東南アジア駐在員報告
2015年4月 社会・時事
駐在員 : 吉住理恵子
巨星、墜つ。3月23日、シンガポール建国の父、リー・クアンユー元首相は91歳の天寿を全うした。
服喪期間(3月23日〜29日)に、遺体が安置された国会議事堂周辺には、弔問客の長蛇の列ができ、最長11時間待ちとなった。政府は急遽、弔問時間を延長、深夜のバス運行や地下鉄の臨時運行により、弔問客への便宜を図るなどの対応を図った。国会議事堂からシンガポール川を挟んで2kmほど離れた所にある当事務所の前にまで弔問の列は伸び、炎天下に並ぶ弔問者に、沿道の飲食店やボランティアによって水や日傘が配られるなどの光景も見られた。こうした迅速、的確な対応は、リー元首相が築き上げた国家体制の素晴らしさとともに、同氏のために何かしたい、という国民の想いによる部分も大きかったと思われる。
29日、国会議事堂から、国葬会場のシンガポール国立大学に向かう車列が通過する沿道には、強い雨にも関わらず、多くの人が最期の見送りに集まり、棺の通過とともに、「リー・クアンユー」というシュプレヒコールの波が駆け抜けた。シンガポールで、彼の人柄がいかに国民の尊敬と敬愛を集めていたかを改めて実感した。
シンガポールは、今年建国50周年を迎える。治安のよさ、街並みの美しさ、多様な民族に対する寛容性は日本以上だが、若者や低所得者層をはじめとする一部の国民の中に現体制に対する疑念や不満がないわけではない。前回2011年のシンガポール議会総選挙では、建国以来、政権を握ってきた人民行動党の得票率が60.1%と過去最低となり、低所得層の不満の受け皿として支持を得た野党が、過去最高の6議席(87議席中)を獲得した。
多くの国民は政権交代までは望んでいないものの、年金積立制度を巡る批判などにみられるように、政府への絶対的な信頼感は一部で揺らぎを見せている。一定の経済水準に達したシンガポールが、これまでのような高い経済成長率を維持し続けることに困難を伴うことも事実だ。
8月9日に開催される建国50周年のナショナルデー行事が、リー・クアンユー氏追悼の色彩を帯び、その流れの中で次の総選挙が年内に前倒しで行われるのではという見方もある。
追悼ムードが一段落した後は、カリスマ性をもった創業者が打ち立てた「シンガポール株式会社」を、正統後継者リー・シェンロン現首相が今後どのように導き、また、その次の世代につなげていくのか、政策のみならず、「統治の継続性」という視点からも興味深く見ていきたい。
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