東南アジア駐在員報告
2016年5月 社会・時事 駐在員 : 芦澤裕之
3月から4月にかけて、インドネシア、マレーシアで、タクシー運転者らによる大規模なデモが続発した。これらは、近年世界的に急成長している「グラブ」「ウーバー」など、スマートフォンを使った配車アプリサービスに権利を奪われた、と同アプリの禁止を求めるデモである。
配車アプリの主なサービスは、GPSの機能を使って、自分のいる場所にタクシーを呼ぶことができ、事前に登録したクレジットカードで支払うことができる、というものだ。さらには登録ドライバーが自家用車でタクシーよりも安い料金で運んでくれるサービスが提供されており、主にこのサービスがタクシードライバーの権利を侵害している、と抗議の対象となっている。
シンガポールでは、利用者に利便性をもたらす革新は妨げられるべきではないとして、自家用車でサービスを提供するドライバーへの免許制を導入することにより、サービスを認める方針だ。インドネシアにおいても、アプリ業者に公共交通機関の営業認可を取得させる方針であり、東南アジアでは、配車アプリサービスを合法化させる対応策が主流となっている。
東南アジアでこのサービスが急成長している背景は国ごとに若干異なるが、とにかく消費者のニーズにマッチしている、ということが一番の理由である。シンガポール以外の東南アジアの国では、出張時に一番多いのがタクシーに関するトラブルだ。行先を英語で言っても通じない、メーターを使わない、降車時に乗車時とは違う料金を請求する、お釣りがない、レシートが出ない、遠回りする等々、数え上げればきりがない。配車アプリでは、行先はスマートフォンに入力するだけであり、料金はアプリで自動的に計算され、現金収受がなく、レシートはメールで配信され、ルートは運転手にアプリからナビゲートされる。また、降車後にはアプリから運転手を評価することができ、一定程度以下の評価を受けた運転手は排除されることから、運転手のレベルも担保されている。
こうした、配車アプリに代表される、いわゆるシェアリングエコノミーは、今後も様々なサービスが開発され、既存制度との軋轢が発生することが予想されるが、消費者の利便性の向上を最優先に考えれば、対応策は自ずと見えてくるのではないかと思う。
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