シンガポール 2006年度予算案を発表 国民全員にボーナス支給
2月中旬、リー・シェンロン首相兼財務相は2006年度予算案を発表した。今回の予算案の特徴は、社会的弱者に対する大規模な経済支援策を打ち出したことで、歳出予算の1割を超える36億シンガポールドル(約2,520億円)をこれに充てるとしている。その内容は、財政黒字を国民に還元するためとして、全成人に1人あたり最大で800シンガポールドル(約56,000円)の現金支給や、低所得者層への支援策として月収1,500シンガポールドル(約105,000円)以下の労働者に最大1,200シンガポールドル(約84,000円)の「労働扶助一時金」の支給などである。また、兵役導入(*注1)40周年を記念し、40万人に上る兵役・予備役の終了者全員に1人あたり400シンガポールドル(約28,000円)、兵役中の場合は100シンガポールドル(約7,000円)を支給するとしている。
リー首相は予算案について、「援助を必要としている人ほど支援を厚くすると共に、支援を受ける者の就業を奨励し、自助努力を促す。具体的な支援策は実態に合わせて柔軟に調整し、恩恵を受けない者が出ないようにする。」と述べている。
2006年度の歳入予算は前年度比5.4%増の290億シンガポールドル(約2兆300億円)、歳出は同6.1%増の306億シンガポールドル(約2兆1,420億円)となっている。
税制の改正では、多国籍企業が子会社株を売却し、利益を得た場合は免税にする新政策を即日導入した。法人税、所得税については「過去5年で大幅に再編成しており、適正な水準にある。」として引き下げを見送ったが、首相は「外国からの投資や人材への依存度が高いわが国では、低い税率、財政支出の抑制を維持する必要がある。」と強調し、今後の引き下げに含みを残した。また、製造業(*注2)について、キャノンのセル生産方式を例に挙げ、シンガポールも生産改善を続ける必要があると指摘している。競争力の源泉と位置づける研究開発(R&D)では、新たに基金「R&Dファンド」を設立し、今後5年にわたり50億シンガポールドル(約3,500億円)を投じるとしている。
こうしたシンガポールの弛まぬ努力の甲斐もあり、7千社を超える外資系企業がシンガポールに進出している。一方、周辺の国では、磐石と思われたタイ・タクシン政権への国民の批判や、フィリピン・アロヨ大統領による非常事態宣言など、図らずもシンガポールの安心感が高まってしまう。
*注1・・・徴兵制として、原則18歳以上の成人男性を対象に2年間の兵
役義務があり、また、予備役義務として10年間、年間最大40日の訓練
を受ける。
*注2・・・シンガポールでは、製造業を経済の重要な柱と位置付けている。1998年6月に発表された新たな産業政策の基本方針「インダストリー21」において、シンガポールを技術・知的集約度の高い企業活動の集積地とすると共に、地域統括機能を強化することを目標に掲げ、2010年までにGDPに占める製造業の割合を25%、製造業における新規雇用を1万5千人創出するとしている。
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