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東南アジア駐在員報告
2011年6月 政治 駐在員 : 長谷川卓
5月7日、第11回シンガポール議会総選挙(一院制、任期5年、定数87)が行われた。与党・人民行動党(PAP)が81議席を獲得して圧勝したが、定数5のアルジュニード・グループ選挙区(GRC)において、野党・労働者党(WP)がPAPに勝利、ホウガン・1人区(SMC)でも勝利し、合計6議席を獲得した。議席を獲得できなかった他の野党も得票率を伸ばし、PAPは過去最低の得票率(60.1%)での苦い勝利となった。
同国の選挙制度では、選挙区は定数1のSMC(12地区)と定数4〜6のGRC(15地区)に区分される。GRCでは各政党が定数分の候補者をグループ立候補させ、最も得票率の高い政党が定数議席を総取りすることから、人材、資金力が豊富な大政党が圧倒的に有利。このため、建国以来、PAPの圧勝が続き、過去にGRCで敗北することは一度もなかった。
今回の選挙結果を受けて、PAPは今後の政策運営において、野党の主張する外国人労働者の受入制限、公務員の給与改革などの政策を受け入れざるを得ないことが予想されている。
言論の自由がないと指摘されることが多いシンガポールだが、少なくとも筆者の感じる限りでは、選挙期間中の言論統制はなかった。投票率が60%に届かないことが多い近年の日本の選挙よりもはるかに激しく、熱い舌戦が繰り広げられたと感じる。
PAPの得票率により、各選挙区に対しては信賞必罰政策が適用されるとの真偽不明の話も聞いていたが、敗北した2選挙区以外でもほぼすべての選挙区でPAPの得票率が低下していることから、もはやこうした政策に効果がないことも明らかだ。一党独裁が今日の経済発展を導いたことを知る世代に対して、豊かな時代に育ち、自由と豊かさを求める35歳以下の世代には政治的発言への躊躇がなくなったことの証左であろう。
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