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北米駐在員報告2003年3月 駐在員レポート ラ ス ベ ガ ス の 魅 力 に 迫 る! − ラスベガスから何を学ぶべきか − 1 ラスベガス − 最も貧乏な都市が全米最大の景気へ − 1990年代、ラスベガスは観光客数が2倍に、そして人口も2倍になった。客室数で全米最大のリゾート地(約13万室)となったこのエリアは、カジノやショーの他に様々なアトラクションやテーマパークを備えて幅広いファミリーエンターテイメントを提供している。 20世紀の初頭には、30人しか住んでいなかった砂漠の中の貧しいコミュニティーが今や人口140万人の都市に成長し、年間3,500万人の集客力を誇る都市へと変貌を遂げた。カジノを軸に総合リゾートを目指したラスベガスはその総合的な魅力により全米最高の景気を実現したのである。 2 なぜ今ラスベガスなのか? 日本では地方自治体の税収増や景気浮揚策の一環としてカジノ合法化の議論が盛んである。アメリカ合衆国においても、90年代に各地方自治体でカジノ誘致が盛んになり、現在カジノを抱える州は全米で40州にも上る。 しかし、日本でのカジノ合法化の議論の多くは話題性だけに着目し、地域活性化について長期的な戦略や視点を欠いているとの批判もある。 結論から先に言えば、21世紀のカジノモデルは集客力を持つコミュニティーがカジノを有することが必須条件と思われる。ラスベガスの成功とは、実はカジノ政策に求められるのではなく、集客力を強化した点にこそ求められるべきである。 ラスベガスの魅力を解明し、日本カジノの可能性を探ることにより、地域振興策の一助となるよう、以下分析を行う。 3 ラスベガスの集客力に学ぶ 集客力を強化することは、単に観光産業を牽引するだけではなく、より広範な産業に好影響を与える。 他都市との競争とラスベガス域内での競争という二重の競争意識がラスベガスを「単にカジノが合法化されただけの街」から「産業の幅広い広がりを提供できる都市」へと変貌させた。 ラスベガス(ネバダ州)は法人税、所得税がなく、また、ラスベガスからの帰りは空荷トラックが多いため、バックホールディストリビューション(返路輸送)による物流のコストが安いなどのメリットを活かして、カジノ以外の産業の誘致にも力を注ぎ産業構造の多様化を目指してきた。 病院を始めとした医療産業が進出、米全土を結ぶ航空会社でありラスベガスに本社を置くナショナル・エアラインも近年就航した。99年3月の地域内雇用も前年同期比6%増加。その上、それを支えるべく約7千人(前年同期比5%増)が毎月他州から移住している。その意味で、ラスベガスは交流人口と地域人口のバランスのとれた成長に成功した街と言える。 4 集客力を分析する!! ラスベガスの集客力を以下の要因から分析した。 (1) 多様なエンターテインメント (2) 地域の価格競争力 (3) 規制緩和とユニークな規制 (4) ホスピタリティーの比較優位性
(1)多様なエンターテインメント
しかし粗利率の高いビジネスを成長させるために、あえて粗利の低いビジネスを展開し、「集客力を伸ばすことに固執した」のがラスベガス流といえる。
(2)地域の価格競争力 ○客室稼働率は約94%!! この稼働率が低価格を支えている。 ○オペレーションコストが安い
(3)規制緩和とユニークな規制 ○産業に即した条例整備
大規模リゾート業者を誘致するためにも、産業に則した条例整備を長期的視点で行っている。例えば、ネバダ州はユニークな州法で投資家を呼び込んでおり、役員の訴訟からの保護(注1)や、株主プライバシーの保護(注2)などがある。
その一つが中心市街地の再開発である。1995年にラスベガスはザ・ストリップ(メイン・ストリート)の大資本のホテル群に押されていたダウンタウン地区の活性化のため、市長がリーダーシップをとって長さ450mのフリーモント・エクスペリエンス(巨大イルミネーション・アーケード)をつくって集客力の強化を図った。7,000万ドル(約84億円)の総工費のうち2,400万ドル(約29億円)をラスベガス市が財政支援を行った。当時、「なぜ税金でダウンタウンのホテル業者を救う必要があるのか?」との批判の声も少なくなかった。しかし住民はジョーンズ市長の「このままではダウンタウンが死んで行ってしまう」という強い訴えに理解を示した。巨大なホテルの新築に話題を取られている一方で再開発は着実に進み、明らかに市の中心機能の盛り返しが実現し、住民にも大きな経済的・社会的恩恵を与えている。連邦裁判所の移築や1億ドル(約120億円)のネオノポリスというショッピングとエンターティメントの複合開発などにより、ホームレスが溢れたエリアは確実に美化が図られている。 (4)ホスピタリティーの比較優位性 ○産官学が一体でホスピタリティーのプロを養成
特に、ホテルマネジメントの学生たちが地元のホテルでインターンとして働き、実務経験を積むことはラスベガスのユニークな教育手法として評価されている。 5 集客力を強化する! ○人口流入の実現 人口流入を図ることがビジネスの鍵を握る。
○コンベンションとリゾートとの21世紀型融合!
例えば、別府市が95年3月に西日本最大のコンベンション施設をつくり観光増収を実現したほか、沖縄県では87年のコンベンションセンター建設を機に、5年間に49%の集客増を見たということだ。 ラスベガスはエンターテインメントの総合力は全米第1位であり、そのエンターティメントの幅の広さから季節性が少ないためコンベンション事業に向いているという。そして、常にテーマ性を持ったホテルとレクリエーション施設が新築されていて、「いつ来ても新しいものがある」という点が「アフターコンベンションの魅力」を増大させている。
6 ラスベガスのカジノ戦略に学ぶ〜日本型カジノを探る〜
このトレンドは、地方自治体の財政難への救済策、あるいはスラム化または人口流出の激しい中心市街地の活性化策として極めて有効な手段であるという認識が、米国地方行政レベルで広く一般化したことの表れと言える。 しかしながら、カジノやその他のギャンブルを取り巻く諸問題に対する対処や規制、予防的行政・民間活動の方策を誤ると地域の負うリスクも大きい。 日本におけるカジノ設置の動きは長期的ビジョンを据え、かつ他の自治体の動きに対して戦略的に優位に立つものでなければならないことを改めて考える必要がある。 (1)カジノ固有問題を考える
地域に「賑わいの創造と再生」のコンセンサスがあるならば、カジノ固有の問題に焦点を当てて合法化の議論をすべきである。 カジノ固有の問題点は混沌としてはいるが、「中毒症」と「治安管理」の問題が主である。課題としては、いかに「差別化」を図るかがポイントになる。 ○治安を守る
現代ラスベガスの治安と居住コミュニティーの圧倒的な拡大はマフィアを排除した点に基盤がある。 マネーロンダリングの問題は管理が甘いと治安に深刻な事態をもたらす。南米の小さな国、スリナムは1997年にカジノを合法化して一つのカジノを認可して以来、2001年にはその数が十倍になった。カジノはその利益の50%をカジノ税として国に徴収されるため膨大な税収効果をみたが、管理の甘さから麻薬資金が世界から集まり、毎年22トンものコカイン輸出がスリナムを通り抜けることになった。 治安管理として一番大切なのはカジノのライセンス管理である。ラスベガスでは、ライセンスについて政策・審査・管理の三つに分科した、州知事の任命する独立行政機関がある。世界一厳しいライセンスの管理こそが世界一クリーンで安心な、楽しいラスベガスカジノの根本である。行政のノウハウはまさにここに集約されると言ってよい。 次には警察サービスの拡充や個別カジノのセキュリティ強化が必要だが、加えてカジノへの不審者の入場を断固拒否できる権利を与えるなどの法制面の整備も大きな意味を持っている。「駄目なものをきっぱり拒絶する」体制をどこまで具現化するかということであり、この鍵は自治体のリーダーシップにあることをラスベガスの歴史が教えている。 ○中毒者対策
最近では中毒症を脳の分析から研究し、医学処置の立場から治療しようという動きが進んでいる。カジノ事業者組合は大学の医学部に研究内容を特定して膨大な寄付金を献じて中毒症の解明に力を入れている。 ハラッズ社の「プロジェクト21」のようにホットラインを設けてそれをカジノ場のポスターで告知し、少しでも中毒の自覚のある者に更生への無料プログラムを提供するカジノホテルも増えた。 また中毒症を併発するものはホームレスになる場合も多いことから、ホームレスシェルターへのカジノからの献金も見られる。どのカジノも設立時には強烈な市民からの反対に合っているが、このようにどこかでセーフネットを設けることが最終的には市民の信頼獲得に至っていると思われる。日本がカジノを合法化する場合、外してはならない視点である。 カンザスシティーの手法は日本へのカジノの導入時に参考になると思われる。入場者に対し2時間の「時間制限」と500ドルの「消費制限」を設け、入場カードを発行してこれを管理する。このカードを差し込まないとスロットマシーンが動かないのだが、プレーヤーの負けが500ドルになったところで、また入場2時間を経過したところで機械は自動的に動かなくなる。
また、カジノ間の競争から経済効果が著しく減少し、メリットより社会コストの方が高くなった結果再び非合法化に転じた州さえある。2000年6月に、それまでカジノを合法化していたサウスカロライナ州が非合法化に転じた。サウスカロナイナは、1997年には2万8千台のスロットマシーンを抱えて21億ドル=約2,100億円の売上を上げたほどだった。住民がイメージの悪いカジノを廃止に追い込んだと伝えられているが、報道を見る限り、住民の反応はそれほど非合法化に強い合理的要望があったとは思われない。もともとコンパルシブ(中毒)・ギャンブラーの構成比が極めて高い場所だっただけに、近隣地区とのカジノの競合によって、カジノを合法化する「外貨獲得の」経済効果がコンパルシブ・ギャンブラーを生み出す社会コスト対比して薄れたのが実態ではないのかと思われる。当然、非合法化に業者は反発し連邦裁判で戦ったが、敗訴した。 7 まとめ
また伝統ある都市の多くが人口流出問題に悩む中、労働集約産業であるカジノが生み出す雇用はこの問題の大きな解決策になる。 中心地がスラム化する都市では、再開発の目玉としてカジノホテルの設置やそれに伴うサービス産業の集約を狙う自治体も多い。 ラスベガスのように、もともと何も産業がなかった地域がカジノ産業を唯一の地域振興策として打ち出したようなケースは極めてまれである。 しかしラスベガスも、カジノ産業に著しく依存していた地域から、ファミリー層やビジネス(コンベンション)層を取り込んだ総合リゾート地域へ進化している。特に、観光客によるショッピングが膨れ上がり、その果実としてラスベガスは完全地方税である消費税税収の3分の1を地域住民以外(つまり観光客)から得ている。 しかし全米最大のリゾート地のラスベガスでも、やはりその成功の鍵を握っているのは引き続きカジノであるということは忘れてはならない。 日本で地方カジノが合法化された場合、確かに一番乗りの地方は利益を得るだろう。しかしそこが成功すれば他の地域が次々に参入してくることは容易に想像できる。そのときに、カジノの高いクリーン性をアピールすることと、いかにカジノ以外のメニューで集客を実現し、カジノへの誘導を図るかが求められる。 これには産官学一体の取り組みが不可欠となり、短期間では実現できない。しかしこの長期戦略のビジョンがない地方は間違いなく地元密着型カジノに陥り、一時的な雇用の創出にはなっても外部マネーの獲得という経済効果の命題は達成されない。地元密着型は結果として地元中毒者に依存する形となり、雇用増大のメリット以上に社会コストを払う「負け組みカジノ」を輩出するだけである。改めて、自治体を中心とした長期の集客戦略とノウハウの修得が必要だと感じた。 Copyright(C) 2003 Shizuoka Prefectural Government |
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