東南アジア駐在員報告
2014年6月 社会・時事 駐在員 : 吉住理恵子
昨年秋以来、タクシン元首相派と反タクシン派が対立を続けてきたタイで、5月20日未明に全土に戒厳令が発令され、軍が政府や警察に代わって治安維持など強い権限を握った。続く5月22日には、プラユット陸軍司令官がクーデターを宣言し、軍主導の「国家平和秩序評議会」が全権を掌握、5月30日にはプラユット陸軍司令官が、今年10月までに暫定政権を発足させ、今後15ヶ月程度をかけて新たな憲法を制定し、総選挙を実施した後に民政復帰を目指すと表明した。
文民統制が働かない状態は、決して望ましい状態ではないものの、「戒厳令」「クーデター」という言葉の物々しさに比べて、タイ国内に進出している本県企業の反応は意外に冷静で、状況照会に対して返ってくる答えは「いつもとほとんど変わらない生活をしている」というものが多い。
戒厳令やクーデターの初日こそ、「様子を見極めるために本社からの指示で自宅待機」という企業もあったが、翌日以降5月末現在までに、特に目立った経済の混乱はない。2006年の軍事クーデターで当時のタクシン首相が失職して以来、タイでは戒厳令や非常事態宣言を何度か繰り返してきており、企業や国民はそうした状況時の対応を経験的に身につけてきているように見える。
特に、今回の戒厳令からクーデターに至る一連の流れの中では、2008年の空港閉鎖による経済ダメージの教訓からか、基本的な交通インフラに支障がでないように事前に手を打つ軍部の合理的な動きに感心すらする。バンコク市内の治安は、両派による衝突リスクが減ったことにより、むしろ安心になったとの声もあると聞く。とはいうものの、やはり、先行きの不透明感から、進出企業も「タイ人の現地従業員から、常に情報を収集」している状況にあり、緊張感は拭えない。
今回、赴任後、初めて大きな政変の中で業務をすることになり、つくづく感じるのは報道の影響力である。報道で伝えられる姿と、現地の企業の声と、両者を聞くと、さながら芥川の小説「藪の中」だ。
6月6日現在のスクンビット地区(目立った混乱はない)
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