東南アジア駐在員報告
2006年2月 政治 駐在員 : 橋本 勝弘
1月下旬、ミャンマーを訪問する機会を得た。きっかけは3年前、ちょうどシンガポールに赴任して間もない頃、静岡県のベンチャー企業がミャンマーでISP事業(インターネットサービスプロバイダー)を立ち上げたいということで、当事務所に相談に見えた。その後、ミャンマーにオフィスを構え、政情が安定するのを辛抱強く待っていると伺っていたが、こうした事業展開もあってか日本の経済産業省から周辺国を含むITインフラ調査を受託し、ミャンマーを訪れるということで同行し、経済状況を調査した。
ミャンマーは軍事政権下、民主化運動の中心的存在であるアウン・サン・スー・チーさんを拘束し自宅軟禁を続けるなど、国際社会の批判にさらされている。政府は昨年11月、ヤンゴンの首都機能を北部ピンマナ(ヤンゴンの北約320キロメートルにある小都市)に移転すると発表した。「ピンマナは国土の中心であり、辺境地域も含めた国家全体を効率よく治めるため」と理由を説明している。
また、ミャンマー政府は2002年度暫定値を最後に、GDPを含む主要経済指標を発表していないため、正確な経済成長は不明であるが、一人当たりGDPは、アセアン10ヶ国の中でもひときわ低さが目立つ。(下表を参照)
このように懸念材料が多いミャンマーであるが、ヤンゴンへの空の玄関となるミンガラドン国際空港での入国審査、出国審査は穏やかそのもの(例えば、バンコクのドン・ムアン国際空港では、マイクロカメラで入国者の顔を撮影する。)で、首都ヤンゴンの治安は非常に良く、ホテルは観光客で混雑していた。ヤンゴン市内を走る自動車(オートバイの市内への乗り入れは、交通渋滞緩和のため制限されている。)の大半は、日本製の中古車で、訪問したミャンマーICTパーク・ヤンゴン(*注)では、日本語教育や日本人講師によるパソコン教室が開かれていた。また、日本語を学んだミャンマー人のコミュニテーがあるなど、日本との係わりは深い。しかし、最近では欧米諸国による経済制裁が続く中、対中国依存が強まっているとされている。
静岡県のベンチャー企業がオフィスを構えるミャンマーICTパーク・ヤンゴンでは、今もIT関連の新規事業がストップしている状況にあるが、アジアに残された最後のフロンティア(人口は5千万人以上、石油・ガスをはじめとする天然資源が豊富、英語力がある低廉な労働力など)の人権問題の一刻も早い解決が望まれると共に、静岡県のベンチャー企業が手がけるISP事業の成功を期待したい。
アセアン諸国を回ると、ものづくり静岡を支える企業がアセアンの至るところで活躍しており、静岡県人として本当に誇らしく感じる。
*注 ・・・ICTはインフォメーション&コミュニケーション・テクノロジーの略で、ミャンマーICTパーク・ヤンゴンにはIT関連企業が集積している。
アセアン10ヶ国の1人当たりGDPの推移 (単位:USドル)
| 1998年 | 1999年 | 2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 |
シンガポール | 20,929 | 20,899 | 23,030 | 20,758 | 21,214 | 22,075 | 25,206 |
ブルネイ | 11,961 | 12,670 | 12,750 | 12,120 | 12,068 | 12,973 | 13,878 |
マレーシア | 3,270 | 3,490 | 3,880 | 3,690 | 3,899 | 4,153 | 4,625 |
タイ | 1,845 | 1,985 | 1,970 | 1,837 | 1,998 | 2,238 | 2,536 |
インドネシア | − | − | 802 | 789 | 968 | 1,139 | 1,193 |
フィリピン | 896 | 1,017 | 980 | 923 | 964 | 976 | 1,041 |
ベトナム | 360 | 374 | 403 | 414 | 439 | 488 | 553 |
ラオス | 258 | 285 | 332 | 326 | 329 | 364 | 423 |
カンボジア | 264 | 280 | 281 | 295 | 308 | 324 | 357 |
ミャンマー | 144 | 188 | 210 | 162 | 174 | 179 | 165 |
アセアン平均 | 1,247 | 1,329 | 1,153 | 1,097 | 1,210 | 1,333 | 1,455 |
(出所:アセアン事務局発表 統計データ)
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