ここから本文です。
北米駐在員報告2003年2月 政治 今ワシントンに台頭する「日本核武装論」の提唱者にその真意をただす
選択肢はいくつかある。一つは核開発を断念させる見返りとして原子炉を作ってやるという1994年の合意枠組み協定をもう一度結び直すというものだ。クリントン政権当時の元政府高官や著名な学者が唱えているものだが、このアプローチには色々問題がある。確かにアメリカは軽水炉建設を意図的に遅らせていたことは事実だが、それだからと言って北朝鮮が協定を踏みにじって核開発を始める理由にはならない。第一、北朝鮮は、ケリー国務次官補に核開発を立証する物的証拠を突きつけられて初めてその事実を認めた。つまり確信犯だ。同じような協定をもう一度結ぶことを提案しているアメリカ人たちは「一度騙されたのは相手が悪いから。二度も騙されるのはこちらが悪いから」ということを肝に銘じた方がいいだろう。 第二の選択肢は、北朝鮮の核関連施設を先制攻撃して破壊してしまうこと。だが、この戦略は大きな危険を伴う。まず、核関連施設がどこにあるのか。北朝鮮は、長年にわたり地下を深く掘ってそこに核施設を建設してきた。さらに、アメリカの先制攻撃に北朝鮮がどういった対抗措置をとるかが問題だ。海外、米国内を問わず米軍基地へのテロ攻撃を仕掛けてくるだろうし、在韓米軍施設に対する全面攻撃をしてくるだろう。最悪の場合は、東京やソウル、そして韓国や沖縄の米軍基地への核攻撃を加える可能性さえある。クリントン政権当時には先制攻撃を主張するタカ派がいたのに比べると、今先制攻撃を主張する者がほとんどいないのは危険が大きすぎるからだ。 第三は、北朝鮮に経済制裁を加えることで国際協定を守らせることだが、北朝鮮はすでに世界で最も孤立した国家のひとつだ。そうした国に経済制裁をするのは、あまり効果はない。北朝鮮が経済制裁されたからと言って、核開発を断念するとは到底思えない。それに、アメリカが強く主張すれば同意するだろうが、日韓は経済制裁には乗り気でない。飢えと貧困にあえぐ北朝鮮の一般大衆が経済制裁でさらに窮地に追い込まれたからといって、北朝鮮の指導部が現体制維持、国家存続という目標を捨て去るとも思えない。 こうした三つの選択肢がダメならば、第四の道として、いっそのこと日本や韓国が核武装すると宣言する。それをアメリカがブロックするのではなく、むしろ奨励するという選択肢が出てくる。北朝鮮がどうしても核開発を断念しないのならば、アメリカは「日本や韓国が自国を防衛するために核武装するのを応援するぞ!邪魔はしないぞ!」と北朝鮮に通告するわけだ。これが北朝鮮に核開発を断念させ、朝鮮半島を非核地帯にしておくための一番手っ取り早い方法ではないか。もし断念しなくても、北朝鮮の核独占だけは阻止でき、北東アジアに核によるバランス・オブ・パワーが構築される。結果としては同じことを言っているのだが、私と(『ワシントン・ポスト』のコラムニストの)チャールズ・クラウサマーとはちょっと違う。 彼は、「日本の核武装を一番恐れているのは中国。だから中国に北朝鮮を説得させるために日本を核武装せよ」と言っているが、これは粗野なアプローチだ。私は北朝鮮を直接脅すという意味での「日本核武装」を言っている。第一、中国は北朝鮮に核開発を止めさせようとする意思もなければ、説得するだけの能力もない。確かに経済支援や北朝鮮への関心度の深さから中国の影響力が皆無とは言えないし、ロシアよりも影響力はある。とはいえ、どうもアメリカ人は中国の北朝鮮に対する影響力を過大評価しすぎている。この問題で中国にあまり期待するととんでもないことになる。 確かに日本には憲法の制約がある。非核三原則もあり、日本国民の核アレルギーはそう簡単になくなるものではない。日本が自ら核武装論を持ち出す下地が現時点であるかと言えば、正直申しあげて、私には分からない。しかし、北朝鮮が核兵器を保有し、北東アジアの戦略的なダイナミクスが激変するという現実に直面した時、日本は困難な決定をせざるをえない。特に、アメリカが北朝鮮の核戦力から日本や韓国を守る盾として自らを危険にさらすのは嫌だと言い出したらどうするのか。自分で自分を守らざるを得なくなってくる。私は日本が核開発する方向にいずれは進むものと見ている。核兵器を作り、配備までする。しかし、核使用できる直前の段階で止めておく。有事の際には1週間程度で使用可能に持っていける状態にしておく。日本が周辺の予見し難い侵略的な核保有国のなすがままになっているとはとても思えない。 (博士は 1947年ウィスコンシン州生まれ。テキサス大学で博士号取得。85年同研究所入り、『フォーリン・アフェアーズ』はじめ各種学術雑誌に鋭い主張を発表している。ブッシュ政権の国防・外交政策にも強い影響力を持っており、1月6日に発表した論文『Options for Dealing with North Korea』が米アジア専門家の間で注目されている) |
お問い合わせ