中国駐在員報告
2006年2月 社会・時事 駐在員 : 小杉 長生
昨年のニュースとしては、経済的には人民元の切り上げ、政治的には4月のデモを中心とする反日行動がある。
中国国内では、経済成長を優先することによる社会のひずみや矛盾が大きくなっている。
まず、第一に所得格差の拡大である(*1参照)。この格差は沿岸部と内陸部のような地域格差、上海や広州のような都市内部格差がある。所得の増大により生まれた余剰所得は不動産や株に投資され、バブルが発生し(*2参照)、また余剰資金による設備投資が拡大したことによるエネルギー消費量の拡大(*3参照)、環境対策を考慮しない従前の設備システムのままで生産が拡大したことによる環境汚染もまた拡大している。
このような状況に対し、中国政府はマクロコントロールを開始し、「2006年から2010年までの第11次5カ年計画」(*4参照)を発表し、節約・循環型社会の実現を目指している(*5参照)。
中国に進出している日系企業は、チャイナリスクを実感している(*6参照)。チャイナリスクの主なものは人民元の変動による為替リスク、人件費高騰や労務管理における人的リスクである。また、今まで中国に一極集中的に進出したため、多くの企業がリスクを受けることとなった。これらリスクへの対応について、特に資金力の弱い中小企業にとって難しいことが表面化している。しかし、企業にとって中国における将来の市場の大きさなどによるビジネスチャンスは数多くあるため、一時的な進出ブームは過ぎても、今後もグローバルな企業戦略の中では中国は重要な位置を示している。
*1 地域ごとの家庭年収入の推移は次のとおりで、所得格差の拡大がわか
る
(単位:元)
| 1997年 | 1999年 | 2004年 |
3大都市平均 | 25,300 | 29,500 | 43,900 |
都市平均 | 14,000 | 22,100 | 24,700 |
全国平均 | 10,400 | 11,200 | 14,700 |
農村平均 | 8,000 | 7,200 | 8,200 |
3大都市(北京・上海・広州)
*2 上海の不動産の値上り状況
| 2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 |
平均価格(元) | 3,697 | 3,863 | 4,010 | 5,118 | 6,358 | 6,943 |
値上げ率(%) | 0 | 4.5 | 3.8 | 28 | 24.8 | 9.2 |
平均価格:オフィス・店舗の1m2当たりの価格
*3 エネルギー消費の増加は対前年比で比較すると2002年が9.1%増、2003年15.3%増、2004年15.2%増となっている。
環境汚染の例として河川の汚染をみると、
(1)70%〜80%の河川がなんらかの形で汚染している。
(2)工業排水の40%、生活汚水の80%以上が十分に処理されず河川へ直接放流されている。
(3)そのため、下流部近海や湖に汚染が拡っている。
*4 第11次5ヵ年計画の主なものは、
(1) 2010年の1人当たりGDPを2000年の2倍に増やす。
(2) GDP当りのエネルギー消費量を2010年までに05年比で2割減らす。
(3) 9年間の義務教育を普及させる。
(4) 独自の知的財産権を持つブランドを育て企業の競争力を高める。
(5) 物価を安定させ、文化・交通・衛生などの環境を改善する。
*5 節約型社会については、次の目標を首相が発表している。
(1) 水・エネルギー・原材料を節約する。
(2) 土地の有効活用と集約的利用を促進させる。
*6 ビジネスのチャイナリスクとしては
(1) 為替制度改革
(2) 資源エネルギー不足
(3) 外資優遇制度の見通し
(4) 会計制度を含む経済関係法の運用の不透明性
特に、具体的なリスクとしては
(1) 労務管理の困難
(2) 賃金水準が都市部を中心として上昇
(3) 技術力の高い技術者及び中間管理職の人材難
などがある。
これらのリスクは地域によって強弱はあるものの、進出時に十分な検討が必要なものである。
日付別一覧 地域別一覧 分野別一覧
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