東南アジア駐在員報告
2015年6月 行政 駐在員 : 芦澤裕之
平成27年5月中旬、シンガポールのポリテクニック(高等技術専門校)のうち、ナンヤン・ポリテクニックとテマセク・ポリテクニックの2校の卒業式に出席した。ナンヤン・ポリテクニックは、本県内の高校や大学との定期的な交流があり、テマセク・ポリテクニックは、県水産技術研究所との交流があるため、当事務所が卒業式に招待されたところである。
シンガポールの教育制度の特徴は、能力主義と複線形という2つのキーワードで表されることが多い。中等学校(4〜5年制)卒業後の進路は、生徒の能力や特性に応じて、総合教育学校、ジュニアカレッジ(2〜3年制)、ポリテクニック(3年制)、技術教育研修所(1〜2年制)等に分かれる。同学年のおよそ4割がポリテクニックに進学しており、最も割合が高い。
ポリテクニックの特徴は、その徹底した実学重視の姿勢にあり、教育理念は、将来の仕事や社会生活に役立つ知識の供与である。ナンヤン・ポリテクニックの例を見てみると、工学、IT、化学・生命科学、経営、健康化学、デジタルメディアの7つの学部があり、各学部は、工学部であればエレクトロニクスや航空宇宙など、さらに細分化されたコースに分かれている。授業も仕事と密接に結びついており、たとえば、経営学部では、校内のコンビニエンスストアの経営を生徒が授業の一環として行っている。また、企業と連携した商品開発なども積極的に行われている。
私が昨年、両ポリテクニックを見学した際には、スキルを身につけさせるという特徴に加えて、日本の同年代(高等学校から大学2年程度)が受ける授業に比べて、アウトプット能力を鍛える訓練の割合が高い、という印象を強く感じた。就職して社会に出ると、報告書やプレゼンテーション資料の作成、人前での説明、発表など、アウトプット業務が仕事の多くの割合を占めるのであるから、ポリテクニックは、経済効率重視のシンガポールの国策がよく現れている教育機関であるといえる。
日本国内では、近年、実学教育を掲げる大学が増加するとともに、政府の有識者懇談会においても、大学では実学を重視すべき、との提言がみられている。本県においても、現在、産業教育審議会で、専門的職業人の育成、産業社会の担い手育成、専門高校などの理解促進の3つの視点から、専門高校などでの新しい実学を奨励する答申が協議されている。シンガポールのポリテクニックは、こうした動きの参考としたいモデルである。
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