東南アジア駐在員報告
2016年9月 社会・時事 駐在員 : 吉住理恵子
先日、シンガポール港のパシルパンジャンターミナルを視察する機会を得た。2015年の年間コンテナ取扱量が3,062万TEUで世界第2位、積み替え荷物の取扱いは世界一のシンガポール港の中で、最大のターミナルである。最大水深16mのコンテナバースに収容されるメガコンテナ船にも圧倒されたが、最も驚いたのはこれほどの巨大な港湾構内に、労働者の姿が驚くほど少なかったことだ。
荷物を搬出入するトラックは、カメラ監視つきのセキュリティゲートを通過する20数秒ほどの間に、自動的にナンバープレート、コンテナ番号、重さの確認がなされ、ドライバーは自分が向かうべきヤードの情報を受け取る仕組みとなっている。埠頭では、オーバーヘッドブリッジクレーンシステムを使い、工場の自動物流倉庫のようにコンテナが積みあがる。そして、構内の一部で自律走行の無人運搬車の試験走行も行われていた。
従来型の埠頭クレーンの上部でクレーンを操作するオペレーターや、運搬車両のドライバーもいることはいたが、2020年に移転が決定しているシンガポール西部にあるトゥアスの大型コンテナ港では、ほとんどの部分が自動化されるという。港湾は大きな雇用を生むという思い込みが覆された。
また同じ西部地域にある科学技術パーク「ワンノース」では、自律走行車を使ったタクシーサービスの一般向け試験が開始された。現在は、登録された一部市民のみにアプリを提供し、無料で体験してもらう形だそうだ。システムに問題が生じた場合に手動運転に切り替えるよう、技術者が同乗して走行状況を観察するが、収集したデータを基にプログラムを改善し、2019年か2020年に、完全な無人運転とすることを目指しているという。
市民生活に身近なところで言えば、飲食店やファーストフード店でも、タッチパネルで客が自分で入力したオーダーがキッチンに届くシステムが普及してきた。オーダー時に無愛想な店員に何度もオーダーを聞き返された挙句、注文と違ったものが運ばれてくるストレスもなく、自分のペースでオーダーできる。低賃金の外国人労働者には、労働許可証の発行が厳しくなっているため、慢性的に人手不足となっている飲食業界にとっても、システム導入によるメリットはある。
こうした取組のいくつかは、情報技術を活用して居住環境をより快適なものにしていく「スマートネーション」の一環だ。コンパクトな都市国家のシンガポールならではの取組といえるが、それを短期間で実現するシンガポール政府の実行力には感服するばかりである。
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