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中国駐在員報告
2012年7月 社会・時事 駐在員 : 井口 真彦
中国語をマスターしたい一心で、エレベーターや地下鉄の中で中国人同士の会話に耳を傾けることがある。しかし、上海の場合、それが徒労に終わる可能性が高い。我々外国人が学習しているのは基本的には北京語を基にした普通語と呼ばれる標準語なのだが、上海人同士では発音が全く違う上海語を使っている割合が高いのである。
しかし、普通語が公用語として学校やテレビで標準とされている中で、実は上海語の使用頻度は低くなってきている。上海社会科学院の調査によると、上海で生まれ育った若者のうち、上海語を完全に理解できるのは60%ほど。特に、90年代以降に生まれた若者や子どもたちは、上海語を使わない傾向にあるとのことである。
そんな上海で、上海語に関するニュースを立て続けに目にした。
まずは、上海市初の小学校用の上海語テキストが、早ければ今年9月から使用開始となるというもの。上海大学教授が編纂したテキストは、上海語で良く使われる単語や言い回しが数多く収録され、親しみやすい内容となっており、上海語クラスの導入により、暮らしの中での上海語の使用を促し、上海語の伝承につながる意義があるとしている。
また、上海語のなめらかさや上海の風習への知識を競う「第1回上海語コンクール」が、6月に参加受付を開始した。長寧民俗文化中心という団体が主催し、7月に予選をスタートするとのことである。
また、上海電子台(テレビ局)が放送するニュース番組で、6月23日、中国初の上海語によるニュース放送が開始された。同番組は10年以上続く長寿番組だが、その中で毎週一回、司会の2人がほぼ上海語のみで対話し、市民の生活や身近な出来事を放送する。放送後の市民の反響は大きく、好意的なコメントが多く寄せられたため、同番組の責任者は、放送枠を広げる可能性にも言及している。
地元の文化伝承に向けた取組みには敬意を払うべきものであるが、普通語を懸命に学習している身には複雑な思いもある。但し、そこを逆手に取って、簡単な上海語をいくつか覚えてちょっとした場面で使用するのが、親近感を深める手法としては実はかなり有効でもあるのである。
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