本会議会議録
委員会補足文書
令和元年12月子ども健全育成推進特別委員会
特定非営利活動法人しずおか・子ども家庭プラットフォーム 代表理事 村瀬修氏 【 意見陳述 】 発言日: 12/03/2019 会派名: |
○村瀬修氏
御紹介いただきました、NPO法人しずおか・子ども家庭プラットフォームの村瀬と申します。よろしくどうぞお願い申し上げます。
初めにこのような議会の特別委員会で、私のような実践活動している者の意見を述べさせていただく機会をいただきまして、大変感謝申し上げます。よろしくどうぞお願い申し上げます。
さて、私ですが1975年から県の職員を定年までやっておりました。私は単なる事務屋だったんですけれども、これは今も続いていると思いますけれども、途中から職の公募というのがありまして、とてもこれは意味がある仕事だと事務職から福祉専門職に転換し、児童相談所に異動しました。当時、私が児童相談所に行きたいと申し出たときにはバブルに向かっていくときでありまして、まだ児童虐待などというものは影もなく、むしろこれから何かすばらしい世の中が来るぞというような、みんな多幸感でいっぱいのときでした。そういうときにあるルポルタージュを読んで、この時代にこんなミゼラブルな子供がいるのかということを強く感じて児童相談所に異動し、そしてそこで長く私の職業生活を送ったわけであります。
私が、児童相談所に配属されたのは1981年――昭和56年でありますけれども、私が主に活動していた時期というのは、初めは児童虐待などというものはかすめもしない、何も見えない。これはありふれた話なんですけれども、そういうむしろ悲惨な取り残された人たちをどうするかというような感じでした。
平成2年から虐待の統計をとり始めたんですけれども、始めたときは1,102件だったんです。それが16万件にもなってしまった。ちょうどこの急激なカーブ。かなりここも急激なんですけど、私が退職して以降、さらに急激になっている。2段階、3段階とその事態は悪化しているというように私は思っております。
その後、10年に退職して2011年以降、今のNPO法人で。実は、児童相談所のOBは団塊の世代でみんな退職して、僕たちはこのまま終わっていいのかと、我々の中にたまっているノウハウを何とか退職しても還元しようじゃないかと言って、児童相談所のOBを中心に、NPO法人を設立し活動してきたわけであります。
どんな活動かというと、これが設立の趣旨でございます。これが活動内容でして、NPO法人はお金がないものですから、何とか事業もさせていただいております。
1つは児童家庭支援センター事業――これは児童相談所と同じように一応ミゼラブルな子供たちが対象ということになっているんですけれども、なかなかそうはならなくて、一般の子育て相談とか虐待の前の段階の相談などを承っております。
それから本当の本体はここの人材育成にありまして、我々はOBなので、やはり自分たちの中にあるこのノウハウを次の世代に何とか伝えたいと、今支援している人たちに対して事例検討会とか研究会とかをやって、そして次世代の支援者を育成、養成するということが私どものメーンでもあります。
それで昨年4月からはちょっといろんな事情があって、浜松市の発達障害者支援センターがJV――福祉ではJVは珍しいですけれど――これもやらせていただいている。それから大学と一緒になって研究活動も実は今やっていまして、今の課題はどうやったら在宅支援をできるのかということを聖隷クリストファー大学の社会福祉学部の藤田教授と我々が一緒になって研究しています。
さて、この特別委員会の設置もやはり児童虐待、特に死亡事例、これを巡って、これはゆるがせにできないということで設置されたのではないかと思います。夏には意見書も国へ御提出されたと伺っております。
それで目黒区とか野田市、そのほか虐待死亡事例が続くわけですけれども、痛ましい事件です。この少子化の時代に1人の子供でも失ってはならない、大切に育てないといかんというような時代にこんなことがあっていいのかと、こういうことをどうしても我々は考える。あってはならないという強い思いが我々に起こってくるわけです。目黒区の事件では、「あしたはできるようにするから許して」とノートに残す、これは本当に心がちぎれそうな感じがします。
これは野田市の「お父さんに暴力を受けています、夜中に起こされたりそのときに蹴られたり叩かれたりされます、先生どうにかなりませんか」と、この訴えも物すごく厳しいものでありました。
確かにこの目黒事件も野田事件も、その後に死亡事例は、6月に札幌で、8月末には鹿児島で起きています。それらの死亡事例を見るとやはり対応機関の不十分さ、こういうものが非常に見られます。
例えば先々週か先週かに千葉県が行った野田事件の検証報告書が千葉県のホームページに出ております。それを読むと基本的に早期対応パッケージです――48時間以内とか、あるいは時々にアセスメントをするとか、あるいは養護児童対策地域協議会が適切な時期に開催されたり、あるいは見立てからさまざまなことを評価するとか、一番基本的なところが実際どうしてなのかはわからないんですけれども欠落している。それは決して野田事件だけではなくて札幌も鹿児島もそうなんです。ですから課題は大変あります。そこをどうにかしようということは、とても大事なことだと思うんです。
一つ一つの事例はとても悲惨で大変なんです。何とかしないといかんという思いがあります。ただやっぱり政策として考えたときに、この数字をどう考えたらいいか。この1つの事例は悲惨ですけれども、それを統計的に見たら、どう考えたらいいかということも、やっぱり一方では考えなければいかんと思います。
これが国が行った死亡事例の検証なんですけど、平成15年7月から死亡事例の検証を国は始めていきます。始まったのが7月という変な時期なものですから、きちんとした12カ月、1年にならないんですけれども、それから14.75年。ことしの8月1日に全国児相長会議で第15次の発表がありました。50事例52人が亡くなったということで、ざっと見ると、この14.75年の間に735人の方のケースが起こり、779人のお子さんが亡くなっている。それで年平均は52.8になります。これが件数で、これが子供の数ですけれども、これを見ていくと、最も多いところで67人、最も少ないところで36人。でも大体平均してみると50件前後。これは基本的には変わっていないことになります。
そして報告ごとにやっても統計でやっても同じなものですから、これは集めちゃってるんですけど、年齢区分を見るとゼロ歳の場合が半分近いんです。これは15次までの合計です。6歳未満でここからここまでを足した数ですけれども、90%近いわけです。そうすると児童虐待問題を死亡事例と収れんして考えてみれば――収れんしていいかどうかは別の問題ですけど――ここのところにどう支援を展開するのか、どうやってそういう事態が発生しないようにするのかということが、一義的に重要な話になってくると思います。
問題は、この平均52人という数字が多いのか少ないのか、昔はどうだったのかということなんですけれど、昔は児童虐待死という概念自体があるわけではありませんでした。だけれども統計を見てみると――これは警察庁の統計なんですけれども、家庭内で起きた殺人で被害者と加害者の関係で見たやつです。配偶者というのは大体変わらないんです。配偶者は殺した人と殺された人の関係が余り変わらないんですけど、加害者と被害者の関係で、被害者が子供というのを見ると、これは昭和54年ですけれども、300人近くいたのが明らかにこれは減っているわけです。それでこれは大人も子供もいるわけです。おじいさんが40歳の息子を殺したとか、そういうこともここに入ってくるので、必ずしもいわゆる児童福祉法にいう児童ではありませんけれども、そういう意味では全体として減っているということがあります。
だから親による子殺しというのは、もうちょっと昔の統計をとっていくと、もっと数百人の規模であったと言われているわけですけれども、今マスコミが騒いで細かく報道するような事態というのは、明らかに減っている。減っているからこそ、ある面でごくまれな出来事になって世間の耳目を集める。そしてそれは詳細に報道されていくことで、私たちの中にさまざまな思いが惹起するということがあると思います。
子供の死亡でいうとゼロ歳の死亡は、我が国では非常に減っています。これは1899年、1900年ぐらいからずっと統計があるわけですけれども、我が国では2017年で1.9人です。こんな国はないです、欧米を見ても。ここは徹底的にやっていて、子供の死亡というのが減っている。減っているからこそまれな出来事として、特に我々はこの少子化の時代にという思いが募るということだと思います。
子供の虐待死に焦点を当てて話をさせていただいたんですけれども、その結果としては検証が始まって以降は大体50人前後で変わってないんだと。50人という数が多いか少ないかはわからないけれども、なおかつ児童相談所を初めとして関係機関に改善すべき点はたくさんあるけれども、僕は、今のやり方は子供の虐待死を抑え込んでいると言えるんじゃないのかと思っています。それでも50件というのは毎週1人です。毎週1人の子供が親から殺されているという事態を何とかしなくちゃいけないということになると思います。
これは東洋経済から持ってきましたけれども、東洋経済を初め経済紙が貧困と児童虐待について相当詳しいレポートを時々します。これは本当に上手な図で、厚労省が出す図よりもいいわけですけれども、8月1日の発表で昨年度の児童虐待が約16万件です。この中で多いものがやっぱり心理的虐待で55%です。身体虐待が25%、ネグレクトが18%。
これは私どもの現役時代から様変わりです。大体今のネグレクトの数がここにあるぐらいで、身体虐待が45%ぐらいというのが我々の認識だったんですけど、これは大変わりしているわけです。セクシュアルアビューズはほとんど変わらないと思います。
ここで注目していただきたいのは法律が2000年にできて、こういう大きな事件が起こると、これはちょっと全部は書いてないですけど件数が上がっていくと、そういうことがあります。それで何で心理的虐待がこんなに多いのかということは、もうこれは先生方は十分御存じだと思います。
心理的虐待は、例えば平成10年と30年を比べても、平成10年は全部の件数が6,900件――今から見ると、まだ平和な時代だったと思います――それが平成30年度、最新のものは8万8000件ですから。それで割合も9.4%だったのが55%と半分以上になっているわけです。この20年間に約9万件ぐらいふえているわけです。これは、警察が通告するDV――家庭内における夫婦げんかを初めとして――これは非常に多いわけです。警察は決められたとおりにやっているんです。警察がしんしゃくすることは全然ないんです。
この年に虐待の定義が変わってるんです。心理的虐待の中に家庭内暴力。ここで目指していたのはDVだったんです。決めたけれどもそんなに大きな変化はなかったわけですけど、2013年に警察は、そのDV事案で亡くなる方が非常に多かったので、やはりDV事案に力を入れていて。夫婦げんかがその子供の前で行われている、これは心理的虐待だと。厳密にいえばそういうことになるかもしれませんが、これを漏れなく通告するようになったわけです。それによってこれがぐっと上がっていったということになります。
実は何を虐待と定義するのかということは非常に難しい問題で、4ページに附属資料があると思うんですけれども、実は戦前も児童虐待防止法というのがありました。その中でうたわれているもの、それから児童虐待防止法が2000年にできる前、つまり私たちなどは心理的虐待をどう考えていたのかということがそれでわかります。
そして一番下が児童虐待防止法の心理的虐待の規定です。身体虐待は基本的にそんなに大きな変化はないと思います。ただ、旧法――1933年にできた児童虐待防止法では、やはり刑法に抵触するようなものがだめだというような規定じゃないかと思います。
それから、真ん中の1989年の全国児相長会議が調査した心理的虐待の概念で、調査したときにこういう概念でやれと言ったものなんですけれども、5番目が心理的虐待なんです。極端な心理的外傷を与えたと思われる行為となっていて、括弧の中を見ると、日常生活に支障を来す精神症状があらわれているものに限る。これは前の参考人の平岡先生が、多分PTSDのことであるとか、いろいろ皆様にレクチャーされたと思いますけれども、とにかくその心的外傷、PTSDの状態のようなことを想定しているわけです。夫婦げんかというのは想定していないわけです。
ですからこの極端にふえていく要因となっているのはやむを得ないにせよ、虐待の定義そのものが変わっていったために、あのような急角度の増加につながっているんだということを私たちは知っておく必要があると思います。
実は児童虐待の実数というのは今のところわかっていないんです。先ほどから出ているこの上がっていく数字は児童相談所が対応した件数です。対応した件数というのは、今、児童相談所は通告されたときのパッケージで、48時間以内に対応しなければならないということになっているんです。これは新規だけじゃないです。現在進行形のケースでも、新たに通告が寄せられた場合に、48時間以内にはとにかく対応しなきゃいけないわけです。対応した件数があの16万件になっている。
そういうことで考えると、厚労省の説明は意識の高まりとか円滑な連携とか、実際にどうしているかと言っているんですけど、今言ったように定義の拡大、それから対応した件数であり、これは違うということです。
アメリカが虐待の本場なんですけれども、アメリカでは340万件あって、児童相談所に相当する機関としてはCPSというところがあるんですけれども、その62%を通告として受理します。そしてこの210万件の通告は受理したんだけれども、その中で虐待として認められたというのは、68万6000件。これがアメリカの場合は虐待として認定された。通告の数、対応した数とも違って、ちゃんとこれは虐待であるという件数がはっきりしているわけです。それでアメリカというところはすごいところだなというのは、1,600人も亡くなるわけです。
我が国でも高齢者虐待は通告と実際の虐待の件数を分けています。これは養護者による高齢者虐待の数、通報が3万件。実際に、行政が調査して対応、認定した虐待というのは1万7000件、それでこのようにランク付けも高齢者虐待の場合には行っています。これは1番レッドです。これがだんだん軽くなる。ある面でいうと何事が起こっているんだと思われるような児童虐待で、こういう数字が実はない。実際の虐待が一体どのくらい、どうなっているのかということについての分析が、私は非常に弱いと思います。そのために政策的に正しいものが出ているかどうかもわからないと思います。
ところが東京都は独自で、やっぱりあそこは激しいですから、2005年に独自の調査をやってるんです。そして件数はいろいろとあるんですけれども、要するに対応した件数の42%が虐待ではなかったという結果を出しているんです。
ですから今16万件ありますけれども、一体そのうちのどのぐらいが本当に深刻で、レッドライン、レッドカテゴリーなのかということについて、やっぱり検討と研究が十分ではないと思います。
子供に及ぼす影響に関する最新のものは、このACE研究というアメリカで行われている研究です。これは保険会社が――アメリカの保険は全部が民間です――十何万人のデータを集めたもので、小さいころ繰り返し身体的な暴力を受けるとか、そういうようなことが1つでもあったケースは、1点をつけるということをやっているんですけど、将来健康に暮らしていても心疾患や肥満とか、いわゆる成人病と言われるようなものだとか難病というようなものが起きているんだと。これは疫学的な調査です。ですからいかに子供を安心した状態で養育するのかということは、何十年後かに社会の中心となって働いている人たちが途中で倒れないようにという意味からも重要だということになります。
それからこれは有名な数字で、和田先生の研究で児童虐待の社会的コストが1兆6000億円だという、これは2014年の研究なんですけれども、こういうコストで児童虐待を考えるというような視点も私はとても大事だと思います。先ほども言いましたけれども、貧困も社会的コストの問題で考えてみるということになります。
次に国はどういう方針で今いるのか。もちろん法律があって――児童福祉法、児童虐待防止法、民法もそうでしょうが、そういうものが骨格になっていると思いますけど、具体的な施策としてどういうことを考えているのかということになります。
資料3ページをごらんになっていただきたいと思います。それと画面です。これも東洋経済からもらってきました。よくできた表です。2000年に児童虐待防止法ができ、そしてさまざまな改正をしているわけです。そして右側には注目を集めた主な虐待事件があって、やっぱり悲惨な状態、死ななくても悲惨な、例えばこの岸和田なども、植物人間になってしまったような事例ですけれども、そういうこともあって、法改正も繰り返し行われています。しかしとめることができていないというのが現実じゃないでしょうか。それで特にこの一、二年。大きく変化して、今児童相談所は本当に大変な状態になっていると思います。
昨年3月の目黒区の事件で、関係閣僚会議が、しばらく開かれてなかったと思いますけれども再開されて。そして本当に大変なんですけど、30年3月に目黒区事件が起きて、そして6月に関係閣僚会議が開かれました。レジュメの1ページの終わりから2ページにかけてです。30年3月に目黒区の事件が起きて、そして関係閣僚会議があって、7月に総合対策、これはかなり本格的なものだったと思います。そして12月にその財政裏づけのための関係閣僚会議連絡会で官僚がこれをつくったわけです。つくってさあ行くぞといったときに野田市の事件が起きるわけです、「先生どうにかなりませんか」と。
それで、慌てて31年2月にまた関係閣僚会議が行われて、12月のプランを徹底しろという通知をとりあえず2月に出して、そして3月には本格的な児童虐待防止対策の抜本的強化について出して、6月に今度は札幌市の2歳の女の子が死亡する、こういう事件が起きています。それはまた数としてはさらに進んで、8月にも9月にも同じような事件が起きているわけです。
だからここで出したプランが何なのかと、どういうことなんだろうということになるわけですけれども、この7月に出したものは本格的なものだったと思います。これは緊急的に講ずる対策と総合対策の2つから成っています。済みません、これはお手元にはないと思います。
目黒区の事件を背景にしていて、児童相談所がケース移管でつまずきましたので、ここのところを徹底しろということだったわけです。48時間以内に子供に会えないのだったら徹底して見ろと、それから警察との連携強化。それからこれはいろいろ言われていた、保護しなければいけない子供を保護してくださいということだと思うんです。それから乳検の未受診者、未就学児童、こういうものも点検しろと。これは大変なことだったんです。全部のケースを見直してということをやっています。
以上が緊急なんですけれども、総合プランとしてはこれも同じような体制の強化、それから早期発見、早期対応。とにかく早期発見、早期対応に力が入っていることは事実だと思います。これはケース移管の場合も同じです。この総合対策をやっていた。
そして3月、野田市の事件の後に2回関係閣僚会議を開いて、これらを重点に権利擁護、あるいは発生予防、早期発見、迅速な対応、社会的養育の充実、強化――これは里親だとかそういうものですけど――そんなことを柱にした抜本的強化というのを出したわけです。
これらはことし6月の児童福祉法、児童虐待防止法、DV法。これらの法改正につながりました。ここでしつけで暴力を使ってはいかんというものが6月に制定されました。
しかし頑張ってやってみても、なかなか減らすことができないということなんです。早期発見、早期対応に重点が置かれていますが、これは未然防止とは違うものです。起きたらすぐに見つけろよという話の前に実は重点を置いていかなければならないんじゃないかということが、きょうの私の題目の1つなんですけれども。
もともと育児というのは、たやすい営みではないと思います。迷いだとか悩みだとか失敗もある、手探りの中で営まれて思うに任せないというのが養育、育児だと思うんです。だからその中には多かれ少なかれ不適切性というもの、不適切な行為というものをはらまざるを得ないというのが子育てで、その不適切さのどこまでを虐待というのかというのはなかなか難しいと思います。
発見し対応するというのは物すごく大事です。だけども未然防止ということが、王道ではないのか。どうやっても人間のやることなので、どんなに強いネットをつくってもこぼれてしまうということが起こり得るので。それでそういうことを誰かが言ってないかといいますと、これは24年1月20日に総務省が、児童虐待が全然減らない、厚労省が示している数字が減らないので、一体これは何なんだということで政策評価を22年から時間をかけてやりました。調査をたくさんして、アンケートだとかインタビュー調査もやって、そして発生予防、早期発見、早期対応、それから関係機関の連携、これらについて一体その現場はどうなっているのかということを政策評価していったわけです。
それでBについては一定の効果が見られる。早期対応から保護、支援、これはもう50人前後に児童虐待による死亡が抑えられている。倍々できているものを死亡事例だけは抑え込んでいるわけです。だからこれはやっぱり一定の効果は見られると。十分ではないけどねという注釈がつきますけど、だけどもここはやっぱり総務省の政策評価で評価してくれてるんです。
だけれども、もっと評価しているところがあります。それは何かというと、乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業。これを2つセットでやっていると、3歳未満の児童虐待に対する有効性が認められるといってるんです。総務省のこの政策評価では、唯一ここを褒めてくれているわけなんです。まさにここに今の児童虐待16万件という発表――これは児童虐待の実際の数字ではないんですけれども――ポイントが私はあると思います。
乳児家庭全戸訪問事業というのは、こんにちは赤ちゃん事業です。生まれた子には全部にとにかく行ってるわけです。そこでこれはいかんなというケースが主に対象になって、養育支援訪問事業をやっているわけです。
これは私から見ると、最高の仕組みだと思うんです。というのは、行政の判断であって申請主義じゃないんです。行政の判断でできることなんです。そして無料。まさに、こういうものがこの16万件という数字を減らしていく重要な1つであることを私は示唆していると思います。
先ほど、不適切な状態をどうしてもはらまざるを得ないと私は申し上げましたけれども、やはり非道な親――「絶対頑張るから」なんていう、あの目黒区の結愛ちゃんのノートを見ると、どうしても非難したくなるわけです。彼らはそういう不当な行為を行ったと思います。だけども非常に難しくて、児童虐待かどうか、どうして起こるのかということも絡んでいる。非常に難しい問題をはらんでいると思います。
2018年1月に愛知県の3つ子のお母さんが、3つ子のうちの1人を投げつけて死亡させた事件があって、最近その判決があって懲役になったわけです。そしたら多胎児の親たちが、減刑とか、不当じゃないかという署名活動まで起きている。それは何を意味するかということです。
画面にないんですけど、多胎児の調査を東京のNPO法人がやっているんですけれども、お母さんで――双子、3つ子のお母さんですが――もう限界で放り投げたくなったことがあると答えた方は80%を超えているんです。
つまり、この3つ子事件は、どうしたって罪を問われなければならないものですけれども、やっぱり支援が必要で、それが不十分なために起きたということも我々は見てとることができると思います。
それから佐賀県の、これはことし10月ごろに起きた事件で、お母さんが小学6年生の子供がいうことを聞かないものだから、ヘアアイロンを体につけてひどいやけどをさせちゃったんです。それで、そのまま登校したものだから学校に通報されて、お母さんが逮捕されたんです。その子のおじいさんはテレビのインタビューの中で、いや、実は子育てに悩んでいたんだと、そういうことを言ってるわけです。
それからこの尼崎小6宿題事件というのが――これは私が勝手に命名してるんですけど――夏休みの終わりにお父さんが、おまえは宿題をやってあるのかと、こう聞いたんです。そうしたらぐずぐず言って、やってあるのかやってないのかを言わなかったんです。やってなかったんですけど。それを知った父親が張り倒しちゃったんです。強くやったので跡が残ったわけです。それで登校して学校から通報されて、その父親は逮捕されました。
今はそうなってるんですけど、悩んでいたとか、かっとなってとかこういうものまで。不適切ですしやってはいけないんですよ。だけども虐待にカウントしていいのかと私は思います。なぜそう思うかというと、結局誰にでも起こり得るというか、本当に大変な状態になれば、やっぱりそういう気持ちが起きたり、実際にやる人はほとんどないけれども、そうなってしまうんだと。
つまり子供を殺してしまう親と、本当に大変で一生懸命に頑張っている親は、実は地続きの話でスペクトラムの状態――私は養育スペクトラムと呼ぶんですけど。スペクトラムというのは境界が曖昧な、しかし連続した1つのもの。光のスペクトラム等のスペクトラムです。最近は自閉症スペクトラムでも、自閉症も濃いから薄いまでざっと並んでいる。並んでいて区切ることができない。養育というのも完璧な状態から不適切なもの、さらには死亡させてしまうというものまで、ずっとこれは境界の曖昧な連続した1つのスペクトラムとして捉えることができるんじゃないか。
大事なことは、つまり連続体の中の1つだから、自分もどこかに位置するけど、みんな同じおりの中にいるんだっていう、そういう考えでケースを見てあげなきゃいかんのじゃないかと思います。
最後になります。乳幼児期の養育支援に焦点を当てた政策。アメリカは大きく方針転換を行っています。アメリカのさまざまな研究をしている研究者の論文を見ると、パッケージでもって家庭訪問をして、そして養育を支援するというようなことを民間活動としてやっている。それに対して州政府が金を出していく、補助をしていくというようなやり方です。HTAモデル、これは日本でも実は東京などの民間団体でやっているところがあります。家庭に訪問してやっているということです。
保護者の子育て支援。何よりも乳幼児期における子育て支援をどう手厚く行うのか。日本でももう有効性が証明された養育支援訪問事業のようなものを行政みずからがやるか、民間でやるか。私は民間のボランタリーなものを利用していく、活用していくことはとても大事だと思っています。
ですから子育て支援を乳幼児期にやる、それから子供の貧困対策、孤立を防ぐ諸活動を豊かに展開する。結局貧困は子供から何を奪うかというと、その発達。子供の発達は年齢によって決まったプログラムがされているわけだから、ゼロ歳児、1歳、2歳、3歳、4歳、5歳児というぐあいに、その発達の課題を貧困とか虐待は奪っていくわけです。
それからもう1つ奪うのはつながりです。孤立してしまって貧困の中で虐待が起きるのは、つながりがないからということなんですけど、あるいは虐待になってしまうのは親のつながりがないからなんですけれど、ここをやっぱり一番大切にしなきゃいけないということです。
これからは社会福祉法人とかNPO法人、大事なのは非専門職も含んで民間活動が旺盛に展開されることで、私は浜松市で活動していますけれども、40以上の子ども食堂や居場所、学習支援があります。中には社会福祉法人もいます、NPO法人もいます。しかし個人でグループをつくって、おばちゃんたちも食堂をやっているんです。そこに専門性などはありはしない。でも大事なのは、ハートはあるわけですから、そこで子供たちは集って大人とのいい関係をつくり出す。家庭の中ではつくり出せなかったような、大人との関係をつくり出すことができる。そういう活動が展開しています。
ただ1つ残念なのは、余り大きな声で言えないんですけど、こういう子ども食堂、学習支援だとかいう活動への、既存の社会福祉法人の参加が非常に弱いと思います。社会的養護の施設がありますが、そういう法人がもっと積極的に私はやってくれないといけないと思います。本当におばちゃんたちだけに任せていていいんですかと私は言いたいところです。おばちゃんたちをおとしめているわけでは全くありません。
こういう取り組みは実は飛躍的に今民間の参画が進んでいます。2019年、ことし1月時点で、全国で約4,000近くができています。それでこれは東大特任教授の湯浅さん――年越し派遣村をやった人です。この方を最近呼んで特別講演をやってもらったんですけれども、結局子供の貧困――私はこれは児童虐待と思ってるんですけども――これと地域交流をセットにして、両方を相にらみながら子ども食堂や居場所づくりをやるんだと。そしてこの予防とか地域で、小学校単位で子ども食堂をつくろうと彼は提唱しているんですけれども、住民が対応する、それからオープンでやること、それからさまざまな細かいやりくりを自由にできること、こういうことはお役所ではなかなか難しい。お金のことにしろ臨機応変的なことにしろ、責任の所在が不明確のままでもどんどんやっちゃうというのが民間なので。
お役所というのは、やっぱり事後的なんです、これはしようがないです。これはお役所が悪いわけじゃないと思います。お役所は確定したものについてはやっていく。でもこういう子ども食堂のようなのはやっぱり不向きなので、この地域的養護を展開することで、黄信号から赤信号にしない。こういうことができるんだということです。
概念的にいえば、社会的養護がここに断然として存在する。それから家庭養護もここに存在する。子ども食堂というものは地域にあることで、その民間の活動をどう旺盛に展開してもらうか。結局はもちろん行政でなければできないことがあります。養育支援訪問事業みたいなものはそうですけれども、それとあわせてこういうものもやっていくことで、児童虐待の16万件、あるいは年間50人の死亡をさらに1人でも減らす。こういうものをやっぱりポイントの1つにも入れてもらって政策展開していくことが必要ではないかと私は思います。以上で終わります。ありがとうございました。
○杉山(盛)委員長
ありがとうございました。以上で、村瀬様からの説明は終わりました。
これより質疑に入りたいと思います。
委員の方にお願いいたします。質問はまとめてするのではなく、一問一答方式でお願いいたします。
それでは、御質問、御意見等がありましたら発言願います。
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