人が鳥インフルエンザに罹患した場合に出てくる症状であります。特徴は、重篤な肺炎、これでほとんど亡くなっておられます。非常に強い呼吸器症状。その理由は、なぜかというと、これ、ウイルスで肺が呼吸できなくなってしまうということです。その理由は、これ、きょう配付していただいた資料なんですが、人の呼吸器は、α26結合の受容体しか存在してません。ですから、人は鳥インフルエンザウイルスには、なかなか感染できません。ところが、この肺ですね。肺の中には、このピンク、すなわち鳥インフルエンザの受容体がいっぱいあります。だから、どういうことかと言いますと、きのうのウイルス学会でわかったんですが、今回のインフルエンザウイルスは、α23結合にもα26結合にも反応する、両方のウイルスが存在していると。すなわち、豚でふえたウイルスの、まだ性質を保存していると。ですから、人に感染した場合に、不幸にして肺までウイルスがいっちゃったら、肺で、今回のウイルスはドバッとふえるということです。
ですから、肺炎が非常に起こりやすいと。しかも、普通の、人の季節性インフルエンザの肺炎ですとこじれて肺炎になるんですが、今回の新型インフルエンザの場合にはすぐになるということです。ですから、特に子供さん、多分、これから寒くなりますと、高齢の方、肺炎を起こす機会というのは非常に多くなると思います。ことしの冬、あるいは次の冬、この二冬ぐらいは、このウイルスによる肺炎を考えておかなきゃならないというぐあいに思います。ですから、何が必要なのかというと、ちょっとでもそういうインフルエンザの症状が出た場合、特に子供さん、あるいは高齢の方、これは早く受診して、一刻も早くタミフルを服用するということが非常に重要であるということであります。そういうことが、今、わかってきてます。それですから、成壮年は割合、それほど深刻になることはないと思いますが、今、申し上げたような年代の方は、ことしの冬は非常に心配だと思います。確かに、これまでは、小さな子供さんの症例が多いです。だけど、死亡率は、やはり高齢の方が多いんです。ですから、冬になったら、余計、その傾向が強くなるということであります。
 それと今、1つ非常に心配なことがあります。ベトナムでの研究者の話を聞きますと、これはH5N1の鳥インフルエンザウイルスの場合ですけれども、次第次第に、タミフルできかなくなってきていると。ですから、早く新薬の開発が、東南アジアでは望まれているということです。ですから、そういう国から、またいつ、何時、日本国内にウイルスが侵入してくるかもしれません。
今のところは、新型インフルエンザウイルスですけれども、鳥インフルエンザウイルスも決してなくなってません。脅威は全く減ってません。ですから、そういう面からも、私ども、十分に気をつける必要があろうかと思います。
 すみません、大分、時間超過しまして申しわけありません。きょう、お話ししたいと思いましたのは、以上のとおりです。
 どうも、御清聴いただきましてありがとうございました。

○大橋委員長
 ありがとうございました。
 以上で、大槻教授からの意見陳述は終わりました。
 それでは、これより質疑応答をしてまいりたいと思います。
 御質問、御意見等がありましたら、御発言願います。

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