東南アジア駐在員報告
2014年7月 社会・時事 駐在員 : 吉住 理恵子
日本の新しい成長戦略素案に外国人技能実習制度の対象業種拡大や受入期間延長が盛り込まれ、外国人労働力受入が進むかのように見える。
外国人労働力で、日本と対照的な政策をとってきたのがシンガポールだ。2000年に約402万人だったシンガポールの総人口は、2010年には約508万人と100万人以上増加した。このうち、国民とPR(永住権保持者)が約377万人(2000年は約327万人)、残り131万人(同75万人)は外国人一時滞在者だ。労働力人口構成も約3分の1が外国人労働者で、多国籍企業の従業員のほか、建設現場や飲食業などの単純労働職種に就く人が多い。
出勤途中、荷台に10人以上の南アジア系労働者を載せて走るトラックを見かけることがあるが、シンガポールの建設現場はこうした外国人労働力に支えられている。また、フードコートではレジのスタッフ以外は全く英語を話せない店は珍しくない。彼らはいずれも、低賃金で労働に従事することを余儀なくされている。
シンガポール国民と移民労働者との経済格差は社会問題として表出しており、昨年、44年ぶりに起こったリトルインディアでの南アジア系住民らによる暴動は、経済格差が誘引したと主張する人は多い。2012年には、低賃金を不満とした中国出身のバス運転手によるストライキもあった。
昨年、シンガポール政府は2030年の人口を最多690万人と前提し、2020年までの政策の柱に外国人労働者の受入削減、市民権付与数の抑制、永住者(PR)数を50万人程度に維持との方針を掲げた。低賃金の外国人労働力への依存が労働生産性の低下を招いたことへの反省といわれるが、それでも基本的には経済成長のために、外国人労働力を活用する前提として、そのための社会コストを負担する基本姿勢には変わりはない。
日本とシンガポールという対照的な二つの国を見ていると、どちらも課題はあるものの、経済成長のために、自国民がやりたがらない仕事や、自国の労働力が不足する時だけ外国人労働力で補い、自分たちの社会の仕組を変えたり、軋轢を受け入れるという覚悟を持たないというのは、なんとも虫のよい話ではないかと思わずにいられない。
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