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北米駐在員報告2003年2月 社会・時事 湾岸戦争参戦の元米兵が薬品会社を相手取って10億ドルの集団訴訟
訴訟は、もともと1994年に米テキサス州で細々と起こされたが、最近になって国連査察官だったアメリカ人が1998年に作成した「企業リスト」を原告団に提供したことで、一気に勢いを増し、原告は5千人にまで膨れ上がった。リスト提供者は「ブッシュ親子のイラク政策は多くのアメリカ人を犠牲にする許し難いもので、弾劾に値する」と反戦を唱えており、今回の機密文書の提供はブッシュ元大統領の犯罪を裁くための一環とも言われている。イラク攻撃がまさに秒読み段階に入った時期だけに、この訴訟はブッシュ政権にとっては諸刃の剣になりそうだ。 集団訴訟を盛り上げた「漏洩確信犯」は元国連査察官のスコット・リッター氏。国連査察団は湾岸戦争終結後、イラク入りし、サダム・フセイン政権の化学細菌兵器開発の実態を調査した。その際イラク側からは「マスタード・ガス、サリン、VXなどを製造する際にその素材を提供してくれた外国の製薬会社や商社のリスト」を受けたが、国連も米政府も公表をかたくなに拒否してきた。一方、リッター氏は昨年、このリストをイラクのタリク・アズズ副首相から独自に入手した。リッター氏の漏洩は「化学細菌兵器の後遺症で苦しむ原告たちを勇気づける重要な証拠」(原告団弁護士のゲリー・ピット氏)とされている。 このリストによると、素材をイラクに売った薬品会社はドイツ、オランダ、スイス、フランス、オーストリア、アメリカ、シンガポール、インド、エジプト、スペイン、ルクセンブルグにそれぞれ本社を置く56社。特にドイツのカール・コルブ社が質量ともに第1位。次いで同じくドイツのプルーサッグ社、ショット・グラス、クロックナー・アイナ、ルドウィク・ハマー、ハーバーガー・ビュウ社が続いている。 そのほか、オランダのメルチェミー社、フィリッピス・ペトロリアム社、インドのエクソメット・プラスティクス社などが化学細菌兵器の素材だけでなく、「戦略的兵器に使われる材料を提供した」と指摘されている。また、アメリカについては、アルコアック・インターナショナル社とアリハダッド貿易の2社の製薬会社があったが、ともに現在は倒産し、存在していない。 名指しされたほとんどの企業が「純然たる薬品製造の目的で輸出したもので、化学兵器とはなんら関係ない」、「イラクとは一切貿易はしていない」と主張しており、今後の裁判の成り行きが注目される。既にリッター氏の信憑性を崩そうとするスキャンダルも起こっており、リッター氏の友人によると「関係企業の嫌がらせ」も活発化している。 |
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